トムソン・ロイター・ジャパン

トムソン・ロイター・ジャパン

2008年8月取材

※ 記事は過去の取材時のものであり、現在とは内容が異なる場合があります。

世界最大の金融情報サービス会社が目指したのは
顧客と社員、社員と社員の関係を深めるオフィス

150年以上もの歴史を持ち、ニュース通信社の代名詞的存在ともいえるロイターは、1980年代以降、報道以外の分野への進出を積極的に行ってきた。銀行や証券、保険会社、政府系機関などに向けた金融情報サービスに事業の軸足を移し、さらに今年4月にはカナダの情報サービス会社トムソンとの経営統合を果たしたことで、この分野では世界最大規模の企業になっている。

Thomson Reutersのアジア地域での最重要拠点であるトムソン・ロイター・ジャパンが新しくオープンしたオフィスは、そんな「ロイターの挑戦」を強力に支える存在だ。1月に竣工した赤坂Bizタワーの30階の半分はセミナーやイベントのためのスペースに充てられ、顧客との接点の拡大によるカスタマーサービスの向上を目指す。そして29階を含めたワークプレイスはコミュニケーションを活発にする先進のデザインを採り入れるなど、まさにオフィスを経営の力に活かそうとしている。

プロジェクト担当

古川 弘氏

トムソン・ロイター
・ジャパン
古川 弘氏

マーケッツ・
ディビジョン
ビジネス・
ディベロップメント・
ダイレクター

大貫 美氏

明豊ファシリティ
ワークス株式会社
大貫 美氏

常務取締役
オフィス事業部長

小野 宗久氏

明豊ファシリティ
ワークス株式会社
小野 宗久氏

デザイン部
デザインディレクター

はやわかりメモ

  1. ようやく実現したオフィス移転
    経営環境や組織の変化が日常茶飯事の時代、計画通りにオフィス戦略を遂行するのが難しいこともある。しかし、経営とオフィスが一体である以上、ある程度の段階で思い切ったリニューアルは必要。
  2. 目標を明確にし、デザインは専門家に一任
    オフィスのリニューアルにあたっては、それによって経営上のどんな課題に応えていくのか、目標となるポイントを明確にしておかなければならない。その段階でピントが正確に合っていれば、オフィスデザインの専門家への発注もしやすい。
  3. オフィスデザインは受付の外にも及ぶ
    ブランディングを考えるなら、ビル全体を一つのメディアと考え、さまざまなPR手段を考えるべき。モニターによる動画情報、外から眺めた受付の風景など、全てのビジュアルイメージは会社の顔になる。
  4. 社外の人と交流するスペースの充実
    ネットを含む電子媒体による金融情報サービスを行う企業であっても、カスタマーと直接会って交流する機会は大切。そのための場は社内に設け、最高のデザインでお客様を迎えるべき。ガラスパーテーションによる仕切りは、明るさとフレキシブルな空間を実現する。
  5. 内階段を核としたコミュニケーションオフィス
    執務スペースが数フロアに分かれる場合は内階段が効果的。縦の動線を確保した上で、そこを中心に横の動線をつなげていけば、自然に交流が生まれる。また会議室や打ち合わせコーナーはバリエーションを豊富にすることでシーンの演出を。
  6. 自由席のオフィス「フリースタイル」
    フリーアドレスという言葉は「席を人数分用意しない」というイメージが強く、反発を買いやすい。全員分の席があるならフリースタイルという名称で自由席にする方法がある。ただし「個人のものを置きっぱなしにさせない」「ごみ箱をデスクの下に置かず人の流動性を高める」などの工夫も必要。
  7. オフィスに曲面のデザインを!
    直線や平面で構成されがちなオフィスだが、曲面を導入すると自然に隙間ができ、空間的なゆとりが生まれる。それによるスペースの無駄は思ったより少ない。

経営環境や組織は常に変化していくのだから
オフィスもリニューアルしなければならない。

今年1月に赤坂Bizタワーに移るまで、ロイター・ジャパンの東京オフィスは神谷町駅前のビルにあった。結果として約25年間、同じ場所にいたのだが、その間にも移転計画は頻繁に検討されていたという。
「六本木ヒルズや泉ガーデンタワー、東京ミッドタウンなど、新たな大規模ビルの建設が発表されるたびに、移転したらどうなるかといったシミュレーションをしてきました。しかしその度に経営環境が変わったり、人員計画の見直しなどがあり、断念してきたのです」
こう語るのは、トムソン・ロイター・ジャパンで今回の移転プロジェクトを統括した古川弘氏だ。

