株式会社Gunosy

2015年3月取材

※ 記事は過去の取材時のものであり、現在とは内容が異なる場合があります。

新たに構築したオフィスのコンセプトは「自由」と「コミュニケーション」

「世界中の人々に情報を最適に届ける」。そんな思いから独自のキュレーションサービスを開発した株式会社Gunosy。利便性と情報の多様性が反響を呼び、世界中で900万ダウンロードを突破。今後も順次、新たな機能を拡充させていく予定だ。2014年12月、大幅な採用計画を視野に入れて六本木の大規模ビルに本社を移転。その当時を振り返り、情報配信企業ならではの特長的なオフィスコンセプトについてのお話をまとめた。

プロジェクト担当

伊藤 光茂氏

株式会社Gunosy
取締役CFO
伊藤 光茂氏

外所 美知子氏

株式会社Gunosy
コーポレート本部
外所 美知子氏

ステップ(段差)を活用して壁をなくした、自由度の高いオープンスペース「スキップヒル」

ステップ(段差)を活用して壁をなくした、自由度の高いオープンスペース「スキップヒル」

はやわかりメモ

  1. ギリシャ語で「知識」+U(you)。適切な人に適切な情報を届ける
  2. 立地ではなく環境。どんな状況でも情報を配信するためにビルを選んだ
  3. オフィスの基調色は白。何色にも染まらない公平さを求めた
  4. 今後も自由に書き加えられる空間をたくさん創造していく

ギリシャ語で「知識」+U(you)。適切な人に適切な情報を届ける

一般的なニュースサイトでは「閲覧者が多いニュース=話題のニュース」として捉えて上位への表示を行う。しかし実際には本当に求める情報は閲覧者の多さだけで計れるものではない。個人差があって当たり前だ。そんな情報のあり方に疑問を持った3名の大学院生が新たな情報配信プログラム「Gunosy」を開発した。配信される情報は閲覧者の趣味や評価を元にしているため、あくまでも使う本人にとって最適な情報が優先される。

「それまでのニュースサイトは知りたい情報ごとにサイトを立ち上げ直さなければならないという面倒さもありました。周囲を見渡すと同様の不満を抱えている人も多い。そこで自分たちでインターネット上の情報を自動的に収集、分類するプログラムを開発。SNSを使って新しいサービスのリリースをしたそうです。それが2011年10月25日のこと。Gunosyが正式リリースされた日になります。その後、今までにない便利さということが口コミで拡散され、登録者数も一気に数千人以上になりました」(伊藤 光茂氏

想像以上の反響により本格的なUIの改善を検討することになる。登録ユーザーも着々と増えてきていることもあり、2012年11月14日に株式会社Gunosyとして法人化をする。その名称はギリシャ語の「Gnosis(知識)」に由来されるという。

「ギリシャ語のスペルには入っていない『U』の文字をあえて入れました。この『U』は『You』でもあります。『Knowledge for you(あなたのための知識)』。この当時からビジョンは何一つ変わることなく継続しています」(伊藤氏

同社の企業ビジョンは以下の通りだ。

  • 情報が増え続ける社会において、適切な人に適切な情報を届けることを目指しています。
  • 情報を適切に届けることで、ストレスなく自分の欲しい情報、コンテンツを楽しむことができる社会を実現します。

そこにはあえてニュースという言葉は使っていない。それは同社が配信する情報とは必ずしもニュースに限らないからだ。

「情報とニュースってニュアンスが微妙に異なると思っています。例えば、個人のブログや自分で撮った撮影データ。それらは公共のニュースにはなりえませんが、本人にとっては大事な情報の一つといえますから」外所 美知子氏

情報に対する考えは同社のシンボルマークにも表れている。新聞紙でつくった紙飛行機を象ったマークだ。新聞紙(情報)が紙飛行機となってスーッとストレスなく届く。そんな同社の願望を象徴させたデザインになっている。

閲覧するまでの手軽さと多方面にわたる情報量から急激に登録者数を伸ばす。その数はリリース後わずか4年で900万ダウンロードを突破した。(2015年3月現在)

