あべのハルカス

2012年10月取材

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記事は過去の取材時のものであり、現在とは内容が異なる場合があります。

大阪の北と南で進行している再開発で大阪のオフィスマーケットが変わる(後編)

中之坊 健介氏

近畿日本鉄道株式会社
ターミナル開発事業本部
企画調整部 部長

中之坊 健介氏

米田真幸氏

近畿日本鉄道株式会社
ターミナル開発事業本部
企画調整部 課長

米田真幸氏

外観パース(エリア全体)

外観パース(エリア全体)

4 駅7 路線のターミナル駅に直結した大阪の南の玄関「あべの・天王寺」

 「大阪では、大阪と梅田を合わせて「キタ」と一つにくくった呼び方をしています。難波と心斎橋は合わせて「ミナミ」と言われています。ここ「あべの・天王寺」は、「ミナミ」よりさらに南側に位置しており、特に名称もなく並列にしてそのまま呼ばれています。それは、駅の南側が阿倍野区、北側が天王寺区となっているのと関係しているのかもしれません」(米田真幸氏)

大阪のターミナル駅の乗降客数は、梅田、難波、あべの・天王寺の順となっている。

「他の主要ターミナル駅と違う部分は、駅の機能がコンパクトに集約されていることだと思います。主要4 駅7 路線が、大体300m以内に入っているため、一番遠い路線同士でも2 ~ 3 分あれば乗換可能です。確か、梅田駅は7 駅10 路線ありますが、一番離れている路線間では乗換に10 分くらい要すると思います」(中之坊 健介氏)

ただ、ターミナルとして乗降客数自体は多いが、乗客を留めるための機能が少なかった。そのため乗換駅でしかなかったという悩みが続いていたという。

「もちろん商業施設が全くないわけではありません。しかし、まだまだ魅力が足りない。オフィスビルに至ってはその存在自体が非常に少ないエリアです。それならばオフィスの機能を備えた複合ビルをつくることで、商業も活性化でき、ポテンシャルが上がるのではないかと考えたのです」

沿革・スケジュール

2006年秋 計画の検討開始

2007年3月 大阪国際空港 航空規制緩和

2007年8月 「阿部野橋ターミナルビル整備計画」発表

2008年1月 大阪阿部野橋駅改良工事着手

2009年3月 近鉄百貨店旧館(西側)解体工事着手

2010年1月 基礎工事着手

2011年2月 地上部分の建設工事開始 立柱式

2011年8月 高さ100mに鉄骨が到達
ビル名称を「あべのハルカス」に決定

2012年3月 高さ200mに鉄骨が到着

2012年8月 高さ300mに到達

意外と近い「キタ」と「ミナミ」距離で6km、時間で15 分

交通アクセス図

交通アクセス図

「あべの・天王寺」は、難波・心斎橋の総称「ミナミ」より、さらに南側に位置する。最大のビジネスエリアである「キタ」とは距離が離れている印象があるが実はそうでもない。直線距離でわずか6km、地下鉄の乗車時間もたったの15分程度だ。そのうえ関西国際空港とは大阪の主要ターミナル駅の中で一番近く、新幹線新大阪駅にも御堂筋線で乗り換えなしで到着する。交通アクセスが非常に優れている立地といえる。

「ビルが出来上がるとオフィスは駅直上です。ドアトウドアで考えてみてください。梅田駅から歩いて10分の立地でしたら、当ビルのほうが雨に濡れずに安心・安全でいいと思いませんか」(中之坊氏)

梅田エリアのオフィスの供給量はおよそ45万坪。それに比べて「あべの・天王寺」エリア内のオフィスの供給床は3万坪程度のため大量に床面積が新規供給されるといっても全く問題はない。

「オフィス需要に関しては、「キタ」からの移転はあまり考えていません。大阪東南部や奈良、和歌山といったエリアで事業をしている企業を対象にしたいですね。また、大阪はモノづくりの街ですからメーカーが多い。その中で工場をアジア圏に移したため、本社機能だけをロケーションの良いところに求めている企業なども対象になるでしょう。」(米田氏)

立地を活かしたテナント戦略歴史と学校が新しいランドマークをつくる

「あべのハルカス」。ハルカスとは、「晴れ晴れとさせる」を意味する古語で、「晴るかす」からきている。「晴るかす」の言葉は万葉集でも使われており、まさに寺社仏閣が多い歴史の街「あべの・天王寺」にふさわしいネーミングである。
あらためて地図を見ると「あべの・天王寺」エリアは、寺院のほかに学校が多いことがわかる。聞くと大阪市内で一番学校が多いのが天王寺区、次いで多いのが阿倍野区だという。学生や若年層が多いというのは大きな地域特性の一つと言える。