ロイターにとって、ここ10年間ほどは「事業や組織の刷新が日常茶飯事」といわれるほどに激動の時代だった。

「かなりの痛みを伴うリストラクチャリングや経営改革の連続で、じっくりオフィス計画を立てるどころではありませんでした。このため、情報サービス大手のトムソンとの経営統合が決まったときには驚いたものの、すぐに『今の時代にはよくあることだ』と妙に納得してしまうほどだったのです」(古川氏

しかしそんな古川氏にとっても、今年1月の赤坂Bizタワーへの移転だけは、絶対に成功させたいプロジェクトだったという。
「事業内容も組織も変わっていくのにオフィスだけが古いままという状態は、私にとって耐えられないものでした。ロイターという会社が新しくなっていくのであればオフィスも変えていかなければならない。今回のプロジェクトには、まさに不退転の覚悟で臨んでいたのです」古川氏

計画の途中でトムソンとの経営統合が発表されたが、幸い、統合の核となる金融情報部門の組織の枠組みは大きく変わることがなかった。
「両社の間では若干の人の異動はあったものの、竹橋のパレスサイドビルにあるトムソンのオフィスはそのまま残し、ロイターのオフィスだけをリニューアルする形で計画は実行できました。その結果、ほぼ希望通りの理想のオフィスを実現できたのです」古川氏

カスタマーサービスの向上、
ブランディング帰属意識を高めることが移転の3つの目的。

ここで、今回の移転において古川氏が目標として掲げた点を整理しておこう。

1.カスタマーサービスの量と質の向上

今やロイターの売り上げの9割以上は金融情報サービス事業が占めている。それだけに、この分野のユーザーに対して、直接、トレーニングやセミナーを行い、提供する情報をもっと活用してもらうことが、顧客満足度の向上=業績の拡大へとつながっていくのだが、神谷町のオフィスではそのためのスペースが充分になかった。
「セミナーを開催する場合、その規模や内容によってホテルなどの外部施設を利用する場合とオフィスを利用する場合がありました。オフィスを利用してセミナーを開催する場合は、3つの会議室の仕切りを取り外して70~80名を収容するスペースを確保したのですが、そのためにスタッフを動員して数時間かけて準備をしなければなりませんでした。従って、セミナーを開催する日の午後は会議室が不足することになります。機動性の点において問題があるだけではなく、見栄えも良くなかったのです。正直言って、お客様を呼ぶのが恥ずかしく、スタッフにとっても誇りを感じられない雰囲気でした」(古川氏

「情報サービスにおいてスピードは非常に重要です。ところが、社外の会場を使うとなると数カ月前から会場の予約を入れなくてはならず、昨今の金融マーケットの早い動きに対応したトピックのセミナーを開催することはできませんでした。すなわち、お客様に快適な環境下でのセミナーを開催するとなるとタイムリーさに目をつむらねばならず、マーケットを動かすホットな話題に焦点を当てたセミナーは参加希望者が多いのにもかかわらず、オフィスを使わなければならないというジレンマに悩まされていました」(古川氏

このため、新オフィスではカスタマーサービス用スペースの確保と質的向上が大きな課題になっていたという。

2.効果的なブランディング

報道機関としてのイメージが強いロイターにとって、金融情報サービスに強い会社であることを広く知ってもらいたいという要望がある。神谷町では駅に広告看板を出していたが、もっと効果的なPRの方法を模索していた。
「オフィスは社内のスタッフだけが使うものではありません。多くの訪問客がある一種のメディアなのですから、それを使ってのブランディングもオフィス戦略の一環だと考えていました」古川氏

3.スタッフエンゲージメント(帰属意識)の強化

デザインなどオフィスの質を上げることは、社員の帰属意識を高め、モチベーションの向上といった相乗効果をもたらす。
「正直いって、これまでのオフィスは『働く場所さえあればいい』といったレベルで、デザインも家具メーカーにまかせてしまうなど、おざなりなものでした。しかし会社の目指す方向がはっきりしてきたからには、それを社内外に伝え、共感してもらうためのオフィスデザインが必要になります」古川氏

このように、今回のプロジェクトではオフィスづくりの目標が明確になっていたため、この分野で実績のある専門家に委託することが決まった。
「以前、テレビ東京系の『ガイアの夜明け』で明豊ファシリティワークスさんのオフィスづくりの実例を見て(『オフィスを壊せ!~儲けるための職場改革~』2005年11月8日放送)、オフィスデザインのもたらす効果については知っていました。それだけに、お願いするならここしかないと思っていたのです」古川氏

