モトローラ株式会社 本社オフィス

モトローラ株式会社 本社オフィス

2008年8月取材

※ 記事は過去の取材時のものであり、現在とは内容が異なる場合があります。

大崎西口再開発エリアの話題のビルに生まれた
世界企業のガイドラインを満たす最先端オフィス

世界的な通信機器メーカーであるMotorola,Inc.の日本法人「モトローラ株式会社」は、2007年10月、大崎駅前に新しく建設された ThinkPark Tower(品川区大崎2-1-1)の20階と21階に本社を移転した。事業内容や経営方針の転換により頻繁にオフィスの移動を繰り返すことの多い外資系企業の中にあって、モトローラはそれまで約20年間、港区南麻布のビルに本社を置き続けるなど、中長期的な視野に立ったオフィス戦略を貫いている。

今回のプロジェクトでも、「最先端の技術集団にふさわしいワークスペース」「ワールドクラスでありながらローカル社会と連携の重視」「人材とスペースの効率化と生産性の向上」といったグループのデザインコンセプトを確実に具現化し、将来にわたって競争力を発揮できる生産性の高いオフィスを目指した。

プロジェクト担当

伊藤 均氏

モトローラ株式会社
伊藤 均氏

ジャパンシェアード
サービス 
オフィス
マネージメント部
シニアマネージャー
認定ファシリティ
マネージャー(CFMJ)

はやわかりメモ

  1. ゆったりした空間と交通の便の良さを両立
    大崎西口再開発地区の第1号プロジェクトとして完成したThinkPark Towerは、先進的なデザインに加え、都心では考えられない広々とした多目的スペース(空地)、ゆったりとしたオープンデッキを持つ飲食店などが魅力。しかも山手線の駅に直結しており、交通の利便性では最高の評価を受けている。
  2. グローバル企業としてのオフィス戦略
    米国本社を中心に統一した経営戦略を展開しているモトローラグループだけに、日本法人のオフィス移転に関しても承諾が必要。日本の不動産事情は特有のため説得には苦労したが、入居していたビルが建て替えられることになり、急遽、移転が決まる。
  3. ガイドラインによる世界基準のオフィスづくり
    職場環境のレベルを維持するためモトローラでは詳細なオフィスづくりのガイドラインがある。基本的にはそれに従うものの、地域ごとの特性に合わせた最適化も必要で、そのために活躍するのがグループ各社のファシリティマネジャーの役目。
  4. フリーアドレスで失敗しない工夫
    Mobile Workerと呼ばれるフリーアドレスの対象者を20%以上にすることもガイドラインの規定。事前の離席率調査、各部門への人選の委託、モバイル席にインセンティブを与えることによる満足度の向上・・・といった工夫が改革を成功させる。
  5. 移転後はワーカーによる評価を
    不満の声が少なければ新オフィスの構築はほぼ成功したと考えていい。オフィス環境だけでなく、通勤や食事についても調査が必要。

米国の本社とアジア地域本部の2つのFM部門を
説得するところからプロジェクトは始まった。

2007年10月にグランドオープンしたThinkPark Tower(シンクパークタワー)は、東京都の都市再生特別地区の第1号としてJR大崎駅西口前に誕生した複合施設だ。最大の特色はゆったりとした空間設計で、目の前に広がる多目的スペース「ThinkPark Arena」にはフットサル大会も開催できるスポーツ用コートが設けられている。そしてそこに面したカフェやレストランには広々としたオープンカフェが用意されており、風を感じながらくつろげる贅沢さは、都心のビルではまず考えられないだろう。

モトローラ株式会社が本社オフィスの移転先としてこのビルを選んだのも、JRの駅に直結した交通の便の良さと、ゆとりある空間の両方の魅力があったからだ。ファシリティマネジャーとして今回のプロジェクトを推進してきた伊藤均氏はこう言う。
「それまでは1988年に入居した南麻布のビルにずっと本社を置いていたため、空調や電気容量など設備の多くが現在の事業ニーズに対応できなくなってきていたのです。加えて交通の利便性の改善も考えていましたので、便利で快適なビルへの移転は検討課題の一つだったのです」

そんな思いもあって、数年前から新オフィス構築の提案をしてきたものの、なかなかゴーサインがでなかったのは、モトローラという会社の社風が影響している。
「モトローラは米国イリノイ州の本社を中心に強いまとまりを持っている企業グループです。このため、日本法人だけで独自のオフィス戦略を展開することはできず、全て本社の承諾を得なければなりません」伊藤氏

もちろん、伊藤氏は何度も新しいオフィスの必要性を合理的に説明してきたが、大きな障害になったのが日本の不動産事情の特殊性だという。
「日本は建築費や賃料が他国に比べて高い水準にあり、グローバルなオフィス戦略がそのまま通用しません。しかし、それを伝えても、海外のファシリティマネジャーには簡単には理解してもらえない。とにかく、移転が決まるまでには、何度も何度も侃々諤々の論争を繰り返してきたのです」伊藤氏

