マイクロソフト株式会社 本社(新宿オフィス)

マイクロソフト株式会社 本社(新宿オフィス)

2007年4月取材

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※ 記事は過去の取材時のものであり、現在とは内容が異なる場合があります。

「使いやすいワークプレイス」を実現しながら
手間やコストを最小限にする管理手法の追求へ!

マイクロソフト株式会社は1997年に小田急サザンタワー(渋谷区代々木)内に新宿オフィスを開設し、増床による拡張を積極的に行ってきた。昨年、それまで笹塚オフィス(渋谷区笹塚)に置いて本社機能を完全に移したのを機会に、新宿オフィスの再構築を本格的にスタートさせている。営業や管理部門の集約によるコミュニケーションの促進を目的としたプロジェクトは、全体で4フェーズに及ぶ大規模なもの。第一期として、今春、完成した営業部門のフロアは、従来のブース式から情報交換に適したオープン型のレイアウトを採用しただけでなく、徹底した管理手法の追求により、運用面においても大きな成果をあげようとしている。

プロジェクト担当

山縣俊夫氏

マイクロソフト
株式会社
山縣俊夫氏

管理本部
総務統括部長

長坂将光氏

マイクロソフト
株式会社
長坂将光氏

管理本部
不動産管理部
プロジェクト
マネージャ

はやわかりメモ

  1. 事業構造の変化がオフィスを変える
    ソフトウェアからビジネスソリューションまで、マイクロソフトのビジネスは多様化している。それに伴い、マーケティングから開発、販売促進まで一貫した戦略を進めるためのコミュニケーション重視型オフィスが必要になってきた。
  2. 家具の検討から始めるオフィス設計
    新しいオフィスを考えるとき第一に検討すべきは家具。ワーカーの働きに最も影響するだけでなく、管理の手間やコストもその選択で大きく変わるため、使いやすいだけでなくフレキシビリティが重要。
  3. 管理の手間を省くには細部まで工夫を
    家具は設置や解体が簡単なものを選ぶ。1人分を一つの項目で管理できるシステムも有効。
  4. 社員の満足度は事前の説明で決まる
    ワーカーからヒアリングをするだけでなく、オフィスの変更点は効果を明確にして説明するべき。家具の選択にあたってはモックアップによるワーカー自身の評価も重要。
  5. 感性に訴える空間が人の交流を促進
    インフォーマルコミュニケーションを促進するための場所は外光が入る明るいスペースが有効。なじみのある家具で人を集まりやすくしたり、色や形状の工夫がオフィスの雰囲気を楽しいものにしてくれる。

「スペース確保」から「組織機能重視」へ時代とともに変わっていくオフィス戦略

Microsoft Corporationの日本法人であるマイクロソフト株式会社は、今年で設立22年目を迎える。この間、基本ソフトWindowsやビジネスアプリケーションOfficeだけでなく、家庭用ソフトウェアやゲーム機Xbox、サーバー製品、ネットワークサービスMSN、コンピュータ周辺機器と次々と新事業を展開してきたのはよく知られている通りだ。現在、本社である新宿オフィスに加え、赤坂オフィス(港区赤坂)、代田橋オフィス(杉並区和泉)、調布技術センター(調布市調布ヶ丘)と都内に4カ所の事業所を持つに至っている。

「事業の拡大とともに急増する従業員数に対応するため、オフィス戦略においては、長い間『スペースの確保』が最優先課題でした。笹塚にあった本社がすぐに手狭になり、近くに設けた新宿オフィスを次々と拡張することになったのも、その流れです。しかし、仕事の効率面を考えたとき、分散してしまった組織の集約化は欠かせません。そんな考えから全社的にオフィスの最適化を進めることになり、その一環として本社機能と営業部門を新宿に統合していく方針が決まったのです」(山縣俊夫氏

新宿駅南口から至近の小田急サザンタワーは、赤坂や京王線沿線の各事業所とも30分ほどで往来が可能で、ヘッドクォーターとしての立地条件は申し分ない。このため、次々と増床するかたちで、現在では10.5フロア、約16,000㎡のスペースの確保をした。それを機会に昨年から本格的なリニューアルプロジェクトがスタートし、これからのビジネスに最適なワークプレイスを構築していく。

