名古屋シミズ富国生命ビル

2023年9月取材

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※記載の内容については、現計画段階のものとなりますので、詳細は今後変更となる可能性があります。

名古屋・丸の内に次世代のワークスタイルを
取り入れた大規模オフィスビルが誕生する

名古屋圏のビジネスの中枢を担う中区丸の内。同エリアで大規模オフィスビル「名古屋シミズ富国生命ビル」の開発が進行している。同開発は、富国生命とシミズグループの共同フラッグシッププロジェクトとなる。今回は、プロジェクトの背景や新ビルの特長についてお話しを伺った。

荻原 惇史氏

清水建設株式会社
投資開発本部
プロジェクト推進一部
主任

荻原 惇史 氏

濱田 咲子氏

清水建設株式会社
投資開発本部
プロジェクト推進一部

濱田 咲子 氏

名古屋圏で、金融・ビジネスの中枢を担う「丸の内」エリア

名古屋市中区丸の内。中部エリアを代表する大ターミナルである「名古屋」駅から名古屋市営地下鉄桜通線でわずか2分の距離に位置する。日本銀行名古屋支店をはじめ、名古屋圏の金融・ビジネスの中枢を担うエリアである。この地でシミズグループと富国生命は50年以上にわたり、エリアの発展に寄与してきた。今回の再開発「名古屋シミズ富国生命ビル」は、清水建設株式会社、清水総合開発株式会社、富国生命保険相互会社の3社によるフラッグシッププロジェクトとなる。

「丸の内エリアでは10年以上、大規模オフィスビルの新規供給がありませんでした。働き方自体が大きく変わってきたこともあり、本プロジェクトでは時代のニーズに対応できる先進的なオフィスビルの開発を目指します」(荻原氏)

計画地は、「名古屋」駅を起点に市内を東西に走る幹線道路「桜通り」に面した3方角地。かつてこの地には清水建設名古屋支店の木造社屋が建てられていた。その隣地に富国生命ビルが建設されたのは1967年のこと。その後、清水建設名古屋支店は道路向かいの賃貸ビルに移転。社屋跡地は大型の駐車場として運営されていた。そんな2社が共同事業を模索し始めたのは1985年頃だったという。

「その時点では具体的な事業計画にはならなかったみたいです。今回の開発では、富国生命創業100周年が背景にあります。それで2021年から具体的なプロジェクトがスタートしたのです。工事の着工は202110月。竣工は2024年3月を予定しています」(荻原氏)

建物外観

建物外観

次世代オフィスの開発コンセプトは
「多様な働き方に応える超環境配慮型オフィス」

同ビルは「多様な働き方に応える超環境配慮型オフィス」を開発コンセプトに掲げた。そのコンセプトに基づき、ニューノーマル時代の働き方を見据えたワークプレイスの創出や省エネ・創エネの促進に取り組んでいく。

「新型コロナウイルスというパンデミックの中で、オフィスでの働き方が大きく変わってきました。当面はコロナ禍の環境が持続すると考えており、感染症対策にも気を配った設計プランに見直す必要がありました」(荻原氏)

プロジェクトについては清水建設側から提案を行い、それに対して富国生命の意見を取り入れていくというスキームとした。

「富国生命様は、数多くのオフィスビルを所有して全国展開をしています。多くの成功事例もお持ちです。過去の取り組みや次世代に向けてのアイデアなどを、協議することができました」(濱田氏)

環境性能については、基準一次エネルギー消費費50%以上のエネルギー削減を実現させる。また、東海三県の大規模マルチテナント型では初めてとなる「ZEB Ready」認証や「CASBEE Sランク」認証の取得を予定している。そのほか、「超環境配慮型」オフィスを実現するために、数多くの省エネ技術を採用する。こうした先進的な取り組みが評価され、国土交通省が選定・支援を行う「サステナブル建築物等先導事業」に採択されている。

空調については、天井内冷却式放射空調装置を導入。天井内に冷気を溜め、天井面の放射効果とファン付き吹き出口からの冷風により室内温度を調整し、運転の最適化を行う。また、専有部には床吹き出し換気システムを採用して、新鮮な外気を供給する。従来の空調システムと比較すると、20%ほどのコスト削減が可能だという。

「クライマーブラインド(下からせり上がってくる電動のブラインド)の採用も、当ビルの大きな特長の一つです。当ビルの柱は、建物の外側に出すことで庇の役割も果たす設計にしています。そのため、日射角度の高い昼過ぎまではほぼ直射日光があたらない仕組みとなっています。クライマーブラインドを採用することで、日射の負荷を低減しつつ、眺望を楽しんでもらえる工夫をしました」(濱田氏)

創エネの一環では、最先端のテクノロジーを取り入れたソーラー舗装パネルを屋上テラスの一部に導入することを検討している。

フレキシブルな専有部と多様な働き方を提案する共有空間

同ビルの完成後は、地上16階建の規模となる。外観は、名古屋旧来からの碁盤割の街並みをイメージ。地元に根づいている象徴的なデザインとする。

1階~3階には完全自走式の駐車場を配置し、210台収容可能です。名古屋は、自動車を移動手段とする企業が多いので、その特性を踏まえた設計となっています」(濱田氏)

