日立金属株式会社

2022年7月取材

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※ 記事は過去の取材時のものであり、現在とは内容が異なる場合があります。

旧オフィスの課題を改善しながら
多様な機能を採り入れたオフィスを構築した

2022年5月に大々的なオフィス移転を行った日立金属株式会社。「契約更新」や「働き方改革」、「新型コロナ感染症対策」など、多くの課題解決の時期が重なったことで効率的にプロジェクトを進められたという。その移転プロジェクトの背景や特長をプロジェクトメンバーの方々にお聞きした。
※本記事は2022年7月20日に取材した内容をまとめたものです。

田宮 直彦 氏

日立金属株式会社
代表執行役 執行役常務
人事総務本部長

田宮 直彦 氏

今井 拓道 氏

日立金属株式会社
人事総務本部 秘書部
総務秘書グループ長

今井 拓道 氏

清田 統是 氏

日立金属株式会社
人事総務本部 秘書部
総務秘書グループ

清田 統是 氏

江口 健一 氏

日立金属株式会社
人事総務本部
秘書部長

江口 健一 氏

Contents

  1. 日立金属は以前からダイバーシティに取り組んできた
  2. 感染予防対策が追い風になって新たな働き方を実現していく
  3. 多面的に検証を行い希望条件通りのオフィスに入居した
  4. オフィスコンセプトは、スペースの効率化とコミュニケーションの充実
  5. 今後の働き方を考えて多くの個室ブースを設置した
  6. オンラインでできない部分をリアルなオフィスに求めていく

コラボレーションエリア全景

コラボレーションエリア全景

日立金属は以前からダイバーシティに取り組んできた

1956年に設立された日立金属株式会社(設立当時は日立金属工業株式会社)。事業の創始としては、戸畑鋳物株式会社の設立である1910年にまで遡る。戸畑鋳物は初めて国産のマレブル®(黒心可鍛鋳鉄)品を製造。以降、技術の変化が激しい素材分野において、歴史の中で培った多様性を伸ばし、強化することで事業を拡大してきた。

「当社はダイバーシティ&インクルージョンを重要な経営戦略と位置づけてきました。

今でこそ、SDGsやダイバーシティという言葉が普通に使われていますが、当社では以前から多様性を重視して、外国籍社員や留学生の積極採用など、グローバルな人材戦略を推進しています。今後もニッチなマーケットへの対応や多様なニーズに応えられる製品を開発するためにも、さまざまな人材や個性が不可欠だと思っています」(田宮氏)

感染予防対策が追い風になって新たな働き方を実現していく

2020年3月、「新型コロナウイルス感染予防対策」を理由に本社・支社を中心に在宅勤務を決定した。急な実施ではあったが、在宅勤務に対するITインフラが整備されつつあったので割とスムーズに展開できたという。

「新型コロナウイルスの発生前から在宅勤務制度を導入していました。しかし活用実績は数えるほどしかありません。そこで積極的に促進するために、管理職から半強制的に活用していく方針を立てました。その準備を進めている中で、新型コロナウイルス感染症が全国的に広がったのです。今思えば、それが追い風となって全社導入に踏み切ることができたのかもしれません」(田宮氏)

「いざ導入してみると、通勤に要していた時間を有効に使えることにメリットを感じる従業員が多かったですね。導入後も順調な運用が続いているため、在宅勤務制度を継続していきます」(今井氏)

社内決裁資料や回覧が必要な書類については、以前から導入していた電子印を活用し、社内独自のワークフローシステムを立ち上げ、「押印のための出社」の改善も行った。

「情報漏洩リスクを考えて自宅のプリンターでは印刷できない仕組みにしており、在宅勤務が通常化することでこれらの新たな課題も見え始めています」(江口氏)

20207月、全従業員を対象に「在宅勤務に関するアンケート」を実施した。

「生産性が低下したという回答はほとんどなかったですね。その一方で、『適切な評価』『コミュニケーションの活性化』に対する質問や要望がありました」(今井氏)

上記に対しては、「新たなコミュニケーションツールを採り入れる」「管理職を対象にした事前研修を行い、定期的な1on1を実施する」などを施策として実施した。

並行して今後の「オフィスのあり方」についての議論も進めていく。202010月、新たな働き方を探るために「アフターコロナ検討委員会」を立ち上げた。事務局は人事総務本部が担当し、委員長は田宮氏が務めた。

委員会では、「出社率40%とする働き方の見直し」「単身赴任から在宅勤務への転換」「オンラインでコミュニケーションを活性化させる施策づくり」などを実施する。そして委員会の直下には3つのワーキンググループを組成。移転先が確定していない段階ではあったが、オフィス移転を想定して議論を重ねたという。

「ワーキンググループの構成メンバーは23名。『ワークスタイル』『IT環境』『オフィス検討』のグループごとに新たな働き方を模索していきました。ちょうどオフィスの契約期間が数年後に迫っていたタイミングでもありました」(今井氏)

「移転前は品川駅から徒歩圏内の大規模オフィスビルに入居していました。1フロア1,500坪を2フロア、合計3,000坪。グループ会社も含めて約1,000人で使用していました」(清田氏)

議論を重ねる中で、在宅勤務は働き方改革の一環として継続させる。そのためオフィス面積を現状の三分の一に縮小することが決定した。そして、大幅な面積縮小のためにオフィス移転を行うことも決められた。

多面的に検証を行い希望条件通りのオフィスに入居した

移転先のオフィス探しは三幸エステートが担当した。

「当社の自社ビルに移るという選択肢もありました。しかしビルグレードを下げることが本当にいい決断なのか。働く環境の低下は従業員のモチベーションに悪影響をもたらします。それだけは避けたかったので、オフィス立地にはこだわりました」(田宮氏)

