中日ビル

2021年10月取材

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記事は過去の取材時のものであり、現在とは内容が異なる場合があります。

名古屋のランドマークがDNAを継承しながら生まれ変わる

名古屋市の代表的な商業地「栄」。中日ビルはその中心部に位置し半世紀にわたって市民から親しまれてきた。その栄のランドマークが建て替え計画により大規模複合ビルとして大きく生まれ変わる。今回の取材では、建て替え計画の準備室のメンバーの方々に開発の背景や概要をお聞きした。

西山 雄一朗 氏

中部日本ビルディング株式会社
新中日ビル準備室
リーシンググループ

統括マネージャー

西山 雄一朗 氏

那須野 祐一 氏

中部日本ビルディング株式会社
新中日ビル準備室
リーシンググループ

チーフマネージャー

那須野 祐一 氏

中日ビル

中日ビル(完成予想パース)

多くの市民に親しまれていた中日ビルの建て替え計画

中日ビルは名古屋を代表する商業地・栄エリアのランドマークとして1966年に竣工。地下4階地上12階建の大規模複合ビルだった。地下鉄「栄」駅直結の利便性に加え、中日劇場、中日文化センター、飲食店、ショッピング街、催事場、結婚式場、全国物産観光センター、オフィスといった多様な用途で多くの市民に親しまれていた。特に中日劇場は名古屋の三大劇場の一つとして文化的な役割を担っていた。

しかし、築年数が経過する中で設備面や機能面に劣化が見えはじめる。2013年には「耐震改修促進法」が改正。「不特定多数が利用する大規模建築物の所有者に対し、耐震診断および診断内容の報告を義務づけ、その結果を公表する」という内容で、建て替え計画を前進させるきっかけとなったという。

それから親会社である中日新聞社と定例でミーティングを行っていく。当時はまだ竣工予定日なども確定していなかったという。

「新ビルの竣工時期よりも旧ビルの閉館時期こそが重要でした。というのも中日劇場の公演スケジュールはすでに2年先まで埋まっており、その後も順次予定が入ってくる状況だったからです」(西山氏)

入居テナントの退去に要する期間も考えなければならない。そういった事前確認を終えたうえで20169月にプレス発表を行う。旧ビルの閉館時期は2年半後の20193月とした。入居テナントは約180社。定期借家契約のテナントと普通借家契約のテナントが混在する。交渉内容が異なるため、担当者を分けて交渉時間の効率化を図った。

「定期借家契約のお客様の場合、それほど交渉を要する業務はありません。その分、長い期間でのお付き合いでしたから、今後の業務に関するご相談がかなりありました」(那須野氏)

「名古屋市内の企業からすると、やはりステータスのある立地は名駅エリアになります。不動産価値も高い。それを踏まえてデベロッパー各社が開発を進めています。一方、栄エリアは商業の地として確立されていますが、大規模なオフィスビルはそれほど多くありません。そんな立地での大型再開発ですから、とても希少なプロジェクトだといえます」(那須野氏)

建て替えにおける基本計画をまとめ、都市再生特別措置法に基づいて提案書を名古屋市に提出する。地域冷暖房施設の配備、ハイグレードホテルの誘致、防災備蓄の確保、避難場所の整備など、都市再生緊急整備地域の地域整備方針を踏まえ、地域の課題解決に資する取り組みを行うことにより容積率アップを目指した。

旧ビルのDNAを受け継ぎながら新しく生まれ変わる中日ビル

新ビルの規模は、地下5階地上33階建、高さ約158mとなる。エリアの特性を考え、駐車場も約220台を用意する。竣工は2023年夏ごろの予定だ。ビル外観は、低層部には旧ビルの外装エッセンスを踏襲し、街の調和を実現。高層部は格子状フレームが特長的なシンボリックな形状とするなど、旧ビルのレガシーを継承した格調高い意匠とした。

「旧ビルは外観も含めて市民に愛されていました。長い期間をかけて街に溶け込んで皆様に愛された意匠をガラリと変えることで景観を損ねることはしたくないという思いで、今の意匠となりました。また、旧ビルで使用していた大理石を新ビルのどこかで使用します。旧ビルの1階正面玄関にあった『夜空の饗宴』というモザイク画のアート品も新ビルへの移築を検討するなど、新ビルの各所で旧ビルの面影を残す工夫をします」(西山氏)

断面構成図

断面構成図

天井モザイク「夜空の饗宴」

天井モザイク「夜空の饗宴」

「新ビル内は、幅広い人と人との交流施設を意識した構成となる予定です。地下1階から3階は多様な世代を対象にした物販・飲食を揃えた商業ゾーンです。ビルの1階北側は『広小路通』、西側は『久屋大通』という市内を代表するメインストリートに面し店舗を配置し、街の魅力づくりに寄与します」(那須野氏)

商業ゾーンには「SAKAE MEING(サカエミーティング)」=「進行形で変わり続ける私たちが集う場所の提供」というコンセプトを掲げた。商業エリア約3,000坪に80店舗ほどが入る予定だ。新ビルの竣工で見込んでいる新たな就業者は約3,000人。飲食店舗の充実はそれらワーカーのランチ需要を支えることにもなる。

