株式会社enish

2015年2月取材

※ 記事は過去の取材時のものであり、現在とは内容が異なる場合があります。

自由な発想でアイデアを生みだし、個々のアイデアを共有するオフィスを構築した

ソーシャルゲームの企画・開発・運営を手がけている株式会社enish(エニッシュ)。「世界中にenishファンを作り出す」ことをミッションに掲げて2009年に2名で設立(当時の社名は株式会社Synphonie)。その後、アプリゲーム市場の拡大により、今では社員数は220名にまで成長している。今回は2013年12月に移転した当時を振り返り、オフィスに対するこだわりについて伺った。

プロジェクト担当

高木 和成氏

株式会社enish
取締役管理本部長

高木 和成氏

蝦名 航星氏

株式会社enish
管理本部 経営企画

蝦名 航星氏

エントランス

エントランス

はやわかりメモ

  1. スローガンは「Link with Fun」。「楽しさで、人と世界をつなぐ」ことが目的
  2. 採用をきっかけに移転を検討。移転によって山積みだったオフィスの課題を解決する
  3. 工期の時間を考え、まず執務室を完成させ入居しながら会議室の工事を進めた
  4. オフィスコンセプトは「Share Canvas」。アイデアが生まれる最高の環境を用意した
  5. 社員にとって働きやすい環境をつくることが最も大事なこと

スローガンは「Link with Fun」。「楽しさで、人と世界をつなぐ」ことが目的

2009年2月、「Link with Fun」。「楽しさで、人と世界をつなぐ」ことをスローガンに会社を設立。以降、ソーシャルゲームの企画・開発・運営を手がけてきた。数多くのサービスの中からあえてゲーム事業を選んだのは、ビジネスとして可能性を持ったフィールドだと感じたからだという。『人とのつながり』を意識し、2012年から現在の社名である『enish(エニッシュ)』に変更した。社名の由来は意外にも日本的な言葉が元になっている。

「ソーシャルでのサービス提供ということもあり、常に人と人との縁、人と社会との縁が重要となります。さらに今後のグローバル展開も見据えたい。そこで外国の方が呼びやすいように、『縁(えにし)』を元にした造語を社名としました」(高木和成氏

その後、たくさんのスマホアプリを企画・開発。採用計画も活発に行われ現在に至る。
同社の沿革をサイトから抜粋してみる。

2009年2月 会社設立

2010年7月 社員数が10名に

2011年4月 本社移転(渋谷区広尾)

2011年7月 社員数が50名に

2012年9月 社名を(株)Synphonieから(株)enishに変更

2012年12月 東京証券取引所マザーズに上場

2013年1月 社員数が100名に

2013年3月 サテライトオフィス開設

2013年11月 韓国(ソウル)に海外拠点設立

2013年12月 市場第一部へ株式市場変更

2013年12月 本社移転(港区六本木)

2014年4月 中国(上海)に拠点設立

採用をきっかけに移転を検討。移転によって山積みだったオフィスの課題を解決する

移転前は、恵比寿に立地するオフィスビルに入居していた。同ビル内の2フロアと道路を挟んだビルの1フロア。2拠点3フロア合計約330坪を社員150名が使用していた。ちょうどオフィスの手狭さを訴える社員が増えてきた時期だったという。

「急激な増員計画による手狭感が一番の課題となっていました。当社の場合、開発スタッフが全体の9割を占めています。在席率や在館率が比較的高いため、採用と同時に空いているスペースに机を配置しなくてはなりません。いつの間にか休憩室や会議室がほとんど無い状態になっていました」(高木氏

