株式会社クラダシ

2021年3月取材

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※ 記事は過去の取材時のものであり、現在とは内容が異なる場合があります。

チームとして最大限の能力を発揮させるための装置がオフィス

株式会社クラダシは、あらゆる工程で発生するフードロスの削減を目的に社会貢献型ショッピングサイト「KURADASHI」を運営している。近年の環境問題への関心が高まる気運にも後押しされ、消費者とマッチングした商品は累計で5万品以上。日本のフードロスゼロを目指すパイオニアとして急速に事業拡大をしている。202011月、事業拡大による増員計画を理由にオフィス移転を実施した。今回の取材では、新オフィスのコンセプトや概要、今後の運営方針などを中心にお話を伺った。

徳山 耕平氏

株式会社クラダシ
コーポレート本部/事業推進本部
人事部/事業開発部 部長

徳山 耕平氏

Contents

  1. 「社会貢献 × フードロス」を同時に実現するシステムをつくった
  2. 将来的な事業成長を予測して早い段階から移転計画を立てていた
  3. オフィス移転においても「もったいないを価値へ」を実践した
  4. コロナ禍での働き方を想定してオフィス計画を行った
  5. オフィスコンセプトは「棚が描く風景」。旧オフィスからのDNAを受け継いだ
  6. 働く場を適切に生み出す環境はオフィスが最適と考える

オープンスペース

オープンスペース

「社会貢献 × フードロス」を同時に実現するシステムをつくった

株式会社クラダシのミッションは、「ソーシャルグッドカンパニーでありつづけること」。またビジョンとして「日本で最もフードロスを削減する会社」を掲げ、設立以来、フードロスの削減に焦点をあてたサービスを展開している。

「日本のフードロス量は年間612万トンといわれています。この量は国民全員が毎日お茶碗1杯分のお米を廃棄しているのと同量で、世界の食糧援助量380万トンの1.6倍にあたります。内訳を調査すると家庭内で廃棄されるものは45%、事業会社で廃棄されているものは55%と集計結果が出ています」

その中で同社は事業者側での廃棄商品に着目した。

「日本の商慣習の一つに3分の1ルールといわれるものがあります。このルールのもとでは、賞味期限の3分の1を超えるものは流通のネットワークに乗せられなくなってしまう。つまり廃棄が助長されてしまうのです。それ以外の廃棄理由には、サイズ違いや印字ミス、季節性商品の時期超過などがあげられます」

これらの商品と、「短い賞味期限だとしてもお手軽に購入したい」と思っている消費者をつなげる。そんな「社会貢献 × フードロス」を実現するシステムが社会貢献型ショッピングサイト「KURADASHI」となる。

「『単に安く仕入れてそれ以上の金額で売りさばく』ということではありません。KURADASHIの最大の特長は、お客様にお買い上げいただいた金額の一部を社会貢献団体に自動的に寄付するシステムを組み込んでいることです。社会貢献団体も食品領域にとどまらず、環境保護、医療、動物保護といった20のさまざまな社会貢献団体を支援しています」

見落とされがちなのは廃棄にも費用が必要だということ。推計ではあるが、日本の廃棄量612万トンに対する廃棄費用は2兆円といわれている。加えてメーカー自らの安売りで安定していた市場価格の暴落を生じさせる可能性もある。KURADASHIはそれらを解決するための大きなツールとなるもので、メーカー側のメリットは計り知れない。今では同社の考えに賛同し、現在の累計商品数は5万品、利用者18万人以上、協賛企業数850社以上と、着々と業績を拡大している。

将来的な事業成長を予測して早い段階から移転計画を立てていた

旧オフィスは品川区内に立地するオフィスビルに入居していた。使用していた面積は40坪。当時フルタイムで8名が勤務していた。

「近年のSDGsに対する関心の高まりもあり、事業拡大に向けて社員を増員しはじめました。その影響でデスク不足、商談スペース不足の課題も顕在化してきたのです。時には近くの喫茶店に場所を移して商談を行うこともありました。そんなことでは業務効率も情報保持も悪化するばかりです。中長期計画では年度内に社員を40名程度に増やす計画を立てていたこともあり、早急なスペース改善が求められていました」

当初は企業成長に合わせながら面積を広くしていくことも考えていたという。

「まずは60坪、次に100坪というように段階的に移転を行っていく方法も検討しました。しかしオフィス移転は経済的コストだけではなく、社員への過大な負荷もかかります。それが当社の事業成長の支障にならないかを考える必要がありました。その結果、何度も移転を繰り返すのではなく、数年後までを見据えて140坪の面積を確保することにしたのです」

品川区中心に数棟を見学したのち、現ビルを選んだ。JR目黒駅徒歩3分という好立地で、ベストの移転先を見つけることができたという。

オフィス移転においても「もったいないを価値へ」を実践した

2020年7月、同社の事業計画の中でオフィス移転が決定する。もともと徳山氏は前職でいくつもの移転プロジェクトを担当していた経歴を持つ。

8月に前職時代からお付き合いのある数社の内装デザイン会社を中心に声を掛けてデザインコンペを行いました。当社からの要望は大きく3つ。『移転時の社員数は30名だが数年後には100名の計画を立てている。来客が多いことも踏まえ、スムーズに変更できるようなレイアウトプランを考えてほしい』『SDGsをオフィスデザインで表現してほしい』『コミュニケーションが生まれる仕組みを考えてほしい』。これらを具体的なデザインに落とし込むことをコンペの課題としました」

そうして9月中旬に内装デザイン会社が確定する。それからヒアリングなどでプランを固めていく。工事自体の開始は111日、入居予定は11月末。わずか1ヵ月で完成させなければならない。

