PwC Japanグループ

2021年8月取材

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※ 記事は過去の取材時のものであり、現在とは内容が異なる場合があります。

PwCが行き着いたDXを推進したニューノーマル時代の新オフィス

世界155ヵ国におよぶグローバルネットワークで高品質の監査、税務、アドバイザリーサービスを提供しているPwC。日本におけるPwCグローバルネットワークのメンバーファームおよび関連会社の総称をPwC Japanグループと呼ぶ。
2021年2月、PwC Japanグループは大規模な本社移転を行った。今回の移転では、過去の移転プロジェクトとは異なりITシステムの構築に時間をかけたという。その意図や具体的な内容についてお話を伺った。

杉山 優子 氏

PwC Japanグループ
総務部 マネージング ディレクター

杉山 優子 氏

天野 大地 氏

ゲンスラー・アンド・アソシエイツ・
インターナショナル・リミテッド
プリンシバル、クリエイティブ ディレクター
天野 大地 氏

Contents

  1. デジタルを活用して組織や部門を横断する活発な交流を目指した
  2. 「ワークプレイス」から「ワークシステム」への変換を実施した
  3. フロアごとにコンセプトを変えて今までにない交流を促進する
  4. オフィス構築は進化しながらのスパイラルを繰り返していく

コミュニケーションエリア

コミュニケーションエリア

デジタルを活用して組織や部門を横断する活発な交流を目指した

2021年2月、PwC Japanグループは大規模なオフィス移転を実施した。その目的は「ニューノーマル時代における新たな働き方の実現」。2年にわたる大プロジェクトであった。

「移転プロジェクトは20196月からスタートしました。新型コロナウイルス感染症が流行する前でしたね。会社として掲げていた『組織や部門を横断した交流の活性化』を目指すには、分散していたPwC Japanグループの主要法人の集約が必須だったのです」(杉山氏)

計画の第一歩として設計会社を確定させるためのコンペを行う。コンペでは各社に質の高いRFPRequest for Proposal:提案依頼書)の提出を求めた。

「過去のオフィス構築でレイアウトやデザインで解決できることはやり切ったと思っています。ですから新オフィスでは過去にはなかった『デジタルとの融合』を目指そうと。それでデジタル部分を充実させた提案を依頼したのです」(杉山氏)

そうしてRFPの精度の高さ、過去のオフィス構築での実績を踏まえて、デザイン設計はゲンスラー・アンド・アソシエイツ・インターナショナル・リミテッドに決まった。

2009年の分散オフィスの統合プロジェクトから担当しています。当時のオフィスコンセプトは『バーチャルキャンパス』。大学のキャンパスのように目的に合わせて多様なスペースを行き来するといった動線計画を構築。働き方変革を意識したオフィスでした。2016年の営業拠点の開設ではスタッフ間のコラボレーションを促進させるための『XLosLine of Servicecafé(クロスロスカフェ)』を新設。活発な交流による『新たな価値の創造』を目指しました。こうした機能面の整備に関してはどこよりも早く提案してきたという自負があります。しかし次のステージでは『ワークプレイス』から『ワークシステム』への変革が求められていました。それで設計会社ではありますが、デジタルの分野に挑戦したのです」(天野氏)

「フィジカルとデジタルの両軸で機能するオフィス。是非とも成し遂げたいという強い思いがありましたね」(杉山氏)

「ワークプレイス」から「ワークシステム」への変換を実施した

PwCではグローバルネットワークで共有のアプリケーションを使用している。しかもDX推進を宣言している。PwC Japanグループとしては早い段階でデジタルを活用したオフィスを構築させる必要があったという。

プロジェクトを進めるにあたり、各部署の主要メンバーに参加を求めて幅広い意見を集めていった。

「定例ミーティングは参加者を入れ替えながら毎週のように行いました。毎回20名弱が集まりましたね。メンバー全員に共通して言えるのはいいものをつくりたいという気持ち。最初の要件定義に時間を費やしました」(杉山氏)

社内PCもしくはスマホなどのモバイル端末で確認できる機能の一つに「社内ヒートマップ」がある。これは最新のWifiシステムを導入して細かく信号を読み取ることで実現した。

「オフィスの各エリアの混雑状況をリアルタイムで表示する機能です。混みあっているエリアを赤色で表示させて。もともとは人気エリアの行動調査分析のためにつくったのですが、いつしか新型コロナの感染予防対策のアプリケーションとしても活用されていくことになると思います」(杉山氏)

Google Calendarと連動した会議室予約システムも新たに構築した。社内・社外用会議室の空室状況を瞬時に確認し人を介さずに予約ができるもので、今まで時間を要していた業務の効率化を図る。

「その他、社員名簿や出勤管理、チャットボックスを使った質問箱などの機能をタッチパネル上に表示させて、一つのポータルサイトとして完成させました。文字の大小といったUX(ユーザーエクスペリエンス)にも気を配り、グローバルセキュリティもクリアさせています」(天野氏)

「今までの社内サイトは人事情報や法務情報のフォーマットが煩雑で、部署ごとに異なったルールで情報を提供していました。使いにくいという声もあり、その改善要望に応えることで少しでも働く環境の『進化』につながればと思ったのです」(杉山氏)

「今回のオフィスづくりは内装設計よりもデジタル部分との連携に時間を費やしましたね。しかし各担当者もこれを完成させることで個々の業務の作業効率が良くなることが分かっていましたので、必死に取り掛かっていました」(天野氏)

「ポータルサイトをつくったことで部門同士の交流が活性化したという二次的な効果も生まれました。社員名の表示方法や色などの些細な部分を見直すところから始めたのが良かったのでしょう。結果的に人と人が長い時間にわたって顔を突き合わせることができましたので」(杉山氏)

