ところで、今回、新オフィスを設計するにあたり、コンセプトとして掲げられたのは次の3点だった。
- 不動産事業の構造変化への対応
- 部門間/社員同士のコミュニケーションの活性化
- 全社員への「気付き」のための空間づくり
これらは具現化するために、最も重要な場所と位置付けられたのが、先ほどあげたオフィスゲートである。
「ここには個人ロッカーがあるだけでなく、庶務などのサービスを行うオフィスコンシェルジュのデスクや、ライブラリー、打ち合わせコーナーなどが集中していることから、全社員が頻繁に行き来します。このマグネット効果を最大限に活かすために、これまでのオフィスでは考えられないような"仕掛け"を導入しました」(綱川氏)
それは、会社の中枢部門をオフィスゲート周辺に集めてしまうという大胆なゾーニングプランだった。
「オフィスゲートの周囲にはオープンな雰囲気の社長室があるだけでなく、全ての事業部門のリーダーの席を並べることにしました。つまり、一般的なオフィスのように上司と部下でワンセットと考えず、全社単位で幹部とメンバーの居場所を分けたのです。その結果、部門間のコミュニケーションが活発になるだけでなく、社員たちは自分が担当していない仕事の動きについても、知らず知らずのうちに『気付く』ことになります」(綱川氏)
このレイアウトについては、社長である田中氏も「期待以上の効果があった」と絶賛している。
「役員の会議もオフィスゲート横のオープンなスペースで行いますから、社員たちは会社が、今、何をしようとしているか、すぐに分かるのです。また、経営の透明性をアピールする意味でも、誰もが見える場所で幹部が情報交換をする意味は大きいのではないでしょうか」(田中氏)
一つだけ懸念されたのは、「部門のリーダーとメンバーの席が離れてしまうこと。意志の疎通が不充分になるのでは......」という点だったが、実際にはその問題はほとんどなかったという。
「上司と部下は必要なときだけ情報を伝えれば、四六時中一緒にいる必要はないのです。それより、幹部の席は近いことで、経営のスピードは確実に速まったように感じますね」(小町氏)
「デスクスペースにもちょっとした打ち合わせのできるコラボレーションコーナー『Cholabo(チョラボ)』が何カ所も設けられているので、必要があればそこで共同作業もできます。以前の居場所が固定されたオフィスに比べれば、機能ごとのさまざまなスペースが用意されている今は、格段に仕事の効率が上がったと思います」(飯塚氏)
社外の人の利用も期待したバーラウンジリフレッシュに向かう動線も交流に貢献。
レーサムの新オフィスで、もう一つ、画期的な施設が広々としたラウンジだ。夜景を含めた眺望が楽しめる大きな窓、高級感あふれる調度品、明るいスモーキングコーナー、専任のバーテンがいるカウンターなど、一般客向けに営業してもおかしくないレベルになっている。実際、社員が打ち合わせやリフレッシュ目的に使うだけでなく、今後は社外の人にも積極的に利用してもらう計画だという。
「これからの企業は、社内で情報を回しあうだけでなく、外部の人をどんどん招いて交流を深めていくべきだと思います。その結果、有益な情報を得られれば、それをヒントに新しいサービスや事業を展開できるかもしれない。そう考えると、ラウンジを設けて運営するのも、充分、経営に見合ったコストになるはずです」(飯塚氏)
さらにレーサムの場合は、魅力あるラウンジを設けることで、新オフィスのコンセプトでもある「部門間/社員同士のコミュニケーションの活性化」の効果をいっそう高めようとしている。
「全体のゾーニングを考えていくとき、ラウンジはオフィスゲートから最も離れた、オフィスの端に設けるしかありませんでした。しかしこれを逆手にとれば、ラウンジを最高に居心地のいい空間にすることで社員の移動機会を増やすことができる。組織横断的なコミュニケーションを活発にするには非常に効果的なはずです」(綱川氏)
今回、新設されたオフィスを通していえるのは、このような明確な目的と機能を持った施設が、それぞれ効果的な場所に配置されているということだ。オフィスゲート、ラウンジ、コラボレーションコーナー、集中作業コーナーなどを上手に分散させ、社員たちができるだけ社内を移動するように工夫されている。そしてそれは、この会社が次に目指す方向性と完全に合致しているのである。
「レーサムではこれまで、各社員が高い目標を持ち、自分なりに仕事を管理することで成長を遂げてきました。しかし次のステップとしては、社員間、部門間のより強固な連携が課題になります。新しいオフィスはゾーニングの工夫によって、それを可能にする環境を実現したのです」(小町氏)
オフィスは単なる箱ではなく、経営に役立つ機能を備えた装置でなければならない。それはCWファシリティソリューションがずっと主張してきたことであり、レーサムの新オフィスは、まさにその実践の場だった。
「このオフィスは、まさに機能の塊です。それが実現できたのは経営の方向が明確だったからで、私たちにとっても理想のワークプレイスをつくれたという喜びを感じることができましたね」(伊澤氏)
その思いは、レーサム側も同じだ。
「私自身、みんなと一緒になって新しいオフィスをつくっていく作業は楽しかったですね。環境が良くなったことで社員たちの顔つきは明らかに変わった。それだけでも、充分に効果はあったと思っています」(田中氏)
オフィスサービス最前線
手間がかからずいつもドリンクが楽しめる新スタイルのリフレッシュメントコーナー
株式会社レーサムの新本社オフィスで導入した新しい試みの一つに、CWファシリティソリューションと東京コカ・コーラボトリングのコラボレーションによる新しいスタイルのリフレッシュコーナーがある。
システムとしては、ホットドリンクやアイスドリンクの自動サーバーや自販機、ペットボトル飲料などを常備した冷蔵庫、浄水器、排水トレーといった設備一式を東京コカ・コーラボトリングが設置し、補給や清掃などのオペレーションも行う。このため、利用者側は飲んだ分だけを支払えば、ほかには一切コストや手間もなく、常に清潔な環境で飲み物を楽しめるのだ。
「通常のコーヒーサーバーだと、社内の誰かがセットや清掃をしなければなりませんし、コーヒーが煮詰まってしまうため頻繁な管理も必要です。しかし私たちの設置するカフェコーナー『フラビア』は1杯ごとに抽出しますので、いつもフレッシュさを保てます」
ちなみに、コーヒー1杯あたりのコストは、1日に延べ70人ほどの利用があれば、だいたい100円程度だという。
「フラビアはコーヒーだけでなく紅茶や緑茶など豊富なドリンクに対応していますし、カップ自販機の『カフェマティック』や簡単な操作で抽出できるエスプレッソマシンも併設すれば、もっとメニューを増やすことができます。またスナック菓子などのフード類も供給可能なので、私たちに任せていただくだけで、充実したリフレッシュコーナーが実現できるのです」

オフィス内に入ってオペレーションサービスを行うことから、東京コカ・コーラボトリングでは、社員スタッフを固定担当とし、セキュリティ上の問題が生じないようにしている。
「おいしいドリンクが楽しめるだけで、人々はそこに集まり、自然にコミュニケーションが生まれます。私たちのサービスがそのお手伝いになれば、こんなうれしいことはないですね」
東京コカ・コーラボトリング株式会社 開発本部 常務執行役員
小林 篤儀氏
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