株式会社Gengo

2009年2月取材

※ 記事は過去の取材時のものであり、現在とは内容が異なる場合があります。

『言葉の壁』に取り組む企業が挑んだコミュニケーションの壁

株式会社Gengoが開発・運営をしている人力翻訳サービス「Gengo」。機械翻訳とは違う人手を介した翻訳でありながら、今までにない質・スピード・低価格を提供できるサービスとして注目されている。2009年の会社設立後、徐々に人員を補充。手狭さを感じて2013年に渋谷のオフィスビルに移転を行った。今回、移転のきっかけやオフィスに対する取り組みについてお話を伺った。

プロジェクト担当

ロバート・ラング氏

株式会社Gengo
CEO

ロバート・ラング氏

Gengo

クラウドネットワークを活用して翻訳の世界で「革命」を起こす

「当社の翻訳サービスは、『言葉の壁』を取り除くために誕生しました。日本人がせっかく一生懸命になってブログを書き上げても読む人が限られてしまうこともありますし、インターネットを使って世界中に配信していても外国語が分からなければ理解できないコンテンツも少なくありません。それらを解決するためのプラットフォームが、私どもの翻訳サービス『Gengo』なのです」

一般的にインターネット上で翻訳というとGoogleなどが提供している機械翻訳が一般的だ。しかしその品質は決して完璧とはいえない。まだまだ大体の意味を理解するものに過ぎず、重要な書類に使用できるレベルにはなっていない。その一方で人手を介した翻訳会社は多く存在するが、多くの人はどの会社に、どのように依頼すればいいのかもわからないというのが実情だ。

「当社が行っているのは、ものすごくリーズナブルな価格で、品質もいい。さらに短い納期で提供できるサービスです」

翻訳の発注はオンライン上から。依頼者はウエブサイトまたはAPI経由で翻訳したい文章を入力するだけ。もちろん文章量が多い場合は、ファイルでの転送も受け付けている。送られた案件は、全世界の登録された翻訳者に自動的に振り分けられ、いち早く手を上げた人が受注し翻訳を行う。当然、質の高さも確保している。

「翻訳者の登録は誰でもなれるわけではありません。全世界で15万人が受験し、合格者は10%以下です。それらの厳しい審査をクリアした翻訳者による翻訳結果は、さらに社内のシニア翻訳者がスポットチェックします。クラウドソース翻訳でありながら品質を担保する仕組みを提供しています」

創設当初は個人客が半数を占めていたが、最近では企業ユーザーの増加が目立っている。例えば、世界最大級の旅行関連サイト「トリップアドバイザー」。これは世界30カ国で展開し、10, 000件以上の「口コミ」情報を掲載しているサイトだ。この口コミ部分の翻訳に「Gengo」を活用している。そのほか「YouTube」などの動画サイトでは、動画のクリエイターが字幕の翻訳を直接Gengoに依頼できる仕組みを提供している。このように内容を日々更新しているコンテンツこそGengoのスピードと価格が最適となる。

移転の課題は「狭さ」と「コミュニケーションの悪さ」

会社設立は2009年のこと。創業者は日本で仕事をしていた2人の外国人(イギリス人と日米ハーフ)だ。共に本来の業務を推進していく上で、翻訳の重要さを知ったことが会社設立のきっかけになっているという。

「2人とも日本で仕事をするにあたり、本業以外に翻訳という作業が必然的に発生していました。日本語ができない私は誰かに翻訳を頼まなければならない。逆にもう一人の創業者はバイリンガルであるがゆえに、業務と関係ない翻訳を誰かに頼まれる。本業でないところで時間をとられてしまうストレス。そんな日本ならではの『言葉の壁』を解決するために起業したのです」

現在、東京事務所は約100坪のオフィスに社員が30名。今でこそ比較的ゆったりとしているが、その前はマンションの2室を借りていた。

「設立当初は共有のコワーキングスペースで業務を行っていました。それから千駄ヶ谷のマンションの一室に移り、増員により隣室も借りたのです」

それでも今より3分の1の面積しかないスペースに30名が入居していたため、狭いうえに意思の疎通も良くなかったという。

「今では笑い話になりますが、会議室が足りないため浴室を会議室にすることもありました。その当時の動画は、今も『YouTube』にアップされており、10万人の方が閲覧しています。NHKのニュースでも紹介されました」

オフィスに対する課題は「狭さ」と「コミュニケーションの悪さ」。立地に関しては特にこだわりはなかったという。2013年1月に移転を検討して入居が4月。この短期間で完了できたのはトップダウンで行ったことが大きな要因となる。

「役員全員でビルの内見に行きましたが、最終的にはトップが迅速に決断しました。立地のこだわりはないとはいえ、利便性の良い場所というのは必然です。最終的に新宿と渋谷で候補ビルを4棟に絞り込みました。そして結果として交通のアクセスが良く、IT対応にも優れていた点を評価して、このビルに決定したのです」

浴室で会議

企業ブランドを意識したオフィスづくり。結果、働きやすい「場」が生まれた

エレベーターを降りると先進的なイメージを表す会議室が目の前に現れる。

「企業ブランドをとても重要視しました。当社は、IT技術を駆使してバリューを提供していく新たな形の翻訳会社です。ですからありふれた受付スペースにはしたくなかったのです」

30名の社員の内訳は、半数が営業と管理、残り半数が開発とオペレーションチームで構成されている。7割が外国人で国籍を数えると12カ国となる。習慣も考え方も違う集団にとって、ビジネス上一番重要なのはコミュニケーションのとり方になる。

「ワンフロアに統合したことによって、コミュニケーションは圧倒的に良くなりました。逆にエンジニアたちからはうるさくなったという要望が出てきたため、入居後にレイアウトを変更するなどしてすぐに改善をしたのです」

オフィス全景

オフィス全景

コミュニケーション

格段にコミュニケーションは良くなっている

エレベーターを降りて正面に見えるのがガラス張りの会議室となる。

「当社の今後の翻訳ビジネスの可能性を意識したデザインになったと思います。会議室は全部で3室。渋谷というアクセスの良さも手伝って来訪者も増えています。これも移転効果といえるでしょうね」

オフィス内に入ると一番見晴らしのいい場所に大画面モニターが設置されている。

「このモニターはTV会議システムになっていて、ほぼ毎日といっていいほど頻繁に米国オフィスとやり取りをしています。海外拠点とのコミュニケーションも良くなりました。さらにオフィス奥には、社内打合せや休憩、リフレッシュなど、多目的に使えるスペースを設けました。ここでも今までになかったコミュニケーションが生まれています」

移転して約1年経過した今でも、オフィスに関する大きな不満は聞こえてこないという。そして今後も進化し続けるIT技術を駆使して、より使いやすいサービスの向上に向けて開発が続けられる。

壁に備えられたTV会議システム

「世界中のお客様の満足度を高めるためにも、翻訳者の生産性に直結する機能は非常に重要な要素だと思っています。機能の進化のために徐々にではありますが増員計画も予定しています。しかし人が増えたとしても今まで以上に『コミュニケーション』を最重視したオフィスづくりをしていきたいですね」