「家具什器類は新たに選定することなく知り合いの会社から譲り受けることができまして。費用、時間ともに大幅に削減できました」

まさにオフィス移転においても同社のスローガンである「もったいないを価値へ」を実践したのである。

コロナ禍での働き方を想定してオフィス計画を行った

「もちろんコロナ禍を想定した働き方の議論はありました。しかしコロナが収束するのか、感染拡大が続くのかが全く見えてきません。あまり机上の空論で考えすぎるのも適正な判断ができない気がしまして。ただ新オフィスは140坪の広さがあります。現状の人数の使用ではソーシャルディスタンスは維持できる。それだけで十分と考えました」

オフィス全体を効果的に使用するためにABWActivity Based Working)を導入。カウンター席や集中ブース、ソファ席など、自席以外で働ける場をいたるところに配置した。

「コミュニケーションを図る方法については賛否両論あると思います。フルリモートで適切な意思疎通ができると考える方もいらっしゃるでしょう。しかし当社の現状の組織体ではテキストや画面だけでは、満足にお互いの思いを伝えきれないだろうと思いまして。ですから仮にWithコロナの状態が続いたとしてもリアルなコミュニケーションを優先したオフィスをつくるべきだと考えたのです」

現在、毎月のように新入社員が入ってくる状況で、フルリモートでは社員教育ができないという判断もあった。まずは組織づくりを重点に行う方針だ。ソーシャルディスタンスも十分に取れるため、基本は出社するというルールになっている。

オフィスコンセプトは「棚が描く風景」。旧オフィスからのDNAを受け継いだ

新オフィスの全体のキーワードは「棚が描く風景」。ラックスケープという造語を使い、会社全体に浸透させた。旧オフィスから商品群を並べるコーナーを設けており、それらを拡張させたいという思いがあったからだ。

ラックスケープ
ラックスケープ

ラックスケープ

「新オフィスでは壁全面に棚を設置して取り扱っている主要商品を配置することにしました。どちらかというと間仕切りに近い壁ですので、工事費を抑えることもできました。来訪されたお客様の目につく場所ですので、ショーウインドウとしての役割も果たしています」

応接・会議室は3室。それぞれSDGsをそのままに「Sustainable」「Development」「Goals」と名付けた。これによって社内外にSDGsを浸透させるのを目的としている。そこまでをつなぐ動線となる廊下は「ギャラリー」と名付けた。

会議室

会議室

ギャラリー

ギャラリー

「ギャラリーには過去にいただいた賞状や感謝状を飾っています。最初に商品に触れて、それから賞状や感謝状を見ていただく。その流れで商談に入ることができます。ただのオフィスというよりもクラダシを知っていただくための一つの営業ツールができたと考えています」

オープンスペースには多様な形状の机が配置されている。配置された机にも1番、8番、12番、13番と名前を付けた。

「それらの番号は、それぞれSDGsの『貧困をなくそう』『働きがいも経済成長も』『つくる責任 つかう責任』『気候変動に具体的な対策を』を意味します。毎日の生活の中で自然に自分たちの理念が伝わればいいと思っています」

オープンスペース

オープンスペース

オープンスペース奥には集中スペースを設けた。

「このスペースはコロナが収束したとしても使用頻度は高くなると考えています。遠方の企業様との顔合わせはオンラインでも問題なく行えることが分かりましたので。将来的に集中スペースは増設するかもしれません」

その手前には、集中スペースと対極となるリラックスするためのスペースを設置した。

「ここはカフェカウンターとなります。ONOFFをつなげる場としてアイデアを創造する場としてつくりました。当初の設計よりもデザイン会社との打ち合わせを重ねる中で倍以上に大きなものになりました」

集中スペース

集中スペース

カフェカウンター

カフェカウンター

執務室は完全固定席になっている。

「緊急事態宣言下においてはフリーアドレス席にしていますが、平常時はあくまでも固定席としての使用を考えています。現在の座席数は60席。将来的なことを考えて多めに用意しました。すでに100名体制用の『未来デザイン』も用意していますので、慌てずにスムーズな移行ができると思います」

執務室全景

執務室全景

働く場を適切に生み出す環境はオフィスが最適と考える

入居後に多くの社員からの積極的な要望や意見があり、社員のパフォーマンスの向上のために改善を重ねているという。最後に徳山氏の考えるオフィス論を語っていただいた。

「人事を管轄している立場でもあるのですが、私はオフィスを『チームとして最大限の能力を発揮するための装置』と考えています。もちろんオフィス以外に集中したい場があればテレワークを行えばいいですし、チームとしての成長を考えるならば直接顔を見ることで感じ取ればいい。それを適切に生み出す環境はオフィスが最適だと思っています」

とはいえ、インフォーマルなコミュニケーションに期待してこのオフィスをつくったのだが、会議室や集中スペースで終日作業をしているシーンも見かけるようになった。

「今後の課題ですね。今後はさらに会社に来る目的を意識してもらえるような仕組みづくりを行っていきます。オフィスは使っていくことで課題が見えてくるもの。それらの課題に対応しながらオフィスを進化させていければいいですね」

株式会社クラダシ
クラダシのミッションは、ソーシャルグッドカンパニーでありつづけること。そのため「クラダシ基金」「フードバンク向けオンラインマッチングシステム」「学校給食キャンペーン」「国産農林水産物販売支援キャンペーン」「クラダシレスキュー」「オフィスdeクラダシ」などさまざまな社会貢献の仕組みづくりを行っている。