品川シーズンテラス

2013年10月取材

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記事は過去の取材時のものであり、現在とは内容が異なる場合があります。

日本最大級の免震オフィスビル「品川シーズンテラス」

JR品川駅港南口(東口)に立地する芝浦水再生センター上部で大規模な複合開発が進行している。この規模としては希少な免震構造を採用したオフィス・商業複合ビルは、ワンフロア面積1,500坪、地上32階建で、完成すると間違いなくこのエリアのランドマークとなるだろう。今回は、その開発プロジェクトの全貌と特長的な設備について、開発担当者にお話を伺った。

田口一孝氏

NTT都市開発株式会社
プロジェクト推進部
企画担当 担当課長

田口一孝氏

仁藤貴之氏

NTT都市開発株式会社
プロジェクト推進部
企画担当
担当課長代理

仁藤貴之氏

現地空撮(一部合成)

現地空撮(一部合成)

東京のビジネスシーンを牽引する最先端オフィスビルが誕生する

JR品川駅港南口(東口)で進行している「芝浦水再生センター再構築に伴う上部利用事業」。この開発は、NTT都市開発を代表企業として、大成建設、ヒューリック、東京都市開発、NT Tファシリティーズ、日本水工設計の事業者グループ6社が選定されたものだ。

「東京都の品川駅・田町駅周辺まちづくりガイドラインの中で芝浦水再生センター地区が優先整備地区として、詳細なまちづくりの方向性を示され、さらに、東京都下水道局が下水道施設の老朽化にともなった再構築を計画したのが始まりです」(田口氏)

2008年7月に東京都下水道局主催の「芝浦水再生センター再構築に伴う上部利用者公開募集」があり、各社のノウハウを結集し、提案書を作成した。その後、2009年3月に総合評価一般競争入札方式による事業者として選定された。
品川は、東海道新幹線の発着や羽田空港の国際化、リニア中央新幹線計画など、その良好な交通アクセスから格段に注目度合いが上がっているエリアである。近年、品川駅港南口(東口)では、グローバルな企業も集積する新たなビジネス拠点として進化を続けている。
今回の開発は、東京都下水道局が地下に整備する下水道施設の上部に、合築の手法で環境に配慮したオフィス・商業複合ビルを建て、ビジネス拠点を創出するという公有地活用プロジェクトである。

ワンフロア面積1,500坪の整形な大空間オフィスフロアは
さまざまなオフィスニーズに対応可能

この新たに誕生するオフィスビルのポイントは大きく分けると次の6つである。

  1. ワンフロア1,500坪の整形大規模空間
  2. 超高層オフィスビルでありながら免震構造を採用し高い安全性を確保
  3. 専有部にも対応した非常用電源(ワンフロア最大49,700VA)
  4. 国内最高水準の環境配慮型オフィスビル
  5. 羽田空港13分、成田空港へダイレクトアクセス、新幹線発着の品川エリアに立地
  6. 3.5haの広大な緑地がクリエイティブなワークスタイルを実現

ワンフロア面積1,500坪のオフィスフロア。整形の大空間のため、入居テナントのニーズに合わせたフレキシブルなレイアウトが可能だ。もちろん眺望を活かして受付や応接室の位置を自由に決めることもできる。さらに2, 900mmの天井高と相乗して、開放感あるオフィスを演出する。それらのスケールメリットを考えると、分散していたオフィスの統合ニーズを持つ企業からの引き合いが増えてくることが予測される。統合によってデッドスペースの削減ができ、効率の良いスペース活用が可能になるからだ。当然、それによって大幅なランニングコストの削減も図れることになる。

超高層オフィスビルでありながら安心・安全を確保した免震構造を採用

「公募時の提案条件として、ビルの建設・運営において高いレベルの環境配慮を義務付けられていました。それに加え、当社の提案では、安心・安全を考慮し免震構造を採用しました。その部分が、評価されたポイントのひとつだったのかもしれません。免震構造は最近のマンションなどで多く採用されている構造で、高い安全性を確保できるものの、平面系の大きな大規模オフィスではコスト面から採用が難しいと思われます。当ビルのように延床面積が20万㎡あり、かつ32階建という高さで免震構造を取り入れているビルというのはあまり聞いたことがありませんね」(仁藤氏)

