- 分散されたオフィスから社内全体を見回せるオフィスを求めて
以前は分散されたオフィスだった。手狭になったことはあるが、今回の移転プロジェクトの大きな目的はコミュニケーション不足の解消。オフィスのさらなる進化を求めて、いくつかの条件・要望を出し合い立地面を検討、そしてオフィスビルの選定へ。 - 新オフィスの基本コンセプトづくりは、現在のオフィスの課題から
コンセプトを確定させないとデザインに反映できない。コンセプトの立案には、まずは現オフィスの課題は何なのか、将来に向けてやりたいことは何なのかを明確にすることが重要。 - キーワードは回遊性、可視化、社員同士の動線、コミュニケーション...
大まかなコンセプトを確定させたら、そこからキーワードに落とし込んでいく。キーワードを実現するために具体的なアイデアが生まれる。 - 従業員の働きやすさを追及して一つ一つの什器を開発
大事なことは従業員の視点に立ったこだわり。ここで時間をかけることが結果的に従業員の満足度につながる。 - オフィスが変わる。そしてワークスタイルが変わる
オフィス戦略は単なるオフィスレイアウトではない。ワークスタイルまで改革するつもりで取り組む。
分散されたオフィスから社内全体を見回せるオフィスを求めて。
1997年に横浜で設立後、急激な事業拡大とそれに伴う人員増で渋谷(渋谷区)、新川(中央区)、晴海(中央区)と移転を行ってきた株式会社ネクスト。次の企業沿革を見るとネクストの急成長ぶりがよくわかる。
1997年 3月 横浜市にて株式会社ネクスト設立
1997年 4月 住宅・不動産情報ポータルサイト 「HOME'S(ホームズ)」を開始
1999年 12月 業務拡張のため本社を東京都渋谷区に移転
2001年 7月 業務拡張のため本社を中央区新川に移転
2002年 1月 楽天株式会社との業務提携により資本金を増資
2003年 10月 「HOME'S(ホームズ)」の掲載物件数が 100万件を突破
2005年 4月 大阪支店開設
2006年 2月 業務拡張のため本社を中央区晴海に移転
2006年 10月 東京証券取引所市場マザーズ市場へ株式上場
2007年 9月 福岡支店開設
2008年 6月 名古屋営業所開設
2009年 2月 「HOME'S(ホームズ)」の加盟店が 10,000店舗を突破
2009年 12月 沖縄営業所開設
2010年3月 東京証券取引所市場第一部へ市場変更
2011年1月 業務拡張のため本社を港区港南に移転
移転プロジェクトは、今から3年前に始まる。当時入居していたオフィスビルが急激な増員により手狭になってしまったためだ。そこで、管理本部業務統括部長(当時)の田中信智氏をリーダーとして総務グループと合同のプロジェクト体制がつくられた。最初は現状の課題を出し合い、それらを一つ一つ整理していくといった作業をすることになる。まずは立地をどこにすべきかの議論があったという。
「立地としては、今後のグローバル化に対応できる環境として空港までのアクセスの便が比較的に良いエリアであること。それに加えて近年開設された大阪支店や名古屋営業所などのメンバーとの集まりが多くなってきたため、新幹線の停車駅にも近い場所であること。この2つの条件がクリアできる場所を探していました」(株式会社ネクスト 田中信智氏)
立地について要望をまとめると、次はビルのスペックについての議論となる。
「今まで入居していたオフィスは敷地こそ同じでしたが、営業部門と管理部門ではビルの棟が分かれていたためお互いを行き来する無駄な時間が生じていました。そのほか、用件があっても顔を合わせずに、つい電話やメールに頼ってしまう。そのために起こるコミュニケーション不足の問題が出始めていたのです。次回の移転では、代表の井上も重要視している"会社を見渡せることのできる"ビルを探そうと思っていました。加えて、端から端までの見晴らしを良くするためにもオフィス内に柱が無いのが理想でしたね」(田中氏)
今回の移転プロジェクトは次の条件でオフィスを探すことになった。
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羽田空港までのアクセスが良い
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新幹線の停車駅に近い
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ワンフロア面積が広い
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フロア内に柱が無い
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数年後に入居できる
通常、これらの「立地」「ビルスペック」「入居時期」と、いくつもの条件を全てかなえるオフィスを探すのは困難なことである。
「正直、どこかの部分で妥協しなくてはいけないのかとも思っていましたが、長年お付き合いのある三幸エステートさんに相談したところ、品川に大きなビルが竣工する情報をいち早くいただいたのです。しかも駅からも近いときている。半ばあきらめていただけに、まさに奇跡だと思いました」(田中氏)
立地、面積と条件が当てはまり、さらにこれから建築するビルであったために設計の段階で細かい指示や要望を出すことも可能になると思い、即座に交渉に入ったという。

