パーソルホールディングス株式会社

2019年3月取材

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※ 記事は過去の取材時のものであり、現在とは内容が異なる場合があります。

「知の融合」をコンセプトに
フロアごとに機能設計を行った新本社オフィス

2019年1月、パーソルホールディングスは港区南青山のオフィスビルに本社機能の集約移転を行った。同グループは以前から、専門的なファシリティマネジメント(FM)のノウハウを活用してオフィス構築を行ってきた実績を持つ。本プロジェクトでも、さまざまな働きやすさを追求したワークスタイルを盛り込んでいる。その多様な機能について、プロジェクト担当者にお話をお聞きした。

槌井 紀之 氏

パーソル ファシリティマネジメント株式会社
代表取締役社長

槌井 紀之 氏

白井 紗奈子 氏

パーソル ファシリティマネジメント株式会社
PM第二グループ長
シニアプロジェクトアドバイザー
白井 紗奈子 氏

2階 KNOT United Square

2階 KNOT United Square

Contents

  1. 中期経営計画を加速させるために本社機能の集約を決断した
  2. 「集約=面積削減」ではなく、FM的な新たな視点も組み入れようと考えた
  3. 「1棟貸し」「居抜き」という特長的、かつ魅力的な賃貸物件をいち早く提案いただいた
  4. 経済性とエコノミーの観点から素材を活かしたオフィスを構築した
  5. それぞれの業務内容を考えてフロアごとに機能設計を行った
  6. ワーカーとのコミュニケーションをとることがワークスタイル変革のコツ

中期経営計画を加速させるために本社機能の集約を決断した

パーソルグループの歴史は、1973年のテンプスタッフ(現パーソルテンプスタッフ)の創業から始まる。その後、「雇用の創造、人々の成長、社会貢献」を経営理念に、M&Aや経営統合を通じて事業を拡大。現在では、国内外に70社以上のグループ会社と約600拠点を有する総合人材サービスグループに成長している。

2017年7月、持ち株会社であるテンプホールディングスはパーソルホールディングスに商号変更を行った。商号変更後は新宿と代々木、大手町、丸の内の5ヵ所に営業拠点を分散しながら業務を開始。当初、分散させることによってBCP対応やファシリティコストの最適化、FM戦略の柔軟性という目的があったが、中期経営計画を加速させるためにはオフィスの集約は必須だという結論に至ったという。

「加えてグループ内のダイバーシティ強化という命題も課せられており、どこかのタイミングでオフィスの多様性を実践する機会を狙っていました」(槌井紀之氏)

「集約=面積削減」ではなく、FM的な新たな視点も組み入れようと考えた

「集約前に賃借していた各オフィスの面積を合わせると1,000弱の坪面積となります。一般的に集約移転ではデッドスペースの削減効果が生まれるため、必要面積は現状よりも少ない面積で収まるものです。しかしちょうど大手町に入居していたチームが正式に新会社として設立することが決定したことで、新たに500坪前後の面積を確保しなければならなくなりました。大手町で500坪を新たに借りるのはコスト的にもかなりの負担になります。そこで思い切って新本社の中に取り込んでしまおうと考えました。さらに今後の増員用スペースとダイバーシティやWell Beingを推進する機能、各種コラボレーションエリアの新設スペースを計算すると、現状よりも倍くらいの面積が適していると感じていました」(槌井氏)

「1棟貸し」「居抜き」という特長的、かつ魅力的な賃貸物件をいち早く提案いただいた

オフィス仲介は何度も一緒に仕事をしてきた三幸エステートが担当する。

「以前から本社集約の可能性を伝えており、条件に合う空室情報があるたびに紹介いただいていました。当初は移転先候補として都心で進められている新築物件も検討していましたね。そして2017年秋口から本格的に物件の内見を始めたのです」(槌井氏)

そんな中、南青山に立地するビルの全フロアを使用していた企業の移転情報が届いた。地下1階地上9階建、総面積2,000坪。まだ一般的には公開されていない空室情報だった。

本社機能の集約といっても、新宿、豊洲、丸の内といったエリアには営業拠点が存在する。それら各拠点とのアクセスを考えた時に南青山は中間点に位置するベストな立地であった。

