- 情報システム導入等のITプロジェクトでは、一般的な提案依頼書(RFP)による依頼方法をオフィス設計会社の採用のために活用した
- ビルの竣工前に入居を確定させた
- コンセプトは「未来を発明するオフィス」。デジタライゼーションの第一歩としてペーパーレスの実施からプロジェクトが始まった
- オフィス環境の改善のみならず、働き方の変革を目指した
- 具体的に新オフィスの機能を見ていこう
- 次の課題を探りながら快適なオフィスを提供していく
情報システム導入等のITプロジェクトでは、一般的な提案依頼書(RFP)による依頼方法をオフィス設計会社の採用のために活用した
会社設立後、わずか14年で全国50拠点、従業員数1102名(グループ会社含む)と急激に事業を拡大している辻・本郷税理士法人。同社は2002年の設立時から何度か移転を行っているが、時代の変化によって過去の移転と異なることがある。堅牢なITシステムをサポートするセキュリティ面の強化や、効率的なシステム活用ができるユビキタス時代のオフィス環境の構築のために、移転プロジェクトの中心に同法人のシステム部門を担当する辻・本郷ITコンサルティングを据えたことだ。
「辻・本郷ITコンサルティングは、同税理士法人のITインフラの構築や同法人のお客様に対するITサポートを行なうための会社ですが、今回の移転はITを活用した未来型のオフィスの構築が命題だったことから、移転プロジェクトを拝命いたしました。経営陣や総務部など、さまざまな部署の意見を傾聴し、慎重に意見の調整を行いながら推進してまいりました」(渡辺博文氏)
また、オフィス設計会社に対しては、ITプロジェクトで一般的に行われるRFPの提出という依頼方法を採り入れた。RFPとは、情報システムの導入に際し、業務委託先から具体的な概要や構成要件などを示した提案書をいう。曖昧な発注と違い、混乱や問題を生じにくくさせる方式だ。
「今回のオフィス構築にあたり各社からRFPをご提出いただきました。これにより依頼事項や日程、契約関連などの業務委託事項が明確になりました」(渡辺氏)
ビルの竣工前の段階で入居を確定させた
そしてもう一つは次の移転先をまだ完成前の段階で確定させたことだ。
「三幸エステートさんからこのビルのご提案を頂いたのが2014年夏。建築途中の段階とお聞きしています。今までのオフィス同様に新宿区内、それもJR新宿駅直結でした。新宿で注目されている大規模開発ということもあり前向きに検討し、決定したそうです。その後、2015年8月に移転プロジェクトが発足。年末に向けてITシステム、ワークスタイルの変革といったテーマに合わせてデザインレイアウトやコスト計画書を策定させていきました。総費用を確定させたのが2016年の3月。同時期にビルが竣工。什器などを確定させ、内装工事を開始。すべてを完了させ入居したのが2016年7月のことです」(蠏やよい氏)
今後、税理士法人の業務として、マイナンバーを取り扱う場面も増えることが想定される。個人情報保護法の観点からも、セキュリティは同法人にとって非常に重要なアイテムの一つになる。このオフィスビルは最新のセキュリティシステムを採用しているため、タイミングのよい移転だったと語る。
コンセプトは「未来を発明するオフィス」。 デジタライゼーションの第一歩としてペーパーレスの実施からプロジェクトが始まった
「新オフィスのコンセプトを『未来を発明するオフィス』としました。これはパソコンの父と呼ばれているアラン・ケイ氏の『未来を予測する最善の方法はそれを発明することだ』という言葉がベースになっています。今後は人工知能やIOTといったテクノロジーを活用することで、税理士の業務の幅がどんどん広がっていくものと思われます。具体的にどのように変わるのかは現時点ではわかりませんが、税理士業界の未来図を描けるオフィス環境を構築したいと思いました」(渡辺氏)
「昨年の8月に移転プロジェクトの最初の一歩として社内にある紙資料の削減から開始しました。移転先の収納スペースの25%削減目標の達成のために、延べ約8トンの紙を廃棄しました」(蠏氏)
