PwCコンサルティング合同会社

2016年4月取材

※ 記事は過去の取材時のものであり、現在とは内容が異なる場合があります。

世界最大級のプロフェッショナルサービスネットワークの日本法人が東京・丸の内に
「前線基地」を新設

英国ロンドンをネットワーク本部とし、157ヵ国・756拠点(都市)に20万8,000人以上のスタッフを擁する世界最大級のプロフェッショナルサービスネットワーク「PwC(PricewaterhouseCoopers)」。日本においても監査、コンサルティング、ディールアドバイザリー、税務などに関するサービスを提供している。2016年3月、お客様のサポートを迅速に、かつ多面的に行なうために、東京・丸の内に「前線基地」を新設。その新設オフィスの役割、コンセプトなどを中心にお話を伺った。

プロジェクト担当

杉山 優子氏

PwCコンサルティング
合同会社
総務部ディレクター

杉山 優子氏

小澤 清彦氏

ドウマ株式会社
代表取締役

小澤 清彦氏

天野 大地氏

ゲンスラー・アンド・
アソシエイツ・
インターナショナル・
リミテッド
プリンシバル、
デザインディレクター

天野 大地氏

エントランス

エントランス

はやわかりメモ

  1. 「お客様により近く」を都心一等地で実現した1,000坪のマジック
  2. 交流の頻度と質を向上させモビリティワークの可能な進化型オフィス
  3. ビル側も参加した1つのチームが完成までの奇跡的なスピードを生む
  4. 個人ロッカーのシェアなどオフィスを使いこなすカルチャーの進化
  5. オーナーシップを廃してメンバーシップによるダイバーシティを実践

「お客様により近く」を都心一等地で実現した1,000坪のマジック

2009年11月、PwCグローバルネットワークの日本におけるメンバーファームや関連会社(現PwCコンサルティング合同会社、PwCアドバイザリー合同会社、PwCあらた監査法人を含む)は、それまで6ヵ所に分散していた拠点を中央区銀座8丁目の住友不動産汐留浜離宮ビルに統合した。その概要は、以前同コーナーで取材した記事(2010年3月)をご覧いただければと思う。
その後、リーマンショック後の景気回復による業績の成長と、それに伴う増員体制により、汐留オフィスがやや手狭に。そこで2016年3月、新たに千代田区丸の内2丁目の丸の内パークビルディングにオフィスを開設することになった。

「今回、PwCの日本におけるコンサルティング部門3社を統合し、新たに戦略から実行までのコンサルティングを専門とするPwCコンサルティング合同会社を設立しました。その部隊の移動となります。ですから丸の内オフィスは『前線基地』という位置づけです」(杉山優子氏)

汐留オフィスは、1棟のビル内で10フロアにまたがっており、エレベーターによる縦移動では待ち時間などにストレスを感じていたと杉山氏は言う。そこで、今回は横移動のみとなる1フロアの環境にこだわった。

「丸の内という立地を選定したのは、何よりも『お客様との距離が近い』ということが最大の理由です。クライアントフェイシング(お客様と対面)しやすい環境にしたいという狙いがありました」(杉山氏)

もちろん、丸の内の一等地となれば賃料も高額となる。だが、従前の部門が使用していた面積が合計約1,350坪だったのに対し、丸の内オフィスの使用面積は約1,000坪(人員増に応じ今後拡張予定)。しかも、このうち約300坪を会議室スペースに充てているため、実際の執務室スペースは約700坪となる。およそ半分の面積にも関わらず、全員の席がきっちり収まったという。

「私はこれを『ワンプレート1,000坪のマジック』と呼んでいます。さらに、汐留オフィスのスタッフの経費を調べてみると、移動のためのタクシー代や通勤定期代がかなり増えていることに気がつきました。これが結構、軽視できない金額で。その点も含めて考えるとトータルでいえばオフィスコストは改善したと言っていいと思います」(杉山氏)

これは、同社の社員が主に利用していた路線の区間運賃が他の路線に比べて割高なことも一因となっているだろう。とはいえ、都心一等地に新たなオフィスを構えながら、使用面積縮小と交通費削減などからコスト改善にもつながっているとすれば、まさにマジックといえる。

執務室全景

執務室全景

交流の頻度と質を向上させモビリティワークの可能な進化型オフィス

丸の内オフィスのコンセプトは、既存の汐留オフィスのコンセプトを受け継ぎつつ、クライアントとより近く、より深くつながるための「前線基地」。そのため、汐留オフィスと同様にコンセプトメークをドウマ株式会社、デザイン設計をゲンスラー・アンド・アソシエイツ・インターナショナル・リミテッドが担当することになった。

「いわば、ドラマの続編のようなものですから、前回と同じ外部専門家にシナリオを書いていただくことになりました」(杉山氏)

「今回も、前回と同様に社員の皆さんの働き方を調査させていただいたのですが、その進化には正直、驚かされました。この7年間で、本業であるクライアントと向き合うための時間は約50%増加し、逆に社内の事務作業などに費やす時間は約50%減少していました。方向性といい、スピードといい、実に理想的な進化であると思います」(小澤清彦氏)