声をかけられた明豊ファシリティワークスではオフィス事業部長の大貫美氏が中心となってチームを組み、設計はデザインディレクターの小野宗久氏が行った。

「明確なコンセプトと経営層の意思統一がありましたので、私たちはそれを具体的に形にしていくだけです。当社は迷うことなく思う存分仕事ができ、満足のいく結果に終わったと信じています」(大貫氏

スタッフエンゲージメント(帰属意識)の強化

受付カウンターにたどり着く前から「オフィスデザイン」は始まっている。

それでは、トムソン・ロイター・ジャパンの新しいオフィスを見ていこう。

港区赤坂5丁目に新しく誕生した再開発複合施設、赤坂サカスの中にある赤坂Bizタワーは、地下鉄赤坂駅に直結する交通の便の良さに加え、高級ホテルを思わせる木材を活かした内装が印象的だ。街の賑わいが感じられる1階のエントランスからエレベーターに乗ってオフィスに向かうと、その間にも、訪問者はすでに「トムソン・ロイター」のブランドに触れることになる。
「ビルのオーナーであるTBSが情報番組用のモニターを2台エレベーター内に設置することになっていたのですが、その内の1台にインフォポイントというトムソン・ロイターのニュースプロダクトを入れて最新のビジネスニュースなどを放映することにしました。これは、トムソン・ロイター事業の中核である金融情報サービスを強く印象つけるブランディング戦略の一環です」(古川氏

さらに1階エントランスのカフェ「スターバックス」にも大型モニターを設置した。
「神谷町時代にもビルの中にモニターを置きたいと考えていたのですが、建物の条件などから不可能でした。そういう点でも、このビルはユーザーにとっていろいろなことに挑戦できる、使いやすいオフィスだと思いますね」古川氏

そして30階に着いて受付に向かうと、そこからは小野氏が「工夫に工夫を重ねた」と自負する斬新な空間が現れてくる。
「受付まわりはオープンでウェルカムなイメージを強調するために開口部を広くし、入口にエレベーターホール側に向けた角度を付けるなどしています。さらにここからガラス張りの会議室やセミナールームなどを通して窓の外の風景が見えるようにしているのも、明るい印象を与えているはずです」小野氏

30階は、ほぼ半分が来客などを迎えるオープンスペースに充てられている。
「セミナールームは開放可能なガラスパーテーションで仕切ってありますから、50人から200人まで、さまざまな人数に対応したセミナーやイベントが開けるようになっています」小野氏

これらの空間は、ロイターにとって、まさに経営の力になる施設だ。
「多くの部屋を用意できたことで、これまで週に1回だったカスタマートレーニングを2回以上に増やせます。これだけでもカスタマーサービスのレベルは2倍になったといえるのです」古川氏

もちろん、工夫されたデザインによる効果も加えれば、前のオフィスとは比べものにならないほどのプラス面があるはずだ。
「自由に飲みものをとれるカフェや、談笑できるラウンジなど、あえてオフィスらしくないものを配置することで、リラックスしながら交流できるようにしました。最近では著名人を招いた講演なども行い、単に情報を提供するだけでなく、参加者による交流の輪が広がるなど、期待以上の効果を上げていますね」古川氏

移動の要となる内階段を中心に配置される
社内コミュニケーションを活性化する仕掛け。

●一方、社内スタッフが使う執務室についても、「交流」はデザイン上の重要なキーワードになっている。

「赤坂Bizタワーはフロア内の3カ所に吹き抜けをつくれる構造が用意されていました。そこで、そのビルの特性を活かし、2フロアで分断されないように29階と30階をつなぐ内階段を設けました」大貫氏

そして内階段による移動が頻繁にされることを期待し、そこをレイアウト上の「核」にした。
「お茶が飲めるカフェ、備品のデポジットであるキオスク、書籍や雑誌を並べたライブラリーなど、人の集まるコーナーをその近くに配置しました。これにより、自然な交流が生まれるようにしたのです」小野氏

さらに人の動線が途切れないように、そこからビルのコア側に会議室などを並べていく。しかも、それぞれの部屋に特徴を持たせた。
「会議室は開放式で4人までのオープン、ガラス張りですが音が漏れないようにした6人用のクローズ、そして短時間の打ち合わせ専用の60ミニッツの3種類を用意しました。バラエティを増やすことで気分展開になるし、目的に合わせてオフィス内のスペースを使い分けて欲しかったのです」小野氏

ちなみに「60ミニッツ」にはメーカーに特注した60分用の砂時計があるほか、テーブルの高さが変えられ、立ったままの打ち合わせにも対応する。
「そのほかにも、29階は全体の4分の1が自由に打ち合わせや共同作業のできるコミュニケーションスペースに充てられています。テーブルが並んでいるだけなので大人数のイベントにも使え、社内セミナーなどにも活用されるなど、人気の高いコーナーになっていますね」小野氏