「将来的には、オフィス内のデータがすべてデジタル化されて、そのデータを基に人工知能が分析、判断してロボットが税理士業務を行っているかもしれません」(渡辺氏)
オフィス環境の改善のみならず、働き方の変革を目指した
旧オフィスは、西新宿の高層ビルに2フロアに分散して入居していたため、異なるフロア同士の社員が打合せをする場合は、内線電話やメールで連絡をとったうえで、決めた時間に会いに行かなければならなかった。簡単なミーティングでさえ、ワンクッションが必要になるため、業務効率の改善が求められていた。
「部署ごとに机の島が分かれており、すべての社員が固定席。固定席にはデスクトップPCが置かれていました」(蠏氏)
加えて、「応接室の不足」も課題だった。
「旧オフィスでは10名まで利用可能な応接室が基本でしたが、4~6名で利用する頻度が高く、営業時間内には常にすべての応接室が埋まっている状況でした。そこで、新オフィスでは、小規模人数に対応するために小さめの応接室を増やしました」(渡辺氏)
限られた空間の効率的な利用を実現するために、先進的なオフィスの事例を参考に、フリーアドレスの導入を決定したという。
「会計業界では珍しい試みですが、自分の居場所を確定しないで仕事を行うフリーアドレスを取り入れました。移転プロジェクトの始まった昨年8月からおよそ2ヵ月間にわたって、日中の執務机の使用状況を調査するため、定点観測でオフィス内の写真を撮りました。分析の結果、日中は全体の60%しか在席していないことがわかり、フリーアドレスの導入により、執務席数を就労人数全体の30%程度減少させることができました」(渡辺氏)
フリーアドレスの効用は空間の有効活用だけでなく、同法人のお客様の顧客満足度の向上にもつながったことが大きいとのこと。同法人は、お客様の要望に応じて専門分野ごとに特化したチームを組んでいるため、一人のお客様の課題解決にさまざまな部署が関わることになる。
「フリーアドレスでしたら、取り組んでいるプロジェクトごとに席を移動させるだけでいいのです。以前と比べるとより横断的に業務ができているように感じますね」(蠏氏)
「そうは言っても、企画、経理、総務、人事のように固定席の方が、効率的に仕事が出来る部署もあります。固定席エリアとフリーアドレスエリアのスペースのバランスには一番気を遣いました」(渡辺氏)
以上の話をまとめると、新オフィスはフリー席と固定席のバランスを重視したハイブリッド型オフィスということができる。この他にも巧妙にバランスを考えた設計が施されている。オフィススペースのどこでも、無線LANが活用できる設計となっているが、オフィスの3分の2の部分(固定席エリアと窓に面していない内側の部分)は有線回線も併用して使えるようにしている。

フリーアドレスエリア
「会計士の仕事は、ソフトウエアを使って記帳を行うことが多く、業務の効率性を考えると有線LANを使用した方が、電波の不安定に影響を受けず、ネットワークも安定するし通信スピードも速い。それだけ業務効率が上がるわけです。一方で、パソコンをどこにでも持っていけて、仕事ができる環境も求められています。この二つのバランスをとって両立させるのは大変でした。オフィスの内側に総務部門や経営企画といったバックオフィスの部署を集約させて有線回線で繋ぐ。フリーアドレスエリアの中の窓際のミーティングエリア、カフェテリアのような自由度の高いエリアは無線LANしか装備しない。全体のバランスを考えながらレイアウトを組みました」(渡辺氏)
「最適な場所や手段が、最大の効率性を生む」と考えていただけに、自宅でも顧客先でも移動中でも業務ができることを目指しているという。
今回のフリーアドレス導入は、現時点のインフラを考えてのこと。そのため数年先には、さらにフリーアドレスの比率が増えているかもしれない。それを考えて机はすべて可動式となっている。
「今回の移転プロジェクトでは、社内外での働き方を一新することをテーマにしています。『外出先でも社内にいるかのようなコミュニケーション環境をつくる』『デジタル化によるペーパーレスで快適な執務環境』『すべてのオフィス環境を持ち歩く』。これら未来の理想像を現実にある課題を調和させながら叶えることが目的でした」(渡辺氏)