「完全なセキュリティ」を追求した明確なゾーニングが与える安心感
インテリジェンスの本社オフィスは、丸ビルの27階と28階にある。最大の特色は、それぞれのフロアを機能ごとにゾーニングしてある点だ。
「新オフィスのプランニングコンセプトをつくるにあたって経営トップとの話し合いの中で出てきたのは、完全なセキュリティ体制の確立でした。個人や企業の情報を扱う会社なのですから、訪れた人に安全や信頼を感じてもらえるオフィスにしなければなりません。このため、27階はお客さまへの応対をするゾーン、28階は従業員だけが出入りできるゾーンと明確に分けることにしたのです」
27階を顧客用のエリアとしたのは、中層階用と高層階用のエレベーターの乗り換えフロアに当たり、ビルにおけるターミナル駅のような位置づけだったからだ。ただし、オープンなエリアでありながら、入口は総合受付カウンターの前の1カ所に限定することで情報漏洩の心配がないことをアピールするように工夫している。そして内部も、セキュリティを考えて個室が並ぶレイアウトになっている。
「このフロアには、2人用と4人用のブースと呼ばれる小部屋と、もう少し広い応接会議室しかありません。個人のお客さまへの面接も、法人のお客さまとの商談も基本的にはここで行い、執務スペースと完全に区別しているのです」
当初、50室用意したブースだが、その後の業績拡大に合わせて現在では140室ほどに増設されている。これに伴い27階の全フロアを使用することになり、28階と合わせた総オフィス面積は1600坪(5280㎡)に拡張された。
「転職の相談は1人1人の転職希望者に丁寧に接することが大切ですから、キャリアコンサルタントの人数によって、1日に面接できる人数が決まってしまいます。したがってブースの数も人員計画に合わせて計画的に増やしていきました」
多くの人が訪れるフロアだけに、デザイン的には明るく、温かみのあるイメージを大切にしている。
「全体的には木材を多用した内装で、優しさを感じてもらうようにしました。転職相談や派遣相談で面接に来られる個人のお客さまは、当然、不安な気持ちもあるはずです。それを少しでもやわらげていただくためにも、このフロアのイメージづくりは重要だと考えました」
受付横の待ち合わせスペースには熱帯魚の泳ぐ水槽もデザイン上の工夫の一つだ。
「目隠しに何か置こうと考えたとき、パーテーションより水槽のほうが明るくなると思ったのです。一見、豪華に見えますが、管理をすべて専門 会社に任せることでコストはかなり抑えることができました」
運営・管理の手間やコストを省いて最大の効果をあげる方法を見つけることも「ファシリティマネジャーの腕の見せどころ」と説明する西田氏は、他にもこんな試みを採用している。
「応接会議室にはお客さまにお出しする飲みもの用の冷蔵庫があるのですが、これは会社の備品ではなく、飲料販売会社に設置してもらっているものです。このため、私たちは一切管理しなくても補充されるので便利ですし、サプライヤーにとっても充分な収益が期待できる。つまり、お互いに得な話なのですから、こういう工夫はもっと多くの会社でしてもいいと思いますね」
「全体が見通せるオフィス」であればコミュニケーションは活発になっていく
一方、28階の従業員ゾーンは、機能と効率を徹底的に考えたデザインとなっている。
「基本的に大部屋スタイルで、コアに近いスペースに1人あたり1400mm幅のデスクを効率良く並べるレイアウトにしてあります。しかも、全員が席に着いたままでも朝礼などができるように、『全体が見通せるオフィス』にこだわりました。パーテーションなどの高さはすべて1400mm以下としましたので、立てば視界を遮るものはありません」
さらに窓側に会議室や打ちあわせコーナーなどを配置することで、デスクスペースとのシームレスな交流を実現している。
「見通せるというのはオフィスにおいて非常に重要なポイントです。これにより、情報交換したい相手を見つけられる、気軽にデスクまでいって話ができる。そういう意味では、個人作業とコミュニケーションを両立できるスタイルになっていると思います」
仕事上、打ち合わせの機会は多く、会議室も「平均以上には用意してある」ものの、それでも足りなくなることはあるという。「幸い、他のオフィスの会議室など、借りることのできる場所はたくさんあるので、今のところ不自由はしていません」
もちろん、もう少しスペース的な余裕があれば「リフレッシュコーナーなどを増やしていきたい」という願望はあるものの、今のところ、従業員から特に不満の声は出ていないという。
「むしろ丸ビルに会社があるという満足感のほうが大きいのかもしれません。実は移転を機会に、家族の方にオフィスを見ていただくファミリーデーを設けたのです。すると、誰もがこの立地に驚き、そして『いいオフィスだ』と言ってくれます。それが従業員にとってもうれしかったのではないでしょうか」
ちなみに、丸ビル効果は採用面でも大きく、応募者が急増したという。
「そういう意味でも、知名度の高いビルへの移転が経営にもたらすメリットは計り知れないと思います。ただ、その効果を持続させるためには、オフィスを常に進化させていかなければなりません。そこからが、次のプロジェクトになっていくのです」
社員の「働き方」を分類するモデル化でオフィススタンダードを確立していく
丸ビルへの移転プロジェクトは、インテリジェンスにとって「オフィスのあり方」を考える最高の機会になったという。そしてその成果は、オフィススタンダードの確立といったFM上の実績につながっている。
