二俣川駅南口地区第一種市街地再開発事業

2016年12月取材

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記事は過去の取材時のものであり、現在とは内容が異なる場合があります。

創立100周年。第2の創業に向けて「知産知翔」の街づくりを目指す

2017年12月に創立100周年を迎える相鉄グループは、相鉄線二俣川駅前で再開発計画を着々と進行させている。この沿線ではかつてなかった「職・住・遊」をコンパクトに集積した駅直結の大規模開発で、完成後は新たなビジネス拠点の誕生となると期待が高まっている。今回の取材では開発関係者の皆様から、そのポイントについてお話を伺った。

鈴木 昭彦氏

二俣川駅南口地区
市街地再開発組

理事長

鈴木 昭彦氏

齋賀 幸治氏

株式会社相鉄
アーバンクリ
エイツ
開発事業部長

齋賀 幸治氏

二ノ宮 美生氏

株式会社相鉄
ビルマネジメント

営業統括部統括・
リーシング担当
課長

二ノ宮 美生氏

相鉄本線と相鉄いずみ野線の結節点となる二俣川駅

神奈川県横浜市旭区の「二俣川駅」。本駅は相鉄本線の横浜駅 - 海老名駅間のほぼ中間駅に位置する。二俣川駅から湘南台駅を結ぶ路線が相鉄いずみ野線で、それらを総称して相鉄線と呼ぶ。

もともと相鉄線は、相模川からの砂利を運搬するために敷かれた鉄道路線であり、100年前の開業当初は厚木駅からの単線だったという。大手私鉄の中では営業距離が最短であることもあり、全国的に知名度が高いわけではなかった同線が、今、一躍注目を浴びている。

「二俣川は神奈川県運転免許試験場があるため、神奈川県民の間では「二俣川(あるいは二俣)」といえば運転免許試験場の街として知られています」(鈴木 昭彦氏)

運転免許試験場へは二俣川駅北口から行くことになる。そのため、北口には来街者を見越して多くの飲食・物販店舗が集積している。一方、駅の反対側となる南口は、相鉄が運営していたショッピングセンター「グリーングリーン(2014年9月閉館)」はあったが、閑静な住宅地としてのイメージが強い。

「商圏は、二俣川駅から半径約3kmを想定しています。相鉄線沿線では、各駅とも商圏は生活利便施設の色合いが強いため半径約500m程度ですので、沿線の核施設として、かなり広範囲に商圏を想定していることがわかると思います」(齋賀 幸治氏)

一方、二俣川駅南口再開発エリア内には竹林が広がる豊かな自然があった。今回の再開発により、当時からの街のイメージを残すために竹をテーマとした植栽を駅前交通広場に施す予定だ。

「休日などは二俣川駅で下車して、横浜市内でも最大級の面積を誇る『こども自然公園』内の、ちびっこ動物園、とりでの森、青少年野外活動センター、バーベキュー広場、野球場、教育水田など数多くの施設に行かれる方が大勢いらっしゃいます。そんなことからも、『自然との共生』が今回の再開発のテーマの一つになっています。そのことは沿線住民の皆様にもご理解いただいております」(鈴木氏)

二俣川駅の1日あたりの平均乗降客数は、相鉄本線・相鉄いずみ野線合わせて7.7万人(2014年度)だ。それ以前が8万人前後で推移してきたことをみると微減していることがわかる。

「二俣川駅の利用者は、当初の開発時からお住まいになっている方が多いことがその理由の一つに挙げられると思います。今後は沿線にお住まいの若い世代や、現在お住まいでない沿線外の方々にも興味を持ってもらえるような街づくりをしていきます。今回の再開発がその起爆剤になればいいと考えています」(二ノ宮 美生氏)