この7年間には、ビジネスに使用される各種デバイスなども大きく変化している。最も身近でわかりやすいのが、携帯電話からスマートフォンへの移行だろう。ハードウェアとともに、ソフトウェアも急速な進化を遂げている。

「丸の内オフィスは、3社の統合ということで、交流の頻度と質を向上させることが大きなテーマでした。従前はバラバラだった各種デバイスも統一規格とし、オフィス内は完全なWi-Fi環境を実現。モビリティワークの可能な進化型オフィスを目指しました」(杉山氏)

テレビ会議などに使用されるモニターも、以前はコスト上の問題から一部は既存のプロジェクターなどで代用していたが、現在ではAV機器の価格も大幅に低廉化されているため、すべてテレビモニターに切り替えたという。

「2年前に汐留オフィスでPwCのグローバル会議が開催された時、参加した他国のカントリーリーダーから『汐留オフィスのグローバル対応できる会議室は素晴らしい』と言われ、とても誇らしい思いをしました。日本のオフィス環境は進化が早いと実感しています」(杉山氏)

ソーシャルカフェ
ソーシャルカフェ

ビル側も参加した1つのチームが完成までの奇跡的なスピードを生む

グローバル企業の必然として、丸の内オフィスのデザインには全世界共通の守るべきPwCガイドラインがあり、節目でチェックが入るため、合意形成までにかなりの時間を要することになる。だが、PwC側とコンセプトメーク、デザイン設計に加え、ビル側も当初から会議に参加し、1つのチームとして取り組んだため、予想以上にスムーズな進行ができたという。

「2015年7月からスタートして、週1回のミーティングを重ね、10月半ばにはすべて決定することができました。これには、ビル側の担当者に『奇跡に近いスピード』と言っていただけました」(杉山氏)

「基本的にPwCのグローバルブランディングを意識し、フレームワークの中にブランドが見て取れるデザインを提案していきました。社員の皆さんが誇りを持つことができ、自然と帰属意識が形成されるような環境を目指したつもりです」(天野大地氏)

最終決定から納期までのスケジュールは決して余裕のあるものではなかったが、ビル側も含めたチームの全員が同じ方向に向かい、「これを期限までに絶対終わらせる!」という強い意志を持ってプロジェクトに取り組んだという。

「議論百出でしたが、一つの課題や要望に対して、『できるか、できないか』の議論ではなく、『どうやるか?』という前向きな話し合いになることが多かったですね」(天野氏)

「組織を構築するということをイメージさせるのは難易度が高いことです。しかし、オフィスの完成後のイメージで物事を考えると理解されやすい。目に見えるレベルまで落とし込んで打合せに臨んだのが良かったのだと思います」(小澤氏)

個人ロッカーのシェアなどオフィスを使いこなすカルチャーの進化

コンシェルジュデスク

コンシェルジュデスク

今回の丸の内オフィス開設の背景となるPwC Japanグループの組織再編(*注)は、クライアントがグローバル市場での競争優位性をより強固に確立できるよう、サービスの専門性をより高めることを目的としている。これまで以上にPwCグローバルネットワークとの連携を強め、強力なプロフェッショナル集団としての存在感を示さなければならない。そのためには、日常的なワークシフトを基盤として、さらにスピーディにイノベーションを続けていける環境が求められる。

(*注)
PwC Japanグループは、日本におけるPwCグローバルネットワークのメンバーファームおよびそれらの関連会社の総称。
各法人は独立して事業を行い、相互に連携をとりながら、監査およびアシュアランス、コンサルティング、ディールアドバイザリー、税務、法務のサービスをクライアントに提供している。
組織再編については以下のURLに掲載しているプレスリリースをご参照ください。
http://www.pwc.com/jp/ja/japan-press-room/press-release/2016/pwcjapan-organization160201.html

「もともと、汐留オフィス以前から『(日本の企業の中では)進んでいる会社』だと思っていましたが、汐留以降、明らかに進化のスピードが加速しています。これは、2009年の統合移転により組織全体に共通する文化、いわゆるワンカルチャーが根づいたことが大きいと思われます」(小澤氏)

例えば、オフィスに新しいテクノロジーを導入する。あるいは、オフィスそのものを移転する。このような取り組みは、あらゆる企業で日常的に行なわれていることだろう。だが、そうした取り組みによって周囲の環境が変化したとしても、社員がそれらを自発的・自律的に使いこなしていかなければ、何の意味もない。同社の場合は、新しい環境を使いこなすことで、新たなるサービスや提案に結びつけている。

前回の汐留オフィスへの統合移転の際には、この点がまだ「お題目的」であるように感じていたと小澤氏は指摘する。だが、今回は組織のカルチャーが進化したことで、社員たちがより戦略的・体験的・感覚的にこれらを使いこなせるようになってきたと感じているという。

