旧大名小学校跡地活用事業

2021年10月取材

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記事は過去の取材時のものであり、現在とは内容が異なる場合があります。

天神ビッグバンを牽引するアジアの拠点を象徴するプロジェクト

都市機能と自然が調和し、多様なカルチャーが融合した街「福岡」。その福岡の中でも高いアクセシビリティを誇る「天神・大名エリア」で進行している再開発が、「旧大名小学校跡地活用事業」だ。同事業は旧大名小学校跡地を利用した特長的な大規模再開発となる。今回の取材では本開発の主体事業主である積水ハウス株式会社の担当者にプロジェクトの背景や概要をお聞きした。

浜口孝一氏

積水ハウス株式会社
福岡マンション事業部
福岡開発事業部
用地企画課 課長

浜口 孝一氏

原田享奈氏

積水ハウス株式会社
福岡マンション事業部
福岡開発事業部 企画営業課

原田 享奈氏

外観イメージ

外観イメージ

歴史と文化が融合した街で新たなビジネスを牽引する

国際交流都市「福岡」は、「人口増加率」「人口増加数」「若者(10代・20代)の割合」といった統計で日本一を誇る(平成27年国税調査)。その中でも地下鉄「天神」駅は、新幹線「博多」駅までわずか5分、福岡空港までも11分と優れたアクセシビリティを誇る。さらに台北、上海、釜山、ソウルといった海外の大都市ともスピーディーに移動できるなど、アジアのゲートウェイとして評価が高い。その天神エリアで「天神ビッグバン」を牽引する大規模複合再開発の一つが「旧大名小学校跡地活用事業」となる。

「天神ビッグバンとは、天神地区をアジアの拠点都市としての役割・機能を高めて新たな空間と雇用を創出するプロジェクトのことです。福岡市独自の緩和制度などを組み合わせ、民間企業の力を最大限活用しながら耐震性の高い先進的なビルへの建て替えを促進。安全安心な魅力的な街づくりに取り組みます」(浜口氏)

同事業は地下鉄「天神」駅から徒歩3分の場所に位置する(天神ビッグバンの対象エリアは天神交差点から半径約500m圏内となる)。

「『天神』駅を中心に、東側には国際会議場を備えた複合施設『アクロス福岡』が立地しています。この開発が完成すると間違いなく西側の新たなランドマークとなるでしょう」(原田氏)

同事業の事業主は大名プロジェクト特定目的会社。積水ハウス株式会社が主体となり、西日本鉄道株式会社、西部ガス株式会社、株式会社西日本新聞社、福岡商事株式会社といった九州を代表する大手企業が出資会社として名を連ねる。積水ハウス株式会社は、高級マンションの開発で福岡の街の活性化に力を注いできた。今まで以上に街の形成に貢献したいと考えて、今回のプロジェクトへの参加を決めたという。

大通りからの景観

大通りからの景観

エリアのランドマークとしてゲートをモチーフとしたデザインを採用

天神ビッグバンの認定要件は「魅力あるデザイン性に優れたビル」。そこで以前、高級マンションの設計・デザインを担当したことをきっかけに良好な関係が続いている「PDP London Architects」に依頼をする。ロンドン、香港、マドリッドを拠点に世界中の街づくりや建築設計に取り組んでいる世界的クリエイティブ集団だ。

「天神・大名エリアを活性化させる試みとして、『ゲート』をモチーフとした高さ約111mの躍動的なシルエットが採用されました。旧大名小学校が閉じられた施設でしたから、再開発では開放感をテーマにしたかったのです。外壁はガラスのカーテンウォールを採用して縦のラインがシンボリックな建物となり、建物の正面はスリットを入れた特徴的なデザインになっています。それによって圧迫感をなくし、自然に人の流れを広場へと誘引する仕掛けとします」(浜口氏)

人と人が自然に交流する一体感のある空間が形成される

同事業の敷地面積は約10,000㎡。敷地内はオフィス・ホテル棟、コミュニティ棟、イベントホール、広場で構成される。

オフィス・ホテル棟は地下1階地上25階建。地下は機械式駐車場。駐車場台数は約250台、駐輪台数は約450台を予定している。1階・2階の一部が飲食・物販の店舗となる。

「入居するオフィスワーカーのランチ事情に応えられるように多様な飲食店舗の入居を予定しています。その他、最先端のブランドや現代のニーズに合わせたショップなどの商業店舗をラインナップしています」(原田氏)

3階の一部には開放感のあるオフィススカイロビーと上質なラウンジを備えており、4階にはカンファレンスフロアを設置する。

敷地イメージ

敷地イメージ

オフィススカイロビー

オフィススカイロビー

「スカイロビーは開放感を重視して2層吹き抜けの構造としました。カンファレンスラウンジはビジネスの交流の場として活用できます。会議室はVIP用の控室を含め全9室。100人以上の利用が可能な大型会議室も用意しました。会議、セミナー、講演会、パーティと、目的に応じて使い分けていただければと思います。国際都市『福岡』で開催されるグローバルな会議やビジネスのサポートが可能な施設となります」(浜口氏)

カンファレンスラウンジ

カンファレンスラウンジ

会議室

会議室

リフレッシュテラス

リフレッシュテラス

オフィスフロアは5階から16階。エレベーターは低層バンクと高層バンクに分けることでスムーズな動線を確保する。実に用途ごとに計26台のエレベーターを備えるという。

「オフィスフロアへのエレベーターは運行調整を行う最先端のIoT制御システムを完備させることで、待ち時間などで発生しがちなストレスを大幅に削減いたします」(原田氏)