サイト構築に伴ってガイドラインも作成して運用ができるようにした。どうしたらオペレーションコストを下げながらアップデートを可能にするか。そしてガイドラインこそ分かりやすさが重要とし、時間をかけてシンプルなものをつくりあげた。

「僕らは今回の業務を『ワークプレイス』から『ワークシステム』への変換と位置付けています」(天野氏)

フロアごとにコンセプトを変えて今までにない交流を促進する

もちろん施設部分の設計も綿密に考えられている。新オフィスのテーマは「共創」。スタッフ間のコラボレーションの活性化を目的としている。

オフィスレイアウトに関する打ち合わせは新型コロナの流行前に終わっていた。そのため本来考えていた使い方と違う部分もあるという。

「今回備えたオープンの会議室は、壁を取り除くことで色々な人との交流を図ることを目指してつくったものでした。しかし現実は換気面やソーシャルディスタンスを考えた新型コロナ感染予防対策の一つとして使われています」(杉山氏)

それでは新本社ビルの各フロアを紹介していこう。

新オフィスは地上39階建てオフィスビルの18階~22階を使用する。18階は受付およびお客様用の会議室で構成。オフィスコンセプトの一つである「Client Centric by One PwC」を具現化する「顧客が価値を高められる」ためのエリアとなっている。

受付・エントランス

受付・エントランス

その他、同フロアにはクライアントと一緒に新たなイノベーションを生み出すためのワークショップを開催できる「エクスペリエンスセンター」を配した。

「今までスペースの関係で『エクスペリエンスセンター』を別の場所に設けていましたが、新オフィスでは本来のあるべき姿として開設しました。他にもセミナー用の大会場も用意しています」(杉山氏)

そして19階以上が業務フロアとなる。フロア全体を一つの『キャンパス』と捉え、上下階を内階段で結んだ。新オフィスの特長的な部分の一つである。

内階段は偶発的な出会いやコミュニケーションを促進することを目的としています。一人では思いもよらなかったアイデアを創出し、個々が気分を変えて働く。それこそがお客様に対してより良い提案をするために必要なことだとして構築しました。そのため内階段を含むエリアを『Co Creation』と名付け、多様な色や形の家具を配置しています」(杉山氏)

内階段

内階段

Co Creation

Co Creation

フロアデザインはそれぞれ「スポーツ」「アート」「アカデミック」と異なるコンセプトでまとめた。

スポーツのフロアでは、バスケットゴールを配置。固定した大スクリーンでは資料の投影やスポーツ観戦も可能にしている。まさに「動き」のフロアである。逆にアートのフロアでは斬新な色遣いや面白い形状の家具を置き、「創造」が高められるフロアとした。そうしてその日の気分に合わせて各フロアを自由に回遊する。そうすることで自発的なコラボレーションの創出を目指す。

スポーツのフロア

スポーツのフロア

アートのフロア

アートのフロア

アカデミックのフロア

アカデミックのフロア

「各フロアともに、部署や業務を意識せず誰もが使用できるエリアを設けています。ですから気分を変えるためにあえて統一感のないデザインにしたのです。この考えはプロジェクトがスタートした時点で決めていました」(天野氏)

途中フロアとなる21階には社内向けのカフェエリアを配置した。

「旧オフィスでは、組織や部門を超えた交流を促進するために『XLoS(クロスロス)カフェ』を設置していました。けれども交流を図るための場所を決めてしまうのはナンセンスだと思ったんです。それで交流を意識せずに自然に人同士が関りを保てるような動線を設計しました。どこでも繋がることができる。それがオフィスに求めるべき本来の姿だと考えたのです」(杉山氏)

カフェエリア

カフェエリア

このように多様なアプローチで「進化」を行った。先ほどのポータルサイトの改善もその施策の一つだという。

オフィス構築は進化しながらのスパイラルを繰り返していく

同社は過去のオフィスから常にアップデートを重ねてきた。

「私たちにとってオフィスは今後も必要な存在となるでしょう。それを後押しするオフィス機能やデザインも重要だと思っています。しかし何よりも大事なことはワーカー一人ひとりが自らのマインドをどれだけ高められるか。自分にとっての最適化を考える能力を身につけられるかだと思うのです。私たちはシビアな環境が成長を生み出すと考えています。だからこそ、『来たい』『効率が上がる』と思わせるオフィスが必要なんです。ですから私たちバックオフィス部門の役割は、個々のパフォーマンスをどれだけバックアップできるか、そんな働きやすい環境をどこまでつくっていけるかだと思っています」(杉山氏)

「今回のオフィスづくりでは『ワークシステム』への変換を行いました。僕らがやるべき領域は間違いなく広がっていく気がします。もしかしたらソフト部分を理解できないと本当のオフィスづくりはできないのかもしれません。そんなことを今回の仕事で感じました」(天野氏)

「もともと『キャンパス』というのは2008年のオフィス構築で採用したコンセプトでした。それからいろいろな施策を行ってまた今回『キャンパス』に戻ってきて。進化のスパイラルをこれからも繰り返していくのだと思います。せっかく考え抜いてつくった新オフィスですから今後の社会情勢といったつまらない理由でガラリと変わってしまっては意味がありません。今後も働き方を含めたアップデートを楽しんでいきたいと思います」(杉山氏)


PwC Japanグループ
PwCは「社会における信頼を構築し、重要な課題を解決する」を存在意義に掲げ、存在感のあるプロフェッショナルサービスネットワークを目指している。新たな経営ビジョンは「The New Equation」。そのビジョンを通じて「人」がリードし、「テクノロジー」が支える未来を目指している。