株式会社iCARE

2021年4月取材

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※ 記事は過去の取材時のものであり、現在とは内容が異なる場合があります。

雑談こそが重要と考えてオフィスを構築。
そのコンセプトは「見える・聞こえる・会える」

企業の健康管理を効率化し健康課題を可視化するクラウドサービス「Carely(ケアリィ)」。開発・提供を行っている株式会社iCAREは、近年の健康経営への関心も後押しして著しい成長を遂げている。コロナ禍でオフィスの重要性を再認識した結果、新オフィスは移転前と比べて約2.5倍の面積に拡張したという。今回は、移転プロジェクトを牽引した岡田あさこ氏にそのプロジェクト概要とオフィスの必要性について伺った。

岡田 あさ子氏

株式会社iCARE
Corporate Div
HR Manager

岡田 あさ子氏

Contents

  1. セルフケアとカンパニーケアの2つのケアの整備を目指す
  2. 旧オフィスではコミュニケーションの低下が大きな課題だった
  3. 渋谷を中心に移転先を探す。最後はオフィスの形状が決め手になった
  4. 新オフィスのコンセプトは「見える・聞こえる・会える」
  5. 誰かの会話を聞くだけでもそれは立派なコミュニケーション
  6. 柔軟に改善を重ねていくそれこそがオフィスの健全な姿

多目的エリア全景

多目的エリア全景

セルフケアとカンパニーケアの2つのケアの整備を目指す

健康管理システム「Carelyは、働き方改革や健康経営への関心の高まりもあって導入を検討する企業からの問い合わせが増えているという。

「健康管理といっても、その中には『健康診断』『ストレスチェック』『過重労働』といった、多種多様なデータを管理する必要があります。まして従業員数が多くなればそれだけ管理が煩雑になるおそれもあります」

開発・提供を行っているのは株式会社iCARE。代表の山田洋太氏は現役の産業医でもある。

「もともと代表は心療内科の専門医です。多くの検診を行う中でワーカーのメンタルの改善には働いている環境の整備が大きく影響していることを感じていたそうです」

同社のビジョンは「働くひとと組織の健康を創る」。その実現には「働くひとが自ら健康を創るセルフケア」と「働く組織が従業員の健康を創るカンパニーケア」の2つのケアの整備が極めて重要だと語る。

「同システム導入のメリットは全ての健康情報をクラウド上で一元化し、一気通貫型の健康管理を実施できることです。それは導入企業の大幅な業務効率につながるだけではなく、産業医側にも蓄積データの管理やミスのないデータ検索といったメリットもあります。また、蓄積されたデータを通して会社全体の健康状態が可視化され、さまざまな施策に活用できる環境が整います。私どもは、これこそが本来の健康経営の第一歩だと考えています」

旧オフィスではコミュニケーションの低下が大きな課題だった

同社の旧オフィスはJR渋谷駅徒歩8分の立地だった。

「上層階が集合住宅となっている物件で。最初に入居した当時は社員数30名程度でした」

事業拡大につれて社員を増やしていく。それに比例して賃貸スペースを拡張していく。その繰り返しで応急処置的に対応していたが、ついに限界がきた。

「移転直前は109坪を90名で使用していました。歩くのも精一杯でしたね。スペースを増やしたといっても各部屋が壁で仕切られていましたので使いにくさを感じていました」

健康管理を支援する会社としてストレスを生む環境は早急に改善しなければならない。また、コミュニケーションの悪化はイノベーションの創出を遮るものとなる。以前から大きな経営課題となっていたという。

「旧オフィスでは偶発的な出会いで生まれたアイデアがあっても、それを進化させるための場所がありませんでした」

それでもコロナ禍においてはテレワーク導入やビジネスチャットの採用などの施策を講じ、課題の緩和に努めてきた。しかしどんなにビジネスチャットでのやり取りが頻繁に行われていたとしてもあくまでもテキスト上のコミュニケーション。予期せぬアイデアといったプラスアルファが生まれるケースは少ない。何気ない会話や雑談こそが重要だと改めて認識したという。

渋谷を中心に移転先を探す。最後はオフィスの形状が決め手になった

コロナ禍ではあったが、同社での増員ペースが速かったこともあってオフィス移転を優先課題とした。そして202010月から移転先探しをスタートさせる。

「オフィス立地は今後の採用活動にも大きな影響を与えることになります。それで当社のブランドイメージができつつある渋谷を中心に、その周辺を移転先エリアとして絞ることにしました。求めた面積は旧オフィスの約2.5倍となる250坪前後。セミナー開催やコミュニケーションを高めるために多目的エリアが必要という考えからです」

そして複数のビルを見学。最終的に現ビルを選んだ決め手となったのはオフィスフロアの形状だったという。

「待ち望んでいたワンフロアになるのですから、オフィス内が見渡せる空間でなければ意味がないと思ったのです。選んだビルは柱も少なく正方形の空間であることが魅力でした」

そして202011月末に契約を締結した。旧オフィスの時代から渋谷周辺に住居を構える社員が多いため、その通勤環境は大きく変えたくなかった。その点でも満足のいくオフィス移転ができたと語る。

新オフィスのコンセプトは「見える・聞こえる・会える」

移転先が決まり、内装デザインのフェーズに入る。前職でオフィスデザイン会社に勤務していたこともあって大まかなゾーニングは岡田氏が担当する。それを内装デザイン会社が設計図に落とし込んでいく。途中、何回も費用を確認しながらテストレイアウトを繰り返す。コンセプトワークに時間をかけたこともあって内装工事の開始は20212月となった。

