PwC Japan グループ

2018年4月取材

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※ 記事は過去の取材時のものであり、現在とは内容が異なる場合があります。

世界最大級のコンサルティングファームが構築した
従業員ファーストの先進オフィス

過去、「先進オフィス事例」では、2009年のオフィス統合移転、2016年の拠点開設とPwC Japanグループが実施した移転プロジェクトを取り上げてきた。同社はその後もいくつものオフィス戦略プロジェクトを遂行させている。2018年1月、中長期プロジェクトの区切りとなる大阪オフィスが完成した。オフィス戦略がひと段落したこともあり、今回の取材では「PwC Japanグループのオフィスプロジェクト」として記事をまとめた。

杉山 優子 氏

PwCあらた
有限責任監査法人
総務部ディレクター

杉山 優子 氏

小澤 清彦 氏

ドウマ株式会社
代表取締役

小澤 清彦 氏

加藤 公 氏

ゲンスラー・アンド
アソシエイツ・
インターナショナル・
リミテッド
アソシエイト


加藤 公 氏

中村 美穂 氏

ゲンスラー・アンド・
アソシエイツ・
インターナショナル・
リミテッド
LEED AP
アソシエイト


中村 美穂 氏

黒川 梨江 氏

ゲンスラー・アンド・
アソシエイツ・
インターナショナル・
リミテッド
インテリアプランナー
アソシエイト

黒川 梨江 氏

松下 千恵 氏

ゲンスラー・アンド・
アソシエイツ・
インターナショナル・
リミテッド
一級建築士、
LEED AP ID+C、
シニアアソシエイト、
デザインディレクター

松下 千恵 氏

< 大手町 > 受付

< 大手町 > 受付

Contents

  1. この10年、働き方と空間づくりを進化させながら歩んできた
  2. 今回の中長期的なオフィスプロジェクトは名古屋オフィスから始まった
  3. 「よりお客様と近い距離」を意識して大規模オフィス移転を決めた
  4. イノベーションの創出を目的にエクスペリエンスセンターがつくられた
  5. 大阪オフィスでは監査法人として初めての試みを行った
  6. 働き方改革は質を高めながら継続する。過去の経験が良質なスペースを誕生させる

この10年、働き方と空間づくりを進化させながら歩んできた

PwC Japanグループは、ここ数年の間に名古屋オフィスのリニューアル、大手町への新オフィス移転とエクスペリエンスセンター新設、大阪オフィスの統合移転を完了させた。それらの中長期的なオフィスプロジェクトを紹介する前に、過去の移転事例を再度見直し、グループの考えを明確にしておく。

2009年、PwCの日本におけるメンバーファームや関連会社(現PwCあらた有限責任監査法人、PwCアドバイザリー合同会社、PwCコンサルティング合同会社を含む)が、6ヵ所に分散していたオフィスを中央区汐留の大規模ビルに統合する。

当時のオフィスコンセプトはワン・インテグレット・ファーム(一つに統合された組織)だった。

「複数の法人を1ヵ所に集めてシナジー効果を生み出すのが目的です。かなり高いハードルの中で計画は進められました」(杉山優子氏)

プロジェクト開始から入居までの期間はわずか半年。各法人と意見調整を重ね、専門家に協力を依頼した。そうして出来上がったオフィスのキーワードは「集まる・つながる・広がる」。コンセプトは「バーチャルキャンパス」とした。

「大学のキャンパスは大教室や小教室、ゼミ室など、目的に合わせて多様なスペースを用意しています。学生たちがそれらの目的に合わせて使い分けているのと同じように、オフィスでも適用できないかと。当時採用したオフィス家具はすべてキャスターを付けて、容易に移動できるようにしました。空間を自由に変えられるように壁も可動式に。働き方の変革を意識した最初のオフィスでした」(杉山氏)

その後、景気回復による業績の成長とそれに伴う人材の採用によって汐留オフィスが手狭に。そこで丸の内の新築大規模ビルに戦略から実行までのコンサルティングを専門とする前線基地を新設した。2016年3月のことである。

「丸の内という立地を選んだのは交通アクセスの改善を考えてのことです。さらにオフィス内における時間効率も考えて1フロアの環境にこだわりました」(杉山氏)

