LE.O.VE株式会社

2021年9月取材

この事例をダウンロード
バックナンバーを一括ダウンロード

※ 記事は過去の取材時のものであり、現在とは内容が異なる場合があります。

採用計画の拡充を目的に誰もが印象に残るオフィスを構築した

訪問看護・リハビリといった在宅医療サービスを提供しているLE.O.VE株式会社。創業時から「親を呼びたいまちづくり」という理念をスタッフ全員で共有し、実践し続けている。現在は東京23区内に35ヵ所の訪問看護ステーションを持つ。そんな同社がコロナ禍で約4倍の広さとなるオフィス移転を行った。今回の取材では、その理由やコンセプトを同社代表の多江和晃氏にお話を伺った。

多江 和晃 氏

LE.O.VE株式会社
代表取締役

多江 和晃 氏

Contents

  1. 自分の能力を最大限に活かすために起業。新たな看護師の第一歩を踏み出した
  2. 希望条件を満たした移転先情報をいち早く入手。迅速に入居を決めた
  3. オフィスデザインで看護のイメージと内定率を改善した
  4. 文化との共存共栄の融合をテーマに時間をかけてつくりこんだ
  5. 今後も人と人とのつながりを意識した働き方を推奨していく

エントランス

エントランス

自分の能力を最大限に活かすために起業。新たな看護師の第一歩を踏み出した

LE.O.VE株式会社が創業したのは2007年のこと。当時の社名はLife On Vital Element株式会社だった。代表の多江和晃氏は赤十字の看護師出身で、「より地域に寄り添ったサービスで利用者の笑顔が見たい。全力で療養環境をサポートしたい」といった強い思いを持って起業したという。

「起業して14年になります。当時はこの業界で独立する人は皆無でしたね。それでも新しい世界へチャレンジしてみたかったのです」

起業後10年を一つの区切りと考え、社名を変更。現在のLE.O.VE株式会社となった。

「『Life Element』と『Value Engineering』の2つの大切なキーワードを、原点を意味する『O』で結んでいます。『人々が暮らす生活の価値を、我々が最大限に高める』。創業時から持ち続けている理念の一つです」

現在のサービス活動の中心は東京23区内。35ヵ所の訪問看護ステーションをバランスよく配置している。そうすることでスタッフ同士での万全なケア体制を確立し、それが利用者にとってプラスの効果を生むことになる。現在担当している病床は約4,000床。この数は都心の大病院が持つ病床数を大幅に超えていると語る。

「当社サービスの利用者の多くは65歳以上の高齢者となります。脳血管疾患後の定期的な処置、寝たきりのため起こる褥瘡の手当、胃瘻の管理や吸引、人工呼吸器の装着など、さまざまな疾患を抱える方のもとに定期的に訪問しています。介護ではなく看護。ですから各ステーションで働くスタッフは、看護師、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士といった何らかの国家資格を有した精鋭ばかりです」

当然、人材採用も厳選して行われる。書類選考後に数回の面接を行い、ようやく採用となる。面接の際に最も重視しているのは、利用者と同じ視線に立ち、思いやりを持って行動できる「心」の部分だという。

働きながら国家資格を取得するのはかなり困難なものがある。学校や病院で勉強をして資格を取得してからでなくては応募資格を得ることができない。狭い範囲での採用活動になるため、一人当たりの人材採用コストは一般企業と比べかなり高い。

希望条件を満たした移転先情報をいち早く入手。迅速に入居を決めた

「もともと縁があって世田谷区奥沢という所で創業しました。そこから2年後にステーションを自由が丘に移転。若手を中心に採用していく方針になって本社を渋谷駅周辺に移して。旧オフィスも渋谷区内のオフィスビルでした。あくまでもバックオフィスの役割です。30坪の面積を15名で使用していました」

次第に手狭さからストレスを感じるようになり、移転プロジェクトを20197月にスタートさせる。移転先の条件は渋谷駅を利用できる立地で、1フロア面積が100坪前後。そしてビルの最上階であることだった。移転先探しは三幸エステートが担当した。