「たとえば個人デスクにするのか、テーブルでフリーアドレスにするのか、その場合の1人あたりの幅はどのくらいがいいのかと、さまざまな検討を重ねることで、徐々にインテリジェンスのワークスタイルモデルが決まっていったのです」
たとえば従業員の「職種」は、次の3つに分類されている。
- タイプ1
-
求人情報媒体の営業職。在席率は3割程度であり、テーブルによるフリーアドレス化が可能。
- タイプ2
-
人材紹介、人材派遣サービスの営業職。電話による法人顧客との連絡と企画が主な仕事となるので在席率は約6割。1400mm幅個人デスクを採用。
- タイプ3
-
キャリアカウンセラーや管理部門などの企画職。在席率は高く個人デスクが必要。
「外回り中心の営業職の場合は、1 人あたり8 0 0 m mで計算し、2400mm幅のテーブルを6人ごとに設置することでスペース効率を大幅に上げられます。個人への書類伝達もクリアトレーがあれば充分なのでフリーアドレスは効果的でしょう。しかし企画を含めた仕事をする従業員の場合は行き来する書類も多いので、確実に相手に渡せるために個人用のデスクが欠かせません。つまり業務の内容によってパターンを整理することで、効率的なオフィス運営が可能になるのです」
インテリジェンスでは、全国展開により50カ所以上の事業拠点を持っているが、そのすべてのオフィスにおいて、ここにあげたスタンダードによる環境の統一を進めている。
「スタンダードは個人席だけで決めているのではありません。たとえば会議室も、テーブル、コピー機能付きホワイトボード、プロジェクター、スクリーン、配線システムなどをすべて一つのモジュールとして揃えてあります。このようなモデルをつくっておけば調達面でも有利になりますし、計画も立てやすい。そして従業員にとっては、一定の機能は必ず与えられるのですから、満足度は高くなるはずです」
経営方針に基づく中長期的なFM計画で事前に解決策を考えていくことができる
これらの経緯をみればわかるようにインテリジェンスのオフィス戦略は常に計画を立てて進められている。それが可能なのは、FM部門と経営トップとが常に情報交換を怠らないからだという。
「私がオフィス戦略を担当することになったとき、社長の鎌田は『すべて任せる』と言ってくれました。そして丸ビルへの移転プロジェクトにおいて頻繁に打ち合わせを重ねていくうちに、自然にFM部門と経営トップとの距離が縮まっていったのです。今でも経営会議で決められた営業や人事などの方針はすべて私たちのところに報告されますから、それをもとに5年先、10年先のオフィスをどうすればいいか計画的に検討していくことができます」
経営と一体化したオフィス戦略の成果は、たとえばこんなところに表れている。2002年に丸ビルに移転したとき、インテリジェンスは社内の多くの部門を集約したが、その後の業績拡大や、2006年7月に株式会社学生援護会と統合したことで、首都圏のオフィスだけでも、現在、10カ所近くに分散している。しかし、それでもデメリットはほとんどないという。
「一度、集約を経験したことで、オフィスに求める機能はコミュニケーションであり、情報や文化の共有であるとわかってきました。それなら、たとえ場所は離れていても、同じことをできるようにすればいいと考えたのです」
そして活用されたのがテレビ会議システムだ。先ほどの会議室のモジュールも、これに対応したものになっている。
「全社で100カ所以上のテレビ会議室がありますから、通常の打ち合わせのときでも気軽に呼び出し、全国レベルで情報交換ができます。今のテレビ会議システムは100Mbps以上の通信網で結ばれているので、慣れてしまえばほとんどストレスを感じません」
さらにIPログイン方式の電話システムや統一した無線LANにより、ノートパソコンがあればどこのオフィスでも自分のデスクと同じように仕事ができる。そのためのタッチダウン席も用意されており、必要に応じてどこでも働くことが可能だ。
「もちろん、一つの部門を分散してしまえばデメリットが生じますが、事業分野や業務分野ごとにオフィスが分かれているのであれば、情報通信システムの活用によってコミュニケーション上の問題はほとんど生じません」
ただしそれも、計画的なオフィス戦略が前提になる。
「今はオフィススペースを確保するのが難しい時代になってきましたので、いきなり人員増をしたいといわれても、すぐに対応することができません。インテリジェンスの場合は中長期的な経営計画に基づいてオフィスを確保し、設備も整えていけます、また逆に、私たちから『この部門のオフィスは拡張ができるので人員を増やしてもいい』と提案することさえ可能なのです。つまり経営とオフィス戦略が完全に一体化していることが、FMには絶対に必要なのではないでしょうか」
西田氏がリーダーを務めるFMサービス統括部はコーポレートヘッドクオーターの経営戦略本部に置かれ、拠点開発を行うだけでなく、全社的な購買まで担当しており、業務の領域は従来のFMの枠を大きく超えている。
「PDCAサイクルを回すことで改善を進めていくFMの手法は、実は会社の業務のいろいろなところに応用が可能です。そしてオフィス以外の分野も見ることで、もっと広い視野から従業員へのサービスを提供していけるかもしれない。これからは、そんなプランも考えていきたいですね」

この事例をダウンロード
バックナンバーを一括ダウンロード