この数年間で、ビジネスに使用される各種デバイスが大きく変化している。オフィスに新しいテクノロジーを導入することは、多くの企業で日常的に行われていることだ。しかし、いかにビジネス環境を改善したとしても、社員がそれらを自発的に使いこなせなければ何の意味もない。同社の社員は効率的にIT環境を活用し、顧客への有用な提案に結びつけているという。

「当時、皆さんの働き方を調査させていただいたのですが、クライアントと向き合うための時間が50%増加し、社内の事務作業に費やす時間は50%減少していました。もともと進んでいる企業だとは思っていましたが、明らかに進化のスピードが加速しています。それこそがPwCカルチャーといえるでしょう」(小澤清彦氏)

丸の内オフィスでは、ITに精通したスタッフがサポートを行う「コンシュルジュデスク」を導入したのも特長の一つだった。

「PwC Japanグループのオフィスづくりに携わって10年以上になるのですが、プロジェクトごとにビジネス環境が進化していて。私たちはより進化した空間を提供していくのですが、いつの間にかお客様はその環境を当たり前のように使いこなしている。次のステップではさらに進化したオフィスを提案する。そのサイクルがずっと続いているような気がします」(松下千恵氏)

同社では、人事制度や評価制度など色々なものを組み合わせながら、新しいオフィス環境を用意してきた。この10年にわたるオフィスづくりの経験があったからこそ、今回のような中長期的なオフィスプロジェクトを遂行できたといえる。

それでは各プロジェクトについて順を追って説明していこう。なお今回の移転プロジェクトも前回同様に、PwCあらた有限責任監査法人 総務部ディレクター 杉山優子氏を中心に、ドウマ株式会社小澤清彦氏がコンサルティングを担当。ゲンスラー・アンド・アソシエイツ・インターナショナル・リミテッドがデザイン全体を担当した。

今回の中長期的なオフィスプロジェクトは名古屋オフィスから始まった

名古屋オフィスが、今回のオフィスプロジェクトのスタート地点になる。面積は350坪。移転ではなくオフィスのリニューアルプロジェクトだった。

「名古屋オフィスは、JR名古屋駅上に立地するシンボルビル内にあるにもかかわらず、グローバルブランドとは異なる印象を持つオフィスでした。そこで東京のオフィスみたいにリニューアルをしよう。それによって監査法人としての働き方を名古屋から変えよう。そんな声がかかりスタートしました」(杉山氏)

「名古屋のプロジェクトを進行している途中で、大手町の移転プロジェクトが正式に決定しました。そこで今後のグループ全体のオフィス戦略を考えるうえで、名古屋オフィスを『ステップ1』とすることにしたのです」(加藤 公氏)

2015年9月に第一回目の報告会が行われた。ヒアリング後の初めての報告会である。

「我々が打ち合わせに入る前に、名古屋オフィス内ですでにプロジェクトチームが立ち上がっていました。プロジェクトコンセプトが提示されたのですが、その内容が杉山さんと僕らとで作成したものと親和性が高くて。それもプロジェクトがスムーズに進んだ要因の一つですね」(小澤氏)

そして何度かの意見調整を行う。最終的にオフィスコンセプトを「Be Proud of PwC」とした。

「私たちのオフィスづくりのパターンの一つに一度実体以上のものをつくる。それをバネにさらに大きなプロジェクトに反映させる、というやり方があります。例をあげると2007年に構築した東京オフィス。あそこでの考えを一つ前の大阪オフィスで実験的につくっていて。それが経営層の評判を得て、大手町オフィスという大舞台で実践したのです。そのやり方は大きな失敗を防ぐためのリスク対策にもなっています」(杉山氏)

「僕らは東京に負けないオフィスをつくろうとは一言も発しませんでした。ただ快適なオフィスを名古屋で構築したいと話しただけ。そんな会話を続けていくうちに同じベクトルを向くようになり、気がついたら最高のオフィスができていたのです。このオフィスが今後、どこかの拠点のオフィスに影響を与えると思うととても楽しみですね」(小澤氏)

プロジェクトメンバーを選定するときに、保守的な人と革新的な人をバランスよく揃えるようにしているという。結果も大事だが、どのようにまとめていくかといったプロセスが重要と考えているからだ。人選を考えながら10名のプロジェクトチームを構成した。

保守的、革新的、その中間と、デザイン案を提案。一番革新的な案が採用された。

「ビル自体が特殊な形状で、その特性を活かして机を配置した案です」(加藤氏)