「渋谷を中心に新たな空室が発生するたびに詳細情報を提供していただいて。候補ビルとの迅速な条件折衝もあり、現在のオフィスビルへの入居を決めたのです。その後も契約締結で終わりではなく、当社の考えに合致した内装デザイン会社を紹介いただきました。引越しが完了してずいぶん経ちますが、今でも定期的にアドバイスをいただいています」

契約時にはまだ竣工前だったため完成予想パースやレイアウト図面を見ながら内装デザインの打ち合わせを行った。詳細部分を確定させるまでに1年近くの歳月をかけたという。

「旧オフィスでは動線の悪さが課題としてありました。応接室を部屋の奥に配置したため、お客様との打ち合わせで執務室を通らなければならなくて。そこで新オフィスでは執務エリアと応接・会議エリアを完全に分離させるレイアウトを考えました」

また最近はOEMで化粧品をつくっており、その保管やセキュリティが確保できる点で現在のビルを選んで正解だったと語る。

「ビル1階から当社執務室までには4ヵ所のセキュリティで守られています。契約当時はそこまで考えていませんでしたが、取り扱っているさまざまな個人情報の管理を考えるとセキュリティの堅牢性は重要だと感じています」

オフィスデザインで看護のイメージと内定率を改善した

デザイナーとの打ち合わせを重ねながら自分たちの思いを伝えていく。その思いをデザイナーが形にしていく。そんな地道な作業が1年間にわたり繰り返されていった。多江氏の最も強い思い。それは看護業界のイメージを変えるようなオフィスの構築、それを採用活動の強化につなげることだった。

「今後、労働人口の減少という社会問題に対して、少しでも多くの方にこの業界のことを考えてもらいたい。そして運よく出会えた若い世代に今までの経験で培ってきたノウハウや知識を伝えていきたい。その継承こそが質の高いサービスの提供につながる。それが今まで携わってきた業界への恩返しになると思っています。そのために少しでも応募者の印象に残るようなオフィスデザインを目指しました」

新オフィス移転後は毎日最低4~5名前後の面接を実施している。驚くべきことは内定率が大幅にアップしたことだ。旧オフィスでは面接後の低かった内定率が、新オフィスでは88%にまで上がっているという。

「有難いことに最近は東京周辺だけだはなく全国から応募があります。実際に在籍しているスタッフも4割が関東以外の出身者です」

文化との共存共栄の融合をテーマに時間をかけてつくりこんだ

「旧オフィスのコンセプトは『地球との共存共栄』でした。決して自分一人の力で生きているわけではない。そんなイメージを表現するうえで巨大な動物のぬいぐるみを置いていました。新オフィスでもそれらのぬいぐるみを無駄にすることなくうまく採り入れています」

新オフィスのデザインコンセプトは「ここから冒険が始まる」とした。

「新オフィスは採用を目的としたオフィスです。応募者からすればここから第一歩が始まるわけです。ここが人生の門出。そんなことをイメージしてコンセプトを考えました」

それでは新オフィスを入口から順に見ていこう。

LE.O.VEの社名の下に重厚な扉。端には古書をかたどった来客用インターフォンが置かれている。壁は石造りの様相で、一見、テーマパークに来たようなワクワク感を感じさせる。

「本物志向でつくりました。インターフォン下にデザインされた古書は実際に神保町の古書店から雰囲気に合うものをデザイナーが探して使用してくれました」

この扉を開いて新たな世界に足を踏み入れる。目の前に広々としたエントランスが拡がる。エントランスのテーマは「文化と生き物の融合」としている。壁全面は象形文字でデザインしている。