「コロナの収束が見えていないこともあって、家具はサブスクリプションを活用しました。そうすることで自由度の高いオフィスの構築を目指したのです」

実験的な要素をふんだんに採り入れたオフィスの内装工事にかかった日数はわずか1ヵ月。20213月からの入居を可能にした。

「もともと見渡せるオフィス空間がテーマでしたので個室も少ないですし、パーテーションも立てていません。大規模な工事とならなかったのがポイントといえます」

それでは新オフィスを紹介していこう。新オフィスのコンセプトは「見える・聞こえる・会える」。旧オフィスでの課題であったコミュニケーションを活性化させるという課題解決を考えてのことだ。

エントランスに足を踏み入れると目の前に板張りの広い空間が広がる。多目的エリアと執務エリアに分けられ、その境界はガラス壁で仕切られている。

「どの場所にいてもオフィスの隅々が見渡せることを意識しました」

多目的エリアには4室の会議室を設けた。その名称は社内公募で決める。ちなみに各室は「桜(さくら)」「向日葵(ひまわり)」「蓬(よもぎ)」「初恋草(はつこいそう)」と名付けられた。同社のシンボルマークのカラーに合わせた花の色から着想されたという。

その他、入口近くに各種トレーニングマシンが置かれている。

会議室

会議室

トレーニングマシン

トレーニングマシン

「使用時間帯などのルールは特に定めていません。自由に気分転換をしながら使ってもらえればと思っています」

天井には固定式スクリーンとプロジェクターが備え付けられている。

「いずれは外部セミナーやイベントをするための機能です。スクリーンを使ってチーム会議を行っているシーンも見かけるようになりました。その一方で少人数のミーティングにもよく活用されています。やはりオープンな環境はいいですね。部署を超えた活発な意見交換ができているようです」

中央部の目立つ場所にカウンター席、奥の静かな場所にはカフェバーを配置した。どちらもブレイクタイムやスタンディングの打ち合わせに使われている。

中央カウンター

中央カウンター

カフェバー

カフェバー

ガラス壁の内部が執務エリアだ。入室にはセキュリティカードが必要となる。

「現状は固定席です。視界を遮らないようにキャビネットのサイズも低く設定しました。執務室の中心には大きなデスクを配して集まりやすい環境をつくっています。窓際にはソロワークデスクを設置。かなり稼働率が高いですね」

ソロワークデスク

ソロワークデスク

1 on 1ブース

1 on 1ブース

その他、執務エリアの両サイドにはソファを使ったミーティングエリア「日光(にっこう)」と「月光(がっこう)」を設けている。

「無明の病を治す薬を与える医学の仏である『薬師如来』の三尊に安置されている仏像の名前です」

ミーティングエリア日光

ミーティングエリア日光

新オフィスでの出社率は3割程度だが、コロナが落ち着いてきたらフル出社を目指すという。そして将来的にはフリーアドレスもしくはグループアドレスを導入し、さらに社内コミュニケーションを高めていく予定だ。

誰かの会話を聞くだけでもそれは立派なコミュニケーション

「今後、さまざまな経験をお持ちの方々が入社してきます。年齢も専門分野も異なる社員との会話はとても貴重なものとなるでしょう。たとえ自分が会話に参加していなくとも、その聞こえてくる内容はとても有益となるはずです。近くで見聞きした情報は無意識のうちにインプットされるもの。それを自分の知識として蓄積できるなら、それは立派なコミュニケーションだと思っています。そんなことはバーチャルの環境ではできません。だからこそオフィスは必要なのです」

オフィスで顔を合わせることは、スタッフの不調に気が付くきっかけになることもあるという。

「以前、テレワークを続けているワーカーにストレスチェックをしたことがありました。自分では通勤ストレスも減り、何の支障もないと思っていたそうです。しかし診断の結果では精神状態の低下が見受けられました。在宅で誰とも触れる機会がなかったため不調に気がつかなかったのです。オフィスに出社していればきっと誰かがその変化に気づいていたことでしょう。オフィスで顔を合わせることはやはり意味があると思います」

柔軟に改善を重ねていくそれこそがオフィスの健全な姿

最後に今後のオフィス運営についてお聞きした。

「現時点で特にきっちりと定めていることはありません。『健康とは、フィジカル、メンタル、ソーシャルが合わさったもの』という当社代表の言葉どおり、全ての要素が健全でこそ本来の健康といえるのです。もし病気にかかった、あるいはけがをしたとして、治療をするのはもちろんですが、病気やケガの原因となった背景を見直し、よりよい環境・健康を意識することができれば、なおよいでしょう。オフィスも同様です。きっちりとしたルールを決めることなく、柔軟に改善を重ねていけばいいのではないでしょうか。それこそがオフィスの健全な姿だと思います」

株式会社iCARE
iCAREは、経済産業省が顕彰する「健康経営優良法人」に2年連続で認定され、2020年度は中規模法人上位500に選出。東京都より、健康優良企業「金」の認定を受けるなど、自社でも健康経営を実践し、サービスにも繋げている。「Carely」導入企業向けに提供する健康経営プラットフォーム「Carely Place」では、健康課題の可視化、改善、効果検証を行えるため、健康経営銘柄・健康経営優良法人の取得を目指す企業にも役立っている。
https://www.carely.jp/