清和梅田ビル

2014年10月取材

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記事は過去の取材時のものであり、現在とは内容が異なる場合があります。

大阪の中心地に誕生する「おもてなし」に溢れた大規模オフィスビル

関西の玄関口である大阪。その中心地「梅田」に大規模オフィスビル「清和梅田ビル」が誕生する。大阪の堂島でビル事業のスタートを切った清和綜合建物が、1957年の創業以来、大切にしている「おもてなしの心」をどのように開発に活かしているのか。開発全体のコンセプトや概要についてお話を伺った。

稲葉 俊一氏

清和綜合建物株式会社
開発技術管理本部
常務執行役員本部長

稲葉 俊一氏

若林 眞喜雄氏

清和綜合建物株式会社
事業本部
常務執行役員副本部長

若林 眞喜雄氏

エントランス(内部)

エントランス(内部)

地のポテンシャルを活かして快適な環境を提供する

2015年3月、大阪の中心地に「清和梅田ビル」が誕生する。当ビルは1967年に竣工した「梅田第一ビル」の建替計画としてスタートした。

「ちょうど前身のビルが竣工40年を迎えるタイミングで計画がスタートしました。2006年のことです。設備的な劣化というのはもちろんありましたが、それよりもこの土地のポテンシャルをもっと活かしたい。より働きやすいビジネス環境をご提供することが目的でした」(稲葉俊一氏)

隣接地の購入や周囲の地権者様との調整の中で、本来の敷地の1.5倍の土地を確保することができた。2012年3月から解体工事。翌年2013年2月に地鎮祭。2015年3月の竣工に向けて、現在、順調に工事が進められている。
開発にあたっては、以下の3点を最重要コンセプトとしたという。

テナントへのホスピタリティ

快適な執務環境
上質な共用空間の提供
BCPに対応できる災害時のビル機能維持
帰宅困難者に親切なビル機能
電力会社の節電要請への対応

地球環境への取組

外装負荷の少ないファサード
緑・風・水・太陽との共生

地域・街への貢献

街に彩りと潤いを与えるファサードデザイン
ヒートアイランド抑制への貢献
地下鉄直結による市民の利便性向上

2006年から開始された本プロジェクト。2011年に東日本大震災を経験することになるが、特に大幅な計画変更はなかったという。

「当初の計画段階から、今後オフィスビルに求められるビル性能というのを意識しました。そのため、かなりBCP対応が具現化された内容になっていると思います」(稲葉氏)

「自然との共生」をコンセプトに心地よい空間づくりを実現した

彫りの深い窓、シンプルなホワイトグリッドで構成した外壁は、「自然との共生」を意識したデザインになっている。高層部は日本的要素の強い "格子" をモチーフにし、庇効果や換気機能を設けることで、より快適な執務環境の提供を行う。低層部はソリッドな壁面で周囲を遮断するのではなく、透明感のあるガラスファサードを採用。潤いのある内部空間を創出する。ガラスファサードは御堂筋の銀杏並木や公開空地の緑を映し込み、都市空間との調和、自由な交流、環境との共生、持続的成長・発展をシンボライズすることとなる。

「大阪市内は年間を通して、昼は海からの風が、夜は陸からの風が吹く傾向があります。当地における風の通り道をシミュレーションし、窓周りに自然通風ができる換気導入口を設けました」(稲葉氏)

「梅田は西日本最大級の商業地です。百貨店、ホテル、オフィスビルが林立していますから、少しでも自然を感じる要素を取り入れたいと思いました。1階エントランスホールには温かみのある木質パネルでつくられた大きな曲面壁の柱が置かれます。『自然との共生』の象徴として、ここで働く方や来訪された方をお迎えします」(若林 眞喜雄氏)

そのほか、エレベーターホールや廊下などの内装は自然光を積極的に採り入れて光と影の演出を行う。

清和梅田ビル

高さ 104.29m

規模 地下2階、地上21階、塔屋1階

外壁 花崗岩打込みPCCW、アルミCW

清和梅田ビル(外観)

清和梅田ビル(外観)

断面図

断面図

常に高いレベルを維持しているビルの堅牢性やセキュリティ

本プロジェクトの事業主である清和綜合建物は、1957年に旧第一勧業銀行(現みずほ銀行)の不動産管理会社として設立された。
そこで培った実績と経験は企業風土として受け継がれ堅牢性や高いセキュリティを維持している。

「建替前のビルには、第一勧業銀行梅田支店が入居していました。銀行は災害対策や日々のメンテナンスなどの要求水準が高い。常にそういった高い要望に応えてきました。そういった歴史が会社のDNAとして当たり前のように根付いているのでしょう」(若林氏)

建物構造は「集中制震構造」を採用。高層建築物に適した制震構造とし、低層部に「ハイブリッド制震装置」を配置している。この採用により、一般の耐震構造の建築物と比べて、長周期地震動特有の後揺れ時間を40%程度低減できるという。ちなみに耐震性能はJSCA(日本建築構造技術者協会)が定めるグレードにおいて "特級" に相当している。
高い制震構造に加えて、BCP対策についてもトップクラスの機能を採用している。

「停電や断線が起きたときの備えとして、異なる変電所から供給を可能とする2回線受電方式を採用しています。万が一、電力会社からの供給が停止した場合でも、80,000リットルの重油も実装していますのでビル保有の非常用発電機で72時間電力を供給します。これにより、共用部の照明(20%×3日間)やエレベーター、トイレ(3日間)などの稼働が可能となります(専有部への供給は標準仕様で15VA/㎡、テナントニーズに応じ50VA/㎡まで増強可能)。もちろんテナント用の発電機設置スペースも用意しています」(稲葉氏)

