株式会社ヨコオ

2021年11月取材

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※ 記事は過去の取材時のものであり、現在とは内容が異なる場合があります。

新本社の出社率は現時点で15%
それでもリアルなオフィスの良さを追求していく

株式会社ヨコオの創業は1922年。以来、独自の先進技術を駆使し革新的な製品を提供してきた。1989年に東京都北区の本社ビルを建て替えて安定した事業を行ってきたが、2020年にテレワークを導入。それを契機に本社移転の本格的な検討が始まった。
新本社での新たな働き方に関しては社内でメンバーを募り6つの分科会を発足。メンバーを中心に詳細を決めていったという。今回の取材では、分科会の主要メンバーに集まっていただき、移転の概要やオフィスの特長についてお話を伺った。

角田 達朗氏

株式会社ヨコオ
経営企画本部
本部長

角田 達朗 氏

山田 和彦氏

株式会社ヨコオ
管理本部
総務部
部長

山田 和彦 氏

中山 秀人氏

株式会社ヨコオ
経営企画本部
情報システム部
グローバルIT管理室
次長
中山 秀人 氏

野本 敬子氏

株式会社ヨコオ
経営企画本部
経営企画室
担当係長

野本 敬子 氏

北郷 加代子氏

株式会社ヨコオ
FC事業部
事業企画室

北郷 加代子 氏

Contents

  1. 加工技術を強みに事業を拡張してきた
  2. コロナ禍で取り組んだテレワークの導入で、本社移転がスムーズに進んだ
  3. 若いメンバーを中心に移転のための分科会を組成した
  4. 新たな機能を盛り込んで気持ち良くいられる環境を構築した
  5. 「オフィスは今までとは違った意味合いを持つ」と考える

コミュニケーションエリア

コミュニケーションエリア

加工技術を強みに事業を拡張してきた

1922年、株式会社ヨコオは東京都墨田区で創業した。アンテナ部門の生産を中心に事業を拡大。1962年には東京証券取引所第二部に上場。その後、1989年に手狭となった東京都北区の本社ビルを建て替える。

「創業時からバネ棒やアンテナの加工技術で高品質の製品をお客様に提供していました。そして常に技術の向上を追求しながら事業を拡大していったのです」(角田氏)

現在の事業領域は大きく4つ。「アンテナ」「ファインコネクタ」「マイクロウェーブ」「先端デバイス」といった専門分野で安定的な供給を行っている。

「本社ビルの周辺に開発拠点を拡張し、所有・賃貸を合わせて552坪を使用していました。その他、国内には先端製品の開発・製造を中心に行っている富岡工場をはじめ、7ヵ所に事業所を構えています」(山田氏)

また海外での生産・販売をカバーするため、積極的にグローバル展開をしている。現地の量産工場を稼働させることで海外生産比率は80%超。今後も各拠点での現地調達を推進し、短納期対応と安定供給を進めていくという。

コロナ禍で取り組んだテレワークの導入で、本社移転がスムーズに進んだ

以前から同社では、「多様な働き方」と「ヨコオを成長させる人材の採用と活躍」の実現が課題となっていた。特に優秀な技術者の採用は経営上不可欠な重要課題だったという。

「課題解決のために、『本社を交通アクセスの良い場所へ移転させる』といった案もありました」(角田氏)

2019年春、当社グローバルの標準コミュニケーション基盤として「Microsoft office365」の導入が完了。テレワークに対応できるITインフラを構築した。2020年春に新型コロナウイルスの感染が広がったが、円滑にテレワークでの働き方に移行できたという。

並行して在宅勤務時のフルフレックスタイムを実験的に行うなど、新たな働き方を探っていった。加えて首都直下地震、津波、延焼など、自然災害のリスクについての議論も行われた。

「どんなに働き方を改善しても災害などで業務がストップしてしまったら意味がありません。そうして『スペースの有効活用』『働き方の改善』『BCP対策』と表面化した大きな3つの課題解決を目的に、本格的な本社移転の検討がスタートしたのです」(角田氏)

移転先探しについては三幸エステートが担当する。

「以前から信頼関係を築いてきたこともあり相談させていただきました。物件探しにおいては、旧本社の周囲から探し始めて、池袋駅から東京駅に向かう地下鉄路線へと範囲を広げていきました。かなりの数のビル情報が集まりましたね。比較検討をしていく中で、富岡工場へのアクセス、賃料とのバランス、ビルランクなどを総合的に判断して9棟に絞り込んだのです。実際に9棟を見学するときも、効率的にスケジュールを組んでいただきました。もちろんビル情報だけではなく周辺情報やビジネス環境なども補足いただき、移転先探しの参考にさせていただきました」(山田氏)