前述したように、二俣川駅は相鉄本線と相鉄いずみ野線との結節点であり、交通の便はきわめて良好である。都心への行き来も便利だ。例えば、二俣川駅から品川駅への所要時間は27分、渋谷駅へは35分、東京駅へは41分となっている。そして今後は、2019年度下期に相鉄・JR直通線、2022年度下期に相鉄・東急直通線の運行が開始となる予定で、新幹線停車駅である新横浜駅から二俣川駅までは、現在約31分要する所要時間がわずか11分に短縮。ますます利便性の良いターミナルステーションとなることは間違いない。

二俣川エリアの価値創造に取り組む街づくり

今回の再開発計画では、従来のエリアイメージの向上のほか、二俣川駅を利用する多くのお客様に食事や買い物を楽しんでほしい、という狙いがあると語る。

「今まで二俣川のことを知らなかった方々に、利便性が向上し、日常生活に彩りを加える機能を備えたターミナルということを広めたいですね。今までとは違う街のイメージをつくりあげていく。そのために、多くの方々にご意見やご要望をいただきたいと思います。そして集まった声をできるだけ反映させていきたいですね」(鈴木氏)

再開発街区の中に地上29階建てのタワーレジデンス「グレーシアタワー二俣川」がある。2016年8月末、全421戸(事業協力者住居21戸含む)中の380戸が第1期供給として販売開始されたが、かなり短期間で順調にお申し込みいただき、二俣川再開発事業の注目度の高さがうかがえる。

「やはり、これだけの規模の物件となるとそうそう開発することはできません。それだけに、多くのお客様が待ち望んでおられたようです。反響は大きく、『モデルルームはいつできるの?』『いつから販売開始されるの?』としばしば問い合わせがありました。おかげさまで、想像以上に早い反応が出ています」(鈴木氏)

「物件そのものの魅力ももちろんですが、二俣川駅という立地が『マンションのグレードを高めた』ということではないでしょうか。おそらく二俣川駅直結の利便性や周辺環境も評価していただいたのだと思います」(二ノ宮氏)

「住宅棟は杭を使用しない直接基礎構造のため、その構造について時間をかけてご理解いただくように努めました。そんな私どもの姿勢も信頼や評価につながったのだと思います」(齋賀氏)

「この再開発は、色々な機能を組み合わせればエリアが活性化するといった単純な発想で生まれたわけではありません。まず、地元住民の皆様にとって必要なものは何か、どうすれば願いに応えることになるのか、そんな思いから始まりました。周辺エリアは成熟期を迎えており、色々な年齢層の方が生活しています。ですから子育て支援施設や高齢者サポート施設など、『各世代にとっての暮らしやすさ』を考えて構想したのです。せっかく住宅から商業施設、オフィスまでが揃う複合機能都市として生まれ変わるのですから、施設をつくるだけではなく人々の交流やコミュニティも育まれる場になればいいですね。ゆくゆくは『住みたい街ランキング』に入り、日常生活にプラスαが加わる彩りある暮らしを体感していただきたいと思っています」(鈴木氏)

鉄道アクセス

鉄道アクセス

相鉄グループ100周年にあたり中核プロジェクトとなる事業

 相鉄グループは純粋持株会社である相鉄ホールディングス株式会社を中心に、運輸・流通・不動産・ホテルなど約30社のグループ企業によって構成される。グループ名の由来となっている「相模鉄道」の創設は1917(大正6)年12月18日。2017年12月には創立100周年を迎える。そこで、第2の創業に向けたグループビジョン「Vision 100」が策定された。

「『Vision 100』は、もともと2010(平成22)年から2019年度までの10年間を計画期間として進められてきたもので、グループ全体としても非常に大きな目標になります。また、相鉄とJR東日本さん、東京急行電鉄さんとの相互直通運転を開始するとともに、相鉄線沿線ブランドの再構築を企図しています」(齋賀氏)

なお、相互直通運転に関しては、相鉄・JR直通線が2019年度下期、相鉄・東急直通線は2022年度下期の開業予定である。

策定された「Vision100」の中で、沿線の魅力が高まるように沿線や駅を整備対象とした6つの重点開発プロジェクトを展開。現在進行中の「二俣川駅南口地区第一種市街地再開発事業」は、その6大プロジェクトの中核となる再開発計画といえる。