またファシリティマネジメント部のアジア地域本部は中国にあるため、伊藤氏にとっては地域本部と米国本社の2つのFM部門を説得しなければならず、苦労の日々が続く。

そんな中、入居していた南麻布のビルが2008年以降に解体される計画が伝えられたことで、移転計画は一気に現実味を帯びていった。
「まさにチャンスでした。しかもタイミングよく、条件にぴったりのシンクパークタワーで入居テナントの募集があった。まさに今しかないという思いで、プロジェクトをスタートさせたのです」伊藤氏

モトローラの定めるデザインの世界基準と
日本固有の働き方をミックスしたオフィスに。

2006年中にはグループ本社の了承を得て具体的に動き出した新オフィス構築プロジェクトだが、ここでも「世界のモトローラ」としての多くの条件を守らなければならなかった。
「モトローラには『Motorola Design Concept』と呼ばれる基本理念があり、全てのオフィスや施設はその方向性を目指すものでなければいけません」伊藤氏

それは次の4項目だ。

Motorola Design Concept

  1. 最先端で、技術に基づく組織
    (Cutting-edge, Technology-driven organization)
  2. 通信機業界でワールドクラスの組織
    (World-class organization in communication industry)
  3. 人材、スペースを理にかなって使い、効率かつ生産的な組織
    (Efficient and productive organization that uses resources, space intelligently)
  4. ローカル(地域)社会と連携した世界的企業組織
    (Global company, but with connection to local community)

ガイドラインへの遵守規定はかなり厳格で、以前にも役員室をフロアの角に増設しようと申請したところ、一切認められなかったという。そしてこれらを基にオフィスづくりのガイドラインが定められている。
「第一は、Private Office やLab、Meeting Roomなどの間仕切りされた部屋は全てビルのコア側へ配置しなければなりません。これは、窓際の明るいスペースは社員に使ってもらうべきだというモトローラの「個人の尊重」という基本理念に基づく方針ですが、実際にビル内のレイアウトをするときには、かなり厳しい制限になりますね」伊藤氏

「個室であるPrivate Officeを与える条件も、VP(副社長)または同グレード以上のスタッフに限定されているなど、先進的な組織にふさわしい基準が設けられています。従って、私たちファシリティマネジャーも、その方針を社内で展開していきました」伊藤氏

しかし伊藤氏は、全ての条件をガイドラインに委ねたわけではない。
「規定では、デスク周りであるワークステーションの大きさはワーカー1人につき3.42㎡となっていましたが、このサイズだと日本では広すぎ、スペース対コストのバランスが悪くなってしまいます。このため、2.24㎡(1.6×1.4m)のワークステーションを独自に採用することにしました」伊藤氏

もちろん「本社」の決定内容を変更するだけに、説得力のある理由を提示しなければならない。
「ワーカーの職場環境を守るのもガイドラインの目的ですから、ワークステーションのサイズを縮小しても狭さを感じないように保管書類を従来の4分の1にし、収納場所を不要にするといった工夫を約束しました」伊藤氏

また、ワークステーションについてはガイドラインの高さ規定(パーテーション)「1.6m以下」を1.22mにしている。
「前のオフィスでは約1.6mあり、隣の人の顔も見えずに使い勝手が悪かったのです。それだけに、『日本では他のワーカーと常にコミュニケーションをとりあいながら仕事を進める習慣がある!』と強く主張し、特例を認めさせました。導入してみると、このほうが連絡や情報交換はしやすいし、小さいワークステーションでも狭さを感じにくくなります。海外のモトローラ社員にも評判は良く、いずれは世界的な新しいスタンダードになるかもしれません」伊藤氏

モトローラ株式会社 本社オフィス

モバイルワーカーへの移行という方針を満足度を維持したまま実現するための工夫。

今回のオフィス構築プロジェクトにおいて、伊藤氏が「最も工夫を要した」と語るのが、フリーアドレスを一部の社員に導入することだった。
「ガイドラインには、Mobile Worker(フリーアドレス使用者)を社員数に対し20%以上適用するとあります。従って、オフィスを新しくするところでは、どこでもこの規定に従わなければなりません」伊藤氏

旧本社では、まだこの項目を遵守する段階ではなかったため全て固定席だっただけに、どういう手順でMobile Workerを選べばいいのか、対象者の配置をどうするかなど、考えなければならないことは多い。
「最初に始めたのは離席率の調査でした。旧本社で2回、2週間単位で行いました」伊藤氏

その結果、自分の席にいないワーカーの比率は各部門平均で30%強であり、20%のフリーアドレス化が不可能ではないことが分かる。
「その数字を示し、技術開発や経理などを除いた各部門長に20%以上のMobile Worker対象者を選出するように要請しました。人選を委ねることで、よけいなトラブルが起きないようにしたのです」伊藤氏

