freee株式会社

2022年9月取材

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※ 記事は過去の取材時のものであり、現在とは内容が異なる場合があります。

「たのしさダイバーシティ」をコンセプトに
「働きやすさ」「交流」「出会い」を実現する

freee株式会社は「スモールビジネスを、世界の主役に。」をミッションに掲げて、統合型経営プラットフォームの開発・提供を行っている。2022年8月、「従業員同士の一体感再構築」を理由に東京本社オフィスの移転を実施した。今回の取材では移転の経緯や新オフィスのコンセプト、特長についてお話を伺った。

辻本 祐佳 氏

freee株式会社
Chief Culture Officer

辻本 祐佳 氏

Contents

  1. 創業当初から働きやすさとコミュニケーションを重視してオフィス環境にこだわった
  2. オンラインの良さを感じる一方で、対面のメリットも感じていた
  3. 新たな交流と出会いを生むための工夫がこらされた「楽しいオフィス」
  4. 会社の考え方が明確に表れたオフィスは採用活動にも良い影響をもたらした

エントランス

エントランス

創業当初から働きやすさとコミュニケーションを
重視してオフィス環境にこだわった

2012年、「CFO株式会社」として創業した「freee株式会社」が現在の社名に変わったのは、会計ソフト「freee会計」をリリースしたタイミングだった。e3つあるのは、同サービスを3名の社員で開発したことが由来となる。

以来、会計業務に関連するさまざまなクラウドサービスのリリースを重ね、2019年には東証グロース市場への株式上場を果たしている。

そんな同社は従業員同士のコミュニケーションや働きやすさに重きをおき、オフィス環境にこだわってきた。世界最大規模の従業員意識調査機関「Great Place To Work®」が毎年発表している「働きがいのある会社」では、8年連続でベストカンパニートップ10にも選出されている。

オンラインの良さを感じる一方で、対面のメリットも感じていた

オフィス移転計画が最初に持ち上がったのは2019年のこと。当初は2022年夏の移転を目指していたという。

しかし新型コロナウイルス感染拡大に伴い、20203月に全社一斉にリモートワークに切り替えたことで、オフィスの移転計画も一時的にストップした。それから約1年半は生産性を維持するため、オンライン全社集会、全部署「雑談」の義務化など、さまざまな施策を実施。結果、従業員数・顧客数ともに約2倍の急成長を遂げた。一見すると順風満帆なリモート期間だったが、部署をまたいだアイデアの創造、自由闊達な議論、従業員同士の一体感など、「freeeらしさ」として大切にしてきたものが薄れつつあるという現実があった。

「オンラインでは、ちょっとしたミーティングでも時間調整が必要になる。ミーティングもすぐに本題から入るため、雑談が生まれにくい。本当はこの無駄に思える会話こそ、何かを生み出すためのヒントが隠されているのではないかなど、オンラインの利便性を感じる一方で対面のメリットも感じていました」

従業員の結束力を高め、事業のさらなる成長を実現するためには、オフィスという物理的な場所でコミュニケーションを取る機会を増やす必要がある。そのためには、手狭になった旧オフィスから、十分なスペースを確保できる場所へ、オフィス移転が有効だと考えた。

移転計画は社内にオフィス移転の経験者がいない状態でのスタートとなった。

「スタート地点で何をやらないといけないのか、どこから手をつければいいのかがわからなくて、当初は大変でしたね」

知識・経験の不足を補うためにも、外部リソースを有効活用した。情報を共有していく中で、社内からの協力メンバーが増えていったという。

「最初は少人数でスタートしたプロジェクトでしたが、結果的にすごい数の人が関わっています。プロジェクトを進行しながら学びにつなげていきました」

最終的にプロジェクトチームは、毎日コミュニケーションを取るメンバーが5名、さらに毎週のミーティングに参加するメンバーも含めると13名という構成に。オフィスマネジメント、ITチーム、ブランディングチームなど、各部署からメンバーが集められた。

移転先は、旧オフィスと同じ五反田周辺に絞って探すことにした。同エリアに住んでいる従業員も多く、生活が大きく変わらないようにという配慮もあったという。最終的にアクセスの良さを考えて、JR大崎駅徒歩圏内のオフィスビルを確保した。

