丸紅株式会社

2021年8月取材

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※ 記事は過去の取材時のものであり、現在とは内容が異なる場合があります。

オフィスコンセプトは「Chain(つながり)」。
全体的にコミュニケーションを活性化させる

同社の創業は1858年。創業者である伊藤忠兵衛が家業独立をした年とされている。以降、合併を重ねながら事業を拡大。1949年に丸紅株式会社として設立された。伝統的に紙・パルプ部門、食料部門、電力部門に強みを持ち、20213月期には大幅な黒字を実現している。そんな同社は20215月に新本社への移転を行った。新本社ビルは最先端の機能を持つオフィスフロアに加え、貸会議室やギャラリーといった地域に開かれた育成用途を併設している。今回の取材では、ビル全体の概要と特長的なオフィスフロアについてお話を伺った。

中池 拓 氏

丸紅株式会社
総務部 プロジェクト推進室
室長
中池 拓 氏

大村 遥 氏

丸紅株式会社
総務部 プロジェクト推進室

大村 遥 氏

Contents

  1. 将来的なBCPを考えて本社ビル建て替え計画が始まる
  2. トライアル期間を設けていくつかの施策を検証する
  3. ビジネスと生活、都市と自然、組織と個人がつながる場所となる
  4. Chain(つながり)をコンセプトとした新機能満載の執務フロア
  5. 移転後に社員アンケートを実施。移転後の課題の抽出を行い、改善していく

コミュニケーションラウンジ

コミュニケーションラウンジ

将来的なBCPを考えて本社ビル建て替え計画が始まる

丸紅株式会社は1972年に竣工した建物を本社ビルとしていた。白を基調色とした地上16階建ての大規模ビルであったが、20113月に発生した東日本大震災をきっかけに建て替えが論じられるようになったという。

「建物自体に被害はなかったのですが、将来的なBCPを考えて建て替え計画がスタートしました。思い入れの深い場所でしたので他のエリアへの移転ではなく、同立地での建て替えという選択となりました」(中池氏)

建て替え計画を実行に移すために仮移転先を探すフェーズに入る。エリア、面積などを考慮して数棟のビルに絞って検討。その結果、日本橋に立地する大規模オフィスビルへの入居を決めた。フロアゾーニング、レイアウト設計を確定させ、引っ越し作業を行う。あくまでも仮移転だったこともあり、凝った内装デザインにする必要はなかった。

「計画の第1弾として社員を対象にした各種アンケートを実施し、多くの意見や要望を集めました」(大村氏)

トライアル期間を設けていくつかの施策を検証する

旧本社ビルの解体工事は20169月からスタートする。新本社ビルの竣工予定は2020年度。必然的に移転時期が確定する。201711月に新社屋のタスクフォースを結成し、実現したいワークプレイスについて議論を行うこととした。部署を横断した若手中心のメンバーで構成。対面式でのフリーディスカッションが主体となった。

「仮移転だからこそ試せることもあるという結論に達しました。そこでトライアル期間を設けて、各種共有スペースやいくつかの部署を対象にしたワークプレイスの検証(コラボ型ABW)を行いました」(大村氏)

タスクフォースの議論の中で、「集中するためのスペース」「効率的に働く場所」など、「集中」に関する課題が多く出たという。

「その他、当社は組織によって文化が異なっているため、これからは組織を超えたコミュニケーションを図りながら、新しい分野への挑戦が必要になるといった意見が多くありました。そこでコラボレーションを活性化できる何らかの仕組みを構築すべきと考えたのです」(中池氏)

新型コロナウイルス感染症が蔓延しつつある状況のため、リアルなディスカッションから一転してリモート中心の活動となる。

「レイアウトなどはすでに決定しており、コロナ禍でのタスクフォースはオフィスの運用といったソフト面に移行していました。テーマの内容が変わったこともありますが、オンラインでの開催となり参加者が冷静になって発言するようになりましたね」(大村氏)

202010月にオフィス推進タスクフォースが発足する。社員ニーズを踏まえたワークプレイスの運用構築、浸透、移転後の適正化を図ることが目的となる。

「経営判断により固定席から座席割合を7割とする『自由席』での多様な働き方が決定したことで発足しました。これでABWをベースにした働き方への方向転換が可能になったのです」(中池氏)

ビジネスと生活、都市と自然、組織と個人がつながる場所となる

2021年2月に本社ビルが竣工する。地下2階地上22階建て。南側の皇居の緑と空の広がりを最大限に感じることができ、存在感のある庇が積層した印象的な外観デザインとなった。4階までが地域に開放した育成用途となり、全館通してビジネスと生活、都市と自然、組織と個人がつながる場所となる。

「地下1階は物販施設、1階は水や光といった自然を感じさせる空間、2階は飲食施設、3階は大ホール、ギャラリー、4階は貸会議室、コミュニケーションラウンジとして地域に開放するフロアです。そして5階以上が丸紅専用フロアとなります」(中池氏)

建て替えの目的であった安全性と防災性能も万全とした。一般の免震工法よりも高い効果を発揮する「ハイブリッドTASS免震システム」を採用。地震時の揺れを低減させる。防災に関してもビル内に防災備蓄倉庫を設置。帰宅困難者の受け入れスペースも確保する。災害時にライフラインが途絶した場合でも、72時間の電力供給を可能にする非常用発電機を屋上に配した。

Chain(つながり)をコンセプトとした新機能満載の執務フロア

新本社に家具什器を搬入し、それから約2週間にわたって約4,000人の大移動を行う。移動前に実施したマネジメント向けの勉強会はとても有意義だったという。

「特にリアルに集まった回では別の部署同士のマネジャー同士が意見を交わすことができ、有益だったという感想が多かったですね。早速、今後も同様な議論や情報共有の場を設けてほしいとリクエストをいただいています」(大村氏)