名古屋オフィスの一番の特長は、大人数で定期的に行っている会議の場所を確保するために可動式の間仕切りをパズルのように組み合わせたところだ。PwCのロゴマークにある四角形の重なりをブランディングとして意識した。まさにデザイン・ブランディング・目的が一つになった設計といえる。

「湾曲しているビルの形状を活かした素晴らしいデザインになっていると思います。もちろんデザインだけでなく可動式の間仕切りを有効に活用して。満足度の低かったエリアの機能改善も行えました」(杉山氏)

「『ブランディングを活かしたデザイン』という考え方は、東京の丸の内オフィスから本格的にスタートしています。ブランディングというのは社内と社外に訴求できる大切な要素になりますね」(松下氏)

「カッコいいオフィスの設計はある程度経験を積んだ会社でしたらできると思います。ただそこに私たちのブランドとか、働き方とか、歴史とかも設計の要素として加える。そこがなかなかできない部分だと思っています」(杉山氏)

「もちろんオフィスはデザインありきではありません。重要なのは働きやすさです。いつも設計に入る前には、時間をかけてヒアリングを行い色々な角度から情報を得る作業から行っています」(黒川 梨江氏)

「今回のプロジェクトは移転ではなくリニューアルです。居ながらの工事のため、オフィスを3ブロックに分けて移動しながら行いました。パントリーやレセプションの位置が3週間ごとに変わっていましたね。名古屋は専門ごとに仕事をするエリアが決まっていたのですが、工事中はどこでも座っていいことにしました。今思えばそれが名古屋オフィスを運営する上でいい準備期間になったのだと思います」(加藤氏)

そうして2016年6月に完成。名古屋オフィスは第30回日経ニューオフィス賞 中部ニューオフィス推進賞を受賞した。

< 丸の内 > ソーシャルカフェ

< 丸の内 > ソーシャルカフェ

< 丸の内 > エントランス

< 丸の内 > エントランス

< 名古屋 > フォーカスエリア

< 名古屋 > フォーカスエリア

< 名古屋 > ライブラリ

< 名古屋 > ライブラリ

「よりお客様と近い距離」を意識して大規模オフィス移転を決めた

東京では、汐留の大規模ビルで使用していた10フロアを大手町の新築大規模ビル4フロアに移転を行った。1フロア面積は450坪から1,000坪に変わった。

「旧オフィスは確かに手狭にはなっていましたが、それだけが移転理由ではありません。『よりお客様と近い距離』を意識してのことです。加えて1フロア面積がかなり広くなったことで、社内間の行き来がだいぶ楽になりましたね。旧オフィスは日常的に縦の移動が頻繁にあったため、エレベーターの待ち時間までもがストレスの原因になっていました」(杉山氏)

新オフィスの構築にあたり、パートナー(最高職階)含めて20名弱のプロジェクトチームが編成された。

「パートナーチーム、PwC総務チーム、私どもデザインチームでデザインを詰めていきました。どんなに忙しいパートナーさんでもミーティングに参加いただいてオフィスへの熱い想いや要望を語っていただきました」(松下氏)

「最初はアイデアが限定されないように、『どうすれば働きやすさにつながるか』だけを考えるようにしました。自分たちにとってのベストな環境を話し合い、その上で社内ルールがあればそれをクリアする方法を議論する。ですから時には作業を一からやり直すこともありました。それでも効率や手間を気にしていたら本当に価値あるものはつくれないと思っています」(杉山氏)

新オフィスは、多様なワークスタイルへの対応、最新テクノロジーの活用、スタッフ間のコラボレーションの促進を考慮している。そしてデザインコンセプトは、「Layered Box(レイヤーボックス)」だという。

「PwCのロゴマークのように重なっている部分をオフィス内にもつくろうと。その重なっている部分にマグネット効果を持たせようと思ったのです」(黒川氏)

「マグネット部分では、チーム、部門、テクノロジー、情報、クライアントなどとの交流を行い、新たな価値を生み出すことを目的としています」(松下氏)

「そこは、『X-Line of Service Cafe』と名付けました。各部門やサービスが交わるカフェという意味で、頭文字をとってクロス・ロス・カフェと呼んでいます」(杉山氏)

