日本橋室町東地区再開発計画 前編

2012年10月取材

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※ 記事は過去の取材時のものであり、現在とは内容が異なる場合があります。

歴史と伝統の街「日本橋」で「残しながら、蘇らせながら、創っていく」をコンセプトにした官民地元が一体となった開発が進行中

現在、日本橋室町東地区で大規模な再開発が進行している。この開発は、「日本橋再生計画」の一環で、三井不動産が主体となって行なわれている開発だ。日本橋エリアは日本を代表する商業発祥の地の一つで、現在も多くの老舗が店舗を構えている。歴史と伝統の街で行われている大規模な街づくり。今回は、開発と保存といった本来相反することを両立させる難しさについて三井不動産の日本橋街づくり推進部長である新原昇平氏にお話を伺った。

新原 昇平氏

三井不動産株式会社
日本橋街づくり推進部長

新原 昇平氏

日本橋全域の鳥瞰(イメージパース)

日本橋全域の鳥瞰(イメージパース)

江戸時代に、本格的な都市づくり計画の中で誕生した日本橋

日本橋エリアの歴史は、今から410年前に始まる。1603年、徳川家康による江戸幕府開幕が本格的に都市づくりを行う計画の中で日本橋が誕生した。江戸開幕後、五街道が整備。日本橋川に架橋され東海道の起点である「日本橋」、日本橋川の両岸に設けられ舟運の荷を陸揚げするための「河岸」、江戸の台所として発展した「魚河岸」、「金座」の創設による日本橋の金融センター化、当時の娯楽の中心であった「江戸歌舞伎」など、日本橋エリアは、物流・商業・金融・娯楽の中心地であった。今でもその暖簾を代々引き継いでいる老舗も多く、長い間にわたって江戸の玄関口としての役割を果たした。ちなみに三井グループの基となる「三井越後屋呉服店」も、江戸時代に日本橋エリアに誕生しており、百貨店の開店時に「三越」と商号変更されたのは有名な話だ。
その後、関東大震災や第二次世界大戦により大きな被害を受けながらも、いち早く復興を遂げ、一大ビジネスエリアとして復活。見事に再生を果たす。現在、日本橋エリアは日本銀行本店や東京証券取引所、野村証券本社、メリルリンチ日本証券本社などが立地する日本を代表する金融街のほか、三越や髙島屋といった老舗百貨店、問屋街、多数の製薬メーカーが本社機能を構えるなどの多面的な顔を持つ。

将来にわたって続く「日本橋再生計画」
コンセプトは「残しながら、蘇らせながら、創っていく」

その歴史と伝統の街で大規模な街づくりが進められている。それが官民地元が一体となって推進している「日本橋再生計画」だ。日本橋再生計画の対象エリアは、日本橋駅界隈だけではなく、かつて現在の中央区の北部に存在していた旧日本橋区のエリアになるという。具体的には馬喰町や人形町・箱崎町といった広域の日本橋を示す。文化や伝統はそのまま残し、新たな価値を創生していく。かつての日本橋エリアの賑わいを取り戻すという思いを実現するために街づくりを推進するものだ。その開発の基本方針を紹介しよう。

基本方針① 残しながら

街づくりの原点は、長く受け継がれてきた大切なものを未来に残すこと。
(街の文化、日本の技、地域コミュニティ、日本人の心、歴史的建造)

基本方針② 蘇らせながら

過去に学び、先人の知恵を借りて街の再生に取り組む。
(経済・交通の発展とともに失われた街の景観・機能・賑わい)

基本方針③ 創っていく

過去から未来へ。長期的視野に立って時代の求める価値を創造する。
(次世代に向けた新しい機能を加える)

「歴史、コミュニティ、水辺の活用といったキーワードで魅力的な街づくりを目指します。魅力的な街づくりとは、日本橋らしさを考えた開発を指し、他エリアとの差別化を実現する戦略のことでもあります」

日本橋再生計画のスタートは、2004年竣工の「日本橋一丁目ビル(COREDO日本橋)」に始まる。その後、2005年竣工の「日本橋三井タワー」へ。「日本橋三井タワー」は、1929年に建てられた重要文化財「三井本館」に隣接する超高層ビルで、今では日本橋を代表するランドマークとなっている。

中央通り景観

中央通り景観

「日本橋を、どこにも負けない日本一のオフィス立地として引き上げなくてはと思っています。例えばテナントの候補となる企業が大手町・丸の内エリアのオフィスビルと比較した際に、どのように差別化ができるかを常に意識しています」

日本橋エリアには、他のオフィス立地にない優位性があると断言する。

「例えば、震災の後、各社ともにBCP 対応にかなり力を入れるようになりました。しかし、スペック自体は、ある程度の規模を持つビル同士で比較してもそんなには変わらないわけです。スペックが大きく変わらないのであれば、ビルが立地する街全体の魅力をどれだけ引き上げていけるかが差別化につながるのではと思っています。今後はその部分がオフィスマーケットに大きな影響をもたらすのではないでしょうか」

