- 「お客様により近く」を都心一等地で実現した1,000坪のマジック
- 交流の頻度と質を向上させモビリティワークの可能な進化型オフィス
- ビル側も参加した1つのチームが完成までの奇跡的なスピードを生む
- 個人ロッカーのシェアなどオフィスを使いこなすカルチャーの進化
- オーナーシップを廃してメンバーシップによるダイバーシティを実践
「お客様により近く」を都心一等地で実現した1,000坪のマジック
2009年11月、PwCグローバルネットワークの日本におけるメンバーファームや関連会社(現PwCコンサルティング合同会社、PwCアドバイザリー合同会社、PwCあらた監査法人を含む)は、それまで6ヵ所に分散していた拠点を中央区銀座8丁目の住友不動産汐留浜離宮ビルに統合した。その概要は、以前同コーナーで取材した記事(2010年3月)をご覧いただければと思う。
その後、リーマンショック後の景気回復による業績の成長と、それに伴う増員体制により、汐留オフィスがやや手狭に。そこで2016年3月、新たに千代田区丸の内2丁目の丸の内パークビルディングにオフィスを開設することになった。
「今回、PwCの日本におけるコンサルティング部門3社を統合し、新たに戦略から実行までのコンサルティングを専門とするPwCコンサルティング合同会社を設立しました。その部隊の移動となります。ですから丸の内オフィスは『前線基地』という位置づけです」(杉山優子氏)
汐留オフィスは、1棟のビル内で10フロアにまたがっており、エレベーターによる縦移動では待ち時間などにストレスを感じていたと杉山氏は言う。そこで、今回は横移動のみとなる1フロアの環境にこだわった。
「丸の内という立地を選定したのは、何よりも『お客様との距離が近い』ということが最大の理由です。クライアントフェイシング(お客様と対面)しやすい環境にしたいという狙いがありました」(杉山氏)
もちろん、丸の内の一等地となれば賃料も高額となる。だが、従前の部門が使用していた面積が合計約1,350坪だったのに対し、丸の内オフィスの使用面積は約1,000坪(人員増に応じ今後拡張予定)。しかも、このうち約300坪を会議室スペースに充てているため、実際の執務室スペースは約700坪となる。およそ半分の面積にも関わらず、全員の席がきっちり収まったという。
「私はこれを『ワンプレート1,000坪のマジック』と呼んでいます。さらに、汐留オフィスのスタッフの経費を調べてみると、移動のためのタクシー代や通勤定期代がかなり増えていることに気がつきました。これが結構、軽視できない金額で。その点も含めて考えるとトータルでいえばオフィスコストは改善したと言っていいと思います」(杉山氏)
これは、同社の社員が主に利用していた路線の区間運賃が他の路線に比べて割高なことも一因となっているだろう。とはいえ、都心一等地に新たなオフィスを構えながら、使用面積縮小と交通費削減などからコスト改善にもつながっているとすれば、まさにマジックといえる。

執務室全景
交流の頻度と質を向上させモビリティワークの可能な進化型オフィス
丸の内オフィスのコンセプトは、既存の汐留オフィスのコンセプトを受け継ぎつつ、クライアントとより近く、より深くつながるための「前線基地」。そのため、汐留オフィスと同様にコンセプトメークをドウマ株式会社、デザイン設計をゲンスラー・アンド・アソシエイツ・インターナショナル・リミテッドが担当することになった。
「いわば、ドラマの続編のようなものですから、前回と同じ外部専門家にシナリオを書いていただくことになりました」(杉山氏)
「今回も、前回と同様に社員の皆さんの働き方を調査させていただいたのですが、その進化には正直、驚かされました。この7年間で、本業であるクライアントと向き合うための時間は約50%増加し、逆に社内の事務作業などに費やす時間は約50%減少していました。方向性といい、スピードといい、実に理想的な進化であると思います」(小澤清彦氏)
この7年間には、ビジネスに使用される各種デバイスなども大きく変化している。最も身近でわかりやすいのが、携帯電話からスマートフォンへの移行だろう。ハードウェアとともに、ソフトウェアも急速な進化を遂げている。
「丸の内オフィスは、3社の統合ということで、交流の頻度と質を向上させることが大きなテーマでした。従前はバラバラだった各種デバイスも統一規格とし、オフィス内は完全なWi-Fi環境を実現。モビリティワークの可能な進化型オフィスを目指しました」(杉山氏)
テレビ会議などに使用されるモニターも、以前はコスト上の問題から一部は既存のプロジェクターなどで代用していたが、現在ではAV機器の価格も大幅に低廉化されているため、すべてテレビモニターに切り替えたという。
「2年前に汐留オフィスでPwCのグローバル会議が開催された時、参加した他国のカントリーリーダーから『汐留オフィスのグローバル対応できる会議室は素晴らしい』と言われ、とても誇らしい思いをしました。日本のオフィス環境は進化が早いと実感しています」(杉山氏)

ソーシャルカフェ
ビル側も参加した1つのチームが完成までの奇跡的なスピードを生む
グローバル企業の必然として、丸の内オフィスのデザインには全世界共通の守るべきPwCガイドラインがあり、節目でチェックが入るため、合意形成までにかなりの時間を要することになる。だが、PwC側とコンセプトメーク、デザイン設計に加え、ビル側も当初から会議に参加し、1つのチームとして取り組んだため、予想以上にスムーズな進行ができたという。
「2015年7月からスタートして、週1回のミーティングを重ね、10月半ばにはすべて決定することができました。これには、ビル側の担当者に『奇跡に近いスピード』と言っていただけました」(杉山氏)
「基本的にPwCのグローバルブランディングを意識し、フレームワークの中にブランドが見て取れるデザインを提案していきました。社員の皆さんが誇りを持つことができ、自然と帰属意識が形成されるような環境を目指したつもりです」(天野大地氏)
最終決定から納期までのスケジュールは決して余裕のあるものではなかったが、ビル側も含めたチームの全員が同じ方向に向かい、「これを期限までに絶対終わらせる!」という強い意志を持ってプロジェクトに取り組んだという。
「議論百出でしたが、一つの課題や要望に対して、『できるか、できないか』の議論ではなく、『どうやるか?』という前向きな話し合いになることが多かったですね」(天野氏)
「組織を構築するということをイメージさせるのは難易度が高いことです。しかし、オフィスの完成後のイメージで物事を考えると理解されやすい。目に見えるレベルまで落とし込んで打合せに臨んだのが良かったのだと思います」(小澤氏)