フロア数は旧オフィスの8.5フロアから4フロアと半分以下になった。一方、使用面積は約1,500坪から2.3倍となる約3,500坪に拡大。移転時の入居者数1,080人に対して十分なスペースを設けた。感染予防対策を徹底しつつも交流が生まれるよう、ワンフロアになるべく多くの人が集まれることを重視した結果だ。

内装デザインを担当する会社は、数社コンペで決定した。

「ディスカッションを通じて、『当社の要望にどのようなコミュニケーションで応えてくれるのか』『当社の希望を組み取ってどのような提案をしてくれるのか』という点を中心に結論を出しました。最終的には、freeeの一員のように一緒に考えて、一緒に走ってくれる。そんなスタンスが決め手になりました」

従業員のためのオフィスを目指すため、新オフィスの設備や機能に関するアイデアを社内から募った。

「滝が欲しい、サウナが必要、足湯があったらいいなど、オフィスの制約を知らないからこそ出てくるいろいろなアイデアもありました。最初の1週間で100件以上のアイデアが集まって、それにプロジェクトメンバーも反応してと、みんなで盛り上がりながらアイデアを形にしていきました」

最終的に集まったアイデアは216件にものぼる。

「議論の軸をつくるためにも方針は決めるべきですが、具体的なアイデアは23人で考えるよりも200人、300人で考えた方が、振り幅があって良いものが出てくると思っています。当社にはもともとムーブメント型チームという価値観があって、一人ひとりの熱意が周囲を巻き込みながらつくりあげる。自由な意見を歓迎する文化なのです」

集まったアイデアを選定する際には、コスト・時間・ビルの物理的な制約に加え、「働きやすさ」「交流の生まれやすさ」という切り口を重視した。「たのしさダイバーシティ」という新オフィスのコンセプトが決まったのもこのタイミングだ。

「多様な人たちが考える『多様な楽しさ』が詰め込まれた場所にしたいという思いを込めました。個を大事にする当社のあり方とも一体となったコンセプトだと思います」

移転前は、毎週の全社ミーティングで新オフィスのコーナーを設けたり、写真や動画を共有したりと、新オフィスの情報を少しずつ開示することで会社全体の士気を高めたという。

新たな交流と出会いを生むための工夫がこらされた「楽しいオフィス」

それでは新オフィスの紹介をしていこう。偶発的な出会いを生むため、迷路のような形に設計した4つのフロアには、それぞれに異なるテーマ色を用意した。またフロア内の位置表記は「東西南北」ではなく「+-×÷」と計算式で表した。「ネンマツチョウセイ(年末調整)」「タイシャクタイショウヒョウ(貸借対照表)」など、ユニークな名前の打合せスペースも用意した。会計ソフトを提供する同社ならではの遊び心だ。

タイシャクタイショウヒョウ(貸借対照表)

タイシャクタイショウヒョウ(貸借対照表)

オフィス家具には、会計ソフトの一般的なイメージとは異なる、かわいらしい雰囲気の製品を揃え、「自然体」「開放感」「楽しさ」といった「freeeらしさ」にこだわった。細部のデザインの調整は、プロジェクトのコアメンバーでもあるブランディングチームが行ったという。

「ブランディングチームのメンバーは、freeeがどのような会社でどのようなことを大事にしているかを深く理解しています。椅子の質感、木目の大きさ、節の有無、それに壁紙の色まで、ブランドのイメージをオフィス全体に反映してくれました」

執務エリアでは、コミュニケーションの取りやすさを重視して固定席を採用した。

「カフェスペースなど、オフィスのどこで仕事をしても良いということは前提としています。そのうえで、フリーアドレスではなく固定席にしました。"自分の席がある"ことを意識してほしい、また同僚間で会社に来ていることをわかりやすくしてコミュニケーションを取ってもらいたいという理由からです」

各席にサイドワゴンがないのも特長的だ。提供するサービスの性質もあり業務上はほとんど紙を使わないため、このような形が採用されたという。

会議室は、駄菓子屋のような「ゲンブツシキュウ(現物支給)」、キッチン付きの「シャショク(社食)」、キャンプスペースを備えた「キャンプ」、ビーチをイメージした「はろはろビーチ」など、創造性を刺激する多種多様なエリアを新設した。

ゲンブツシキュウ(現物支給)

ゲンブツシキュウ(現物支給)

シャショク(社食)

シャショク(社食)

