ビルの老朽化にともなって半世紀の歴史ある名古屋駅の顔を再構築
伊勢湾台風での被災を教訓に、耐震不燃のビルを建てようという目的の中で旧大名古屋ビルヂングは1965 年に竣工した。
「もともとこのビルの建設時は容積率制度の導入前であり、31m以上の建物は建てることができませんでした。その後、伊勢湾台風での災害をきっかけに建てられたのが大名古屋ビルヂングです。名古屋市と協議をして特例が認められて軒高41mのビルになったと聞いています」(中野氏)
竣工以来、約半世紀にわたって名古屋の顔として人々に愛され続けてきた。しかし、建物の老朽化にともなって2010 年に建替え計画が発表された。
「建物の老朽化にともなった設備面の不具合とそれに伴う更新の必要性が高まってきたこともあり、発表するかなり前から建替え計画の議論が始まっていました。」(中野氏)
建替え前はホテル「ロイヤルパークイン名古屋」が隣接していたが、本計画では敷地を一体化させた広さで開発が進められた。
「今回、新ビル機能面に関して議論を行った時に、商業機能とオフィス機能に絞ろうと。ホテル機能は切り離して考えることになりました。『ロイヤルパークホテル ザ 名古屋』として、ここから少し東の位置に建替えて、すでに2013 年11 月から開業しています」(中野氏)
開発コンセプトは駅前エリアに緑地の創出
それがシンボリックなデザインを生むことに
建替えに関しては、名古屋市民にとっても驚きだったようだ。
そして旧ビル同様に名古屋を象徴するような建物として生まれ変わってほしいという多くの市民からの声があったという。
「今回の開発で時間をかけたのはビルの外観デザインかもしれません。竣工予定年である2015 年は、同エリア内に私どものビル同様の大規模なオフィスビルが2 棟も建つ。その中で、どのようにしてシンボリックな建物として表現するか、とても大きな課題でした」(中野氏)
長い時間を要した議論の中で、出てきたキーワードは、「緑」であった。
「議論の中で、栄を中心にしたエリアは緑が豊かなのに対し、名駅は少なすぎる。この駅前にも緑地空間を創生したい、という意見があったのです」(村井氏)
決定するまで実に20 以上のデザイン案の中から検討を重ねたという。

完成予想パース
「最終的に、低層部を丘とし、その上に大樹をイメージさせるデザインに決定しました。外壁はガラスファサードで構成し、日射遮断の縦枠をランダムに配置。それらを枝に見立て、窓間部分には枝や葉っぱに見える模様を配しています」(中野氏)
建替えに関しては、名古屋市民にとっても驚きだったようだ。
そして旧ビル同様に名古屋を象徴するような建物として生まれ変わってほしいという多くの市民からの声があったという。
「今回の開発で時間をかけたのはビルの外観デザインかもしれません。竣工予定年である2015 年は、同エリア内に私どものビル同様の大規模なオフィスビルが2 棟も建つ。その中で、どのようにしてシンボリックな建物として表現するか、とても大きな課題でした」(中野氏)
長い時間を要した議論の中で、出てきたキーワードは、「緑」であった。
「議論の中で、栄を中心にしたエリアは緑が豊かなのに対し、名駅は少なすぎる。この駅前にも緑地空間を創生したい、という意見があったのです」(村井氏)
決定するまで実に20 以上のデザイン案の中から検討を重ねたという。
「最終的に、低層部を丘とし、その上に大樹をイメージさせるデザインに決定しました。外壁はガラスファサードで構成し、日射遮断の縦枠をランダムに配置。それらを枝に見立て、窓間部分には枝や葉っぱに見える模様を配しています」(中野氏)
「これによりビルを見る角度によって表情が変わる仕掛けになっています。また、室内からの眺望や窓面を清掃する時のゴンドラ自動制御など、機能性での配慮も行っています」(村井氏)
完成後、駅を抜けると緑の丘と大樹をイメージしたシンボリックな建物が目の前に現れることになる。そして実際にも緑豊かな屋上庭園が配置される。
「低層部には総面積13,000 ㎡の広さを誇る商業フロア。5 層で構成される商業フロアの屋上には2,000 ㎡の屋上庭園『スカイガーデン』が広がります。四季折々の木々を配した広大な憩いの空間となります。加えて1 階部分につきましても、もともとホテルが立地していた北側部分に約500 ㎡のポケットパークをつくります。既存の街路樹を活かし、駅からの緑の視認性を高めることで、潤いを感じさせる空間を提供できるのではないでしょうか」(中野氏)