そんなスペースのフレキシビリティを高めるために、小野氏はテーブルまで特注した。
「2本の脚だけにスケートボードの車輪を付けました。そのおかげで、普通の状態では動かないものの、片方だけを軽く持ちあげれば移動ができます」(小野氏

スケートボード用の車輪は質の高いベアリングを使っているので、従来の家具用のものよりもスムーズに動かせるという。
「既製品の中から使う家具を選ぶのではなく、オフィスに発生したニーズに合わせて最適な家具を発明してしまう。これもオフィスデザインの仕事の一つなのです」(小野氏

社内コミュニケーションを活性化する仕掛け

フリーアドレスは帰属意識の低下につながる席数を減らさないフリースタイルなら効果的。

会議室やコミュニケーションスペースなどに加え、もう一つ、小野氏が「隠れ打ち合わせコーナー」として設置したのが、背の低いロッカーだ。

「コア側の会議室と窓側のデスクスペースの間に個人用のロッカーを並べたのですが、そのままだと上にダンボール箱などを積まれてしまう心配があるので、斜めの覆いを付け、なおかつ上部をホワイトボードにすることで、メモ書きや連絡用に使えるようにしました」小野氏

ロッカーの高さは人の胸より少し低いくらい。このため、カウンター感覚で自由に話ができるのだが、そこには小野氏らしい細かい工夫も盛り込まれている。
「ロッカーの上部は全面を斜めにせず、両端に5センチほどの平らな部分を残しました。飲みものをちょっと置けるようにして、人が集まりやすくしたのです」小野氏

デスクスペースについては、人数分の席が用意されているものの、同じ部門内であればどこに座ってもいい「フリースタイル」を採用した。
「フリーアドレスという言葉は『自分の座るところがなくなる』と心配するスタッフが多いため、禁句になっています。しかし完全固定席では働き方が制限されてしまうことから、自由席という意味でフリースタイルにしました」古川氏

この制度の導入にあたっても、フリースタイルのメリットを最大限に発揮できるように運用上のルールを徹底した。
「せっかく自由席にしているのに、自分の場所を決められては困るので、個人用のワゴンは置かず、私物は全てロッカーにしまうようにしました」小野氏

各デスクに「個人の色」が着かないように、ごみ箱も排除した。
「これは分別を完全に行うという目的のためでもあるのですが、一人が使うものはデスク周りに一切置かないことで、自由席であることを徹底しています」古川氏

ごみ箱がデスク下にないことで、スタッフは定期的にごみの集積コーナーがあるカフェなどに集まるので、そこでも交流が活発になるというメリットもある。
「今回のプロジェクトでは事前に多くのスタッフと話し合いを行い、『こんなオフィスにしたい』という意識を共有していきました。ごみ箱をなくすことにしたのも、そんな中で出てきたルールです。スタッフにしてみれば、自分たちの意見が反映されたオフィスだから、そのルールを守ろうとする。その結果、オフィスはいつまでも、初期の性能を維持できるのです」小野氏

オフィスにはめずらしい「曲面」の多用が、
余裕を感じられる空間につながっていく。

「曲面」の多用が、余裕を感じられる空間につながる

トムソン・ロイター・ジャパンのオフィスを訪れた人が最初に気付くのは、さまざまなところに曲面が活かされたデザインの生み出す独特の雰囲気だろう。セミナールームや会議室を区切るパーテーション、カフェのカウンター、テーブルやデスク、天井に開け開けられた吹き抜けの穴など、通常なら直線や平面だけで構成されるアイテムの多くが曲線や曲面になっている。

「オフィスのデザインというと、とにかくスペースの有効利用ばかりを考え、直線的なデザインしか許されません。しかし、曲面を活かした空間はそこにいる人の心が安まる効果があり、ぜひ一度、試してみたかったのです」小野氏

デザインについては明豊ファシリティワークスに一任していた古川氏は、そのアイデアに賛成した。

「図面を見せてもらったところ、曲面を多用したからといって、それほど無駄なスペースが生じるわけではないことがわかっていましたので、反対はしませんでした。むしろ、余裕があって居心地がいい空間になったのではないでしょうか」

古川氏によると、オフィスにおいて無駄なスペースが生じるのは、「デザインよりも時間」だという。

「神谷町のオフィスは約25年にわたって使い続けていたため、誰も管理していない書類が部屋の片隅に積まれているなどして、無駄が多かったのです。このため、赤坂に移転してスペースはそれほど広くなっていないのに、ゆったりしたレイアウトが実現できましたね」

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