4階~15階がオフィスエリアとなる。1フロア面積は約714坪。名古屋市内最大級の広さとなる。

基準階平面図

基準階平面図

「フロアプレートは大きいですが無柱空間であり、天井高も2,900mmを確保していますので、開放的な空間でワーカーの皆さまの業務をサポートします」(荻原氏)

フロアは最大12分割を可能にし、最小面積約36坪での提供も可能だ。また、オフィスの4つのコーナーにはバルコニーを設置。リフレッシュできる快適空間でありながら、避難経路としての防災性向上に寄与する。

専有部バルコニー

専有部バルコニー

そして、各階共用部には吹抜け空間を設け、建物全体に自然の光と風を取り込む。

「吹抜け空間に面した部分には共用の会議室やリフレッシュスペースを設置します。この会議室は階段で行き来できますので、気分転換に違うフロアの会議室を使用することも可能です。これはABWの機能をビル側で提供するものです。これにより多様なワークスタイルを提供できると考えています」(荻原氏)

「北側の共用バルコニーは、奥行き3m、幅15mの広さです。周囲の建物の高さや眺望など、バランスを考えた設計をしています」(濱田氏)

北側共用部吹き抜け空間

北側共用部吹抜け空間

そして16階が同ビルの最大の特長である「テナント専用ラウンジ」となる。多様な機能を用意し、快適性と実用性を備えた空間となっている。

グレードの高い会議室を配したノースラウンジ、無料で使えるWEB会議ブース、オープンワークスペース、集中作業に適したフォーカスルームと趣の異なるゾーンを備えたサウスラウンジを用意。さらにリフレッシュが図れるガーデン、パークエリア、フォレストエリアといった屋外スペースを配する。

ノースラウンジ 会議室

ノースラウンジ 会議室

サウスラウンジ フォーカスエリア

サウスラウンジ フォーカスエリア

サウスラウンジ カンファレンス

サウスラウンジ カンファレンス

ガーデン

ガーデン

「収益だけを考えると、すべて貸室にした方が理想なのかもしれませんが、コンセプトである『多様な働き方に応える超環境配慮型オフィス』を実現し、ワーカーの皆様の働き方をサポートするためには、多様な共用空間をビル側で提供する必要があるという結論に至りました」(荻原氏)

安心のBCPと地域に開かれた空間で丸の内エリアから賑わいを発信する

BCP対策についても紹介しておこう。未曽有の大災害を想定して基礎免震構造を採用した。仮に震度6強の地震が起きても主要業務の遂行が可能で、この構造の採用は名古屋の大規模オフィスビルで初の試みだという。その他、ガスタービン型の非常用発電機を設置。72時間の電力を確保する。また、本線と予備線による2回線受電方式を採用し、1方向からの送電が停止しても、もう一方のルートからの電力供給を可能にする。防災備蓄倉庫も完備し、一時滞留者に対し3日分に相当する食料・飲料水などを蓄える。

ビルの竣工後は、シミズグループで施設の管理・運営を行っていく。そのビル管理をアップグレードするために、清水建設が開発したシステム「DX-Core」を使用する。

「例えば、エレベーターと清掃ロボットを連動させたい場合、従来はエレベーターを提供する会社とロボットを提供する会社同士が、直接システムを組み合わせる必要がありました。その部分に手間や時間がかかっていたのですが、このシステムを採用することで、簡易的な連動が可能になります」(荻原氏)

さらに、これまで時間外空調の申請や共用会議室の予約、光熱状況の確認といったテナント企業とのやり取りは各種書類を紙で提出することで、手続きが行われていた。新ビルでは全てアプリ上で行えるようになる。

「各種用紙を提出するといった旧態依然の方法ではなく、新たなビルマネジメントの形を提示していければと思っています。覚えるまでは面倒かもしれませんが、慣れてくればテナント企業の皆様の手間も大幅に削減できます」(濱田氏)

ビル館内の清掃にはソフトバンクロボティクスのSmartBXを採用。最先端のロボティクス技術を駆使し、センサーとの連動と独自の品質管理指標により最適なタイミングで自動清掃を行うことを目指す。1階の警備には警備員の代わりに警備ロボ「SEQSENSE」を導入する。来訪者に威圧感を与えないための配慮でもある。

そして1階のエントランスとピロティには広々とした快適な空間を用意する。エントランスは前面道路のイチョウ並木と調和した開放的なスペースで、地産木材を使った連続壁により木の香りが人々を迎え入れる。緑や自然素材に囲まれたピロティにはドライミストを装備。キッチンカーを誘致して地域の賑わいを演出する。ピロティでは、多彩なお店の誘致や、地域密着型のイベントを実施といった企画も検討中だという。

エントランス

エントランスとピロティ

「計画地の近くに円頓寺商店街という魅力的な街並みがあります。最近は観光地にもなっているエリアです。この商店街の方々と協業の話もさせていただいています。清水建設も富国生命もずっとこの地で営業展開をしてきました。信頼感という背景の中で現実的な話になりつつあります」(濱田氏)

「本プロジェクトの計画にあたり、名古屋市内のオフィスビル所有者の方にヒアリングをさせていただいたことがあります。それによってお互いが競合他社として敬遠するのではなく、『一緒に名古屋を盛り上げていこう』という同じベクトルを持ち合わせていることがわかりました。そんな気質も名古屋の魅力だと思っています」(荻原氏)

※開発中のため掲載の内容及び仕様設備等は、今後変更となる可能性があります

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