併行して、伊藤氏はオフィスのレイアウトを進める。
「フリーアドレス化には思ったより抵抗がなく、業務委託社員を含む全従業員数のMobile Worker予定者数は28%になっていました。最終的には固定席71%、Mobile席(フリーアドレス)20%の比率でレイアウトを行い、不足分をミーティングブース席で補い、全員が集まっても席は必ず坐れるようにしてあります」伊藤氏

このとき、さらなる工夫をしている。
「Mobile席は明るい窓際に沿って配置し、しかもスペースも少し広めにしました。つまり固定席よりも環境を良くすることで、自席が無いことのマイナスをカバーするようにしたのです」伊藤氏

しかもMobile Workerはどこでも自由に移動して仕事ができるのに対し、固定席ワーカーはMobile席の使用を禁止した。
「会議室なども含めれば、たとえ全員がオフィスに集まっても座る席は確保されています。従ってMobile Workerだからといった不利はなく、かえって便利だと人気があるほどですね」伊藤氏

6割以上のワーカーが満足している新オフィス独自のワークステーションにも不満の声はわずか。

そのほか、モトローラ株式会社の新本社オフィスの詳細については写真を参考にしてもらうとして、ここでは、移転後に行った従業員へのアンケートの結果から、入居後の評価を見ていこう。

Mobile Worker (フリーアドレス使用者)の導入まず、Mobile Worker(フリーアドレス使用者)の導入については、次のようになっている。
「特に反対する声が多いわけではありませんし、あまり関心の無い人が4割を占めているということを考えれば、部分的なMobile席の導入は、今のワーカーにとって受け入れられる変化だということでしょう」伊藤氏

ただし、この点については、事前の充分な調査や検討が必要だと強調している。
「技術開発や経理など固定席でないといけない部門があることから、ついつい営業にしわ寄せのいく企業が多いと思いますが、一方的に彼らの席を奪うだけでは反発にあってしまいます。部門長との連携によって作業を進めるなど、満足度を下げないための工夫は必要でしょう」伊藤氏

ちなみに、Mobile Workerはノートパソコンや書類、私物などを自分のロッカーに保管し、必要に応じて使用するデスクまで運んでくるのだが、移動に不自由を感じないように、荷物をまとめて運べるバスケットボックスを用意した。
「ちょうどいいサイズのものがなかなかなく、かなり苦労して探しました。しかし、こういう部分まで手を抜かないことがオフィス改革を成功させるポイントであり、FMの仕事の一部なのではないでしょうか」伊藤氏

次にワークステーションの広さと高さについては、このような結果になった。
「ワークステーションの大きさはガイドラインに沿っていないだけに苦情が出るかと心配していましたが、思ったほど問題はありませんでした。またパーテーションの高さについては、1.6mだったころより明らかにコミュニケーションはしやすくなったと評判は上々です」伊藤氏

ワークステーションの広さと高さ

交通の利便性では都内でもトップクラス

そして、南麻布から大崎に場所が移ったことについては、事前に従業員の居住分布なども調べていたこともあって、「便利になった」との声が多かったという。
「立地としては南麻布のほうが都心に近いのかもしれませんが、入居したシンクパークタワーはJR大崎駅に直結しており、ほとんどの社員にとって通勤時間が短くなったはずです。さらに新幹線に乗るにも空港に行くにも便が良く、交通の利便性では都内でもトップクラスだという気がします」(伊藤氏

食事環境についてまた、このビルは飲食店や物販店も多数入り、駅の反対側の施設も利用できることから、食事環境についても満足度は悪くない。
「南麻布のときは周囲に飲食店が少なかったことから、オフィス内にカフェテリアを設けて食事ができるようにしていました。移転してそれがなくなったため、若い社員の中には『食事代が上がった』という人もいますが、全体的には食事や仕事が終わっての飲み会などを含め、便利になったという評価のようです」伊藤氏

良い評価が6割以上を占めた今回の移転プロジェクト

総合評価を見ても、「非常にいい」「いい」が6割以上を占めており、今回の移転プロジェクトは大きな成果を上げるといえる。

オフィス内のデザインは世界共通

モトローラではオフィス内部のデザインや什器類に関しても詳細なガイドラインを設けている。
「内装から室内の装飾、家具の一つ一つに至るまで、米国本社のFM部門で指定したものしか使えません。このため、私たちはその条件の下でレイアウトを完成させていくのです」伊藤氏

この方法は、一見、不自由なように思えるが、質の高いデザインをどのオフィスでも実現できる上、備品類はまとめて調達できることからコスト面でも大きなメリットがあるという。
「モトローラグループとして一定レベル以上の職場環境を整備するにはガイドラインは欠かせません。ただ、オフィスは生き物ですから、国ごとの事情に合わせた調整や最適化は必要。つまり世界基準を満たした上で、個々のワーカーに不満を感じさせないようにすることが、ファシリティマネジャーの腕の見せどころなのです」伊藤氏

オフィス内のデザインは世界共通