(仮称)博多駅東一丁目開発計画
2020年10月取材
※記事は過去の取材時のものであり、現在とは内容が異なる場合があります。
「働く人をさらに自由に快適に」をコンセプトにした次世代オフィスビル
博多駅筑紫口の開発「(仮称)博多駅東一丁目開発計画」。現在、2022年7月の竣工を目指して工事が着々と進行している。同開発は福岡市が推進する「博多コネクティッドボーナス」の認定第1号物件となる。今回の取材では、共同事業者であるNTT都市開発と大成建設の開発担当者からお話を伺った。

NTT都市開発株式会社
ビル事業本部
法人営業部
担当課長
山﨑 大祐氏

NTT都市開発株式会社
開発本部
開発推進部
担当課長
川久保 愛太氏

大成建設株式会社
都市開発本部
開発事業第一部
課長
原田 洋輔氏

大成建設株式会社
都市開発本部
開発事業第一部
佐藤 隆大氏

外観全景
九州最大のターミナルである博多駅。空の玄関口である福岡空港まで地下鉄空港線で2駅、海の玄関口である博多港へも車で約10分の好立地に所在。アジアへのゲートウェイとして継続的に進化を遂げている。
「(仮称)博多駅東一丁目開発計画」は、博多駅筑紫口から徒歩4分に立地。西日本最大級のボウリング場といわれた「博多スターレーン」跡地での開発である。博多スターレーンは開業以来、福岡市民に親しまれてきたが、施設の老朽化により2019年3月末をもって閉館。NTT都市開発株式会社と大成建設株式会社の2社による共同事業として、現在、2022年7月の竣工を目指して工事が進められている。
NTT都市開発は、同じ博多駅筑紫口に「アーバンネット博多ビル」を2003年に竣工。その後、安定した稼働を継続させている。その周囲には合同庁舎が立地するなど、同エリアを良質なビジネスエリアとして捉えているという。
「計画地は中比恵公園通りに面し、背後を流れる御笠川を渡れば福岡都市高速環状線の博多駅東料金所まで車で2分とかかりません。営業車で取引先を回る会社も多い。車移動の利便性を考えて、大量の駐車台数を確保できるオフィスビルの建設ならば高い需要が見込めるという思いがありました」(大成建設 原田氏)
博多コネクティッドによる制度を活用しながら博多駅周辺のにぎわいの拡大に貢献する
開発計画の概要はオフィスビル建設と決まったものの、クリアしなければならない課題があった。博多駅は福岡空港までわずか2.5kmの距離。周辺エリアは利便性が高いのが魅力だが、その一方で航空法による高さ制限が存在する。国との個別緩和を適用されている博多口の新築ビルでも高さは約60m。すなわち、建築可能なオフィスビルは大方10階建て程度と考えなければならない。両社は、限られた条件の中でどのようなビルを建てるべきか、協議を重ねつつ基本設計を進めていった。
基本設計がおおよそ固まったところで、福岡市の住宅都市局都心創生部都心創生課が「博多コネクティッド」の本格始動を発表する。その目的は博多駅周辺の活力とにぎわいをさらに拡大させていくこと。認定されると容積率の緩和に加えて、認定ビルへのテナント優先紹介、行政による認定ビルのPRなど、ハードとソフトの両面でインセンティブが与えられる。認定要件は「周辺とのつながり・広がりが生まれる回遊空間の創出」「イベント利用など賑わいが生まれる魅力的な広場空間の創出」「まちに潤いを与える木陰や花、目に映える緑化の推進」「ユニバーサルデザインへの配慮」となっている。そして認定要件を踏まえて同開発コンセプトを「働く人をさらに自由に快適に」と定めた。
「福岡市との協議を進めながら設計修正を行いました。設計を担当された大成建設さんにはいろいろ無理を聞いていただきましたね」(NTT都市開発 川久保氏)
エリア最大級を誇る広場で快適な環境を提供する
そうして策定した設計案は、福岡市の「博多コネクティッドボーナス」の認定第1号物件となった。
「オフィスワーカーや来訪者の皆さんに安らぎや潤いをご提供するため筑紫口中央通りとつながる敷地南側に約280坪の広場を設けました。これは博多駅周辺地区では最大級の広さとなります。南側広場にはシンボルツリーをはじめとして中高木を多数植栽。四季を感じて頂けるような豊かな環境を創出します。建物自体も容積率緩和により地上10階建て、基準階面積670坪超。これも博多駅周辺地区では最大級の規模となります」(大成建設 原田氏)
「街路から自由に行き来できるため、近隣住民の皆様も気軽に参加できるイベントの開催も予定しています」(NTT都市開発 川久保氏)
女性にも働きやすい環境で快適なオフィス環境をサポートする
福岡市の世代別人口構成比は20~30代では女性のほうが多いというデータがある。そこで同ビルの設計には、女性にとって働きやすい環境、女性に優しい設備の導入を意識しているという。
「社内のプロジェクトチームには女性メンバーも多く、彼女たちの意見を積極的に採り入れました。たとえば、トイレの環境。IoTを活用した『スマートノック』というシステムを導入し、センサーで使用状況を感知して空室がひと目でわかるようになっています。それによって待ち時間などの無駄な時間を軽減させます」(NTT都市開発 山崎氏)
またノートPCやタブレットを持って移動するワーカーへの対応として、オフィス専有部の入口ドア前に荷物置きスペースを用意。スムーズな入室に配慮する。その他、女性社員に人気の高いパウダーコーナーやケアスペースの用意。さらに、テナントからの要望があれば1フロアあたり最大2室までトイレ個室の増設工事を可能にする。
「オフィスワーカーの皆さんにランチタイムを楽しんで頂くため、南側広場にはキッチンカーの駐車スペースも設ける予定です」(NTT都市開発 川久保氏)
1階には店舗テナントとしてカフェとコンビニが入るほか、スモールオフィスが設置される。ここは、当初の計画では起業直後のスタートアップオフィスとして2~3人の使用を想定していたが、その後、一区画の収容人数を8~10人に拡張した。入居テナントが貸し会議室やサテライトオフィスとして使用することも視野に入れ、時間貸しや専有使用など多様な契約形態を検討している。また、総務・経理業務のアウトソーシングサービスも展開する予定だ。
「スモールオフィスの概要は10人程度収容できるコンテナを並べたような形状を考えています。1階は5mの軒高があるのでメゾネット形式にすることも検討しています。その場合、どちらか一方を書庫やリラックススペースとして利用できるなど、現在たくさんのアイデアを出し合っているところです」(NTT都市開発 川久保氏)
単に最新の設備を導入するだけでなく、テナントの立場から少しでも利用しやすいようにさまざまな状況をあらかじめ想定し、きめ細かく対応していく。そうすることで、「働く人をさらに自由に快適に」という同ビルの掲げるコンセプトが実現していく。
ABW導入で新しい働き方を提案する次世代ワークプレイス
同ビルの中核施設であるオフィスフロアは次世代ワークプレイスに求められるさまざまな機能を過不足なく備えている。基準階面積670坪超のフロアは最小35坪からの分割利用が可能であり、これを踏まえて1フロア42ゾーンの個別空調方式を採用する(高層階6~10階)。また、構造設計の工夫により外周部の柱を細くすることに成功。限りなく無柱に近い空間となっている。その結果、ミッションや働き方に合わせた自由度の高いレイアウトの構築が可能となった。
「オフィスフロアへの入退室管理には非接触型ICカードキーを標準装備しているほか、1フロア単位で契約されるお客様にはオプションでエレベーターホールにセキュリティの増設工事も可能としています」(大成建設 佐藤氏)
近年は新しい働き方として、働く場所や時間の使い方、仕事のやり方をオフィスワーカー自身が考えるABW(Activity Based Working)を導入する企業が増えつつある。しかし福岡ではまだ導入例が少ないこともあり、ビル側にABWを可能とするさまざまなワークスペースを用意した。
例えば南北の広場、そこから続く1階のエントランスホール内に整備したタッチダウンスペース。敷地内とビル共用部では無料Wi-Fiを提供し、テナントだけでなく外来者も自由に接続できるようにする。