「当ビルの場合は、地下が都市施設である下水道施設ということもあって、免震構造を採用しました。揺れを減衰させる「減衰機能付き積層ゴム支承」、地震による揺れを軽減する「天然ゴム系積層ゴム支承」地震エネルギーを吸収する「オイルダンパー」をバランスよく配置することで、大規模な地震による被害を最小限に抑え、長周期地震動にも対応することが可能となりました」(田口氏)

「その分、施工現場は大変な苦労をしました。構造計算をして、どこに「減衰機能付き積層ゴム支承」を配置させるのか。全部配置させれば楽なのですが、それだと経済効率が悪くなる。安全性と経済性の両局面から、何度も検討を繰り返しました。納品されたゴム支承自体も、実際多少の誤差はある。その誤差をも計算に入れて、安全性を割り出すわけです。一つひとつ地道に計算して、最終的に組み合わせました。どうしても目に見える派手な部分が注目されがちですが、このような地道な作業がこのビルを支えているのです」(仁藤氏)

基準階平面図

共用部だけでなく専有部にも対応した72時間の非常用電力供給が可能

「BCPサポートの観点では、非常時の電源供給が大きなポイントだと思っています。非常時の電力供給は、共用部のみへの供給が一般的でした。専有部で電源が必要な場合は、個別に発電機を置かなくてはならなかった。しかしこのビルでは、ビルの非常用発電機からテナント専有部への電力供給を可能にしています。さすがにデータセンター並みの使用電力までは対応できませんが、災害対策室を設置するといった使い方でしたら問題なく対応できる量です。もちろん、テナント用の非常用発電機設置スペース5台分もご用意しています」(田口氏)

NTT都市開発が作成しているパンフレットによると、ビル非常用発電機によるテナント専有部への電力供給は72時間にわたって、ワンフロア最大49,700VAの供給を可能にするという。
そのほか、テナントの防災用物品を保管可能な防災用倉庫も共用部に確保されている。また、災害時に帰宅困難となった来館者が安全に待機できる帰宅困難者受け入れスペースも確保している。さらに、屋上にヘリコプターの緊急離着陸場の設置を検討している。

49, 700VA(1フロア利用テナントの場合)の電源供給例

[ 災害対策室(100㎡)]
□TV会議システム(1,000VA) □プロジェクタ(1,500VA)
□PC20台(3,000VA) □プリンタ2台(3,000VA)
□複合機1台(1,500VA) □照明32台(1,600VA)
□扇風機6台(1,500VA)
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[ サーバー室(15㎡)]
□サーバー(4000VA) □PBX(2000VA) □HUB(500VA)
□照明2台(100VA) □空調1台(3000VA)
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[ 集合スペース(100㎡×6箇所)]
□TV1台(500VA) □電気ポット1台(1,500VA)
□PC6台(900VA) □照明32台(1,600VA)

自然エネルギーを最大限活用する環境に配慮した国内最高水準の大規模オフィスビル

品川シーズンテラスは、光や風、水などの自然エネルギーを最大限活用。以下の建築・設備計画により、環境負荷低減と良好な室内環境を両立させる仕組みを備えた環境配慮型オフィスビルである。

  • 太陽光採光システムによる電力使用削減
  • 太陽光発電による電力の多元的活用
  • 太陽光の再帰反射による地表温度上昇抑制

  • 大風量外気冷房による空調効率の最大化
  • ナイトパージによる空調負荷低減

  • 再生水の積極的利用
  • 水の潜熱利用による熱負荷低減
  • 雨水利用

「タワー棟の中央にスカイボイド(最上階から4階までを貫いた吹き抜け空間)を配置し、自然光と新鮮な外気を取り込んでいます。オフィス共用部とガラスで面し、廊下やオフィスエントランスホールに明るい光が差し込みます。これは、「T-Soleil」という太陽光採光システムを導入し、自動追尾型のミラーが太陽光を吹き抜け内へと照射させています。そうすることによって最上階である32階という高さから光を採り込むことができるのです」(田口氏)