同社から提示した移転先の条件は、「都内への立地」「ビルグレードの維持」「交通の利便性」「1フロア1,000坪前後」「ランニングコストの削減」の大きく5つ。膨大な数の物件情報から1棟ずつ確認をしていった。

「私が実際に見学したのは32棟になります。三幸エステートさんには、『物件の提供』だけではなく、『移転後のコストシミュレーション』や『通勤時間シミュレーション』など、多面的に検証をしていただき、大変助かりました」(今井氏)

「最後は絞り込んだ3物件を経営トップを含む関係者で見学しました。最終的には、最も検討条件を高い水準で満たす現在のビルに全員一致で決定しました」(田宮氏)

そして20215月、江東区豊洲に立地する1フロア900坪の大規模ビルと賃貸借契約を締結した。

「新オフィスは、旧ビル同様に天井が高く、圧迫感を感じさせない設計であったことも魅力でした。もちろん全国拠点との行き来を考えて、羽田空港や新幹線東京駅とのアクセスが良好なことも重要なポイントとなっています」(田宮氏)

オフィスコンセプトは、スペースの効率化とコミュニケーションの充実

移転先が正式に確定した後、内装デザイン会社3社にデザインコンペを依頼する。コンペの結果、同社が選んだのは多くのオフィス構築の実績を持つ会社だった。

「オフィスコンセプトは『スペースの効率化』と『コミュニケーションの充実』。親会社の日立製作所や他社が実践している『タイムフリー&ロケーションフリー』の働き方を当社でも実践できないかを検討しました」(田宮氏)

「旧オフィスと比べると180度違ったオフィスになりました。新オフィスアンケート結果では、自分にあった座席が予約できるなど、肯定的な意見が多かったです」(清田氏)

「書類の削減が最も大変な作業になりました。新オフィスは面積が大幅に縮小しますので、書類をそのまま移動させては容量オーバーになってしまうからです。それでも半年前から資料のデータ化を進めていましたので、多少は作業を緩和させることができました」(今井氏)

今後の働き方を考えて多くの個室ブースを設置した

それでは新オフィスを見ていこう。エントランス内には、多くの自社製品を展示しているエリアが併設されている。今後、同社の歴史をまとめたヒストリーを設ける予定であり、同社の歴史がわかるエリアにしていく予定だ。

「応接での待ち時間を利用して見学ができますので、より当社を知ってもらったうえで打ち合わせに臨むことができます」(清田氏)

展示エリア

展示エリア

入室すると、手前一面が「コラボレーションエリア」となる。

「六角形のテーブル、ソロカウンター、ソファエリア、集中席コーヒーカウンターなど、多種多様な働く場を用意しています。席数は約100席。どれも容易に移動できるものを使用していますので、椅子を並べて勉強会や研修を開催することも可能です」(今井氏)

会議室・応接室は、今回の面積縮小と今後の出社率を考えて大幅に削減した。

「会議室を増やすよりも、多くの人が交流できる場をつくるほうがスペース効率の向上が図れると思ったのです。そして少しでもマグネット効果を高めるために自動販売機やお弁当販売コーナーなどをこのエリアに集中させています」(清田氏)

コラボレーションエリア

コラボレーションエリア

ソロカウンター

ソロカウンター

集中席

集中席

コーヒーカウンター

コーヒーカウンター

執務エリアとの通路間に個別ロッカーが配置されている。執務エリアはブースゾーン執務ゾーンに分かれる。個室ブースは計19室、それよりも少し広い1on1ブースが計10室。かなりの数を用意している。

「旧オフィスでは6人用、8人用、10人用と会議室を用意していました。しかし広い部屋なのに一人でWeb会議を行っている従業員の姿もよく見られました。そんな非効率な使い方が課題になっていたのです。今回はそんな課題を解消するために思い切ってスペース改善を行い、個室ブースを多く用意しました」(今井氏)

多少の違いはあるものの、西側と東側ではほぼ対称のレイアウトになっており、社員にも座席場所がわかりやすくなるよう工夫しているという。

ブースゾーン

ブースゾーン

執務室ゾーン

執務室ゾーン

1on1ブース

1on1ブース

オンラインでできない部分をリアルなオフィスに求めていく

「オンライン環境下でも働く人同士がコミュニケーションを高められる施策も充実させました。当社の将来像を反映させたオフィスが出来上がったと自負しています」(江口氏)

「旧オフィスは、執務室と会議室だけでした。執務室は、ただ机が並んでいるだけの島型対向型のレイアウトでした。今回はさまざまなタイプの執務席を用意しており、過去、何度もオフィス移転を担当してきましたが、こんなにチャレンジをした移転プロジェクトは初めてのことです」(清田氏)

コミュニケーションは、今後のオフィス運営でも大きなテーマになる。

「これからも時代に合わせたオフィスづくりを推進していきますが、その根底には『コミュニケーションの活性化』があります。現時点では、コロナ禍の感染予防対策としてオンライン用の機能を多く配していますが、それが逆にコミュニケーションをとりにくくさせている要因だということも理解しています。今後も上手くアンケートを活用して従業員のニーズを把握していきます。そして働きやすいオフィスを提供し続けていきます」(今井氏)

「単にコラボレーションエリアを構築しただけではコミュニケーションは活発になりません。まずは部門を超えて交流をすることの意義を知ってもらう。それからオンラインではできないイベントや交流会の開催にも取り組んでいきたいと思っています」(田宮氏)


日立金属株式会社
さまざまな材料や製品を創り続けている日立金属株式会社。今後も多様性から生まれる技術やシナジーを強みにイノベーションを起こす。そして日立金属にしか作れないOnly1製品、日立金属だからこそつくれるNo.1製品を通じて、持続可能な社会の実現を目指していく。