巨大再開発エリア「Big Trigon」の全貌 前編

2011年7月取材

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※ 記事は過去の取材時のものであり、現在とは内容が異なる場合があります。

東京のビジネスが変わる。御茶ノ水・神田が変わる。

以前、Yahoo知恵袋で「御茶ノ水のイメージを教えてほしい」という質問に対して、「学生街」「楽器の街」「スキーショップの街」「古本屋が多い」といったキーワードがアンサーとしてあげられていた。学生街のイメージが強い御茶ノ水で進められている大規模再開発とは? その全貌を御茶ノ水の魅力とともに紹介していく。

  • 神田淡路町二丁目ビル
    株式会社新日鉄都市開発

富永 浩氏

ビルマネジメント部
コーポレートサー
ビスグループ
部長代理

富永 浩氏

加藤賢治氏

都市開発部
事業推進グループ

加藤賢治氏

  • (仮称)神田駿河台4-6 計画
    大成建設株式会社

長谷川 隆氏

都市開発本部
開発事業部
プロジェクトリーダー

長谷川 隆氏

本木静香氏

都市開発本部
開発事業部
主任

本木静香氏

望月健太氏

都市開発本部
開発事業部
主任

望月健太氏

  • WATERRAS( ワテラス)
    安田不動産株式会社

下田 元氏

営業推進部
営業推進課長

下田 元氏

西川慶宣氏

営業推進部
営業推進課副長

西川慶宣氏

オフィス立地としては抜群の利便性。
限りない可能性を秘めた御茶ノ水・神田エリア。

御茶ノ水・神田エリアで進められている大規模再開発。2011年から2013年にかけて、5つのプロジェクトが順次竣工する。この都心の新たなビジネスエリアの魅力は、何といっても立地・交通アクセスだ。

御茶ノ水駅(新御茶ノ水駅)から都心主要駅までの所要時間

大手町駅まで

2分 (東京メトロ千代田線利用)

東京駅まで

3分 (東京メトロ丸の内線「淡路町駅」利用)

霞ヶ関駅まで

7分 (東京メトロ千代田線利用)

新宿駅まで

11分 (JR 中央線利用)

品川駅まで

14分 (JR 総武線+ 山手線利用)

渋谷駅まで

18分 (JR 中央線+ 山手線利用)

※各駅までの所要時間には駅までの徒歩時間、待ち時間は含まれていません。
※各駅への所要時間はYahoo 路線の検索結果に基づいています。

上記の表のように御茶ノ水駅(新御茶ノ水駅)から都内主要駅までの移動時間は20 分以内。交通アクセスの良さは、オフィス立地として抜群の利便性を誇っている。
これらの開発の事業者の一社である安田不動産では、このエリアに土地を所有していた関係で、20 年ほど前から土地の有効活用について議論を重ねてきたという。御茶ノ水から淡路町は学生街と言われるエリアであり、楽器店やスキーショップが立ち並ぶ。その一方では老舗が軒を連ね、どちらかというと雑多なエリアではある。そのため、「御茶ノ水=オフィスビル」という発想はしていなかったが、よくよく考えてみると、JR 線が使えて、地下鉄も銀座線、丸の内線、千代田線、都営新宿線が通っている。交通アクセスの良さはテナント誘致の大きな武器になると思ったという。
実際に、「学生街」「楽器の街」といったイメージが強い街であるためか、今まで大規模なオフィスビルは、決して多くはなかった。しかし、日立製作所や三井住友海上火災保険が本社を構えるなどオフィスとしての機能がまったくなかったわけではない。エリアにおけるオフィスの割合は少なかったかもしれないが、オフィスエリアとしての評価は高かったといえる。

また、これらの開発の最寄駅ともいえるJR 御茶ノ水駅では線路上部に駅施設やコンコースを設けてエレベーターを整備し、バリアフリー化を推進することを既に発表済みである。東京メトロ新御茶ノ水駅でも、「(仮称)神田駿河台4-6 計画」の開発事業において、計画地内にエレベーター及び通路などを整備することでバリアフリー化を実現させる。JR、東京メトロ共に駅構内でもより快適な環境が実現することになる。