「カフェだけで300坪。かなり広いですよ。そこにはメールサービスやIT関連サービスなどの相談カウンターも配置しました。郵便物を届けたついでにコーヒーを飲み、偶然出会った誰かと仕事の話をして自席に戻る。出張で立ち寄った方がタッチダウン的に使う部屋も用意しています。ワークシェアリングエリアのようなイメージですね」(黒川氏)

「設計の段階からあくまでもつくるのはカフェ。『木やレンガ風のデザインにしてここだけ別世界になるようなものをつくろう』と話をしていました」(加藤氏)

「今まで、相談カウンターはそれぞれの部署ごとに設けていたのですが、横断的にワンストップでサービスができるように一つにまとめたんです。それによって業務解決のための時間を削減することができますし、偶発的なコミュニケーションの創出も可能です」(杉山氏)

レセプションはお客様からの評判も上々だという。丸の内オフィスはコンサルティングの前線基地を打ち出すためにアグレッシブなイメージであったが、大手町新オフィスは堅実なプロフェッショナル集団のイメージにしたという。

「毎回、オフィス内に花を飾ることを想像してプランを練ります。何回か来訪されたお客様も前回とは違った場所に花が飾られていたら楽しいだろうなって。今回も、飾る花の色や大きさをイメージして、壁の色や受付デスクの高さを設計しました」(黒川氏)

「とても快適な空間だと言われます。この上質なデザインがクライアントへの信頼にもつながっているのではないでしょうか。最初の設計の段階では広すぎると思っていました。しかし稼働するとそこに人の動きが加わります。この広さが適正だったと実感しています」(杉山氏)

もちろんレセプションだけでなく、すべての空間でお客様が楽しんでもらえるように変化を持たせている。応接室は大幅に増やして37部屋に。汐留オフィスと比べると3割増となった。8人部屋を中心に大中小の部屋を配置。窓際の特別応接室は景観の良さを取り入れたデザインになっている。

「窓際に応接室を配置する場合、せっかくの景色と一体化するように窓ガラス部分も含めて応接の中に組み入れてしまうのが一般的です。しかし、ゲンスラーさんの設計では窓際に回廊のような通路を設けたんです。通路と応接室は透明度の高いガラスで仕切られているので、実際の応接室の広さより1.5倍の広さが感じられます。このようなデザインにしているので、壁の柱も気になりませんね」(杉山氏)

効率的なスペース計画だけを考えるデザイン会社が多い中で、ゲンスラーは空間に余裕を持たせることで生まれる心地良さ、お客様へのおもてなしを大切にしている。

「すべての会議室に先進のAV機器を備えました。Web会議用に精度の高い集音マイクを付けましたので、まるでその場で行っているように自然な形で会議に参加できます。さらにiPadを使っての簡単な操作も可能です。PCの配線も机の横で接続できるため机の上がコードで邪魔になることもありません。細かい部分で使い勝手を向上させた設計になっています」(加藤氏)

同フロアにはセミナールームも配置している。3室用意しており、可動式の壁を取り外すことで大ホールに早変わりする。その用途は外部の方を招いてのセミナーや記者会見場、社内の業務説明会など、さまざまな使い方が可能となる。そうした共用の機能を一番上のフロアに集約させ、その下階の3フロアは部門ごとにまとめた。

「プロフェッショナルファームは、マーケット要求や法規制等により厳格な情報管理が求められています。それがオフィスづくりの足かせになっていた部分がありました。ですから執務室部分と共有部分とのバランスを考えたゾーニングにしたのです」(加藤氏)

「先進的なオフィスをつくるときの宿命だと思うのですが、既存のルールとオフィスの仕様がバッティングすることがあるんです。それを含めて道を切り開いていかなければなりません。日本企業のオフィスをつくるための基盤づくり。それが先進オフィスをつくるものの責任だと思っています」(小澤氏)

< 大手町 > エントランス

< 大手町 > エントランス

< 大手町 > 会議室エリア

< 大手町 > 会議室エリア

< 大手町 > 中会議室

< 大手町 > 中会議室

< 大手町 > 大会議室

< 大手町 > 大会議室

< 大手町 > クロス・ロス・カフェ

< 大手町 > クロス・ロス・カフェ

イノベーションの創出を目的にエクスペリエンスセンターがつくられた

新しい発想を喚起する仕組み。直感的なマインドにチェンジするための「場」。その実現のために、最新のデジタルテクノロジーサービスを2017年11月にオープンさせた。それがエクスペリエンスセンターである。