「この吹き抜けは、採光だけでなく外気の取り込みにも優れています。建物の中央に給気ルートを設けることで、各室へ最短ルートでの導入ができ、効率的な取り込みを可能にしました。一般的なビルの側面部分から空気を取り込むケースに比べ、専有部の天井裏の給気ダクトがない分、テナント工事の自由度が増します」(仁藤氏)

人感知センサー付きLED照明、熱負荷を低減する高性能Low-E複層ガラス、夜間に涼しい外気を建物内に取り込むナイトパージ、太陽光エネルギーを積極的に利用するソーラーパネルの設置など、環境性能に優れた設備を採用している。その結果、東京都建築物省エネルギー性能評価書において、建築物の熱負荷の低減率(PAL低減率)および設備システム全体のエネルギー利用の低減率(ERR)で、最高ランクの評価であるAAA(段階3)を得ている。また、DBJのGreen Building認証の最高ランクである「プラチナ」のプラン認証を受けた。今後、建築物環境総合性能評価システム(CASBEE)でもSランクを取得予定だ。
ビルに隣接する緑地は約3.5haと広大な規模を誇る。

「広大な緑地は、人と人とのふれあいや賑わいを演出します。ここに訪れる多くの方に潤いと癒しを提供できる空間となるのではないでしょうか」(仁藤氏)

緑地は「風の道」を確保する役割を果たし、東京湾臨海部からの涼風を内陸に運ぶことで、都心部のヒートアイランドの抑制に貢献する。また、単に緑を配置するだけではなく、生態系ネットワークの観点からも時間をかけて検討を重ねた。

「周辺エリアに生息する野鳥のために常緑樹や落葉樹、低高木などをバランスよく植樹し、人々だけでなく野鳥にとっても憩いの空間となります」(仁藤氏)

開発エリアを結節点として、武蔵野台地の樹林生態系と臨海部の沿岸生態系をつなげることで、持続可能な新しい都市のエコインフラの構築を目指すという。
大規模オフィスビルに隣接した広大な緑地。その広場は、そこで働くワーカーだけでなく、近隣の人々にもコミュニケーション空間を提供する。こうした開発コンセプトにふさわしいビル名称が決まった。

「名称は、『品川シーズンテラス』に決定しました。環境配慮型のオフィスビルとそのテラスとなる四季折々の表情を見せる広大な緑地。そんな立地環境が伝わるネーミングになったと思います」(田口氏)

「オフィスフロアから見える臨海や都心の眺めは、国際都市東京の躍動感を感じていただけると思います。また、2階に配置する飲食店舗で、緑が広がる中での食事は心地よい空間となるはずです」(仁藤氏)

確かに、陽光が豊かに降り注ぐ広大な芝生、春を感じさせる桜並木、秋を感じさせる紅葉の広場など、これほど多彩で自然と一体となったオフィスビルは今まで都心部では類を見なかった。こうしたオフィスワーカーだけでなく地域住民の方々とも交流する場が、品川という国際ビジネスエリアに誕生する。
東京都がアジアヘッドクォーター特区を掲げて、企業の税率を下げるなど優遇処置で外資系企業の誘致活動に力を入れていることもあり、オフィス市場の活性化に期待がかかる。
事業者グループ6社の持てるノウハウを結集し、2015年春の竣工に向けて進行している品川シーズンテラス。この大規模開発によって、品川エリアがさらに国際ビジネス拠点として進化していく。

広大な緑地と一体となったオフィスビル

広大な緑地と一体となったオフィスビル

完成予想パース

完成予想パース

計画の沿革

2008年7月 東京都下水道局による公開募集

2009年3月
NTT都市開発グループが事業者として決定

2012年2月
芝浦水再生センター上部利用工事着工

2013年10月
ビル名称が「品川シーズンテラス」に決定

2015年春 竣工予定

「品川シーズンテラス」

【建築概要】

所在地 東京都港区港南1丁目2番6(地番)

敷地面積 約49,547.86㎡

建築面積 約9,138.31㎡

延床面積 約205,785.83㎡

構造
地上:鉄骨造(柱CFT造)、地下:鉄筋コンクリート造、免震構造

規模 地上32階・地下1階

駐車場 369台(自走式37台、機械式332台)

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