新御茶ノ水駅バリアフリールート概念図

新御茶ノ水駅バリアフリールート概念図

歴史と文化の街に巨大なビジネス拠点。再開発のキーワードは「融合」。

御茶ノ水エリアの魅力の一つは前章で述べた立地・交通アクセスの面があげられる。二つ目のキーワードは、「歴史と文化」との融合という面だ。元々この地は大名や武家屋敷が多く立ち並んでいた場所で、今も数々の老舗や歴史的素材が点在している。事業者側もこの点を理解し、自社プロジェクトの中に「歴史と文化」を組み入れているという。
例えば、旧万世橋や交通博物館の跡地に展開される「JR神田万世橋ビル(仮称)」。この地は、煉瓦アーチの高架橋が現存する貴重な歴史的遺産を有していることから、低層部は高架橋への視線の抜けやエントランス空間の広がりを確保。高層部については神田川側の煉瓦アーチを意識したデザインとなる予定だ。さらに、かつての中央線のターミナル駅であった旧万世橋駅や交通博物館としての歴史をふまえて、鉄道をコンセプトとした外構計画とし、歴史性が感じられる空間がつくられる計画だ。
賑わいと潤いのある魅力的な街づくりを目指している「ワテラス」でも、事業コンセプトに「歴史の承継と水と緑の豊かな空間づくり」を掲げ、江戸の緑の文化や水の文化をランドスケープデザインに取り込んだ新しい街づくりを計画している。外観デザインも、縦障子、すだれ、違い障子、方形乱張といった和のモチーフを活用したものになる。
そのほか「(仮称)神田駿河台4-6計画」では、御茶ノ水駅前に立体都市広場「(仮称)タウンゲートプラザ」を計画している。聖橋交差点に面した約3,000㎡の緑豊かな地上広場と東京メトロ千代田線新御茶ノ水駅改札口と接続する約1,400㎡の一体整備で、地下広場が新たな街の玄関口となる。具体的には、自由に利用できるスペースとして公開し、ニコライ堂をはじめ、周辺の景観を楽しむための展望テラスがつくられる。さらに、計画地に現存する明治時代の石垣や煉瓦壁など、貴重な歴史的資源を保存、復元し、地域の歴史を語り継ぐための広場として機能させるという。
一方、単に歴史と文化を継承するだけでなく、先進的な環境配慮の取り組みも行う予定だ。

以下、各オフィスビルにおける代表的な取り組みを抜粋する。

  • 屋上庭園、太陽光パネル、LED照明の採用
  • 冷暖房負荷を大幅に軽減するLow-eガラスの採用
  • 各フロアに窓を開けることができるエリアの設定
  • オフィス内での自然換気の導入
  • 雨水・地下鉄湧出水(神田駿河台)を利用した水資源の有効活用
  • 十分な緑地面積の確保によるヒートアイランド現象の抑止
  • テナント社員の移動手段としてエコを考えたレンタサイクルの導入

淡路公園完成予想図

淡路公園完成予想図

コラム1 御茶ノ水駅

JR「御茶ノ水」駅は神田川(外堀)南側に位置し、東京メトロ「御茶ノ水」駅は北側に。所在地はJRが千代田区神田駿河台、東京メトロが文京区湯島となる。そのほか、道路を挟んで東京メトロ千代田線「新御茶ノ水駅」が配置されている。
駅ごとの乗車人数は以下の通り。

  • JR御茶ノ水駅の乗車人数101,617人。
    ( JR東日本/各駅の乗車人数 2010年度1日平均より)
  • 東京メトロ丸の内線御茶ノ水駅の乗降人員52,137人。
  • 東京メトロ千代田線新御茶ノ水駅の乗降人員91,459人。
  • ( 東京メトロ/各駅の乗降人員ランキング(2010年度1日平均)より)

「(仮称)タウンゲートプラザ」完成予想図

御茶ノ水駅前の立体都市広場「(仮称)タウンゲートプラザ」完成予想図

Big Trigon

※クリックすると拡大します

コラム2 御茶ノ水の歴史

御茶ノ水の名称の由来は江戸時代にさかのぼる。当時、駿河台に高林寺という禅寺があり、寺の庭から湧き出る水を江戸幕府第2代将軍徳川秀忠に献上。秀忠は大変気に入り、毎日、その水でお茶を入れたことからこの周辺を御茶ノ水と呼ぶようになったという。しかし、現在では住所に御茶ノ水という地名は残っておらず駅名と橋名に使われているだけとなっている。

東京のビジネスを変える巨大な三角形。「Big Trigon」が誕生する。

最後に、巨大な三角形の再開発「Big Trigon」を具体的に紹介していこう。次に記載した各開発エリアを囲い込むと「Big Trigon = 巨大三角形」が出来上がる。
開発するにあたっては、各事業者共に周辺の景観との調和を大事にした設計を考えている。特に「(仮称)神田駿河台4-6計画」では、東京都の景観計画の1号案件ということもあるため、近隣住民の方の意見はもとより、東京都に対してもきちんと景観についての説明を行いながら進めていったという。

各プロジェクトの紹介(竣工年順)