家具という「もの」を買うのではなく「機能」を継続して利用するという発想

新宿オフィスの再構築プロジェクトは複数のフェーズにわたって進められる予定だ。今回、紹介するのは第一段階となる14階と15階のフロアで、主に営業部門が使用する。基本的なコンセプトとなったのはコミュニケーションの活性化だった。

「少し前まで、私たちの製品はOSやアプリケーションなどのソフトウェアが主流でした。このため、営業であっても個々人が方針を立てて取り組むスタイルが中心であり、オフィスはパーテーションに囲まれたブース式のデスクによるレイアウトが最適だったのです。しかし今のマイクロソフトはサーバー構築を含めたビジネスソリューションの比重が高まり、仕事の進め方が大きく変わってきました。マーケティング、開発、販売促進、サービスの一貫した戦略が求められるようになってきたのです。したがってオフィスも、コミュニケーション機能を重視したものに変えていく必要が生じていました」(長坂将光氏

その前提に基づき、オフィス構築のプロジェクトチームが最初に行ったのは、新たに導入する家具の検討だった。

「通常のオフィス設計では、最初にスペースの配分を決め、次にそこに入れることのできる家具を見つけていくのが正しい順序なのかもしれません。しかし私たちが選んだのはまったく逆の方法でした。オフィスで働くにも、また設備として運用・管理していくにも、デスクなど家具の性能は非常に重要です。ここで妥協してしまうと、結局はスペースの都合に合わせ、妥協したワークプレイスにしかならない。だからこそ、部分から全体を最適化していくという発想でオフィスづくりをスタートさせたのです」(長坂氏

第一のフェーズで求められているコミュニケーションの促進を考えたとき、従来のブース式のデスクセットを採用しないことは決まっていた。さまざまな検討の結果、最終的にはデスクを島型対向配置するレイアウトが最適だという結論に達する。

「集中作業も気軽な情報交換も同時にできるスタイルとしては、やはりこの配置がいちばん便利なのです。ただし従来型の『個人が机ごと移動する』方式ではなく、必要に応じて席替えをするようにしたかったので、ローパーテーションなどの付け替えで自由にサイズ変更できる必要がありました。そのほか、管理上、重要だと思う条件をデザイン会社様と共に整理し、家具メーカー様に該当製品の提案をしていただいたのです」(長坂氏

そのとき、メーカー側に提示されたのは次のような条件だった。

  1. サイズやレイアウトの変更が可能なフレキシビリティの高い家具を供給できること
  2. 設置や撤去の手間を最小限にするため、組立と解体が簡単な家具であること
  3. 余剰になったときに倉庫に保管する手間を考え部品点数が少ない家具であること
  4. 今後のオフィス拡張などに対応できるように継続してサービスが受けられること
  5. グリーン購買指針などの環境基準に応えられること

そして、提案があったメーカーからはサンプルを取り寄せ、社内にモックアップを置いて性能面の評価を行う。

「デスクは従業員にとって最も身近なものですから、実際に使ってもらい、スコアリングをしました。その結果と、アフターサービスまで含めて評価の高いメーカー様をビジネスパートナーに選んだのです。私たちの目的は家具という『もの』を買うことではありません。オフィスにとって必要な機能を継続して利用するためにベストなサプライヤーを見つけることなのです。それだけに、購入価格だけで取引先を決めず、このような手順を踏むのも大切なのではないでしょうか」(長坂氏

固定式でも自由にサイズ変更できるデスク
管理の手間を徹底的に省くスペックの指定

このような慎重な検討をした結果、マイクロソフトが採用したデスクは、1440mm×800mmの天板を島型対向型に並べ、1人分のスペースをローパーテーションで区切っていく方式だ。標準サイズは横幅1440mmだが、業務内容によって1200~2700mmの範囲で変更できる。

「1440mmのユニットを多様なサイズで区切るため、人によっては自分のデスクスペースの中に天板の継ぎ目が来てしまうケースがあります。しかし、今はボールペンで手書きするようなことは少なく、ほとんどコンピュータによる作業ですから、結果的に問題はありませんでした」(山縣氏