「デザイン的なコンセプトとしては、立体的・重層的にいろいろな要素を組み合わせることで、奥行きや業務の幅、歴史といったものが感じられるようなオフィスを目指しました。それぞれのエリアごとに新しい発見がある、それも理屈ではなく、直感的に理解できるようにしました」(天野氏)

個室のミーティングルーム

個室のミーティングルーム

窓際のフリースペース

窓際のフリースペース

オフィスの機能性という意味では、同時代のベーシックな考え方をすでに追い抜いてしまっているのではないか、と天野氏は指摘する。

「結局、PwCはきわめて先進的なプロフェッショナル集団だと思うんです。マネジメント層にしても、個々のプレイヤーにしても、そういう人材が揃っている。そんな人たちだからこそ、このオフィスを使いこなせるのだと思っています」(天野氏)

一方、同社独自のオフィスの使い方として象徴的なのがファイリングである、と小澤氏は語る。会議室などの予約システムも進化したテクノロジーをよく使いこなしているが、特に個人ロッカーを利用したファイリングには「感動した」という。

「通常、個人ロッカーといえば社員一人につき一つ支給すると考えるものです。しかし、社員数が増えていけば、ロッカースペースだけでも相当な面積が必要になります。そこで、PwCさんは大変ユニークな発想でこの問題を解決しました。それがすなわち、個人ロッカーを『シェアリングする』という発想です。実物を見てイメージしたのは、ゴルフ場やSPA施設などでよく見るID式の会員用ロッカーでした」(小澤氏)

「オフィスの中に全スタッフが常駐しているわけではありませんから、いない人のロッカーをいる人が使えばいいと考えました。ロッカーの施錠については、カギをなくしたりダイヤルを忘れたりすることへの対策として、スタッフのIDパスを採用しました」(杉山氏)

ロッカーに限らず、丸の内オフィスでは什器や機器の使用については、社員証のIDですべて管理されている。これは運営側と使用者側双方の負担をできるだけ軽減するとともに、人件費などのコストを低減する狙いもある。バッファの設定などにもフレキシキュリティ(フレキシビリティ+セキュリティの合成語。柔軟性と安全性の両立を意味する)を担保し、よりプロフェッショナルなオペレーションを目指したオフィス管理を実現しているという。

シェアリング式ロッカー
シェアリング式ロッカー

「IDパスはログが管理できるというのも大きなメリットの一つです。さらに今回はじめて、コンシェルジュデスクを導入しました。これは、秘書業務のうち、テレビ会議のセットアップなどIT機器関連のジョブデスクについて、機器やITに精通した若いスタッフによるバーチャルサポートが受けられるようにするものです。この構想は汐留オフィスのときにもありましたが、諸事情から断念したもの。今回リベンジすることができました」(杉山氏)

オーナーシップを廃してメンバーシップによるダイバーシティを実践

丸の内オフィスで導入されたバーチャルサポートは、産休や育休制度を終えた40代以上の在宅スタッフが担い手となっている。日本ではまだスタートしたばかりだが、PwC USでは5~6年前からすでに始まっていたという。

「今回のオフィスづくりでこだわったのは、本当の意味での『ダイバーシティオフィス』です。ダイバーシティというと『女性の社会進出』といった狭い意味で捉われがちですが、本来は『少数のアイデアも受け入れよう』という考え方のことだと思っています。多数決ではなく、当たり前の考えを当たり前のように遂行するのが大事なことなのです」(杉山氏)

そのためにも、オフィスは重要なキーになっていると杉山氏は語る。

「今回、三幸エステートさんには、当社にマッチした資料を作成していただき、長期間にわたって定期的に情報を提供いただきました」(杉山氏)

さらに、メンバーシップの重要性について語る。

「個人ロッカーを用意してほしいと主張した瞬間から、それはオーナーシップの考えになってしまいます。ロッカーのシェア自体はスペース上の都合もあるとはいえ、敢えて共有とすることでメンバーシップの考えを定着させる効果も期待できます。スタッフにはPwCのこれまで培ってきたDNAの正統な後継者であるという自覚を持ってもらう意味もありました」(杉山氏)

「ダイバーシティという言葉は広まっていますが、実際にそれができているところは依然として少ない。さらにシステムとしてそのままお客様に提供できるレベルの完成度で実践できているのですから、PwCの社員の皆さんは、素直に『凄い!』と感じます」(小澤氏)

2015年6月、PwCグローバルネットワークは、UN Women(ジェンダー平等と女性のエンパワーメントのための国連機関)によるイニシアティブ「IMPACT10×10×10」に選出された。これは全世界で、日本の安倍晋太郎総理大臣ら10人の国家元首、名古屋大学など10校の大学、そして同社をはじめとする10社の企業が選ばれており、「HeForShe Project」と命名された女性のエンパワーメントを推進するプロジェクトにも参画している。

「私自身は、入社初日に聞かされた『Be Proud of PwC』という言葉を今でもはっきり覚えています。ですから、『世界のPwC』の一員という自覚を持ってほしいと思いますし、これから入社してくる仲間にも受け継いでいくようにします」(杉山氏)