- オフィスの統合で社員にプライドを
オフィスが分散していると、社内のコミュニケーションが阻害されるだけでなく、会社への帰属意識が薄れ、プライドの低下にもつながる。ブランディング戦略上もマイナスが多く、早急な対策が必要。 - 探しあてた「最高」のビル
スポーツジムだった建物はビルとしては規格外だが、個性的なオフィスを構築するにはかえって条件はいい。高い天井や断続的につながるフロアなどを利用し、自由なデザインが可能。 - 個性的なフロアで社員を動かせ!
複数のフロアがあるオフィスの場合、階ごとにテーマを設け、それぞれ異なるデザインコンセプトで構成していくほうが、社内に回遊性が生まれ、コミュニケーションは活性化していく。また中間フロアにカフェや喫煙コーナーを設置することで、自然な出会いが演出でき、効果的。 - 動線は多様であるほどいい
効率的な空間利用が企業にとってベストとは限らない。多様な動線を確保し、さらに空間的な自由度を残しておくほうが、自然なコミュニケーションが生まれる。また社外の人などとの多様な交流を考えても、動線は限定しないほうがいい。 - 隠れ家や秘密基地のようなオフィス
非効率な遊びのある空間は、利用者にとって「楽しさ」にもつながる。オフィスを愛せれば、そこにプライドが生まれ、最終的にはブランディング効果が期待できる。ただし、そんな空間を活用するための工夫や仕掛けは必要。 - プロジェクト継続のために調査を
オフィス構築は移転して終わりではない。その後の利用状況やユーザーの声を常に意識し、さらなる魅力を加えていくように努力したい。
現場からのブランディングには社員たちの高い意識が欠かせない。
「MTV」といえば、音楽を中心とする総合エンターテイメントブランドとして世界中で通用するが、日本における事業会社であるMTV NetworksJapan株式会社のビジネスは、そこだけに留まってはいない。
「MTVを核に、総合キッズエンターテイメントチャンネルの『ニコロデオン』やデジタルメディア事業と、確実にビジネスの多様化を進めてきました。しかしその結果、オフィスが3カ所に分散してしまい、さまざまな問題が生じていたのです」(MTV Networks Japan・長谷川晃二氏)
第一の問題は、社内コミュニケーションの不足と業務効率の低下だ。
「六本木に2カ所、原宿に1カ所とオフィスが点在している状態では、全社的な会議で集まるだけでも半日仕事になってしまいます。このため事業部門ごとの壁は高く、放送とデジタルメディアの連動といった共同作業を行うには非常に不便な状況だったのです」(長谷川氏)
組織が分断され、日常的なコミュニケーションが阻害されると、そこで働く人々は「MTV Networksの社員」という意識を、ついつい忘れがちになってしまう。
「MTV Networks Japanの全ての事業のベースにある強いブランドは、世界中のグループ会社のメンバーたちがMTV Networksの社員であることに高いプライドを持ち、質の高い仕事をしてきた結果として築かれたものです。ところが日本ではオフィスが分散していることで、現場からのブランディングが思うようにできませんでした。このため、ここで働くことへの誇りと強い仲間意識を持ってもらう職場にしたいと、かなり前から、移転先を探していたのです」(長谷川氏)
しかし、条件に合った建物には、なかなか出会えなかった。
「約200人を収容できるオフィスだけでなく、撮影用の大型スタジオが設置できるビルは、簡単には見つかりませんでした」(長谷川氏)
もちろん都心を離れれば選択肢は広がるが、MTV Networks Japanの場合、レコード会社や放送局、広告代理店などとの交流が重要であるため、立地条件はかなり限られる。
「特にレコード会社の人たちは本当に頻繁に訪れてくるので、足場のいい港区や渋谷区の一等地であることは絶対的な条件でした。現実問題として、そんな場所で希望に合ったビルが供給されることは少なく、半分、あきらめかけていたほどです」(長谷川氏)
そんなとき、まさに渡りに船という感じで紹介されたのが、現在、本社として使っているビルだったのである。