「トータルで1,000 坪くらいですが、4 校の大学のサテライト教室の入居が決定しています。竣工前の段階で契約ができたのは、学校が多い立地というのが関係しているように思います。その用途は、入学説明会の対応や学生の就職活動の前線基地となる相談室などの使用を考えていただいています。そのほか社会人相手のセミナーなどの使い方を検討している大学もあります」(米田氏)

基準階オフィスフロア

ワンフロア約730坪の基準階オフィスフロア

フレキシブルなオフィスのレイアウト例。

内部を無柱空間にすることで、自由で効率的なオフィスレイアウトが可能だ。フレキシブルなオフィスのレイアウト例。

オフィスビルで日本一の高さ300mはまさに偶然のタイミングで生まれた

あべのハルカスが完成すると、オフィスビルとしては日本一の高さ300m になる。しかし当初は高さを全く意識していなかったという。

「あべの・天王寺は、都市再生拠点として定められており、緊急かつ重点的に市街地の整備を推進すべき地域として、街のインフラ整備に貢献するならば容積率・建蔽率の緩和の適用を認めるとされた特別区域でした。当初の開発プロジェクトは近鉄百貨店の建替えだったのですが、容積率が緩和されるのならと大規模複合施設のプロジェクトに変更したのです。 有意義に高さを使うためには、 単に百貨店の売り場面積を増やしても意味がありません。それならということで、現状都市機能として不足しており、近鉄グループとして実績のあるホテル事業、オフィス事業などを行うことにしました」(中之坊氏)

「計画当初の2006年時には、このエリアは大阪国際空港の航空規制のため280mより高い建築物はつくれなかったんです。それが偶然2007年に規制緩和が変わりまして。まさに、建てようとしている一角が制限から外れたんです。そういった偶然が重なってせっかくなら日本一の高さにしようと。それできりのいい300mにしたわけです」(中之坊氏)

屋上庭園

美術館がある16階に設けられた屋上庭園。仕事の合間に光や風を感じ、憩いのひと時を 満喫できる。

ビル最上階の展望台

ビル最上階の展望台。展望台の空中回廊(屋内)から、地上300mからの360度に拡がる 眺望が楽しめる。

オフィスエントランス

明るく開放的なオフィスエントランス。このフロアで低層・中層・高層へのオフィスフロア に乗り換える。高層フロアにはゲートを設置。セキュリティも万全だ。

大阪マリオット都ホテル

ビルの高層ゾーンには「大阪マリオット都ホテル」が入居。日本一の高さのビルならでは のサービスを提供する。

新たなランドマークはあべの・天王寺エリアのイメージを変える

設計の発想は"ブロックを段々と積み重ねる"。その発想により、超高層建築でありながらビル全体が圧迫感なく自然に溶け込む設計となっている。
完成後は、地下2階から地上14階までが近鉄百貨店。ファッションから食料品までの品揃えを充実させた複合商業施設が誕生する。16階は都市型美術館と屋上庭園。美術館は日本美術から西洋美術、現代アートまで多彩なジャンルの展覧会を開催する。
17・18階のロビーと21階から36階までがオフィスゾーンとなる。オフィスはワンフロア約730坪の無柱空間。最先端技術を導入した快適性・省エネ・安全性を兼ね備えた設計で、ロビー周りには保育所やカフェ、コンビニエンスストア、金融機関などを、途中階には貸会議室やカフェテリアを用意。ビジネスワーカーをサポートする。その上の高層ゾーンには「大阪マリオット都ホテル」が入居。最高のサービスを提供する。そしてビルの最上階には、空中回廊と光・風・緑を感じることができる屋外広場からなる展望台を設ける。

以下が具体的な施設概要である。

施設概要

名称 あべのハルカス

敷地面積 約28,700㎡

延床面積 約306,000㎡

階数 地下5階・地上60階建

高さ 300m

構造 鉄骨造、鉄骨鉄筋コンクリート造

竣工 2014年春(予定)

基準階貸室面積 約2,400㎡

貸室総面積 約40,000㎡

天井高 2,900mm

OA フロア 150mm

床荷重 500kg/㎡(一部1,000kg/㎡)

街にはそれぞれのイメージや役割があると思っています。あべのハルカスは、大規模オフィスがあり国際ブランドホテルが入居する。さらに気軽に文化や芸術を楽しめ、都市計画を豊かにする施設も備えている。ビル全体が立体的に都市機能を形成する今までにない新しいタイプのオフィスビルです。あべのハルカスの完成で、間違いなくこのエリアのイメージが大きく変わるでしょう。移転先の候補にこのビルを加えてみてください。必ず良さがわかってもらえると確信しています」(山口氏)

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