森永製菓株式会社

2024年4月取材

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※ 記事は過去の取材時のものであり、現在とは内容が異なる場合があります。

コミュニケーションが自然に生まれる空間で
さらなる「カクハン」を推し進めていく

「チョコボール」や「チョコモナカジャンボ」、さらに「ホットケーキミックス」など、誰もが知っている人気のお菓子やアイス、食品を生み出してきた森永製菓株式会社。建て替え後の「森永芝浦ビル」へ本社機能を移転し、3月18日より稼働を開始した。今回は新オフィスのコンセプトワークと、その考えを具現化するための取り組みについてお話を伺った。

竹澤 謙介 氏

森永製菓株式会社
総務部 総務グループ


竹澤 謙介 氏

Contents

  1. 2030ビジョンを制定しウェルネスカンパニーを目指すと宣言
  2. 老朽化による建て替え計画が決定。オフィス移転が急務になった
  3. テレワークが広がる中で、あえて出社の意義があるオフィスを目指した
  4. 資源を有効利用し、CO2排出量を抑える環境共創型のビルが完成した
  5. オフィスコンセプトは「MORINAGAのカクハン」とした
  6. コミュニケーションを促す施策が各フロアに仕掛けられた
  7. 「カクハン」をさらに進めていくために今後も改善を続けていく

ソファースペース

ソファースペース

2030ビジョンを制定しウェルネスカンパニーを目指すと宣言

1899年に創業した森永製菓株式会社は、「おいしく、たのしく、すこやかに」というコーポレートメッセージのもと、世代を超えて愛される食の提供を続けてきた。制定した2030ビジョンではウェルネスカンパニーへ生まれ変わることを定め、「顧客」「従業員」「社会」に「心の健康」「体の健康」「環境の健康」の3つの価値を提供し続ける企業になることを宣言した。

老朽化による建て替え計画が決定。オフィス移転が急務になった

同社はJR田町駅直結の「森永プラザビル」に本社を構えていた。4フロア合計約1,300坪を使用していたが、ビルの老朽化を理由に建て替えが決定。20243月までの移転が急務に。そのため2020年から水面下でオフィス移転の議論がスタートしていた。

まず、社内でのヒアリングによってオフィス機能の見直しを行う。

「築50年が経過したビルでしたので天井も低く、OAフロアでもありませんでした。また、動線や視界を遮る柱も多く、ゾーニングを限定的にさせる原因になっていました。それによって他部署の情報が入りにくくなり、部署を超えたコミュニケーションも取りにくくなります。やはり気軽に会話ができるスペースは必要です。旧オフィスは、そんな多くの課題を抱えていました」

テレワークが広がる中で、あえて出社の意義があるオフィスを目指した

オフィス移転の議論を重ねていく中で、竹澤氏を悩ませていたのが「オフィス不要論」といった論調だ。折しも時は新型コロナ感染症による緊急事態宣言の真っ只中。同社でも原則的に在宅勤務で業務にあたっていた。テレワークという新しい働き方が広がる時代に「出社を意識したオフィスビルを建てる必要があるのか」と懐疑的な声もあったという。

だが、「今後は出社とテレワークのハイブリッドな働き方が主流になるだろう」と将来を見据え、であるならばより一層「行く意義があるオフィスをつくらなくてはいけない」という方針を打ち出す。議論の結果、1972年竣工の「森永製菓芝浦ビル」を建て替えて、従業員が働きやすく、多様な人材の活躍を推進できる環境に配慮したオフィスビルをつくり、建て替え後の「森永芝浦ビル」に本社機能を移転させることとなった。

資源を有効利用し、CO2排出量を抑える環境共創型のビルが完成した

「森永芝浦ビル」は20243月に建て替え工事が完了。1フロア約488坪の7階建てとして生まれ変わった。ウェルネスカンパニーとして「環境の健康」を追求し、「ZEB Ready」の認定を受けた省エネ設計を採用している。雨水を利用して水資源の有効利用を図り、通常使用するエネルギーは電力のみとし、その供給源として再エネ由来電力プランを導入。実質的なCO2排出量をゼロに抑え、環境に配慮した設計を具現化した。さらに太陽光発電にも取り組んでいる。また、免震構造のため耐震性にも抜かりはなく、最大72時間稼働する非常用発電機も設置されている。

さらに「心の健康」「体の健康」という観点から木や緑を各所に取り入れている。例えば、壁や天井の一部には木質の素材を使用。柱には「燃エンウッド®」という燃えにくい木材、その周りには、創業者の出身地でゆかりのある伊万里産の木材を用いた。観葉植物も色々な場所に配され、シックで落ち着きがありながらも森の中にいるようなナチュラルな雰囲気を醸成している。

「オフィスビルはどうしても無機質なイメージになってしまいますが、木や緑は人間の心の健康にもリラックス効果があると聞きますので」

外壁も、窓の周囲に設置したミラー状の構造物が光を内部に取り込み、さらに外構の植栽を映し出すため緑を感じさせる設計になっている。

※ZEB Ready︓「ZEB」とは、Net Zero Energy Buildingの略称で、快適な室内環境を実現しながら、建物で消費する年間の一次エネルギーの収支をゼロにすることを目指した建物のこと。「ZEB Ready」は、ZEBを見据えた先進建築物として、外皮の高断熱化及び高効率な省エネルギー設備を備え、再生可能エネルギーを除き、基準一次エネルギー消費量から50%以上の一次エネルギー消費量削減に適合した建築物のことをいう。

オフィスコンセプトは「MORINAGAのカクハン」とした

オフィスづくりのフェーズでは各部署から参加者を募った。10名ほどのメンバーが集まり、ワークショップを開催した。定期的に行い、部署ごとの悩みや課題だけでなく、全社的な課題を共有。新オフィスのあるべき姿について議論を重ねていった。コンセプトの元となる考えや、それを具現化するたくさんのアイデアはこのワークショップから生まれたという。