「物件不足といわれている中で、南青山という立地も、2,000坪という面積も、賃貸条件も、全てが希望通りでした。ただし『居抜き』で使用するため、原状回復の範囲や撤去部分の要望など、契約条項を一つひとつ確認していかなくてはなりません。三幸エステートさんから専門的なアドバイスをいただきながら進めていきました。また、常に僕らが求めている境界線をよく理解していただき、ビルオーナー側との折衝に臨んでいただきました。それだけ常にコミュニケーションが取れているということでもあるんですが、有難かったですね。そのおかげで最良の条件での入居が可能となりました」(槌井氏)

そうして2018年2月に契約を締結し、同年10月から賃貸開始となる。設計・内装工事は株式会社イトーキをパートナーに選ぶ。施工期間は約2ヵ月。1週間ごとに段階的にフロアを完成させていく。使用していないフロアは平日に工事を行う。急ピッチな作業ではあったが、1棟借りだからこそ作業効率のよいスケジューリングが出来たという。

経済性とエコノミーの観点から素材を活かしたオフィスを構築した

「経済性もエコノミーの観点からも魅力的なオフィスビルでした。居抜きのメリットを最大限に活かしました。以前の会社で使用していたゾーニングをベースに、程よく改修を加えています。例えば9階フロア。以前は役員個室とボードルームで構成されていました。現在は、それに加えて誰もが使用できるラウンジを用意しました。そのため照明も以前より明るめに変更しています」(白井 紗奈子氏)

「私どもFMサービス会社としましては、色々なことにチャレンジをして一つでも多くのケーススタディを増やしていきたいと思っています。今までは健康オフィスというカテゴリーでは特に供給してきませんでしたが、新本社では昇降型デスクや仮眠スペース・ストレッチコーナーなども用意しています。また障害者雇用のあり方にもトライし、カフェ運営や室内クリーニングなどの仕事で一緒に働ける工夫をしています」(槌井氏)

それぞれの業務内容を考えてフロアごとに機能設計を行った

パーソルグループでは、自らが働き方を見直し改善することで「はたらいて、笑おう。」を企業スローガンとしている。

「5ヵ所から集まった多様なワーカーが働いて笑えるために、今回のオフィスコンセプトは『知の融合』としました。新本社で働く約800名はグループごとに業務を行っています。ですから全て同じ働き方にするのではなくフロアごとに働く機能を分けたのです。いかにABWが先進的な働き方だといっても全ての業務に当てはまるとは思っていません。例えば財務系の業務は典型的なオペレーションのため、一番効率が良いのは固定席だと考えています」(白井氏)

フロアごとに機能を分けた新本社。それが新オフィスの最大のポイントとなる。それではオフィスの特長的な機能を紹介していこう。

1階エントランスは受付と応接室で構成されている。

「大理石などの石材を薄く切って板ガラスに挟み込んだ『石合わせガラス』を使った壁を含めて、ほとんど旧テナントが構築したデザインを引き継いでいます。受付奥のビジネスシーン用の応接室もそのまま使用しています」(白井氏)

2階は「KNOT United Square」。ワーカー同士が結びつく場所になればと名付けられた。

「『Thanks cafe』『コミュニケーションダイニング』をフロアの中心に配しました。たくさんのワーカーが使用できるように100席超の席数やランチメニューを多く揃えています。想像以上にコミュニケーションが深まっているように感じます。そのほか、総務系やIT系トラブルに対応するための有人サポートデスク、お子さん連れで仕事ができる『Dad&Mon Room』、電子タバコ用を別に用意した喫煙ルームで構成されています」(白井氏)

1階 エントランス

エントランス

2階 Thanks cafe

2階 Thanks cafe

2階 有人サポートデスク

2階 有人サポートデスク

4階は「Innovative Office」。新規事業の開発拠点としてのフロアとなる。

「よりクリエイティブな発想が生まれるようにポップなイメージでデザインしました。自社だけでなく他の会社の方々と打ち合わせをするためのオープンイノベーションの場も備えています。このフロアのデスクは簡単に動かせる什器を使用しており、新規事業が増えた場合でも容易にレイアウト変更が可能です」(槌井氏)

5階は「PCA Office」。
「パーソルキャリアのコーポレート部門が使用しています。現在、セールスでなくてもフリーアドレスが成立するかを検証中です。モバイルワークを採り入れて、アメーバー型の曲線的なデスクを採用。個々が自由に働く場所を選択しています。評判は上々ですね」(白井氏)

8階はさまざまな設備を試す実験フロア。スタンディングや昇降型といった健康オフィスを意識したデスクが置かれている。そのほか、ソロワーク、少人数用を中心とした打ち合わせデスクを配置。集中作業を効率的に行うための専用エリアもある。