「企業のビジネスを再構築し、イノベーションの創出を支援する『場』をつくりたい。そんな相談があったのは2017年5月のことです。構築にあたりそのヒントを得るために、米国フロリダ州マイアミ近郊にあるPwCエクスペリエンスセンターに視察に行きました」(杉山氏)

「マイアミのセンターには世界中のパートナーたちがディスカッションを目的に訪れています。『クリエイティブな施設をどのように使いこなしているのか』に興味がありました。ですから実際に現地を見させていただいてすごく刺激になりましたね。現地での2日間でほぼ設計のベースが固まりました。構成要素には『サンドボックス』と呼ばれるセッションを行うための場所が不可欠で。それをどのように組み合わせるか。その場で話しながら、確かめながら、CADを修正しながら要件をまとめていったのです」(中村 美穂氏)

「イノベーションは、多大な資金を投入すれば起こせるというわけではありません。既存の商慣習や規制に捉われない発想の斬新さが重要です。業界の垣根を超えた直感的な面白い発想は、今や投資のかからない方法で最新技術を活用して実現できてしまいます。その発想や実現までのスピード感は大企業の脅威となりつつあります。『直感的に面白くこれまでになかった発想』は閉鎖的な空間からは生まれません。そこで私たちは、『場』も重要なファクターだと考えたのです」(杉山氏)

企業が持つ組織能力を高めるためのセンターは大手町新オフィスが入居するビルの隣。ビル1階の235坪に開設した。ここに常駐するスタッフは20数名、サンドボックスは50名前後が使える広さを持つ。それ以外にもブレストができる小部屋も用意している。

「まず入口ですが、入った瞬間に今までの考えをリセットしてもらいたいという思いがあり、天井を高くし、かつ真っ暗なスペースをつくりました。そこからレッドカーペットに沿ってサンドボックスに向かって進んでいきます。少し距離を長くしたのは、頭の中を整理する時間を設けるためです。途中の正面の壁に飾られたのは日本的な『書』。マインドを変えるために何らかのアイキャッチになるものとして採用しました。サンドボックスのコンセプトは『ライブジャム』です。ここでの作業は色々な楽器の音を即興的に組み合わせて音楽をつくるようなもの。そして出来上がった音楽にあたるものがイノベーションだと思っています」(中村氏)

ここを使うときは、なるべくスーツを脱いで話をしようと呼び掛けているという。

「参加されたお客様からは、『自分の考えが見つめ直せた』『他の人の考えが理解できた』『オープンマインドになれる場所だった』といった感想をいただいています」(杉山氏)

< エクスペリエンスセンター > 正面壁と書

< エクスペリエンスセンター > 正面壁と書

< エクスペリエンスセンター > サンドボックス

< エクスペリエンスセンター > サンドボックス

< エクスペリエンスセンター > 入口

< エクスペリエンスセンター > 入口

< エクスペリエンスセンター > セッション風景

< エクスペリエンスセンター > セッション風景

大阪オフィスでは監査法人として初めての試みを行った

同社の中長期的なオフィスプロジェクトの最後を飾るのが大阪オフィスとなる。2拠点に分かれていた「PwCあらた有限責任監査法人」「PwCアドバイザリー合同会社」「PwCコンサルティング合同会社」「PwC税理士法人」の4法人が600坪の面積に集約された。税理士法人も含めての統合というのはPwC Japanグループとしても初めての試みだった。場所はJR大阪駅に隣接した大規模複合ビルの36階となる。

「その目的はサービス品質の向上を実現するためです。プロジェクトのスタートは2017年5月。業務開始がその年の12月25日ですから、このプロジェクトも他拠点同様のタイトなスケジュールとなりました」(杉山氏)

パートナー含めて10名前後のプロジェクトチームを組んだ。プロジェクトは各パートナーへのインタビューからスタートする。

「インタビューも打ち解けるまでが大変でしたね。50人くらいの方に2週間かけて行いました」(杉山氏)

「当初は税理士法人の方は個室にこだわると思っていました。しかし部屋の外に出なければより多くの情報は得られないと。そこで大手町オフィスで採用したクロス・ロス・カフェの導入となったのです」(黒川氏)