もちろん、数メートルもある長い天板を使えば継ぎ目はなくなるが、それだとレイアウト上のフレキシビリティが大幅に制限される。管理面を考えれば、ユニットのサイズを統一するのは大切だという。

「ただし、レイアウト変更といっても『島の背骨』の位置は固定します。1人分のスペースやデスク配列はそのままに一部を他の作業用に転用する方法で対応していきます。そうすることで、組織改編や異動のときも電源やネットワークの配線工事をしないで済むのです」(山縣氏

デスク配列はそのままでも、パーテーションの位置や大きさを自由に変えられることでフレキシビリティはかなり高い。さらに、家具に対する細かいこだわりはこんなところにも表れている。

「デスクを仕切るローパーテーションは設置や解体のしやすさから軽量のアルミ製のものにしましたが、アルミだとマグネットで書類などを貼りつけることができないという問題点があります。このため、嵌め込み式の鉄製のバーをオプションで用意しました。そしてその長さは『必要ないときはワゴンの引き出しに収納できるサイズ』にしているのです」(長坂氏

長坂氏によると、「1人分のセットを一つにまとめられるのと、別々に保管しなければならないパーツがあるのとでは、管理の手間がまったく違ってくる」という。

「レイアウト変更などで撤去して一時的に倉庫で保管するとき、たとえばこのバーだけ別に扱わなければならないと紛失する可能性があるのに加え、管理台帳の項目も別にしなければなりません。非常に細かいことですが、こういうこと一つまでこだわるのが、マネジメントを簡単にしていくコツなのです」

社員のオフィスの満足度を高めて行くには変更理由を明確に説明していく必要がある

それでは、完成したフロアの全体像をみていこう。
プランニングをする段階でフリーアドレス化も検討材料となったが、最終的には採用は見送り、個人の固定席としている。

Microsoft New Desk System

「営業担当者の在席率は2割くらいですから、効率だけを考えればノンテリトリアルという選択もあったかもしれません。しかし、外ではノートパソコンでも、オフィスに戻ればデスクトップで複数のモニターを使う人は多いし、自分の席へのこだわりも強い。その要望に応えるのも管理部門の役目だと考え、今回のフェーズでは固定席としました」(山縣氏

山縣氏によれば、マイクロソフトは「ありすぎるほどの言論の自由が保証されている会社」だという。

「とにかく社員の意向をできるだけ反映していこうという経営方針があるので、私たちが新オフィスのプランニングをするときには事前のヒアリングを徹底的に行いましたし、なぜそういうスタイルにするのか、全員が納得できるような説明をしています。それだけの手順を踏んでも、もし不満があれば社員が意見を伝える方法はいくらでもある。ですから管理部門としては自然に完璧を目指すようになるのです」

以前のブース式から島型対向レイアウトに変更したことで標準のデスク幅は1800mmから1440mmへと縮小されたが、この点についても「コミュニケーションスペースを拡張するのでかえって便利になる」と説明をしたことで、賛同が得られたという。

「仕事のスタイルを変えなければいけないことは現場の社員がいちばんわかっています。それだけに、私たちの役目は、彼らの声の中からどこまでが正しいニーズで、どこからが過剰な要求なのかを見極め、オフィスユーザーの潜在的需要を形にしていくことなのです」(長坂氏

なお、Microsoft Corporationは世界で100以上の国や地域に法人を持つ国際企業だが、ファシリティ戦略はローカルの判断に任せられているという。

「もちろん環境面などの基準はありますが、それ以外は、そのエリアのオフィスマーケットなどの動向に応じ、各国の法人が計画を立ててワークプレイスをつくっていかなければなりません」(山縣氏

日本においては、ある程度、コンパクトにまとめたオフィスのほうが使いやすいというのが彼らの考えだ。

「デスクが大きければそれだけ作業の効率が上がるかといえば、そんなことはありません。といって狭すぎてもいけない。隣席の人と適度にコミュニケーションが図れ、集中して仕事もできるスペースとして、1440mm幅というのは、かなりベストなサイズだと思っています」(長坂氏

