大手町連鎖型都市再生プロジェクト第3次事業

2014年10月取材

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記事は過去の取材時のものであり、現在とは内容が異なる場合があります。

連鎖型都市開発の仕組みを使って国際ビジネス拠点を創出するプロジェクト

換地の手法により業務を停止させることなく新しい建物へのスムーズな移転を可能にした大手町連鎖型都市再生。その第3次事業の工事が2016年4月の竣工に向けて進行している。大手町の立地特性を生かした連鎖型都市開発の仕組みと第3次事業の概要について、プロジェクトを推進している三菱地所株式会社の構氏にお話を伺った。

構 倫明氏

三菱地所株式会社
丸の内開発部
副長

構 倫明氏

大手町北からワイド画面

大手町北からワイド画面

連鎖型都市再生プロジェクトは2003年から始まった

大手町は24時間体制で業務を行っている金融や情報通信、マスコミなど、日本経済界の中心的な役割を担う企業が集積しているエリアだ。その一方で、大手町に位置する企業の建物は老朽化が進み、「BCP対応への不安」や「高度情報化への不満」といった状況が生じていた。加えて、さらなるグローバルビジネスの拠点としての再構築への要望も高まっていた。このような課題解決のために誕生した都市再生スキームが「連鎖型都市再生」だ。そのスキームを利活用して「大手町連鎖型都市再生プロジェクト」が進行している。連鎖型は、本社機能が自社ビルや一棟貸し等の形で集約され、大手町のような重要立地から離れることができない企業にメリットが発揮される。

連鎖型都市開発は2003年1月に都市再生プロジェクトが決定されたことに始まる。開発決定後の流れは以下の通りとなる。

連鎖型都市再生プロジェクトの流れ(抜粋)

「このプロジェクトは、賑わいのある国際的なビジネス拠点としての大手町を再生することが目的で、今回が第3次にあたります。第1次事業では国の合同庁舎1・2号館跡地を民間出資会社である大手町開発と都市再生機構で所有。その跡地での開発を希望する日本経済新聞社と日本経済団体連合会、全国農業共同組合連合会が事業参加地権者となりました。当社は事業パートナーとして加わっています。第2次事業では日本政策金融公庫と日本政策投資銀行、それと三菱地所が事業参加地権者です。土地区画整理事業の換地の手法を活用することによって、場所を変えながら複数回にわたり段階的かつ連続的な建替えをする。それにより大手町地区の地権者が業務を停止することなく地区の再生を実現することが可能となるのです」

「使っている事業手法は既存の土地区画整理事業と市街地再開発事業、それに都市再生特別地区としての制度。これらをうまく組み合わせて進めています」

「この土地区画整理というのは実は都心では使いにくいもので、新たに生まれる道路などの公共施設を整備するためには、減歩(注1)の必要があります。土地の面積は減ることになりますので土地の価値の上昇が求められます。郊外型の開発でしたら道路の広さや駅までの距離などを改善することによって価値を上げることは可能です。ところが今回は大手町というすでに完成されたエリアでのこと。土地の区画整理だけでなく、建物が完成した後の評価まで考える難しさがありましたね」

「まとめて一度で開発ができれば楽なのですが、これだけの大企業が同じ時期に同じタイミングで意思決定をするのは不可能に近い。ですからブロックごとでの意思決定で進められるこの手法しかなかったわけです。できるところから進めていく。換地(注2)そのものは土地区画整理事業で行いますが、その後の開発は各地権者が合意をして進めることができます」


外観イメージ

外観イメージ



(注1 ) 減歩(げんぶ):土地区画整理事業に必要な土地を地権者から一定の割合で少しずつ提供してもらうこと。地権者の面積は減少するが、一般的には道路や公園等の整備により宅地の利用価値や資産価値が上昇する。

(注2 ) 換地(かんち):土地区画整理事業において事業の施行前の土地に代わるべきものとして交付される宅地のこと。工事の完了時に施行者は定められた事項を通知して処分を行う(換地処分)。処分の公告があった翌日から、定められた換地は従前の宅地とみなされる。

連鎖型都市再生プロジェクトの流れ

大手町地区

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第1次事業概要

工事期間

2007年4月~2009年4月

施行者

有限会社大手町開発

参加地権者

全国農業共同組合中央会、全国農業共同組合連合会、農林中央金庫、一般社団法人日本経済団体連合会、株式会社日本経済新聞社

事業パートナー

三菱地所株式会社、NTT都市開発株式会社、東京建物株式会社、株式会社サンケイビル

第2次事業概要

工事期間

2010年4月~2012年12月

施行者

独立行政法人都市再生機構(代表施行者)、三菱地所株式会社(共同施行者)

参加地権者

株式会社日本政策金融公庫、株式会社日本政策投資銀行、三菱UFJ信託銀行株式会社、東京地下鉄株式会社、三菱地所株式会社

特定建築者(A棟)

N TT都市開発株式会社、三菱地所株式会社、東京建物株式会社株式会社サンケイビル

国際競争力を強化するビジネス支援機能を整備

第1次・第2次事業合わせた開発の名称は「大手町連鎖型都市再生プロジェクト」。そしてこの事業は「国際金融拠点である大手町地区にふさわしい先駆的なビジネス支援機能、国際ビジネス拠点として必要な機能の提供」という共通のコンセプトのもとで開発を行ってきた。