「それから徐々に採用をしていきまして。社員数は第一期には6名、昨年が20数名、そして今年が三期目にあたるのですが70名に増えています」伊藤氏

旧オフィスの面積は125坪。当面はここで充分と考えていたが、想像以上に事業の成長と採用が進み、急遽別のオフィスビルを探し始める。当初、ここまで早い段階で探すことになるとは思っていなかったという。そこで次回の移転時にはある程度のバッファーを含めた面積で探すと決めていた。

立地ではなく環境。どんな状況でも情報を配信するためにビルを選んだ

2014年3月から探し始めて7月に現オフィスとの契約を完了させた。立地のこだわりは特にない。あったのはBCP対応ができているかどうかだった。

「情報を配信している企業である以上、災害時でも事業を継続できることを一番に考えました。その点、このビルは非常用のバックアップ電源が備えられていますので安心できますね」(伊藤氏

「もちろん1棟だけではなく色々なオフィスビルを見学しました。最終的には、ある程度ステータスのあるビルに入居して当社のブランドを高めることも意識したということです」(外所氏

オフィスの基調色は白。何色にも染まらない公平さを求めた

そうして8月から内装デザインの工程に入る。まずデザイン会社3社に対して企画コンペの説明会を行った。

「僕らのビジネスって厳密に言えばオフィスに来る必要はないわけです。全てクラウドでことが足りてしまいますので。それでは何のためにオフィスに来るのか。それは社員間のコミュニケーションを強くするためだと思っています。コンペの際には、そういった当社の企業ビジョンや課題などを伝えました」(伊藤氏

「そのほか、『毎日スキップして来たくなるような会社』と『イノベーティブでモダンな中にも、上質さと品格を兼ね備え、一方で自由で開放的な要素も持ち合わせる』。この2つのテーマを加えました」(外所氏

約2週間後に3社からデザイン案が提出された。細かい打合せを行ったのち、デザイン会社1社を決定する。そうして3ヵ月後の11月末。家具の搬入までを含め全ての作業を終わらせた。

「随時、人事採用を行っていることもあって、ここも直ぐに手狭になってしまうかもしれません。そうなるとせっかく内装デザインに時間とお金をかけても壊すことになってしまう。そこが悩みどころでしたね」(外所氏

「オフィスを見ていただくとわかるのですがあえて壁をつくっていません。もちろんオープンな環境にしてコミュニケーションを活発にしたいという理由もあるのですが、それだけではありませんでした」(伊藤氏

「壁をつくって物理的に視界を遮るというより、いろいろな高さで視界を変化させることにチャレンジしています。それによって目線が変わり、壁がなくとも空間を区切るという効果を意識しました」(外所氏

それでは新オフィスの特長的な機能について説明していこう。受付と執務室の間にはガラス扉があるだけ。扉には同社を象徴する紙飛行機のシンボルマークが立体的に表現されている。よく見ると壁にもこだわりが。壁全体が1枚の紙のようだ。まさに「紙飛行機を折ったあとに広げた紙」のようなデザインとなっている。

壁がないため入室前からガラス扉を通じてオフィスの雰囲気を見渡すことができる。

ガラス扉の受付

白を基調とした印象的な受付はメディアとしての透明性を表現している

正面に広がるオープンスペース。境界線がわかるようにそこだけ床を一段上げている。まるで木でつくられた公園のようなスペースだ。そこには様々な形状の机や椅子が並べられている。

「これらの開放的な空間はメディアとしての透明性をイメージさせています」(伊藤氏

「ただしオープンにしすぎると社外秘の打ち合わせが行いにくいという意見も。その社員からの声を採用してクローズした応接室も3部屋分用意しました。3部屋でも少ないとは思うのですが、できるだけ社員間の打ち合わせにはオープンスペースを使っていただいて。予約するために時間を要するのも無駄なので、オープンスペースは空いていれば誰でも自由に使っていいというルールになっています」(外所氏

家具の多くは輸入品。何気なく設置されているホワイトボードは特注品だという。

オープンスペース

オープンスペース

「アナログに感じるかもしれませんが、当社ではディスカッションの工程が一番重要だと考えています。そのため、その場で思いついたことを自由に書き込み、動かせるホワイトボードをうまく活用しています。パーテーションとしての役割が果たせるのもいいですね」(伊藤氏