タッチダウンスペース
「屋上にも緑豊かなリフレッシュスペースを設けます。ここでも無料Wi-Fiに接続可能で、天気の良い日は飛行機を眺めながら屋外でも仕事ができる環境を整えました。さらに、館内は高速・大容量、低遅延、多接続を可能とする5G環境を整備しており、NTTグループの先端技術により新しい働き方、新しいクリエイティブ活動に相応しいオフィス環境を提供します」(NTT都市開発 山崎氏)

屋上リフレッシュスペース
「近隣ビルの屋上で温度を計測したところ、博多の残暑の厳しさを改めて実感しました。それで日陰が必要だと感じ、北側広場の約90坪の空地にもスタンディングテーブルやベンチを配置することにしました。そこでは木漏れ日の下で仕事ができる環境となります」(NTT都市開発 川久保氏)

北側広場
「BCPの観点からは、地震に強い制振構造を採用しています。停電対策としては屋上に受変電設備と非常用発電機を設置して重要設備への浸水対策としています。また、非常用発電機は共用部に最大72時間電力を供給できるだけでなく、オプションで専有部への電源供給も対応する予定です」(大成建設 原田氏)
なお、屋上にはテナント専用の非常用発電機を設置するスペースを用意する。また、エントランスに設置されたデジタルサイネージは、通常時はテナント案内や館内情報が流れているが、非常時には災害情報などをリアルタイムで提供する計画だ。
「筑紫口中央通り沿いでは現在、福岡東総合庁舎の建替え計画が進行していることもあり、博多駅東口の一帯は今後、多くの来訪者が集う場所へと変わっていくでしょう。そのトリガーとなるような開発になればいいですね」(NTT都市開発 川久保氏)