9階は社長室と企画・広報部門の執務室、ボードルーム、「CENTRAL LOUNGE」で構成している。「CENTRAL LOUNGE」はどこも予約なしで使用可能だ。以下4つのコワーキングを用意した。「KOAGARI(コアガリ)」はプレゼン専用で20名前後が使用できるスペース。「DOUBUTSU(ドウブツ)」は会議の流れを視覚化する手法の一つグラフィックレコーディングを採り入れた。リアルタイムに会議の発言が分かりやすくまとめられるため、情報共有を促進する会議に効果があるといわれている。「HOUGAN(ホウガン)」もグラフィックレコーディングを採用。壁面は方眼状のマス目が印字されたホワイトボードシートで生産性向上を支援する。「HANGETSU(ハンゲツ)」は2人用のミーティングエリア。TV会議も可能となっている。

「2階のコミュニケーションエリアとの差別化を図り、変化を持たせた環境によって新たなアイデアが生まれることを目指しています。どうしたら社長室のある最上階まで来てもらえるか、を考えてつくりました」(白井氏)

4階 オープンイノベーション

4階 オープンイノベーション

4階 Innovation Office

4階 Innovation Office

8階 集中作業用デスク

8階 集中作業用デスク

9階 KOAGARI(コアガリ)

9階 KOAGARI(コアガリ)

9階 HOUGAN(ホウガン)

9階 HOUGAN(ホウガン)

9階 CENTRAL LOUNGE

9階 CENTRAL LOUNGE

「ビル全体のコワーキングスペースには、それぞれのエリアとGPSを組み合わせて稼働率調査をしています。その属性、時間帯、使用人数などの調査・分析を行うことで、今後のオフィス改善に役立てる予定です」(槌井氏)

これら新たな機能を有効に使うために、2階から9階までの混雑状況を可視化する仕組みを導入している。

「コワーキングをしようとフロアに移動しても満員で使えなかったら時間の無駄になりますし、モチベーションも下がってしまいます。事前に可視化できるシステムで無駄を省きながらワーカーの行動推進を狙っています」(槌井氏)

そのほか、地階は旧テナントが書庫として使っていたエリアだが、今回は大きく用途変更を行った。「Charge Floor」と名付けられ、3つの要素で組み立てられている。「South Blue Mountain Parlor」はWell Beingを採り入れ、メリハリのある働き方をサポートする。室内には、ぶらさがり健康器、卓球台、バランスボールなどが置かれている。「Silent Room」は瞑想や休眠するための部屋、「Refresh Room」は本格的なマッサージが受けられる部屋。ワーカーのパワーチャージをバックアップする。

これらのコミュニケーションスペースを用意することで、ユーザー側では縦割りになりがちな社内コミュニケーション打開を目的とした交流イベントも自然とスタートしました」(槌井氏)

本社ビルの隣に設けられた「PERSOL ACADEMY」も有効に活用されている。

「別棟になります。2つの部屋は可動式壁を移動させることで大ホールに変えることができます。セミナーや新卒採用の説明会、グループ会社を対象にしたトレーニング、記者会見など、多様な用途で使用しています」(槌井氏)

地階 瞑想エリア

地階 瞑想エリア

地階 South Blue Mountain Parlor

地階 South Blue Mountain Parlor

ワーカーとのコミュニケーションをとることがワークスタイル変革のコツ

2019年1月、地下1階フロアの完成で移転プロジェクトは一旦完了となった。そのタイミングで手書きの社内通信を配布したという。

「朝9時にスタンバイしてここで働く全てのワーカーに配布しました。新本社は色々な機能を備えていますので、フロアごとの特長やコンセプトを伝えようと思ったのです。メールでは開封されないこともありますので、あえて手渡しという方法を選びました。私たちオフィスをつくる側と使う側のコミュニケーションを取るために実施して良かったと思います。実際にたくさんの方から反響がありました」(白井氏)

このアナログの通信は、今後も不定期ながらも配布していきたいと語る。

「働き方を効率化するためのICTはとても大事なことですが、まずはオフィスに興味を持ってもらうことから始まります。そのためにこのアナログな文化は非常に有効だと思っています。理由がわからないまま単にトップダウンで無理やりオフィスを変革しても、そこには抵抗しか生まれません。ですからハードを用意するだけではなく、ワーカーとのコミュニケーションにはこだわりたいのです。それこそがFM側の仕事だと思っています」(槌井氏)

手書きのPFM通信

手書きのPFM通信

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