横浜駅を起点とすると、「鶴屋町地区再開発事業」「星川~天王町間整備計画(高架下の活用事業など)」ときて、その次がこの「二俣川駅南口地区第一種市街地再開発事業」となる。

「二俣川の再開発事業は法定再開発事業になります。私たち相鉄アーバンクリエイツは権利者でもあり、再開発組合の事務局として事業推進していますが、今回、商業床、オフィス床、駐車場床の保留床を取得し、あわせて施設計画を推進しています」(齋賀氏)

相鉄グループの沿線再開発計画は、リージョナル(地域)戦略として「都心ゾーン」「下町ゾーン」「コンパクトシティゾーン」「県央ポータルゾーン」「ガーデンシティゾーン」の5つに分かれ、それぞれに開発コンセプトが定められている。「二俣川駅南口地区は『ガーデンシティゾーン』に属し、そのコンセプトは「知性とつながりのある街」となる。

「先行して進められた『相鉄いずみ野線沿線駅前街区リノベーション計画』の中には、いずみ野駅前などすでにリニューアルオープンしているところもあります」(齋賀氏)

各ビル立面図

各ビル立面図

「知産知翔(ちさん・ちしょう)」の標語を掲げて街全体の価値を上げる

 相鉄ビルマネジメントでは、エリアマネジメント(あるいはタウンマネジメント)にも積極的に取り組んでいる。この二俣川駅でも、もともと存在していた組織「二俣川駅周辺再開発協議会」と連携し、再開発地区である南口と北口を結んで継続的なマネジメントを行い、南北一体となった街を創出していくという。

相鉄線沿線はベッドタウンとして発展してきたため、従来は駅前一等地でも比較的小規模なビルが多かった。そうした立地環境で、これだけの大規模オフィスビルの供給は、あるいは挑戦と思われるかもしれない。だが、相鉄グループの考えは違う。

「相鉄グループは、街全体の発展のために、東西自由通路の整備、南北分断していた商圏をソフトとハードをつなぎ、東側と西側、南口と北口を、駅を中心に回遊性を高めます。そのために、専属のマネジメント担当者を配置し、ビル単体だけではない街全体のマネジメントを手がけ、地元の方々と一緒に新たな街の機能開発に取り組んでいきます」(二ノ宮氏)

ちなみに相鉄グループでは、以下「ターンテーブル・モデル」を掲げている。

① トライアルユース:就職を機に一人暮らしを始めた世帯
② ハッピーファミリー:マイホーム購入を機に、親元の近くに移り住んだ子育て世帯
③ アクティブシニア&ジェントルミドル:子どもが独立した老夫婦世帯

そして、上記3世代が共存する街づくりを理想像とし、『選ばれる沿線』の創造を目指している。

「これは街づくりのコンセプトとしての造語なのですが、この二俣川駅でのタウンマネジメントの取り組みについて『知産知翔(ちさん・ちしょう)』という標語を掲げています。これは、二俣川の価値を向上させることによって相鉄線沿線におけるシンボリックな街とし、他の路線との差別化を図る。それと同時に、暮らしの上質感や、地域住民の皆様に安心・安全に加え、情報配信可能な機会や場所を提供することで、地域住民の方が自然に情報発信していけるような街づくりを行うといった意味があります。そのためには、まずは多くの方にこの街の良さを知っていただきたいですね」(齋賀氏)

相鉄グループが唱えているエリアマネジメントの取り組みを促進していくために、開発部隊が竣工させたあとも、引き続き運営部隊がエリアの運営に取り組んでいくという。

「再開発ビルは相鉄アーバンクリエイツと地権者が所有し、相鉄ビルマネジメントに運営管理を一括委託する予定です。完成後もグループ全体でエリア価値の向上に力を注いでいきます」(齋賀氏)