2021年4月に候補ビルの中から最終選定を行い、5月の取締役会で正式に移転先を決定した。移転先に選んだのは複数路線の利用が可能な大規模オフィスビルだった。1フロア面積290坪を145人で使用する。

「交通アクセス、面積のほかにも、屋上庭園、太陽光発電、雨水利用といったエコロジー環境の充実、貸会議室の併設、眺望の良さなど、他の候補ビルにはない特長が魅力でした」(山田氏)

「ここでしたら新幹線や空港へのアクセスも良好で他拠点への移動も効率的に行えます。そして人材採用の面でも大きな効果を発揮すると考えたのです」(角田氏)

若いメンバーを中心に移転のための分科会を組成した

移転プロジェクトに向けて6つの分科会を発足。社員の意見をまとめていった。今回はできるだけ年齢の若いメンバーでチームを編成したという。

「オフィス委員会という組織の下に、『レイアウト』『ITインフラ』『技術エリア』『就業ルール』『ウェルネス』『引越し』の6つの分科会を設置しました。分科会ごとに構成メンバー数は異なります」(山田氏)

コロナ禍でもあり、分科会での活動はほぼ全員がテレワークで行った。

「私はレイアウト分科会に参加しました。内装デザインは4社コンペを行って決定しました。まず各社プレゼンの準備や選考から始まり、内装デザイン会社の選定後は新オフィスのレイアウト案の検証、家具や什器・備品選びといったオフィスデザイン全般を担当しました」(北郷氏)

机や椅子の決定にあたっては実際に家具メーカーのショールームに足を運んだという。

「レイアウト図面だけでは完成イメージがつかみにくく、特に椅子などは実際に座ってみないと評価できません。そこでショールームに訪問しました」(北郷氏)

当初の席数は100席を想定していたが、出社率から算出して80席でも十分と結論が出た。それで予算内で最高級に近い椅子が購入できた。

「新本社での出社率目標は15%としました。前年の出社人数のデータをもとに算出したものです。コロナ収束後もこの出社率は維持する予定です。仮に出社人数が多い日があってもいたる所に仕事ができる環境を用意していますので全く問題はありません」(角田氏)

「分科会の開始直後は、『会話が必要な人』たちと『集中したい人』たちとのエリアを分けるべきという議論もありました。しかし執務エリアの広さと出社人数のバランスを考えて、そこまで配慮する必要はないという結論に落ち着きました」(北郷氏)

「私はオフィス委員会副委員長の立場でしたが、各分科会からの要望に大きく反対することもなく進行していきました。それだけ各委員会から提案される意見が考え抜かれたものだったからです」(角田氏)

「私はITインフラ分科会を担当しました。過去は一度オフィスを構築したら何十年も使い続けるというイメージでしたが、近年はビジネスの形態や時代の変化によって迅速な対応が求められます。そこで変化が容易な『軽いオフィス』を目指しました」(中山氏)

もともと理想的なオフィスのあり方を提案するために、社内のネットワーク標準を文書化する作業を進めていたという。完成したのは移転プロジェクトが具体化する直前だった。

「タイミング良く作成した標準を今回の移転プロジェクトに適用できました。個々で有線のケーブルをつなげると室内が乱雑になりますし、万が一、大規模なレイアウト変更などが生じた場合、膨大な有線ケーブルを廃棄することになります。エコの見地からも、基本は無線LANに設定しました。そのため工事費も抑えられ、ワンランク上のネットワーク環境に整備できたのです」(中山氏)

「新オフィスではFAX回線を引いていません。紙の資料は情報セキュリティの観点ではリスク要素であり、何よりも業務効率を阻害しているとの考えから、不要と判断したからです」(角田氏)

「ペーパレスへの思いは強かったですね。何しろテレワーク期間中では手元に紙がなくても十分な業務ができていましたので」(中山氏)

「とはいえ個人資料の必要性も理解できます。そこで部門ごとにキャビネットを割り当てて、個人の資料はそこで保管してもらうルールにしました。個人資料の保存用に幅10㎝くらいのファイルボックスを支給しました」(角田氏)

「私は3つの分科会に兼任で参加しました。就業ルールの分科会がメインでしたが、他の分科会での内容を知ることで就業ルールの考察に役立つと思いました。家具の決定後から取り掛かり、分科会メンバー内での意見交換、ルール・マナー案作成、プロジェクトステアリングコミッティーの確認・承認を経てオフィス開設時に運用開始をしています」(野本氏)

