グリー株式会社

2022年5月取材

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※ 記事は過去の取材時のものであり、現在とは内容が異なる場合があります。

本社移転で新たに構築した従業員のためのオフィス

SNS「GREE」を創業事業とし、以降日本のモバイルインターネットサービスを牽引してきたグリー株式会社。六本木ヒルズ森タワーに約11年入居していた同社は、2022年3月にオフィス移転を実施した。本移転のコンセプトは「従業員のためのオフィス」。今回の取材では、コロナ禍で行った移転計画の概要、独創的なアートを用いた内装デザインについてプロジェクトの担当者にお話を伺った。

野長 兄一氏

グリー株式会社
コーポレート本部 法務総務部
組織法務総務グループ
ファシリティマネジメントチーム
マネージャー
野長 兄一 氏

熊澤 恵梨 氏

グリー株式会社
コーポレート本部 法務総務部
組織法務総務グループ
ファシリティマネジメントチーム

熊澤 恵梨 氏

Contents

  1. 日本のモバイルインターネットサービスを牽引してきた
  2. 「コスト構造の改革」を考えてオフィス移転に踏み切った
  3. 新オフィスで目指すのは従業員のためのオフィス
  4. オフィス最大の特長はフロアごとに異なるアーティストがデザインを施したこと
  5. どんなにITが進歩してもイノベーションを起こす空間は必要

10人用会議室

10人用会議室

日本のモバイルインターネットサービスを牽引してきた

2004年12月、SNS「GREE」の運営を目的に設立したグリー株式会社。その後、世界初のモバイルソーシャルゲーム「釣り★スタ」を公開するなど、日本のモバイルインターネットサービスを牽引してきた。現在は、ゲーム事業だけでなく、メタバース、メディア、広告、投資・インキュベーションといった事業にも取り組んでいる。特にメタバース事業はグローバルに活躍の場を広げており、将来的に主力になりえる事業だ。

「コスト構造の改革」を考えてオフィス移転に踏み切った

同社の創業は200412月。創業時から六本木エリアを中心に事業展開をしてきた。旧オフィスである「六本木ヒルズ森タワー」に入居したのは20107月のこと。入居当時は約1,050坪の使用面積だった。以降、分社化や事業の精査はあったが、今回の本社移転直前は2.5フロア、約3,500坪を使用していた。そんな中で本格的なオフィス移転の検討がスタートしたのには、「コスト構造の改革」といった理由があった。

「ゲームタイトルの開発規模は年を追うごとに大型化し、開発期間の長期化をはじめ、よりユーザーに楽しんでもらえるようなゲームタイトルをリリースするには協力会社との連携が不可欠となってきています。そういった理由などから以前と比べると利益率が徐々に低下しており、経営からはコスト構造の改革の一環としてファシリティコストの改善が求められていました」(野長氏)

それに加えて「六本木ヒルズ森タワー」の定期借家契約のタイミングもあった。

「満了時期は20225月末でした。逆算すると遅くとも2年前には再契約か、移転かの方向性を定めなければなりません。それで2017年から情報収集を開始していました。六本木という慣れ親しんだエリアを離れて、大崎や新宿といったエリアを検討したこともあります」(野長氏)

移転先物件の検討段階において、新型コロナの影響もあり大規模オフィスビルが遅効的に空室率が高まり始めた。それによってビル側との有利な交渉が可能となった。

そして2020年夏に移転先が決まる。新オフィスは「オフィスっぽくしたくない」という思いが強く、内装デザインの参考に、オフィス見学は行わず、TrunkK5のようなホテルからCitanのようなホステル、日本橋周りのオープンカフェなどを見学したという。そうして目指すデザインが決まりつつあった段階で、急遽移転先が変更になる。コロナの感染拡大が続くなか、既に決めていたビルの条件を大幅に上回る提案があり、さらに、一棟借りが可能なオフィスビルが候補になる。それが現在のビルだ。

「ファシリティコストの改善目標が達成可能条件である事は当然ながら、選んだもう一つの決め手は『一棟借り』が可能だった点です。それにより柔軟かつ自由な使い方ができ、コロナに対する対策も取りやすい。結果としていい方向に進んだと思います。また、旧オフィスからさほど離れていないオフィスビルですので、従業員の通勤やモチベーションなどの影響も少なく済みました」(野長氏)

移転先は1フロア450坪のオフィスビル。4階から9階の6フロア、加えて2022年冬頃には3階の1フロアを増床する予定で、最終的には使用面積約3,000坪となる。グループ会社数社で使用し、その使用人数は約2,700人となるという。

基本は0.5~1フロア単位で1社が使用。9階はグリーのコーポレート部門や開発チーム、役員会議室を配置した。それ以外の4階から8階のレイアウトは偶数フロア・奇数フロアでレイアウトパターンを分けており、フロアごとに事業会社が入居している。

新オフィスで目指すのは従業員のためのオフィス

プロジェクト期間中、移転先のビルが変更となったが、当初予定していた内装デザインを踏襲するため、引き続き新パートナーであるデザイン会社が担当する。

「今回のパートナーの強みは、BIMが使え、図面をその場で3D化できることです。コロナにより従来のデータやベンチマークが役に立たなかったため、何パターンかの従業員をペルソナ設定し、利用環境について社内ディスカッションを繰り返しました。その打合せにデザイナーも参加いただいたことで、理解力も高く、BIM*を使った効率的な打ち合わせができました」(野長氏)