コラム1 日本橋の保存活動

一級河川である「日本橋川」に架かる日本橋。その名橋「日本橋」を後世に伝え、地域社会の発展することを目的に数々の取り組みが行われている。以下、日本橋エリアで行われている取り組みを紹介しよう。

  • 「名橋『日本橋』橋洗い」
    昭和43年にスタートした保存活動。日本橋を大切に美しく保存するために毎年一回(7月第4日曜日)に開催している。

  • 「全国こども橋サミット」
    橋そのものの文化的意義や歴史、地域の環境問題を考えるこ
    とを目的に誕生、全国から集まった子供たちが積極的に意見交換を行っている。

  • 「NPO法人 はな街道」
    日本橋・京橋エリアの沿道住民などの参加により形成。沿道
    の美化、その維持活動を行っている。平成18年からNPO法人となった。

  • 「名橋『日本橋』保存会」
    日本橋とその周辺の環境を守り、地域の活性化を図ることを
    目的に活動している。2012年は、架橋100周年を記念して25年後に開封予定のタイムカプセルの設置を行った。

  • 「日本橋地域ルネッサンス100年計画委員会」
    今後の100年の中で、日本橋にかつての賑わいを取戻し、日
    本の顔として再性させることを目的に活動。次世代に向けた街づくり策を提言している。

面的な開発となる「日本橋室町東地区開発計画」その開発総面積は、180,000 ㎡超

その「日本橋再生計画」の一環として行われているのが、「日本橋室町東地区開発計画」となる。それは、5つの街区からなる大規模な一体開発で、オフィス、商業施設、賃貸住宅、多目的ホール、シネマコンプレックスなどの機能を持つ。その開発総面積は、180,000㎡超。まさに東京ドームの約4個分だ。

「過去の2棟の開発は中央通り沿いの単体の建物の開発でしたが、今回の開発計画は面的な開発となります。メインである中央通りをセントラルアベニューとしながら、低層部分を三井本館や三越日本橋本店などの歴史的建造物と調和させます。具体的には100尺(31m)ラインでの統一を考えています。さらに高層部はガラスと金属を用いたファサードとし、圧迫感を与えないように配慮したデザインにしています。スカイラインに関しては、今後の開発においても各社様との調整次第ではありますが、進めていきたいと考えています」

街区に関しての"街づくり"の具体案も伺った。


江戸桜通り(イメージパース)

江戸桜通り(イメージパース)

「通りの一つである『江戸桜通り』は、現在日本銀行の前から桜を植えており地元の桜の名所となっています。この植樹を伸ばしていって、日本橋をさらに桜の名所にしたいと思っています。それに伴い、歩きやすいように歩道を広げる計画もあります」

それらに加えて「道路の石畳化」「電柱の地下化」など、路地街区の整備を行い魅力ある街の創生を意識しているという。すべてが完了するまでにまだ何年もかかるとは思うが、全く違う表情に囲まれる日本橋の姿を想像するだけでも楽しい。

単なるビルの集合体をつくるのではない 街づくりとともに進むオフィスビルの開発

それでは、「日本橋室町東地区開発計画」で進行している具体的な街区の概要について紹介しよう。開発の対象となっているのは、「1-5街区」「2-2街区」「2-3街区」「2-4街区」「2-5街区」の合計5つの街区で形成される。
「1-5街区」は地下4階・地上17 階建のオフィス・商業施設からなる複合施設だ。地下1階~地上5階は商業ゾーン、地上8階~16階がオフィスゾーンとなる。竣工は2014年1月、商業ゾーンのオープンは2014年3月を予定している。
「2-2街区」は2010年10月に竣工している室町東三井ビル(COREDO室町)。地下4階・地上22階の規模に飲食・物販を中心とした商業ビルである。日本橋の歴史を活かしつつ新しさを取り入れた特徴的なビルとなっている。
「2-3街区」は地下4階・地上22階建の複合ビルだ。2014年1月の竣工を目指し、竣工後はオフィス、商業施設だけでなく賃貸住宅やシネマコンプレックスの入居が決定している。

街区

「2-4街区」には2010年9月に竣工した地下5階・地上21階建の日本橋室町野村ビル(YUITO)と2013年3月に竣工予定の(仮)千疋屋日本橋ビル、福徳神社社務所で構成される。
「2-5街区」は、福徳神社の施設が中心となる。2014年夏に竣工予定だ。

「スケジュール的には、2014年1月に竣工、同年3月に商業施設のオープンを予定しています。最後に福徳神社を復元することでこの開発計画は完了となります。完了するのは「日本橋室町東地区開発計画」であって、「日本橋再生計画」は将来にわたって継続していきます」

「日本橋室町東地区開発計画」は、単にビルの集合体を建築するわけではない。あくまでも"街をつくる"のが目的となる。それは路地裏神社の参道を含めての街である。トータルな機能を兼ね備えた街をつくり、それによって日本橋全体の価値向上をはかり、他のオフィスエリアを凌駕するものを目標としている。


江戸桜通り下地下歩道(イメージパース)

江戸桜通り下地下歩道(イメージパース)