「席と席が近すぎて作業に集中できないという苦情もありましたね」(蝦名航星氏

それに加えてオフィスが分散されていることによる多くのデメリットも有していた。

「全体会議を行うときも集合に時間がかかりますし、何しろコミュニケーションが図りにくいというのは業務上大きなマイナスでした」(蝦名氏

移転前に社内でまとめられていた課題は以下の通りだ。

課題Ⅰ

  • 急成長に合わせて都度対応したため、オフィスデザイン等に統一感がない
  • 雑然としている
  • リフレッシュスペースが少ない

課題Ⅱ

  • 執務エリアと会議スペースが近すぎて、執務・会議に集中できない
  • 会議スペースが足りない

課題Ⅲ

  • コミュニケーションが不十分
  • 情報共有が不十分
  • コンテンツごとのチームでまとまりがち

工期の時間を考え、まず執務室を完成させ入居しながら会議室の工事を進めた

実際にオフィスを探し始めたのは、2013年9月のことだった。

「恵比寿という街は好きでしたので、エリアを変えることに抵抗はなかったかというと嘘になります。しかし今回の移転の目的は、手狭感の解消とコミュニケーションの向上です。したがって大きなワンフロア面積を全社員で入居できるビルに絞って探しました」(高木氏

「実際に数棟のビルを見学。今後の採用活動を考えて少し広めの面積が確保できること、恵比寿に近かったことで通勤に大きな影響がなかったこと、当社のようなIT企業が多数テナントとして入居していること等の理由で、現在のビルに決めました」(蝦名氏

10月に賃貸借契約を締結し、その2ヵ月後に引越しを完了させた。

「とりあえず机とパソコンを並べてしまおうと。11月から工事を始め12月中旬に執務室部分が完成。会議室などに関しては入居後に。土日中心に工事を行い全てが完成したのは2014年4月のことでした」高木氏

わずかな日数で完成できたのは管理部を中心とした移転プロジェクトチームの段取りの良さに尽きる。

「当社の代表は昔このビルに入っていた企業にいたこともあり、ある程度のデザインイメージがあったということもありますね」蝦名氏

オフィスコンセプトは「Share Canvas」。アイデアが生まれる最高の環境を用意した

新オフィスのコンセプトは「Share Canvas」。
大きなキャンパスに
絵を描くように自由で楽しいわくわくするようなアイデアが生まれる場所。一人ひとりの考えをいつでもシェアできるようなオフィスを目指した。
同社の業務特性を考えるとスピードが重視される。そのためさっと集まって打ち合わせができる機能が求められていた。

「ようやく思い描いていたオフィスを構築することができました。現在220名が在席しているのですが、とても余裕のある環境で働いています。ワンフロアに統合したことで社員同士が偶発的に顔を合わせ、何気ないところで会話が生まれています」(高木氏

Share Canvas

それではエントランスから順に各機能を説明していこう。

「エントランスは、当社のコンセプトである楽しさが伝わるデザインになったのではないでしょうか。壁は黒板の材料を採用しており、デザイナーの社員がチョークで描いた『手書きアート』をそのまま残しています」(蝦名氏

エントランスから続くレセプション。床、壁、家具と木材を主体に構成されており、落ち着いた優しい雰囲気を醸し出している。レセプションを抜けるとミーティングエリアが現れる。

レセプション

レセプション

エントランス

エントランス

ミーティングエリア

ミーティングエリア

新オフィスでは10部屋を用意した。一番大きな部屋はセミナールームとなる。

「可動式の間仕切りを採用しているので、用途に合わせて大きさやレイアウトを変えることができます。外部の方をお招きしてのセミナーであったり、社内勉強会であったり。使い方は様々ですね」高木氏

「セミナールームの先に10室のミーティングエリアが並んでいます。画一的なデザインではなく部屋ごとにテーマを設けており、違った発想を生み出すことができると評価を得ています」蝦名氏

「旧オフィスでは大小合わせて4部屋しかありませんでした。来客だけでなく社内ミーティングとしても使用するため、部屋数が明らかに足りない。今回は倍以上に増やしました」高木氏

「部屋の名前は『十六夜(いざよい)』『叢雲(むらくも)』等、日本の古語を使用しています。社内からの公募で決めました」蝦名氏

セミナールーム

セミナールーム

会議室

会議室

執務室エリアはあえてパーテーションを低くし、見渡しのいいオープンな環境を目指した。会議室やミーティングルームに比べると執務室のデザインは割とシンプルだ。各席とも全て同じユニバーサルデザインを採用。急な増員によるレイアウト変更に容易に対応できるようにベンチデスクを導入した。