「移転前は『グリーとは?』や『モノづくり』をオフィスコンセプトにしてきました。それは当社のPRやブランディング、お客様へのおもてなしを考えてのことです。しかし最近は打ち合わせや採用面談もオンラインへと移行しつつあります。そのため今回は、旧オフィスのコンセプトやデザインにとらわれず、どういったオフィスにするかを一から考えることになりました」(熊澤氏)

「結果として、新オフィスにはブランディングを意識したエントランスもイベントスペース、来客専用の会議室もありません。働く環境に重点を置き、『従業員のためのオフィス』を唱えました」(野長氏)

加えて「従業員が来たくなるオフィス」を意識したと語る。

「コロナ禍で、旅行や外食も行きにくくなったため、オフィスに出社したら楽しい気分になれればとプラスアルファを考えていました。一例ですがアートの壁画にこだわったのも、出社してリモート会議に参加する場合、カメラをオフにするのではなく、背景も楽しめるものになっているといいなといった意見からです」(熊澤氏)

BIMBuilding Information Modeling の略。コンピュータ上に現実と同じ建物の立体モデルを再現する仕組み

オフィス最大の特長はフロアごとに異なるアーティストがデザインを施したこと

本計画は移転当日まで新オフィスに関する情報を統制し、従業員には一切内装や家具など詳細を当日のサプライズのために、知らせないようにした。その甲斐もあり、移転初日の従業員の喜び方は想像以上で各フロアの見学や写真撮影など盛り上がっていたという。移転前もあえて従業員に希望や要望を聞くためのアンケートは実施していない。内装が少数の意見に影響されたくないという思いからだ。


それでは新本社オフィスを見ていこう。一番の特長が異なるアーティストが担当したフロアの壁面デザインとなる。

6フロアにトータル18名のアーティストの方々に参加いただいていて、1フロアつき2~5名のアーティストが作品を手掛けてくれています。プロジェクト期間中は、モックアップを見せていただく度にワクワクして、こちらからこうしてほしいといった要望などをほとんど出すことはありませんでした。コンセプトに共感してくれるアーティストたちが揃ってくれました」(野長氏)

「移転前週に、アーティストの方々や関わってくれた方をお呼びしてレセプションパーティを行いました。アーティストの方からも、楽しかった。良い機会に恵まれた。と言ってもらえて、お互いに本当に楽しむことができました」(熊澤氏)

執務室内は、今後のハイブリッドな働き方を想定して同社では初めての試みとなる完全フリーアドレスを導入した。2,700人の従業員に対して用意したのは1,500席。各フロアの基本は共通レイアウト。個別ロッカー、10人用会議室、少人数用のブース、バーカウンターなどを配置している。旧オフィスと違って従業員同士の会話が明らかに増えていると語る。

執務室

執務室

9階バーカウンター

9階バーカウンター

9階会議室

9階会議室

9階通路

9階通路

少人数用ブース

少人数用ブース

ファミレス風ミーティング席

ファミレス風ミーティング席

「旧オフィスでのゲストのためのスペースを徹底的に削減。その分の面積で、従業員のためのエリアを充実させました。例えば、主流になりつつあるオンラインミーティング用の防音性の高いブースも備えることもできています」(野長氏)

「席数を大きく削減したため、子会社または事業部ごとに出勤ルールをつくって対応しています。新しく社員が入ったとしてもトータルの席数は増やしません。現時点では、各部署でうまくバランスを取りながら運営しているようです」(熊澤氏)

「『従業員のため』を考えて、各机には最新の4K対応モニタを備えました。在宅より良い仕事環境を整えたかったというのと、機種が異なることで色彩バランスが微妙に変わってしまうなどの余計な調整時間がかかっていたということへの配慮です」(野長氏)

「一人掛けのリラックス用ソファをABWの観点で配置したのですが、出社した従業員が仮眠用スペースとして使っています。稼働率がかなり高いですね。また、DJマシンをオブジェとして一つのフロアのバーカウンターに置いたのですが、これも予想以上によく使われています。決して大きな音を出すのではなく、心地よい音楽を聴きながらチームメンバーでお酒を飲んだりして、会話を楽しんでいるようです」(野長氏)

DJカウンター

DJカウンター

どんなにITが進歩してもイノベーションを起こす空間は必要

テレワークが増える昨今、オフィスにはどういった役割があるのか。

「オフィスは、従業員にとって働きやすい場所であるべきだと思っていました。コロナの蔓延により、テレワークが増え、在宅環境下に各々が働きやすい環境をつくることが可能になりました。今後もオフィスにとって、働きやすさは重要ですが、追及しすぎても叶わないことを理解しました」(野長氏)

「そのため、オフィスは『コミュニケーションをする場所』≒『イノベーションのための場』ではないかと思います。一人では新たなものを開発したり、大きなことを成し遂げるのは難しいかと思います。複数の人が集まることでコミュニケーションが生まれ、オンライン独特の垣根が取り払われることによって、信頼関係が醸成。みんなのベクトルが揃ったタイミングで、新しいサービスやプロダクトが生み出されると思っています。そうした環境づくりや仕組みがオフィスの役割になってくると思っています」(野長氏)

「テレワークではできないことを行いたいからオフィスに出社する。そのためにどんな機能や施設が必要になるのか。オフィスは、コミュニケーションを発生させる場として、運営する立場としては常により良い環境や仕組みを提供していかなければと感じています」(熊澤氏)

グリー株式会社
「インターネットを通じて、世界をより良くする。」をミッションに掲げて創業したグリー株式会社。現在、ゲーム事業をはじめ、メタバース事業、広告・メディア事業の3本の柱を中心に事業展開をしている。