商業ゾーン

商業ゾーン

6階は多目的ホールと大小7室の会議室。7階には階段状の開放的な屋上広場を配する。この広場は誰もが楽しめるオープンな展望スポットとなる。

「多目的ホールの収容人数は約600席。旧ビルの中日劇場と比べると収容人数は半数くらいになります。しかしその分、多彩な用途に対応できる仕様としました。以前のエンターテインメント系だけではなく、学術系や文化系といった今までになかった客層の拡大を図ります」(西山氏)

多目的ホール

多目的ホール

会議室

会議室

屋上広場

屋上広場

加えて、ビル自体の付加価値を高めるために入居テナント同士が自由に交流できるスペース「オフィスラウンジ」ゾーンも設けるという。ビルの24階から32階は株式会社ロイヤルパークホテルズ&リゾーツが運営するホテルが入居する。平均客室約30㎡で約250室を備える。一般的なラグジュアリーホテルとの差別化を図るために、高級感や興味をそそられるコンセプトを打ち出してオリジナリティのあるサービスを提供する予定だ。

「全国会議を多目的ホールで開催した場合、遠方からの出席者は会議に参加した後、低層階の飲食店で食事をして、高層階のホテルに宿泊をする。ビル内で全てを完結できるのは、複合ビルならではの魅力だと思います」(那須野氏)

多様なニーズに対応できるようにオフィス環境にこだわった

9階から22階がオフィスフロアとなる。1フロア面積約700坪の無柱空間。栄エリア最大級の広さとなる。その面積にはこだわりがあるという。

1フロア1,000坪にすることも可能でしたが、あえて全体的な建物のバランスを考えて700坪としました。700坪でありながら最大15分割(最小面積は約21坪)と、多様な使い方を想定して設計しています。長く名古屋市内でテナント企業と接していると2030坪の面積を望まれるお客様が多いことがわかります。新ビルでは、そのボリュームゾーンのお客様にも関心を持ってもらいたかったのです」(西山氏)

その他、天井高2,800mm、OAフロア100mm、床荷重500kg/㎡(ヘビーデューティゾーン800kg/㎡)など、良質で最新スペックを装備したオフィス環境となっている。ワイドなガラス面を採用したことで名古屋城まで見渡せる景観も魅力の一つとなる。

16階平面図

16階平面図

想定される自然災害に備えて高い耐震安全性能を確保した

新ビルの一番のポイントは「栄で一番のスペック、BCPの強さ」。建物全体の安心・安全・耐震性能・環境・防災といった項目について詳細を詰めていったという。

「竣工後は、他の大規模ビルと比較されることになります。何をもって差別化を図るか。そこで私たちは『より安心して働ける場とはなにか』ということを常に念頭に置き、検討を進めました」(西山氏)

各フロアの平面計画に応じて制振装置を配した「ハイグレード制振システム」、長時間、長周期地震動に有効な「制振ダンパー」、強風時の不快な揺れを抑制する「ヘリポートダンパー」など、高い耐震安全性能で入居者を守る。

電気容量は60VA/㎡。停電時には非常用発電によりオフィス専用部のコンセント容量の半分である30VA/㎡を供給する。これはテナントの使用面積の規模にかかわらず利用でき、有事でも通常の事業継続が可能となる。

環境面での対応は、今も前向きな議論が続けられている。

「強い西日対策として太陽熱の侵入を防ぐ高い空調機能を持つ冷暖房設備を導入。さらに昼間に外光を積極的に取り入れた場合、照度を自動制御できるスクエア型LED照明を採用するなど、高い省エネ技術を導入します。このような取り組みにより省エネ技術や自然エネルギー利用など環境性の高い建築物と認められ、すでに『CASBEE 名古屋Sランク』を取得。DBJ Green Building認証では2021プラン5つ星を取得しました。また、SDGsやESGの検討も始めており、環境に配慮したビル運営を目指しています」(西山氏)

地域との連携で安心を提供し街にいっそうのにぎわいを生みだす

災害時にはビルの利用者のみならず近隣の市民の安心を提供。地下1階の吹き抜け空間及び6階の多目的ホールを避難施設として提供する。合わせて1,000人を収容できるスペースとなるという。

「新ビルの竣工後は、地域内での連携を見据えています。例えば、季節の果物を使ったイベントを行った場合、使用した果物の皮を再利用した美術作品をエリア内の専門学校でつくってもらう。完成した作品はグループ会社であるテレビ局や新聞社で発信していく。エリアの話題を提供することで、街のにぎわいにつなげる。そんな地域と連携したイベントを企画していきたいと思っています」(西山氏)

「旧ビルでの運営は不動産会社単体として行っていました。それでは行えることに限界があります。新ビルではもっとグループとしての強みを打ち出していきたいですね。そしてエリア全体を活性化させることで、街の不動産価値も高めていきたいです」(那須野氏)

「この開発で、栄エリアでの大規模再開発の先陣を切ることになりました。今後も栄エリアのオフィスマーケットを牽引する存在になりたいですね。新ビルはその起爆剤になりえる物件だと思っています」(西山氏)

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