「当社は大幅なレイアウト変更は行ないません。ただし新たなゲームの開発ごとにチーム編成が変わるため席替えは頻繁に行なっています。その場合は袖机だけを持って移動します」高木氏

執務室内にはいたるところにミーティングスペースを用意した。

執務室エリア

執務室エリア

「いつでも」「どこでも」「誰とでも」。
全てオープンスタイルなためその場で会話が生まれる。打ち合わせ途中で誰かが参加することもある。特に新たに設けたスタンディングテーブルは、後方の壁一面にホワイトボードを備えているので、思いついたことをすぐに共有できる。

「気軽に集まって打ち合わせをする機会が間違いなく増えていますね。歩いていて何か思いついたときは、座る場所を探すのではなくそのままスタンディングテーブルで。机の上にもホワイトボードの役割を果たすような工夫が施されています」(蝦名氏

スタンディングテーブル

スタンディングテーブル

執務室内2ヵ所にはファミレス風のコラボレーションブースを設置。オープンスタイルでありながらも壁で仕切っているため、個別ミーティングとしての使い方も可能だ。

ファミレス風コラボレーションブース

ファミレス風コラボレーションブース

ミーティングスペース

ミーティングスペース

「執務室の中心部にはカフェスペースを設置しています。床と天井を上げてガラス張りにしたことで、執務室との境界線を保ちました。もちろん使い方は自由。カフェ、ライブラリー、ゲームコーナー、休憩場所を併設した多目的なエリアです」(高木氏

カフェスペース

カフェスペース

「ライブラリーに関してはビジネス書、実用書、小説、漫画と、色々なジャンルが収められています。徐々に増えていますね。月に1回、社員からの要望を聞きながら総務がまとめて仕入れをしています」蝦名氏

「当社には『全体会議』というインフォメーション用の社内ネットワークがあります。社内で困っていることやお願いしたいことを都度アップしているのですが、今回も『全体会議』を使って図書委員を立候補していただきました。いつの間にかバーコードを使った管理を行なっています。そのような個々で自主的に行動をするという社風も当社自慢の一つです」高木氏

カフェスペース

社員にとって働きやすい環境をつくることが最も大事なこと

コミュニケーションを活性化させる仕組みはハード面だけではない。

「新オフィスに来てから取り組んでいるのが『モーニングフルーツバイキング』というサービスです。毎朝9時半~10時の間、数種類の旬なフルーツを用意。これを目当てに朝早く出社する社員もいるくらいです。そこでもインフォーマルなコミュニケーションが生まれることがあると聞いています」(蝦名氏

「福利厚生の一部として、別会社の方をお呼びして行うバーベキュー大会やパーティを行っています。パートナー会社に限ったことでもなく、自分の知り合いや友達を呼んでいいよというルールにして。社内だけではなく社外の方との交流も増やしています」(高木氏

オフィス内の機能面の改善も含め、これらの一つひとつの施策がどれほど売上に影響しているかを測ることは不可能に近い。

「しかし社員の定着率は確実に良くなっていますね。上場したということも関係しているのでしょうが、応募者の数も増えています。当社の場合、採用計画は開発関係が中心となるのですが、スキルの高い優秀な方からの応募が増えています」(高木氏

移転後、1年以上が経過。同社の最重要課題はコンスタントにゲームを開発・配信していくことにある。そのためにはどれだけいい人材を確保できるかがキーとなる。単に業務をこなしてもらうだけではなく、経営課題も意識してもらいたい。そんな思いから、毎朝、前日の売上報告や開発の進捗状況を全社員に報告している。これからも経営課題を叶えるために一人ひとりが自由にイマジネーションを膨らませ、最高の環境でより良い開発ができるようなオフィスづくりを目指すという。

「オフィスが整備されていないと、アイデアも浮かばなかったりする部分もあるでしょう。当然、今まで以上に社員からの要望を定期的に聞く機会は設けていきたいと思っています」(蝦名氏

「当社は特に設備投資として膨大な施設が必要になることはありません。その分、一人ひとりの社員を大事にしていきたいと思っています。ですから今後もどれだけ社員にとって働きやすい環境をつくれるかが最も重要なことなのでしょうね」(高木氏