1 神田淡路町二丁目ビル

外観図

数多くの老舗飲食店が軒を連ね、江戸から東京へと移り変わってきた歴史ある雰囲気を感じることができる神田淡路町。屋上緑化や日本初の電動アシスト自転車のレンタサイクルシステムの導入等、環境にも配慮した最新鋭オフィスビルだ。

事業者 株式会社新日鉄都市開発

規模 地上8階建

基準階面積 約200坪

用途 事務所・店舗

竣工 2011年7月末

2 (仮称)三井住友海上神田駿河台三丁目計画 駿河台新館

外観図

駿河台別館の建替えと既存駿河台ビルの改修を行い、駿河台ビルと駿河台新館に本社を統合。神田駿河台に根ざす企業として、地域の活性化、緑の形成、環境負荷の低減等に取り組む。

事業者 三井住友海上火災保険株式会社

規模 地下3階・地上22階建

用途 事務所・交流施設・店舗等

竣工 2012年2月予定

3 JR 神田万世橋ビル(仮称)

外観図

人々に永く愛された旧万世橋駅、交通博物館、煉瓦アーチといった歴史的資産を生かした空間を創造。秋葉原と老舗店街の残る神田須田町・淡路町エリアとの交流点としても大きな期待がかかる。

事業者 東日本旅客鉄道株式会社

運営会社
株式会社ジェイアール東日本ビルディング

規模 地下2階・地上20階建

基準階面積 約290坪

用途 事務所・店舗、他

竣工 2012年12月下旬予定

4 WATERRAS(ワテラス)

外観図

地上165mを誇る「WATERRAS TOWER」と商業施設等が集積する「WATERRAS ANNEX」の2棟からなる巨大再開発。ワテラスとは、①本事業の目的である「輪(コミュニティ)を照らす」②敷地形状を表現した「和+テラス(段丘)」③水の豊かな街を表現した「WATER(水)+TERRA(大地)」の意味を持つ。

事業協力者 安田不動産株式会社

規模
TOWER:地下3階・地上41階建(オフィス部分は地上4~18階)
ANNEX:地下2階・地上15階(オフィス部分有)

基準階面積
TOWER:約710坪(オフィス部分)
ANNEX:約305坪(オフィス部分)

用途
事務所・住宅・コミュニティ施設(WATERRAS TOWER)

竣工 2013年2月末予定

5 (仮称)神田駿河台4-6 計画

外観図

JR御茶ノ水駅前、地下鉄駅直結の利便性の高い計画地に、快適性と使いやすさを追求した基準階貸床面積900坪超のメガプレートのハイグレードオフィスを提供。最新の環境技術による優れた環境性能と免震システム採用による安心・安全性能を確保している。下層部には、最大600人収容のホールを備えた(仮称)アカデミックカンファレンスセンターを整備、抜群の利便性を誇り周辺の会議室需要にこたえる。

事業者 駿河台開発特定目的会社

規模 地下2階・地上23階建

基準階面積 約910坪

用途
事務所・店舗・大学等教育関連施設・ホール・会議室・文化交流施設

竣工 2013年春予定

各事業者、共に「御茶ノ水を今以上にオフィス街として認知させること」に強い思いを持っている。それも昔ながらの老舗を大事に考えた地域一体となった街づくりを目指している。新旧が混在している面白さがこの街の個性であり、その個性が失われることなくオリジナルの街として進化していく様が目に浮かぶ。
数年前、電気街だった秋葉原がオフィス街として生まれ変わった、工場が集積していた大崎もオフィス街として変貌した。これらを鑑みると、御茶ノ水は、もっと早くオフィス立地として注目されてもいいエリアだったのかもしれない。
御茶ノ水・神田は、学生の街であって、医療の街でもある。それに加えて企業が集積すると「産・医・学」の街となる。この「Big Trigon」において、将来、高齢化や少子化を見据えた新しいビジネスモデルの街が誕生するかもしれない。

コラム3 東京都景観計画

平成19年4月1日(平成23年4月改定)から、美しく風格のある東京の再生に向けて良好な景観形成を進めることを目的に、東京都景観計画、改正東京都景観条例及び同条例施行規則が施行。一定規模以上の建築行為等を行う場合については、東京都への届出が必要となる。大規模建築物等の事前協議制度など、良好な景観形成を図るための具体的な施策を示している。(以下参照)

序章

新しい景観形成の必要性

第1章

東京らしい景観の形成
計画の対象範囲
東京の景観特性
施策の体系
良好な景観の形成に関する方針

第2章

景観法の活用による新しい取組
届出制度による景観形成
景観重要建造物
景観重要公共施設

第3章

都市づくりと連携した景観施策の展開
都市開発諸制度などの活用
公共施設の整備による都市空間の質の向上
歴史的建造物の保存等による景観形成

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