5階屋上庭園「スカイガーデン」
「基本的に5 階部分はビジネスサポートフロアとして、入居テナント用のラウンジや貸会議室などを導入する予定です。またスカイガーデンに面してカフェなどを配して一般の方へも開放する予定です。」(村井氏)
駅周辺の回遊性を高めて歩行者ネットワークの形成が地域貢献を果たす
「今回の開発では、周辺エリアの回遊性も一つの大きなテーマでした。開発用地の中に名古屋市の市道が含まれており、それを取得したことで開発面積を増やすことができたのです」(中野氏)
今回の開発で街区を分断していた市道が開発用地に組み込まれることになった。街区は大きくなるが、回遊性が低くなるのでは意味がない。それについては名古屋市と協議を重ねて、メイン通りから建物北側への貫通通路を地上部に整備することができた。また、名古屋は地下街が発達している土地ということで、地下街とのバリアフリー化についても検討を行った。そこで今回は、周辺地下街の協力を得て階段部分にエレベーターを追加する工事を計画している。

配置計画
「地下街とのより良い接続は当然に考えていました。ちょうど計画を進めている時に、年配の方が階段を苦労して上り下りしている姿を見て階段はやめようと。エスカレーターの案もあったのですが、思った以上に幅員が必要になるのと、車椅子の方やベビーカー連れの方が使いにくいということからエレベーターの設置に機能変更したのです」(中野氏)
また、このエリア全体の課題として、放置自転車の数が多いという問題点もあった。
「名古屋市で有料の自転車置き場を設置して対応はしていたのですが、少しでも駅に近いビルの裏手や歩道の一部に置かれていることも少なくありませんでした。ビル内に置き場を受け入れられることができるならと名古屋市に提案したのです。当然、敷地のスペースは限られていますので、東海圏では初の約1,000 台を収納できる機械式地下駐輪場を採用しました。その結果、歩道は広くなり、美観も良くなります。さらに盗難防止のメリットも生まれました」(中野氏)
東海圏の地震と水害を想定して防災性能を大幅に向上させた
東海圏での最大級の地震発生を想定して、建築基準法で定められた基準値の1.5 倍程度の耐震性能を確保した。地震発生後も事業の継続が可能となる。
「非常用発電についても、燃料供給源を多重化しているという点が特長の一つになるでしょう。通常、非常用発電はビルの共用部のみに供給されるのですが、このビルではオフィス専用部にも15VAが供給されます。また、非常用発電は重油のみを使ったものが多いのですが、今回は病院や工場などで使用している耐震性の高い都市ガスである中圧A と接続することが決まっています。万が一、ガスの供給がストップした場合でも、重油による発電が可能で高い防災性能を確保。災害対策は万全だと思います」(村井氏)
それに加えて、近年、発生頻度が高い水害への防災対策も行っている。

ビル立面図
「もともと名古屋は海抜が低いため、水害に悩まされてきました。最近では集中豪雨も増えつつあります。近年は2 年に1 回位の割合で集中豪雨が発生し、土嚢を積む作業を行っていました。そんな経験があるからこそ、名古屋独特の水害対策を講じることができたのです。計画では、1 階開口部を中心に防潮板を設置して水のシャットアウトを考えています。このエリア内でも、我々のような1m規模の防潮板を計画したのは初めてではないでしょうか。そして津波など万一の事態に備え、1m 以上の水の浸入も想定して、非常用発電機の一部は地上6 階に設置しています」(中野氏)