監査部門はクローズの部屋が必要のため、エリアごとには分けられたが、基本的にはフリーアドレスとなった。

「従来個室をお持ちのパートナーとのインタビューでも、固定席ではなくフリーアドレスを導入してほしいと要望がありました。相当なチャレンジだと思います。現在ではABW(Activity Based Working)の思想にもとづくオフィスやフリーアドレスの実践はかなり浸透しておりますが、いまだにマネジメントからの抵抗は珍しくありません。一方で、フリーアドレスを基本とする流動性の高いワークスタイルほど生産性が高いというデータもあります。ですから現状の働き方で快適性だけを求めると、おそらく数年後には陳腐化して大きな変革を迫られるのではと。そうであれば今からそういった新しい働き方に慣れておいたほうがいい。そういったビジョンをお持ちでした」(小澤氏)

「お話をお聞きしていて、ものすごく先を見ていらっしゃる方々だと感じました。こちらからの提案を受け入れていただき、逆にその提案を飛び越えたアイデアをいただくこともありましたね」(黒川氏)

応接エリアの部屋数は12人用が1室、24人用が2室、6人用が4室、8人用が3室と大幅に増えた。それぞれ国内外の有名リゾート地の名称をアルファベット順に当てはめて付けている。応接室と窓際の間には廊下。直射日光が直接応接室に入り込むのを防いでいる。そして廊下には会議時間内に話せなかった場合に備えてタッチポイント的に使用できるデスクを配した。ちなみにこれらの応接室は社外だけでなく、社内打合せでも使われている。

執務室内はオープンな環境で机が配置されている。その中にクローズなMeeting Roomが8室。グループ内のセキュリティを確保している。

パートナー専用の個室は大きく削減された。そのケアとして、パートナー席のすぐ後ろに4つのテレホンブースを設置。さらに3席の集中スペースを用意し、パートナーの業務環境を下げることなくレイアウトを整えることに成功している。また、執務室内の窓際にはミーティングスペースやスタンディングデスクが並べられた。これらの機能は新オフィスからの試みとなる。

「パートナーの方も個室に入るのは数えるほどで、なるべくオープンスペースにいますね。パーテーションで仕切ることもなく、とても見晴らしの良いオフィスです」(加藤氏)

「3月の終わりに大阪オフィスで役員会議を開催したのですが、このオフィスを見た東京のパートナーから、新機能のいくつかは自分たちのオフィスにも活かしたいと言われました。新たなオフィス改革のプロジェクトが発生しそうです。グループ内でシナジーが生まれる。理想的な展開になりました」(杉山氏)

働き方改革は質を高めながら継続する。過去の経験が良質なスペースを誕生させる

「今でこそ、『働き方改革』という言葉がトレンドのようになっています。しかし私たちは10数年前からフリーアドレス制を導入し、ITを駆使した『働き方改革』に取り組んできました。まずはファーストステップとしてオフィスのインフラを整備。そして次のステップではコラボレーションを目的とした働き方を推進していきたいと考えています」(杉山氏)

時間をかけて空間づくりを行ってきた。もちろんすべてがベストの結果ではない。しかし過去の経験があったからこそ現在のオフィスに到達することができた。そして同社の「働き方改革」はこれからも質を高めながら継続していくと語る。

「私たちは、クライアントの皆様に『働き方改革』に向けて多様なサービスを提供してきました。そのためには、自社のスタッフにも働きやすい環境を提供していかなければならないと思っています」(杉山氏)

良質なオフィス環境は、採用にも有利になっているという。

「採用活動はとても優位に立っていますね。質も量も。新卒の応募者も例年より2割増えています。当社の業務は人材があってこそ。優秀な人材が集まるということで、業績も必然的に伸びていくはずです。これからも従業員ファーストで取り組みたいですね」(杉山氏)

「オフィスのあり方というのは正解を導き出すのがとても難しいことです。その中でPwCは軸がぶれずに常に前を向いている。これは簡単にできることではありません」(小澤氏)

「オフィスの姿は何年後かには大きく変わると思っています。仕事はいまやどこででもできますから。しかしどんなにIT技術が発達したとしてもコミュニケーションをとり、結論を出す場所は必要です。ですから今後はそういったことも考えながらオフィスづくりをしていかなければならないんでしょうね」(杉山氏)

2018年4月19日取材

< 大阪 > クロス・ロス・カフェ

< 大阪 > クロス・ロス・カフェ

< 大阪 > エントランス

< 大阪 > エントランス

< 大阪 > 応接室廊下

< 大阪 > 応接室廊下

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