はろはろビーチ

はろはろビーチ

「ただ楽しいだけの場所をつくったのではありません。バリエーションがあることで視点を変えたり、別のチームビルディングにつながったり、アイデアを創造させやすかったりと、結果として仕事に還元されることを意識しました」

同時にフリースペースの増設、オンライン商談や1on1に適した42台のフォンブースの設置など、業務に集中できる環境構築も行っている。フロアの状況をスムーズに把握できるように、フリースペースの空席を確認できるセンサーも配置した。

フリースペース

フリースペース

「当社には一般的なコーポレートITチームやセキュリティチームの他に、カルチャーITチームという部署があります。今回のプロジェクトではコミュニケーションが取りやすい会議システムや、社内の情報が行き渡りやすいシステムなど、カルチャーが盛り上がるための仕組みを彼らが考えてくれました」

応接会議室の名前には「シェアリング」「エンターテインメント」「シッピツ(執筆)」「ホイク(保育)」など取引先の業種名が付けられ、実際に取引を行っているユーザーの写真も飾られている。いつでもユーザーのことを忘れないようにという企業精神の現れだ。応接室の近くには、コーヒーカウンターを設置。ミーティングエリアとして利用するだけでなく、ささやかなコミュニケーションが生まれる場でもある。コーヒーサーバーはあえてフロアごとに異なるコーヒー豆を用意した。好みのコーヒーを飲むにはフロアを移動する必要がある。従業員同士の新たな交流を生むための仕掛けだ。

シッピツ(執筆)

シッピツ(執筆)

コーヒーカウンター

コーヒーカウンター

新オフィスの定員は当初2,000人程度を想定していたが、現在はそこまで厳密には考えていないという。

「社員の増減については、状況やチームに応じて、スペースに余裕がつくりやすいフリーアドレスと固定席を混ぜていくことで対応できると思います」

移転完了後、本格的な出社方針を出すまでに1ヵ月の期間を設けたが、この自由期間に新オフィスを訪れた社員から、さっそく反応があった。

「『すごく楽しい』『アミューズメントパークみたい』という言葉もありました。会議をした写真や、一緒にごはんを食べた写真を社内SNSに投稿してくれた人もいて、笑顔でコミュニケーションをしてくれていることが嬉しかったですね」

9月に改めて出社を促してからの出社率は80%を超えた。移転からまだ1ヵ月経過しただけだが、すでに従業員同士の新たな交流が生まれているという。

「『チームビルディングしました』『入社してからはじめて顔を合わせてご飯を食べました』といった声も挙がっています。なかなか会う機会がなかった人とコーヒーを待つ間に喋ったり、リモートでは知り得なかったメンバーの別の一面を知れたりということが、全社的に起こっています。会うためのハードルが下がったことで、協業のスピードやクオリティは今後さらに上がっていくでしょう」

会社の考え方が明確に表れたオフィスは採用活動にも良い影響をもたらした

「ある取材記事に当社が紹介され、そこから『freeeに興味を持った』『働きたくなった』と面接で言ってくれる人もいます」

同社ではリファラル採用も重視しており、社員の友人・知人が見学のためにオフィスを訪れた際には、食事代を出すというキャンペーンも行っているという。

「その人が、今すぐに転職するというタイミングではなかったとしても、心にとめてもらえることが大事だと思っています」

新たな出会いを生む場としてオフィスが持つ意義は大きい。どんなことでもイノベーションのきっかけになると考える。

働きやすいオフィスのアイデアを募るなど、プロジェクトチーム以外の社員とも一体になって進められた今回のプロジェクト。しかし本当は「もっともっとみんなを巻き込みたかった」と振り返る。

「一緒に何かをつくることはすごく楽しい作業です。オフィスを通じて会社に対する愛着もわくことでしょう。大人数になればなるほどまとめる作業は大変で難易度は上がりますが、そういう過程も含めて『たのしさダイバーシティ』だなと感じています」

「ツールで業務の効率化はできても、コミュニケーションの効率化はできません。ちょっとした思いつきと、それに対する反応からイノベーションがはじまることは多いと思います。一見コアではないように感じられますが、実は大事な『コミュニケーション』を創造する場としてオフィスは必要だと考えます」

freee株式会社
「解放」「自然体」「ちょっとした楽しさ」の3つのキーワードを新たなブランドの指針として設定したfreee株式会社。今後もスモールビジネスに携わる人の環境構築を通して、誰もが自由で自然体に経営できる環境づくりを行っていく。