さらに防災用備蓄倉庫を備え、食糧や飲料水などをワーカーのために提供する。これらの施策で、同ビルは「DBJ Green Building認証」や「CASBEE大阪みらい」の双方で最高位の評価を得ている。

COLUMN 1
  • DBJ Green Building認証
    日本政策投資銀行による認証制度。Green Buildingとしての性能・
    特徴を「建物の環境性能」「テナント利用者の快適性」「リスクマネジメント」「周辺環境・コミュニティへの配慮」「ステークホルダーとの協働」の5つの視点で整理。さまざまなステークホルダーからの評価を踏まえて総合評価したもの。2011年4月の創設以来、日本全国での認証実績は130件超となっており、不動産における環境・社会への配慮の取組みを発信している。

  • CASBEE大阪みらい
    大阪市建築物総合環境評価制度の略。建築物の環境性能を評価し格付けする手法として、国土交通省の主導の下に開発された。開発目的は、建築主の環境に対する自主的な取組みを促進し、快適で環境に配慮した建築物の誘導を図ることとしている。評価項目は次の2つの分野に分かれる。

    Q(Quality:建築物の内部や敷地内における環境の性能)
    室温・換気などの室内環境や機能性、建築物の耐震性、緑化など
    に関するもの

    L(Load:エネルギー消費をはじめとした建築物による
    外部への環境負荷)
    省エネルギー・省資源やヒートアイランド対策などに関するもの。これらの2つの分野を統合した指標を建築物の環境評価効率(BEE)という数値を用いて総合的に評価をする。

テナントへの「おもてなし」として快適なオフィス環境を提供する

オフィスの基準階ワンフロア面積は約759㎡(約229坪)。「おもてなし」を大切にしているだけあって、使い勝手のいいフロア設計になっている。デッドスペースのない無柱空間で、天井高は3,000mm。四面採光の明るく開放的なフロアが広がる。

「窓周りには自然通風ができる換気導入口を設けています。春や秋は全開することにより、エアコンを停止しても自然風で換気ができ、省エネにもつなげることが可能となります」(稲葉氏)

そのほか、電動グラデーションブラインドの採用による照明コスト削減、標準より17%近くも幅を広げた廊下、各階に設置したバリアフリートイレなど、各種機能が満載だ。
「おもてなし」は同社のビル運営方針にも色濃く表れている。管理するビルごとに営業所を設け、専任担当社員を配置。テナント企業からの対応窓口になる。

「ビルの警備、清掃、メンテナンスなどは専門の会社に業務委託をしていますが、単に業務を右から左に委ねるのではなく、当社が統括してビル全般の管理業務を行っています。この直営体制により、ダイレクトでお客様からのクレームや要望が届きますので、迅速に対応することができます。さらに、お客様からの声は当該ビルだけで処理するのではなく、情報共有を行うことで保有するほかのビルでの予防保全が可能です。このスタイルは継続していきたいですね」(若林氏)

基準階平面図

基準階平面図

基準階 事務室使用イメージ

基準階 事務室使用イメージ

これからも周囲の方々の声に耳を傾けながら街の発展に貢献していく

ビルの周囲には公開空地を設け、周辺地域への貢献を行う。地域の方へ憩いの場を提供できるよう白樫、楠、桜などの樹種を予定。樹木で季節感を演出するという。それらの緑化によってヒートアイランドの抑制も可能とする。
御堂筋に面した建物入口付近についてはドライミストを設置。地上の局所の気温を下げる役割を果たす。そして地下鉄との接続。人の流れを確保することによってこの地域へのアクセス性を高める。
そのほか、ビルの中に機械式90台の駐輪場を備えた。入出庫も簡単で、利便性の高い構造になっている。

「専門誌ではオフィスビルとして世界初のオフィスビル組込み機械式立体駐輪場として紹介されました」(若林氏)

「このビルが賑わいの街『梅田』に竣工することはとても意義があると思っています。大阪の玄関口というポテンシャル、高い堅牢性、優れたBCP、快適なビジネス環境、市民の利便性。これからもワーカーや周囲の方々の声に耳を傾けながら、街の発展に貢献していきたいと思います」(稲葉氏)

エントランス(外観)

エントランス(外観)

COLUMN 2

清和梅田ビル
最高位の評価を得た数々のBCP対応

以下が、万が一の災害時に事業継続のために、活動拠点としてビル機能を維持し、早期復旧に努め、帰宅困難者を支援する数々の対策だ。

建物構造

長周期地震動を考慮した集中制振構造

地下

オイルタンク40,000リットル × 2基実装

1階

停電時 出庫可能な機械式駐車場48台完備
停電時 出庫可能な機械式駐輪場90台完備
1階各出入口に防潮板装備

2階

防災センター設置
防災用備蓄倉庫設置

3階

電気室、MDF(主配線盤)室
ビル用発電機(1250KVA・72時間稼動)
換気設備、喫煙室

基準階

[共用部]
停電時 一般照明の20%を72時間点灯
停電時 5台のエレベーターが使用可能
(常用:高層2台、低層2台、非常用:1台)
停電時 エレベーターホールに自然採光(一部フロア除く)
[トイレ]
停電時 3日間使用可能(給水・排水途絶後も一部使用可能)
[給湯室]
停電時 コンセント(ポット・携帯電話充電用)完備
[専有部]
照明コンセント使用可能および増設空調設置可能
災害時 自然換気可能な窓設計

屋上・21階

電気室(異なる変電所から2回線受電)
ビル用発電機(500KVA)
テナント用発電機(500KVA × 1台)の設置スペースを確保
空調熱源設備

※水害時の早期復旧を目指し、重要機能を地上2階以上に設置

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