自由な使い方ができるオープンスペース

自由な使い方ができるオープンスペース

クローズした応接室

来客時にも使えるブレスト用の会議室

「その横にはファミレス風の席を用意しました。個人が集中ブースとして使ってもいいですし、数人でコーヒーを飲みながら議論を交わす使い方もあります」(外所氏

オープンスペースの右側が執務スペースとなる。
基本はフリーアドレスを採用。そこには部署間の壁を取り外して頻繁な情報交換を望む同社の思いが込められている。
それは同社代表取締役CEOである福島良典氏の思いでもある。

「代表の福島からは、格好がいいだけのデザインではなく落ち着いて働ける環境をつくってほしいと。そして当社の事業が情報配信ということで何色にも染まらない公平さを象徴させるデザインにしたいと要望がありました。ですからオフィス全体の基調色を白としています」(外所氏

多様な使い方のできるファミレス席

多様な使い方のできるファミレス席

「エンジニアチームは椅子に座る時間も多いということで、疲れにくいと言われている性能の良い椅子を取り入れています。そのほか好評なのはスタンディングテーブルですね。やはり終日座っていると疲れますので気分を変える機能が必要かと。ここで仕事をしていると色々な方に相談をされるようになりました。それによって今まで見えていなかった社内がより見えるようになったんです。こういったインフォーマルなコミュニケーションは大事だなと実感しています」(外所氏

性能の高い家具を取り入れた執務スペース

性能の高い家具を取り入れた執務スペース

スタンディングテーブル

スタンディングテーブル

「当社の場合、開発だけ強くなりすぎても良くないし、営業の力が大きすぎてもいけない。バランスを上手く保つことが重要なわけです。そこで多くの会話が生まれる仕組みをつくることを心がけました。それが営業からの無理難題でもいいんです。そこから議論が始まる。それがコミュニケーションの第一歩となります」伊藤氏

また、最近は社内のコミュニケーションだけでなく、社外の方ともたくさん会って色々な情報を収集することも求められているという。

「今後、より効率的に働き、長時間ではなく長期間働くことにシフトされていく。結果的にそれが企業価値を高めることになると思っています」伊藤氏

今後も自由に書き加えられる空間をたくさん創造していく

「当社のオフィスの象徴はやはりオープンスペースとなります。自由とコミュニケーションに満ち溢れていますから」(外所氏

このエリアの利用率は想像していた以上に高いという。以前に比べて取引先の訪問数も増えた。中にはただ単に見学を目的とする人も。それら全て総合的に見て移転効果の一つとして捉えている。このエリアは、お客様との商談の場でもあり、社員がお弁当を食べる場でもある。秩序の範囲内であるならば社員が自由に何かを持ち込んでも構わない。

「何しろオフィスは1日の3分の1を過ごす場所ですから。これからもガチガチなルールで固めることはしたくありません」(外所氏

「正直、新オフィスの入居前はオフィスの規模が一気に倍になることもあり、コミュニケーションは低下するかもしれないと懸念していました。旧オフィスは手狭という物理的な課題で退去することにはなりましたが、それほど嫌な空間ではありませんでしたから。その空気感をいかに壊さずに新オフィスに持ち込めるかを常に考えています」(伊藤氏

「企業として変化をしていくことは当たり前のことであり、重要なことなのだと思います。おそらく今後も社員数は増えていくでしょう。その時には想定していなかった新たな課題も見つかるかもしれません。オフィスは生き物ですからその都度対応をしていくしかないのだと思います」(外所氏

「バックパッカーで海外旅行に行くと、滞在した部屋に自分が読んでいた本やメッセージなどを書き加えていくことがよくあります。そうして、段々とその場所にあった空間が、訪れた人によってつくられていく。その国、その町に合った空間で、訪れた旅行者たちの個性も反映した空間です。僕らのオフィスもそうなればいいなと思っています。自由な空間をたくさん用意してそれを元に社員たちがつくりあげていくオフィス。Gunosyにふさわしい空間。そうしたオフィスをいかに構築していくことができるのか、それが次の課題になるのかもしれません」(伊藤氏