「第1次のときは国際カンファレンスセンターの設置、第2次のときは国際メディカルモールや国際的な金融人材を育てるための『金融ビレッジ』という場を提供いたしました」

第3次事業では「(仮称)海外企業等支援センター」の整備を行う予定だ。主な目的は海外企業等のビジネス開発支援と誘致等のワンストップでの実施となる。

「今後、日本への進出を検討している企業に対して、積極的にアプローチをしていきます。まずは日本に慣れてもらおうと。スタート段階での利用もあると思いますので小割のオフィスの提供も行う予定です」

「すでに新丸の内ビルで展開している事業開発支援による需要喚起型誘致拠点「EGG JAPAN」の運営ノウハウを活用。日本でのビジネスパートナーの紹介や新規事業の相談、行政手続きの支援など、アドバイスや情報の提供を行います」

そのほか宿泊施設棟には世界に向けて日本文化の魅力を発信する星野リゾートの最高級ブランド「星のや」が、同社初の試みとなる都心のビル型施設として宿泊施設棟に全館入居する。2014年7月には温泉の湧出を発表。分析の結果、「療養泉」として正式に認定されている。この「大手町温泉」は、訪日外国人に対する "日本ならでは" の魅力の発信に寄与するほか、災害時に開放されることで災害活動要員などの衛生環境向上を図る。

東日本大震災の経験から生まれた高度防災都市づくりの取り組み

計画立案の途中で東日本大震災が発生。「防災」に関しては抜本的に見直されたという。

「おそらく大手町地区のオフィスビルは、他社様のビルも含め、どのビルも一定程度以上の耐震性能を持っているので、大規模地震においても建物の倒壊リスク自体は小さいと思います。ただ、周辺からの影響は受けるだろうと。ですから最重要ライフラインである電気と水に関してはビル内で自立できる設備を確保し、周辺で電気や上下水道が止まったとしてもビル内では通常の業務ができる設計となっています」

「災害時の電力供給に関しては、ビル用非常用発電機を設置します。これはA重油と中圧ガス(都市ガス)の双方で対応。電力供給が途絶えた時でもビル共用部への供給が可能となります。ガスが停止した場合でも、ビル内にA重油を備蓄しているため72時間の電力供給が可能です。さらに導入したコジェネレーションシステムを常用運転させ、ビル全体の約25%程度の電力供給を予定しています」

水の自立性を高めるために井戸を掘削。井水を飲用可能な水質に濾過する設備を設置する計画だ。

「常用時は普通の飲用水を使いながら、災害時には全ての上水道の機能を井水にシフトします。下水だけ災害時に使用するというのは設計的に難しいので、下水に関しては常時自立システムを使用します。汚水についてはバクテリアを使った独自の浄化施設で処理をして日本橋川に放流する機能を整備します」

さらに災害時の帰宅困難者対応として一時滞在施設や備蓄倉庫を整備。特に免震構造を採用したB棟(宿泊施設棟)では、災害時に救護等の活動に従事する要員の滞在受け入れや業務継続に携わる方々などに温浴施設の開放を想定しているという。

「実は東日本大震災が起こる前までは、オフィスビルの上層部にホテルを誘致する構想でした。しかし上層階の揺れやエレベーターがストップした場合などを考えて、宿泊施設を別棟として独立させるほうが災害時対策になると思ったのです」


断面図

断面図

大手町エリアで最大級の規模 1フロア4,200㎡の無柱空間

基準階平面図

基準階平面図



そのほかオフィス基準階は室内にまったく柱のない整形無柱空間として約4,200㎡(約1,270坪)を確保。大手町地区で最大級の大規模オフィス空間を実現し、入居企業のレイアウト要望に柔軟に対応。複数事業所に分散している企業の集約移転も受け入れ可能だ。ダブルスキンの採用により窓枠サッシ内に自然の力による"風の道" を確保。電動ブラインド内蔵と併せて、日射遮蔽と室内への熱負荷の削減を実現。環境性能を高めている。

都市環境の整備が周辺との賑わいを誕生させる

第3次事業のもう一つの特長が「良好な都市基盤・都市環境の構築」だ。グローバルビジネス拠点と位置づけられている大手町地区では、地上・地下歩行者ネットワークの強化を行う。具体的には第1次・第2次事業と連携したバリアフリー対応の動線の整備を予定している。

「第3次事業計画地を経由し、東京メトロ千代田線『大手町駅』コンコースと大手町フィナンシャルシティを地下歩行者ネットワークとして整備。このネットワークが結ばれることで、第1次事業から第3次事業までの開発地が地下で直接通じ、地下鉄線への快適なアクセスが実現します。A棟(オフィス棟)内には、バリアフリー動線を整備する予定です」

また、大手町・丸の内・有楽町地区の軸である丸の内仲通りの機能を延伸し、日本橋川までつながる広域的な範囲で賑わいと回遊性ある都市空間を形成する計画だ。約700台が利用できる公共駐輪場も整備。大手町地区で増加傾向にある自転車利用者のニーズに応え、路上駐輪車両の軽減に寄与する。

「働いている人やこの地を訪れた方にとって魅力を感じさせる街にしたいですね。2014年4月に連鎖型開発の一環で誕生した歩行者専用道があるのですが、そこでは自由にさまざまなイベントやランチカーでの販売を行い、新たな賑わいを生み出しています。本道路の運営事業体として組織を立ち上げましたので、今後一層、色々なアイデアの中で賑わいが出てくるのではないでしょうか。この開発を起点に大手町地区全体の盛り上がりに貢献できればいいですね」

建物概要

敷地面積

約11,200㎡

延床面積

約205,000㎡

貸床面積

約105,400㎡(オフィス)

階数

A棟(オフィス棟)地下4階・地上31階、最高高さ 約170m
B棟(宿泊施設棟)地下3階・地上18階、最高高さ 約90m

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