「一つひとつの文字は手作りでつくっています。実は一ヵ所だけ当社のロゴが隠れていて。どこの会社も真似できない世界に一つしかないオフィスになりました」

エントランス正面には巨大なモニタを備え、会社説明会や社員教育などに使用している。現状では机も並べて60人くらいが着席可能だ。

エントランスの一部分に古き良き時代のアメリカの雰囲気を出しているゾーンがある。ここには西部時代をイメージしたバーカウンターも配している。

新オフィス入口

新オフィス入口

バーカウンター

バーカウンター

「社内にバーカウンターを用意したのは良かったと思います。社外に会話が漏れる心配がありませんので経営課題などの重要な話題を気軽に口にすることができます。本来、月2回交流会を行う予定でしたが、コロナ禍で残念ながら開催できていません。コロナが落ち着いて賑やかな使い方になっていることに期待しています」

もともと内装デザインにはこだわりがあったと語る。

「このエントランスの工事だけでかなりの日数をかけています。壁のタイルも全て大きさを変えて。画一的なデザインを避けてあえて手間をかけたことが自慢です」

エントランス内には4つの応接室を配置した。

「それぞれ『Forest(森)』『Sea(海)』『Desert(砂漠)』『Arctic(北極)』と異なるテーマでデザインしました。採用面接に使われることが多いですね」

エントランス内の隠れ扉の中にはトレーニングマシンが置かれた部屋も用意した。

「当社は心身の健康を重要に考えていますので思い切ってつくりました。私も就業後に使っています」

トレーニングルーム

トレーニングルーム

Forest(森)

Forest(森)

Sea(海)

Sea(海)

Desert(砂漠)

Desert(砂漠)

Arctic(北極)

Arctic(北極)

執務室には現在20名ほどが業務をしている。同社のバックオフィス部隊だ。その執務室もバーの壁が隠し扉になっており、隠れ部屋の一つに配置されている。大胆に日本を意識したデザインでまとめられている。

内装のための打ち合わせに1年近く費やしたが、実際の工事は約2ヵ月で完了した。

「色々なアイデアを詰め込んだオフィスです。面接でここに来られた皆さんはまず驚きますね。何かしら『面白い会社』と記憶に残してもらうだけでオフィス移転の意味があったと思っています」

今後も人と人とのつながりを意識した働き方を推奨していく

新オフィスの最終的な目的は活発な人材採用計画を後押しすること。したがって採用後は希望する訪問看護ステーションへの配属となる。徐々にステーションの整備も必要と感じているという。

「基本は各利用者様の自宅に訪問していますのでステーションに長い時間いることはありません。とはいえ働きやすい環境を整える必要はありますので、テーマを決めてつくりこんでいるステーションもあります」

35ヵ所のステーションの管理はエリアマネージャーとブロックマネージャーが担当する。

「組織が大きくなるに比例して不祥事が起きるリスクも考えなければなりません。共通のチェック項目を定めて定期的に確認しています」

もちろん社員からの意見を聞くことも絶えず行っている。

「組織運営に関してはボトムアップで意見を集めて、働き方のあり方を追求しています。改善会議は毎月のように行っています」

全体的にZoom会議自体は増えている。今まではちょっとした会議でも対面で行っていたが、内容によってはZoomで十分ということがわかり、時間を効率的に使えるようになったという。

「とはいってもやはりオフィスは今後も必要だと考えています。やはり対面でなくては伝わらないことも多くて。全てをオンラインで解決するのは無理があるように思えます。もちろん色々な考え方があると思いますが、私は絶対的にオフィス必要論者ですね。オフィスは会社の成長とともに大きくしていくべきと思っています。そして今後も、人と人とのつながりを考えた働き方を推奨していきたいと思っています」

LE.O.VE株式会社
「病院生活は特別な生活環境。できるだけ自宅で療養生活を過ごさせたい」「その人の生きる力となり、心の底から笑顔で喜んでいただきたい」。同社はそれらを使命として利用者やその家族との信頼関係を築き上げてきた。今後も、家族が不安になることなく無理のない生活を送れるように最大限のサポートを目指していく。