新オフィスは「Morinaga KAKUHAN Base」と名付けられた。コンセプトは「MORINAGAのカクハン(攪拌・拡販・拡範)」。「カクハン」という単語もワークショップから出てきた言葉だ。さまざまな意見や考えを混ぜる「攪拌」、販売を拡大していく「拡販」、自分の範囲を広げる、会社の範囲を広げるといった意味の「拡範」。部署の垣根を超えたコミュニケーションを促進する、そして、個と組織のチカラをミックスして価値のタネを創造し、はぐくみ、発信し続ける。そんな想いが込められている。

コミュニケーションを促す施策が各フロアに仕掛けられた

それでは、各フロアの特長を紹介していこう。同社の使用フロアは2階と5階〜7階である。1階エントランスは開放感あふれる空間となっており、木目が見える天井はシックでありながらもどこか温かみが感じられる。フロア中央には「KOMOREBI Cafe」と名付けられたカフェが設けられている。その名の通り、木漏れ日が差し込む森の中にいるイメージとなっており、階が上がるごとに木の幹の中、木の上に登っていく雰囲気を醸し出している。

Morinaga KAKUHAN Base エントランス

Morinaga KAKUHAN Base エントランス

KOMOREBI Cafe

KOMOREBI Cafe

2階は応接エリアとなり、リラックス感のあるソファースペースや開放的なテラス席、そして、同社を代表する製品の名前が付けられた来客用会議室が配置されている。各会議室のガラスの壁には、部屋名の製品をモチーフにしたデザインが描かれている。

「例えば『チョコボール』という会議室には、キョロちゃんの足跡がデザインされているのですが、部屋の照明をつけると廊下にその足跡が影として映し出されるんです。全く意図していなかったのですが、結果としてとても面白いものができたと思っています」

チョコボールの会議室

チョコボールの会議室

ソトコミテラス

ソトコミテラス

ちなみに社内会議室には「もぐもぐルーム」「カクハンルーム」などの名前が付けられており、そのアイデアもワークショップから生まれたという。

さらに奥に進むと「ANGEL VILLAGE」と名付けた多目的スペースがあり、ランチを楽しんだり、セミナーや勉強会を開催したり、社内外の人と気軽な会話ができる自由な場となっている。

ANGEL VILLAGE

ANGEL VILLAGE

ANGEL KITCHEN

ANGEL KITCHEN

「情報保護の必要が無い内容の打合せなどは、わざわざ会議室に入ることなくこの場所を活用していただければと考えています。オープンな場所でミーティングを行うことで、通りがかった方々も自由に参加できる。そんな展開を理想としています」(竹澤氏)

5階、6階、7階は執務エリアとなっている。基本的にはフリーアドレスを採用。ロッカー等は可能な限り6階にまとめた。

「まず6階に出社して自分の荷物を置き、そこから好きな場所に移動してもらう仕組みとしました。一旦6階を経由することで色々な人と顔を合わせる機会を創出します。そこでの何気ない会話から新しい発見やコミュニケーションが生まれることを想定しています」

5階から7階は内階段で繋がっている。従業員同士がすれ違うことのできる通路幅で設計している。執務エリア内にもフリースペースが多数設けられており、自然な交流を促す仕掛けが随所に施されている。

業務を行う際は、状況や目的に合わせて「個人×集中」「個人×リラックス」「複数人×集中」「複数人×リラックス」という4つのシーンから選べるようになっている。例えば、個人で集中したい時やオンラインミーティングの際は一人用のブース。複数人で気軽にアイデア出しを行いたい時はラウンジのようなオープン型のミーティングルームやユニークな楕円形のテーブルが置かれた会議室など、バラエティに富んだ設計になっている。

さらに7階には仕事の合間にヨガなどの軽い運動を行えるウェルネスエリア、屋上には緑豊かなウォーキングコースが設けられ、ビルの外に出なくても気軽に体を動かせる環境を整えている。

7階 オープン型ミーティングルーム

7階 オープン型ミーティングルーム

7階 ウェルネスエリア

7階 ウェルネスエリア

屋上ウォーキングコース

屋上ウォーキングコース

「カクハン」をさらに進めていくために今後も改善を続けていく

移転後は、従業員の出社も増え、以前よりもいろいろな場所で会話をしているシーンを見かけるようになったという。

「やはり顔を合わせて話すことの重要性を再認識している、ということかもしれません」

課題として挙げていた座席数の少なさは解消された。執務エリアは広々とし、大小さまざまに設けられた会議室は多くの部屋が予約で埋まり、稼働率は高い。

「タグを用いた居場所検知システムを導入することで、会議室の利用率や各執務エリアの混雑具合などをデータで確認できるようになりました。利用頻度の低いエリアは、家具やレイアウトを変えるなど、今後のオフィス運営の参考にしていきたいと思います」

そして多くの人の意見を聞くためにクラブ活動形式でオフィス改善のためのメンバーを募集していく予定だという。

「運用も改善も、総務部だけで行うとどうしても保守的になりがちです。部署を超えて自主的に集まり、楽しみながら意見を出してもらう。それに対して総務部が協力していく。そういう関係性を保つことが、オフィスをより良くしていく健全な姿だと思っています」


森永製菓株式会社
同社が入居している「森永芝浦ビル」は全て自社使用としているわけではない。3~4階はテナントを募集中だ。もちろんテナントも1階カフェや大会議室といった施設の活用は可能だ。そうしたビル施設に魅力を感じる企業からの引き合いも増えているという。(2024年5月現在)


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