新社屋のワークコンセプトは「つながり、成長を生むワークプレイス」とした。

「ヒト、モノ、情報がより柔軟で効率的に自然と集まる『HUB』の役割を担う。それらが鎖のように強くつながり、未来に向かって成長していく。新本社はそんな働き方ができるオフィスを目指します」(中池氏)

「自由席としたことでスペースの使い方に幅が生まれました。自律的に選択できる3つの場を用意して、社員や組織の交流を創出しやすくする。そうすることで新しい価値の創造や生産性向上につながればと思っています」(大村氏)

それでは新本社ビルの各フロアを紹介していこう。3階の大ホールは入社式や大規模な会議などで使用することを想定してつくられた。外部への貸ホールとしても使われる。300席を並べることが可能だ。

大ホール

大ホール

4階は貸会議室とコミュニケーションラウンジで構成される。

「貸会議室はすでに運用が始まっています。コミュニケーションラウンジは将来的に社内外との交流が生まれる場にしていきたいですね」(中池氏)

「コミュニケーションラウンジを含めて執務室には植栽の割合を増やしました。緑を多くしたことで『癒し』の効果を与えています」(大村氏)

コミュニケーションラウンジ

コミュニケーションラウンジ

5階は来客受付と来客用会議室の専用フロア。明るい開放感のあるスペースだ。

来客受付

来客受付

7階が新本社の見どころの一つとなる社員食堂のフロアだ。社員の要望もあり食事をするだけの場だけではなく、終日多目的な利用を想定している。食堂内には、豊富なメニューを提供する「メインダイニングエリア」の他に、打ち合わせのための「ミーティングエリア」、発想を変えるための「ラウンジエリア」、ライブキッチンを設けて交流を促進する「コミュニケーションエリア」、ベーカリーを併設する「カフェエリア」とさまざまなシーンを演出している。

メインダイニングエリア

メインダイニングエリア

カフェエリア

カフェエリア

「出社社員の約5割が社員食堂を使用しています。ABWの働き方に慣れてきたのか、ここで仕事をしている社員も増えてきました。トータルで600席を用意しています」(大村氏)

そして8階以上が執務フロアとなる。オフィスコンセプトは「Chain(つながり)」とした。フロアごとに「Circle(サークル)」「Huddle(ハドル)」「Round(ラウンド)」の場所を設けた。

Circleは、各フロアの両端に設け、組織の一体感を構築するエリアです。ワーカー同士が自然と集まり、目標に対して一つの『円』のようにつながることを意識しました。自由席でありながら部署ごとに割り当てられたエリアで組織内の交流を円滑にします」(中池氏)

Huddleは、アメリカンフットボール用語で作戦会議を意味します。目的意識を持ち、具体的な課題や計画に対して機動的に共有する場として用意しました」(大村氏)

Roundは、3つの異なるテーマをフロアごとに展開する。新たな発想や価値を生むために自分に合った場所を選択して使う。3つのテーマは以下となる。

Round3つのテーマ

1. Morning Fresh
朝日を浴びてキラキラ輝く木々、早起きして感じる小鳥のさえずり。実際に環境音で流している。自然が生み出すおおらかな刺激を感じる空間をイメージさせている。

2. Magic Hour
夕刻の好きなものに囲まれた趣味の時間、家族と囲む夕食のひととき。「ひと」がつくり出す温かな空間をイメージさせている。

3. Midnight Meditation
真夜中の時間と天空の輝き、人や動物が眠りについた時間に感じる静かな時の流れ。「宇宙」が想像する静かな刺激を感じる空間をイメージさせている。

Midnight Meditation

Midnight Meditation

これらのテーマは一日を過ごす中で遭遇する3つのシーンから考えられたものだ。コロナ収束後は、部署を意識せずに自由に行き来して使用することを推奨していく。

「社員同士が積極的につながる場になってほしいと思っています。早くコロナが収束してオフィスを使ってもらえることを願うばかりですね」(大村氏)

その他、各フロアには密閉式のWeb会議ボックスが4室、コピー作業エリアが4ヵ所。距離を開けて配されている。人の動線上でインフォーマルな交流を求めてのものだ。全体的にパーテーションは低めに設定。見渡しを良くし、部署を超えたつながりを考えた設計になっている。

Web会議ボックス

Web会議ボックス

移転後に社員アンケートを実施。移転後の課題の抽出を行い、改善していく

本社移転後、時間の経過とともに課題が見えてくることも想定している。

「オフィスのハード面は完了していますので、今後は部分的な改良やソフト面となります。それらについてはいろいろな声を収集するために社員アンケートを実施中です。ワーカーの声を聞きながらできるところは改善をして、また半年後にアンケートをして。その繰り返しですね。そのころには出社率や利用率も変わっているでしょう」(大村氏)

「コロナ禍で出社率が低くなっていますが、決してオフィスが不要というわけではありません。もちろんオフィスの形や存在意義は時代によって変わるものです。ですから我々は常に社員の声に耳を傾け、働く環境を整備していく必要があると思っています」(中池氏)

社員アンケートを定期的に行うことでさらなる改善点を見つけていく。そうしてよりよい働く環境の提供のために、同社のオフィスづくりのPDCAサイクルは続いていく。

丸紅株式会社
丸紅は2018年6月にあるべき姿として「Global crossvalue platform」を定めた。将来的に時代が求める社会課題を先取りして、社会とあらゆる人々に向けてソリューションを創出していく。そうして社是である「正・新・和」の精神に則り経済・社会の発展・地域環境の保全に貢献する企業を目指していく。