ネクストが本社移転に選んだ品川駅港南口。

パブリックエリア中央に設けられたスタンドカウンター。

多くのお客様を迎える3階の受付スペース。

透明感あるガラス張りの接客ブース。
新オフィスの基本コンセプトづくりは現在のオフィスの課題から
「今までのオフィスは、急激な増員もあり気軽に打ち合わせをするスペースがありませんでした。しかも備えられたミーティングルームはフォーマル用のため、事前予約が必要で、突発的に生まれた簡易的な打ち合わせには対応できませんでした。そのために、スピードの鈍化やアイデアの機会損失が発生しているのではないかと危惧していました」(田中)
そんな従業員からの不満を解決するため、"社員同士が顔を合わせやすい仕組み"を基本コンセプトとした。そして何とかして今まで不足していたインフォーマルコミュニケーションを活発化させる良いチャンスにしようと思いを強くしたという。
基本コンセプトを確定させると、次の段階はデザイン会社の選定となる。今回は大規模なプロジェクトということもあって、5社でデザインコンペを行った。各社ともに見事なデザイン案の提案ではあったが、最終的にパートナーに選ばれたのは、株式会社清和ビジネスだった。清和ビジネスは、昭和37年の創業以来、全国でオフィスデザインを展開している会社で、今までも数々の優良会社のオフィスデザインを担当してきた実績を持つ。
「以前のオフィスでもデザインを担当させていただいたことがあり、何を求めていて、何が課題なのかはわかっていたつもりです」(株式会社清和ビジネス 佐藤博和氏)
「新オフィスをデザインするにあたり、まずは時間をかけて組織構造、増員計画、経営課題などをヒアリングすることから始めました。今後のオフィス戦略を考える上で、次の事業展開を聞くことは必須だと考えたのです」(株式会社清和ビジネス 吉田直司氏)
「ネクストという社名は、よりよい次(NEXT)を生み出し、現状に満足することなく発想を広げていきたい、という想いが込められていると聞いていました。会社の想いやプロジェクトメンバーからの課題・要望をもとにデザインを考えたときに、"自由な発想を広げる"ためには社員同士が触れ合う仕組み、動線の確保がポイントになると思いました。そして次のデザインコンセプトに到達したのです」(株式会社清和ビジネス 川﨑茂樹氏)
それではデザインコンセプト(要約)を紹介しよう。
ワークスタイル(活動・意識)
- ホスピタリティ
お客様はもちろん、社員同士も相手を思いやる。 - オープン
オープンで透明性が高く、信頼を感じられる。 - 情報・知識共有
あたりまえのように情報・知識が共有できる。 - コミュニケーション
フォーマル、インフォーマル共にコミュニケーション、チームワークが活発。 - クリエイティブ
組織全体で相互に知識を活用。常に新しいアイデアや発見を追求する。 - スピード
ICT(情報通信技術)を活用し、無駄なくスピーディに。
プランニングポイント
- 回遊性
従業員の導線を明確にすることで、従業員間の新たなコンタクトを促す。
各フロアを繋ぐ内階段を設けることで、フロアによる分断を最小限に。 - コミュニケーション
フェイスtoフェイスをベースとした、バリエーションのある「場」を提供する。
1000名が着席できる会議室。 - 情報利用
必要な時、必要な場所で情報の取り出しや、記録ができる。
デザインポイント
- オープン・透明性
遮蔽物は少なく、ガラス素材を多用する。 - あたたかみ
コーポレートカラーのブルーを 貴重としつつコミュニケーションスペースなどには木目調を多用して雰囲気を一新。
「単なるオフィスレイアウトに終わらず、ワークスタイルそのものを変える必要性をアピールされたのが印象的でしたね」(田中氏)
そして、ネクストの移転プロジェクトメンバーから出てきたさまざまな要望に対して、具体的な設計・デザインプランで応える。そんな良い関係が生まれていった。

オフィス内に1カ所だけ設けられたファミレス風の休憩所。自販機上の壁には運営サービスのイメージキャラクター「ホームズくん」が。

執務室全景。オフィス内に柱が無いためとても見晴らしが良い。

窓際のオープンミーティングスペース。気分一新できるデザインだ。

フォーマルな少人数での会議に使用されるプロジェクトルーム。

ブレイクパーク。ここでの話が発展してフォーマルな会議になることもある。

フロア間を結ぶ内階段。コミュニケーション促進の重要なアイテムになっている。