今回の分科会を機に、席や共用ロッカーの使用方法、出社時の服装などの新たなルール、自転車通勤の有無など、今まで曖昧だったことを明確に文書化できたという。

新たな機能を盛り込んで気持ち良くいられる環境を構築した

コロナ禍での在宅勤務の経験がプラスに働き、ごく自然な流れでABWに移行できた。

「測定機械の設置を理由に技術部門だけはグループアドレスエリアとなっていますが、それ以外は完全フリーアドレスとしました。『毎日同じ席に座らないでください』とシールを貼っていますが、一日の中でも自由に席を移動しているようですので心配無用なのかもしれません」(角田氏)

「新オフィスのデザインコンセプトは『気持ち良くいられる環境』です。各所にユニバーサルデザインを採用しながら、モチベーションが上がる工夫をしています」(野本氏)

「オフィス内の色合いは明るい色に。分科会内アンケートで決定しました。コーポレートカラーにこだわることなく、あえて『気持ち良さ』を重視したのです」(北郷氏)

それでは新オフィスの特長的な部分を紹介していこう。

エレベーターを降りると落ち着いた色調のエントランスが現れる。中央に受付システムが置かれ、向かって右側が執務室エリア、左側が応接エリアへの入口となる。

エントランス

エントランス

「執務室、応接室、ともに扉はICカードを使用するのですが、車椅子の方でも手をかざしやすい高さに設定しています」(山田氏)

社外用会議室は5室。今後の働き方を考えて実験的な機能を備えた。

「新たにWeb会議室用の部屋を設けたり、書いた内容がデジタルで共有できるホワイトボードだったり。出社率が減る中で必要な機能を精査しました」(角田氏)

右側の執務室エリアに入る。最終的にフリーアドレスエリアは77席とした。

「働き方の用途に応じて、ソファ席やスタンディング席、カウンター席、集中ブースなど、バランス良く配置しています。ダイバーシティーの観点から高さを調整できる昇降デスクも新たに採用しました」(野本氏)

個人ロッカーはOne day方式で、連日の使用を不可とした。そのため77の座席に対してロッカーは54個の設置とした。そして執務室中央にはマグネット効果を考えて複合機や作業台を配置している。あえて長居ができないように椅子は設けていない。

フリーアドレスエリア

フリーアドレスエリア

会議室

会議室

「オフィスは今までとは違った意味合いを持つ」と考える

「在宅勤務の利点も多くありますが、やはりテレワークでは必要な連絡や報告が中心になってしまっていますね。それをコミュニケーションといえるのかどうか。新オフィスになってから、本来のオフィスの意義を感じています」(野本氏)

「デジタルって案外、薄っぺらくて。リアルには勝てないと思っています。旧オフィスは完全に業務ごとにフロアが分かれていましたので、用事がなければ自席のあるフロアだけで完結していました。それがコロナでさらに悪化してしまって。社内からリモート会議でITに関する相談を受けることがありますが、やはり顔を合わせて聞く方が話は早いです。ですからリアルの場が全くない中でのデジタルは成立しないと思っています」(中山氏)

「私は子育て中ということもあり、部分的に捉えるとテレワークによってワークライフバランスがとれていると思っています。しかし出社してみるとちょっとした雑談の中から生活のヒントや発想の切り替えができることを再認識しました。近くにいる人のトークを聞いて自分の業務に活かすこともできますし、実際にコミュニケーションをとることのメリットはとても大きいと感じています」(北郷氏)

「当社の場合、海外販売が多いため、頻繁にリモート会議を行ってきました。Web会議の抵抗は全くありません。しかし同時に話ができないことや相手の顔色が分かりにくいことなど、デメリットも少なからず存在しています。今後も、デジタルを活用しながらオフィスの良さを追求していきたいですね」(角田氏)

「移転後まだ2ヵ月ですから、オフィスの課題や問題点はこれから出てくるでしょう。当面の間、オフィス運用に関しては総務が担当することになると思いますが、展開次第では新たなオフィス分科会が必要になるかもしれません。今後も新たな気付きを楽しみながら対応していきたいと思っています」(山田氏)

株式会社ヨコオ
2022年9月に創業100周年の節目を迎える株式会社ヨコオ。今後も微細精密加工技術を強化させ、多様なニーズに応えていく。そして持続可能な社会の実現に寄与することを目指し、企業活動におけるESGの取り組みを徹底することでエレクトロニクス業界の発展に貢献していく。