そして17階から24階がホテルとなる。九州初進出となる世界最高級のホテルブランド「The Ritz-Carlton」の入居が決定した。

フロアアクセス図

フロアアクセス図(画像クリックで拡大)

さらに別棟として公共施設や創業支援施設、保育施設、クリニック、レジデンスで構成するコミュニティ棟。すでに旧大名小学校校舎で運営されている、官民共同型のスタートアップ支援施設「FGN(FUKUOKA GROWTH NEXT)と連携。FGNでは企業の成長をバックアップするコワーキングスペース、イベントスペースなどの稼働がスタートしている。本施設のスタートアップ機能で起業家や企業そのものを育て、オフィス棟に導いていく姿を理想とする。さらにはグローバル企業との化学反応で成長のスパイラルを生み出していきたいと語る。

そして同事業の最大の特長が旧小学校の校庭を利用した広場となる。緑あふれる広場は、人と人の出会いと交流の場となり、併設された大型ビジョンやイベントステージではプロジェクトやプロモーションの発表動画が映し出される。施設の2階部分は緑の回廊で結ばれ、一体化したデザインで新たなシナジーを創出する。

「約3,000㎡の広場は公共施設との連携により、災害時には避難場所として地域住民に開放します」(浜口氏)

広場イベントステージ

広場イベントステージ

安心・安全の最新技術の採用と省エネ・周辺環境への先進的な取り組み

オフィスフロアは1フロア面積約756坪、天井高2,800mm、OAフロア100mm、床荷重500kg/㎡(ヘビーデューティーゾーン1,000kg/㎡)、600mm×600mmのグリッドシステム天井、加えてフレキシブルに使える無柱空間になっており、内階段や吹き抜けなどもオプションでつくることが可能だ。奇数階には南側の広場の緑と連続する「リフレッシュテラス」を設ける。そこはオフィスワーカーにとって四季を感じながら新鮮なアイデアが生み出せる空間となる。

5階フロア平面図

フロア平面図(画像クリックで拡大)

窓面は「フルハイトサッシ」「横型電動ブラインド」「Low-Eペアガラス」により、優れた遮断・断熱性を有し、冷暖房の効率化に貢献をする。その他、自然換気を可能にする換気スリットを採用、インテリアゾーンはエアハンドリングユニットVAN方式を、ペリメーターゾーンは冷水マルチエアコンを採用して省エネ・快適性を確保する。

「オフィスセキュリティゲートと連動したタッチレスエレベーター呼び出しシステム、オフィスロビーにQRコードを使用した無人受付システム、スマートフォンを利用した遠隔空調コントロールによるスイッチでの接触回避を実現させます。これらは業務効率を考えて設計され、新型コロナといった感染症対策も配慮しています」(原田氏)

BCPの観点では、しなやかに揺れを吸収する制振構造を採用。CFT構造の柱に加えて、各階コア部分に粘性系と履歴系の2種類の制振ダンパーをバランスよく配置。直下型地震や長周期地震動への対策を行う。それらは強風時の風揺れにも高い効果を発揮する。

停電対策では3回線スポットネットワークを採用する。それは、仮に事故などで1回線送電が停止したとしても、別の2回線からの送電を可能にするシステムだ。さらにガスコージェネレーションシステムによる電力供給も可能とする。

「コージェネレーションはガスによる供給ですのでCO2の発生を少なく抑えます。その他、環境面の特長として、井戸水・雨水の利用、蓄熱槽の採用など、自然エネルギーの有効活用を行います。環境負荷の低減に取り組み、『CASBEE 福岡Aランク』を取得しました。さらに緑化や保水性舗装などのヒートアイランド対策を推進。風・温熱環境シミュレーションにより周辺への風環境や温熱環境の影響を低減させます」(浜口氏)

地域に根ざした快適さを追求し新しいビジネスをつくっていく

同事業の竣工予定は202212月。竣工後の運営は大きな課題となる。

「世界の大都市にある大規模な複合施設を見ると敷地の内部に緑豊かな『中庭的空間』を備えているケースが少なくありません。空間を持つ目的は、人と人のつながり。それは万国共通のテーマとなっています」(浜口氏)

同事業においても、花と緑、水の潤いをデザインした広場で人々の活発な交流を図っていく計画だ。

「広場を使って周辺地域の方たちのイベントも開催されます。オフィステナントの皆様も参加できるような企画をしたいです。敷地全体を一体として盛り上げていく。それが周辺地域とのエリアマネジメントにつながると思っています」(原田氏)

広場全景

広場全景

「市内のテナント企業を引き抜き合うだけでは福岡の経済は発展しません。時には企業を育て、グローバル企業を誘致する。それがこの開発では可能なのです。そしてそれこそが我々に課せられた使命だと思っています」(浜口氏)

今まで、地域に根ざしながら革新と快適さを追求してきた同社だからこそ、この開発を手がけることができたといえる。かつて天神・大名エリアには存在しなかった交流と出会いのステージ。にぎわいにあふれ、活力がわき、新しい発想が飛び交う。出会いの刺激を生み出し、ビジネスのこれからをつくる。そんなシナジーに満ちた場所が誕生する。同社は、今後も「国際都市の創造」という大きな目標を掲げ、「人と環境と都市活力の調和がとれたアジアのリーダー都市の創造」を目指していく。

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