オフィス環境を快適にするビルスペックとワーカー支援施設

「入居いただくテナント企業の業種や業態について絞り込んでいるわけではありません。しかし現在計画が進められている「相鉄・東急直通線」によって、新幹線『新横浜駅』へのアクセスが強化されます。そのため全国の拠点と行き来をする企業様には、この地の優位性を感じ取っていただけると思っています」(二ノ宮氏)

オフィス棟のポイントは大きく3つ。一つは設備面。整形無柱のワンフロア325坪のまとまった面積を確保できるだけではなく、制震化や無停電化などBCP対応機能も充実。本社機能にも、営業拠点としても業種にこだわらず働ける場所となっている。もちろん個別空調システムや遮熱性能の高いペアガラスの採用、高いレベルのセキュリティなど、オフィス環境を快適にするビルスペックも万全だ。

二つ目は立地。横浜駅から特急・急行で1駅、駅からも直結で雨に濡れずに1分で入退館できること。駅改札とオフィスエントランスが直結する2階だけではなく、交通広場のある3階からもオフィスフロアへアプローチできる。

そしてワーカー支援施設の充実だ。ビル5階に子育て支援施設、商業ゾーンには食品売場やレストラン街を設け、またビル内含め近隣には、医療機関や金融機関も揃っている。

「子育て支援施設の設置で、働き方の多様化に対応します。機能のハード面だけでなく、『働く環境』といったソフト面を充実させたことに注目していただきたい」(二ノ宮氏)

さらに前述した交通の利便性が加わる。

「相互直通運転が開始されるため交通アクセスの利便性も格段に向上します。これにより、相鉄線沿線における『ゲートシティ』としての機能を持つことになります。これほど大型のオフィスビルを駅に直結して建てられるのも、二俣川駅が路線の結節点だからこそです」(二ノ宮氏)

「地元としては、『新しくこういうものができる』とアピールすることで、いろいろな考え方を持つ若い人たちに集まってほしいと考えています。組合の理事会では現在(註:2016年12月下旬)、再開発エリア全体の名称がまもなく確定する予定です。ネーミングは、新しく生まれ変わった街のイメージを決定するたいへん重要なものだと認識していますので、覚えやすく、インパクトのある素敵な名前にしたいですね」(鈴木氏)

「二俣川駅南口の再開発は、2018年3月の全体竣工を目指して、まもなく最終段階に突入します。今後、再開発のテーマの一つである 『自然との共生』を具現化するべく、駅前広場に植栽を行うなど、これまで以上に二俣川に人が集まってくるように取り組んでいきます。オフィス棟に多くの企業を誘致することができれば、昼夜問わず賑わいが生まれ、人の流れ、動線も変わるはずです」(齋賀氏)

「二俣川の再開発は『6大プロジェクト』のキーになるプロジェクトであり、相鉄グループとしても最も期待するプロジェクトです。街の人たちからの期待も大きいですし、入居される企業様にとっても、新しい街で第一歩を踏み出せるチャンスだと考えております」(二ノ宮氏)

建物概要(オフィス棟)

所在地:    神奈川県横浜市旭区二俣川2丁目50-1番地(地番)
事業主・建築主:二俣川駅南口地区市街地再開発組合
運営管理:   株式会社相鉄ビルマネジメント
竣工:     2018年3月(予定)
構造:     鉄骨造(一部鉄筋コンクリート造)、制振構造(オイルダンパー)
用途:     7-8階(サービステナント)、9-11階(事務所等)
基準階面積:  1,75.66㎡(約325坪)

床荷重:    300kg/㎡(一部ヘビーデューティゾーン)
非常用発電設備:容量750kVA(ディーゼル)、オイルタンク1950L
受電方式:   2回線受電(予備線)
エレベーター: 乗用2基、非常用1基
駐車場:    47台(オフィス用)
(今後、変更となる場合があります)

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