フロア形状を利用した明るいフリースペース
「ファミレス」タイプのコーナーも高い人気

今回のリニューアルの最大の目的であるコミュニケーションの活性化については、フロア全体の3分の1近くを会議室やフリーに集まれるスペースとすることで対応している。

「会議室は10人規模のものから4人規模のものまで多数用意してあります。他にも、予約しないで自由に使えるオープンミーティングエリアとバンケットミーティングエリアを用意しました」山縣氏

フロア図を見てもらえばわかるように、入居しているビルは五角形で、端に狭いスペースが突き出すような形になっている。全面にデスクを並べるには効率は決してよくないものの、その部分をあえてオープンミーティングエリアにすることで、三方窓の明るい空間を実現した。

「レイアウト上は苦肉の策ではあったのですが、結果的に非常に快適なスペースとなり、社員の評判も上々です。窓に囲まれ、景色が見えると人は自然に集まってくるもので、インフォーマルコミュニケーションの促進には有効なのではないでしょうか」山縣氏

もう一つ、バンケットミーティングエリアも「オフィスらしからぬ」デザインが成功した。

「ここは通路に面した窓のない細長いスペースだったのですが、『ファミリーレストランみたいなテーブルとソファのセットなら並べられるだろう』とやってみたところ、予想以上に人気が高く、パソコンとプロジェクターを持ち込んでちょっとした打ち合わせまでしているほどです。ファミレスはなじみのある空間なので、落ち着くのかもしれませんね(笑)」長坂氏

具体的な設計は専門のオフィスデザイナーに依頼し、デスクスペースとして特別な内装は採用していないが、カーペットはすべて張り替えている。

デスクスペース「床の色は気分を変えるのに非常に効果的なので、場所ごとに9色を使いわけています。せっかくデスクなどのレイアウトを工夫しても、床が一様にグレーのままでは、雰囲気はかなり暗くなる。カラーリングの変更は、かなり有効だと思いますね」(長坂氏

ほかにも、出張で本社に来た社員が臨時に使うデスクは円形にしたり、会議室もさまざまな大きさやレイアウトのものを用意することで、全体に変化をつけている。

「やはり人は五感で雰囲気を掴むのですから、色や形状、環境などによって気分を変えてもらうのは大切です。コミュニケーションを活性化するオフィスは、レイアウトの工夫だけで実現するものではありません。そこで働く人の感性に訴える工夫が必要なのではないでしょうか」(長坂氏

高度な管理手法で無駄なコストを省きオフィス環境の向上にもっと投資すべきだ

仕事の場としての機能の強化、ワーカーの感性まで考えた空間の演出と、マイクロソフトの新オフィスは多くの面で大胆な工夫を導入しているが、一方で「管理の手間の削減」への取り組みでも非常に先進的だ。最後に特筆すべき点を2つ紹介しよう。まず一つは、会議室に設置したモニター用パネルだ。

会議室に設置したモニター用パネル「今はパソコン画面を見ながらアイデアを出し合う打ち合わせが多いので各室に大型モニターを設置することを決めましたが、問題になったのは取り付け方法でした。壁に直接、付けると工事が発生するし、駆体にまでそれが及ぶとなると、その度にビル側や施工業者と調整しなければならず、手間も時間も余分にかかります。このため、あらゆるモニターのサイズに対応できる多数のネジ穴が付いたパネルを考案し、そこに設置する方式を採用しました。これなら『家具』の一つですから私たちの判断だけで自由に取り付けや取り外しができますし、モニターを変更するのも簡単です」(長坂氏

もう一つ、いくつかの「プロジェクトルーム」を設けたのも、将来を考えてのことだ。

「ここは会議室として使うだけでなく、新しいプロジェクトがスタートしたら専用に利用できるように、1室はテーブルではなくデスクを並べています。これからは仕事のスタイルが常に変化していく時代ですから、オフィスもそれに対応したフレキシビリティをもたせなければなりません。私たちは自由にスタイルを変えられる家具や、空間的なバッファを設けることで、ある程度の期間は工事をしなくても使い続けられるオフィスを目指しました。それによりトータルコストを下げることができれば、その分、従業員の快適さを高める部分に投資できる。つまり徹底した管理手法の導入は職場の環境を向上させるためにも有効なのです」(長坂氏

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