基準階平面図
「防災に関しては、設備などのハード面だけでなく、運用部分のソフト面も必要です。例えば、東京・丸の内では必ず年に1 回は防災訓練を行っています。築年数が経過したビルと比較的新しいビルとで合同に行うことで、不便さや問題点を浮き彫りにすることができます。それは毎年実施することで見えてくる。そうしたノウハウは実施数に比例して相当数が蓄積できますので、それらを上手く活かしていきたいですね。そして、それらを継続することで、このビルに合わせた新しいBCP の運営方法が生まれるかもしれません」(村井氏)
「帰宅困難者に関しては、名古屋駅前地区で街づくり協議会が立ち上がりました。これからはビル単体で対応するのではなく、エリア全体でどう対応していくかを検討していきます。個々のビルでの対応ではどうしても限界がありますから」(中野氏)
中部圏の玄関口に相応しいテナントニーズを考えた先進設備の採用
5 層の商業棟の上が業務棟となる。低層バンク(7 ~ 15 階)、中層バンク(16 ~24 階)、高層バンク(25 ~ 33 階)と分かれている。1 フロア面積は約734 坪、天井高も2,850mm と、入居テナントに開放感溢れるオフィス空間を演出する。さらにコの字型の無柱空間のためビジネススタイルに合わせたフレキシブルなレイアウト計画が可能だ。その規模感を最大限に活かすことを考えると統合ニーズに最適であるが、それだけでなく最小35 坪からの分割使用にも応じるという。
ほかにも最新機能を採用して快適なオフィス環境を提供している。その中から特長的な機能を以下に抜粋する。
太陽光追尾型自動ブラインド
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自動的に太陽光の位置を感知して自動的に角度を調整。オフィス内の昼光利用の最適化を図る。
エアーフローウィンドウ
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ブラインドを内蔵した二重ガラスの間に通風。窓の断熱性と日射遮断性を向上させる。
グリッド天井システム
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3.6m×3.6m のモジュールの中に、照明や空調吹き出し口などを配置しているため、容易にレイアウト変更工事に対応できる。
空調ゾーニング
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1フロア9 ゾーンに設定。ゾーンごとに運転・停止・冷暖房切替・温度設定などができ、さらにVAV(可変風量装置)により約44 分割での風量制御が可能。
セキュリティ
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関係者以外のフロアへの侵入を防止するために、各階ごとにエレベーターホールと廊下の間にセキュリティ扉の設置が可能。事務所扉は非接触型IC カードを1 フロアにつき9 ヵ所を標準装備している。
そのほか、高性能な設備が基本スペックとして実装されている。
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OAフロア100mm
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照明700ルクス(LED照明、OAルーバ実装)
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コンセント容量50VA/㎡
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窓ガラス高さ2,440mm(腰壁400mm)
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床荷重500kg/㎡(ヘビーデューティーゾーン1,000kg/㎡)

窓まわりの設備
新ビルは新たな機能の追加だけではなく旧ビルのDNAを継承させながら進化させる
今回の建替計画は、デザインの一新や機能の追加が全てではない。しっかりと旧ビルのDNA も受け継いでいる。
「旧ビルでは1 階エントランスにかなり大量に大理石が使われていました。そのほか1 階エレベーターホール上のモザイクタイル、2 階の瓢箪の形をした手すり。これらは旧ビルの象徴としてきれいに取り外し、新ビルに組み込むことを検討しています」(中野氏)
「そしてなんと言っても最大の継承はビルの名称でしょう。これについては社内で喧々囂々と白熱した議論が行われました。東京のビルの場合は、基本的に建替えた時点で現代仮名遣いに変更しています。しかし旧ビルでは、取り壊す直前まで屋上に名称が出ていたこともあって、地元の皆さんの記憶はあくまでも『ビルヂング』なのです」(村井氏)
結果として各方面からの強い要望を聞き入れ、「大名古屋ビルヂング」と名前を引き継ぐことになった。喜ばしいことに、多くの市民からお礼のメッセージが届いたという。そのほか、1 階車寄せも建替え前のビルで評価の高かったDNAの一つだ。
「車寄せは、敷地に余裕がある場合を除き地下につくることが多いのです。しかし、車寄せを利用される方はVIP の方が多い。それを考えると車から降りたらすぐに建物のオフィスエントランスに到着できるほうがいいのではと。スペースの効率よりもお客様の行動を考えた設計にこだわりました。この考え方は旧ビルからの継承です」(村井氏)
こうして旧ビルからのDNA を引き継ぎながら、新たな機能を追加した大名古屋ビルヂング。完成後は今まで以上に名古屋の顔として市民に愛される建物となるだろう。

車寄せ
「大名古屋ビルヂング」
【建築概要】
所在地 愛知県名古屋市中村区名駅3丁目27番ほか
敷地面積 9,155.56㎡
延床面積 146,698.04㎡
構造 鉄骨造、鉄筋コンクリート造(制震構造)
規模 地上34階・地下4階
駐車場 328台
竣工 2015年10月末(予定)