「何を持ってオフィスエリアに付加価値をつけるのか。例えばBCP対応でも、個別のビルごとに対応するのではなく、日本橋エリア全体での対応を考えています。日本橋の特長を活かす。それは、街の絆が強いということです。ですから何か起きたときは街全体で防災活動を考えています。具体的には、1-5街区北側の『江戸桜通り下地下歩道』を中央区と共同で整備し、中央通りの地下拡幅国道事業と一体となって約3,000㎡の地下広場空間をつくります。災害時には防災拠点として約3,000人の収容を可能とし、帰宅困難者へのサポート、災害情報の提供、防災備蓄品などの提供を行う予定です」

企業のBCP活動という観点で見ても、「2-3街区」では制振構造とするほか、最上級クラスの耐震基準を持つ昇降機の採用、非常用発電機の72時間対応などの共用部の機能維持を図っている。さらに各テナント区画に対しては15VA/㎡の電源供給を可能としている。

日本橋らしさを追求することが理想とする街づくりにつながる

「地元との固いコミュニティにより街中で祭りが行なわれる。祭りが始まるとビジネス街の中で神輿を担ぐ。その通り沿いには最先端のオフィスビルと歴史的建造物が共存している。ほかに目を向けると劇場やシネマコンプレックスといった娯楽施設までもが整備されている。こんな街はなかなかないですよね。これが日本橋の進むべき方向だと思っています。常に日本橋らしさを追求していきたいと思っています」

今後は、外資系企業を積極的に誘致していきたいと望んでいるという。そのためには、外国人向けの医療施設や教育機関などのインフラが必要だと認識している。

「そのように色々な要素を連携させることで魅力的な街が誕生すると思っています。そして色々な機能を持ったビジネスエリアこそが日本橋ならではの魅力だと思います」

コラム2 福徳神社の再生

日本橋室町にある福徳神社。千年以上前からすでにこの地に鎮座していたという。神社の主祭神は「宇迦之御魂神」で五穀豊穣の神様。この辺りがまだ田園地帯で、武蔵野国豊島郡福富村と呼ばれていた時代があったそうで、その当時から「福富稲荷」として祀られていた。その後、天保の改革や関東大震災、第二次世界大戦などで姿を消すことがあったがそのたびに再建され、細々と存続していた。2014年に「2-5街区」内に鳥居、拝殿などが建設されて、「福富の森」として生まれ変わる。

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福徳神社

(イメージパース)

日本橋室町東地区開発計画 全体概要

1-5街区

敷地面積 約1,945㎡

延床面積 約29,120㎡

建物規模 地下4階-地上17階(最高高さ:約80m)

構造 鉄骨造(一部鉄骨鉄筋コンクリート造・鉄筋コンクリート造)

用途 オフィス、商業施設

竣工 2014年1月(商業開業:2014年3月)

1-5街区

1-5街区

2-2街区 室町東三井ビル(COREDO室町)

敷地面積 約2,454㎡

延床面積 約41,000㎡

建物規模 地下4階-地上22階(最高高さ:約105m)

構造 鉄骨造(一部鉄骨鉄筋コンクリート造・鉄筋コンクリート造)

用途 オフィス、商業施設、多目的ホール

竣工 2010年10月(商業開業:2010年10月)

2-3街区

敷地面積 約3,723㎡

延床面積 約63,000㎡

建物規模 地下4階-地上22階(最高高さ:116.05m)

構造 鉄骨造(一部鉄骨鉄筋コンクリート造・鉄筋コンクリート造)

用途 オフィス、商業施設、シネマコンプレックス、賃貸住宅

竣工 2014年1月(商業開業:2014年3月)

2-3街区

2-3街区

2-4街区 日本橋室町野村ビル(YUITO)

敷地面積 約2,744㎡

延床面積 約46,400㎡

建物規模
地下5階-地上21階(最高高さ:約108m)

構造
鉄骨造(一部鉄骨鉄筋コンクリート造・鉄筋コンクリート造)

用途
オフィス、商業施設、集会施設、サービス店舗

竣工 2010年9月

2-4街区(仮)千疋屋日本橋ビル

敷地面積 約389㎡

延床面積 約3,500㎡

建物規模 地下2階-地上9階(最高高さ:約50m)

構造
鉄骨造(一部鉄骨鉄筋コンクリート造・鉄筋コンクリート造)

用途 オフィス、商業施設等

竣工 2013年3月

2-4街区 福徳神社社務所

敷地面積 約124㎡

延床面積 約81㎡

建物規模 地上2階(最高高さ:約8m)

構造 鉄筋コンクリート造

用途 社務所

竣工 2011年7月

2-5街区

敷地面積 約528㎡

延床面積 約1,100㎡

建物規模 地下2階-地上2階(最高高さ:約15m)

構造
鉄骨造(一部鉄骨鉄筋コンクリート造・鉄筋コンクリート造)

用途 福徳神社施設、倉庫、商業施設

竣工 2014年夏(商業開業:2014年夏)

三井不動産プレスリリースから作成

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