新宿イーストサイドスクエア

2012年6月取材

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※ 記事は過去の取材時のものであり、現在とは内容が異なる場合があります。

日本テレビゴルフガーデン跡地に誕生する「新宿イーストサイド」。1万人以上が就業可能の大規模再開発で「東新宿」が変わる。

新宿に3.7haの大規模な再開発が進行している。本年9月にグランドオープン予定で、オフィス棟だけではなく住居棟や商業施設も兼ね備えた複合的な一体開発だ。東新宿には、かつてこれほどの複合大規模施設がなかっただけに、完成すると間違いなくエリアを代表するランドマークになると思われる。今回はプロジェクト全体の魅力とともに、大規模オフィスビル「新宿イーストサイドスクエア」の概要を紹介しよう。

宮ノ内 大資氏

三菱地所株式会社
都市開発事業部 主事

宮ノ内 大資氏

鳥瞰図( 全景)

設計:三菱地所設計・日本設計 鳥瞰図( 全景)

都心に残された約3.7ha の数少ない大規模用地の再開発

この再開発エリアは、もともとは日本テレビゴルフガーデンの跡地だった場所で、その面積は約3.7ha。都心でこれだけの規模を要する土地の売却は希少で、これだけの規模のものは当面はもう現れないといわれている。

「実際に土地を取得するうえで、2007年初頭から計画を進めていました。もともとこのエリアは街並み再生方針及び新宿六丁目西北地区地区計画が定められており、それらの策定された都市計画に基づきながら、いかに競争力のある建物をつくることができるか。半年以上かけて検討を重ね入札に臨んだ経緯がございます」

そして都市再生機構が実施した競争入札を三菱地所等が出資する、「新宿6丁目特定目的会社」が同年12月に落札した。

このエリアで制定されている都市計画は次の通りだ。

2007年3月 街並み再生方針策定、街並み再生地区指定

2007年8月 新宿六丁目西北地区地区計画都市計画決定

2008年12月 地区計画変更

具体的には、区画道路の整備、敷地の最低面積、建築物の高さ、用途等を地区計画で都市計画に定めることを条件に容積率の緩和を提示。この方針にもとづいて街づくりを進めていくというものだ。以下、東京都の報道発表から抜粋してみる。

整備の目的

  • 多様な都市機能が集積した住む人、集う人にとって魅力のある街の形成
  • 新駅や地域の既存資源を活かした賑わい・文化・交流の拠点形成
  • 土地の高度利用と街並みの誘導
  • 良好な都心居住の実現
  • 地域の生活環境向上への貢献

整備すべき公共施設・その他公共施設に関する事項

  • 交通動線・生活動線の整備
  • 有効空地の確保
    拠点敷地では有効空地を実面積で敷地面積の40%以上確保
  • 広場等の整備
    駅前広場(約1,000㎡)ほか、歩行者ネットワークに資する広場等の整備
  • その他の公共・公益的施設の整備

建築物等に関する基本的事項

  • 壁面位置の制限
    地区全体の快適な居住環境を確保するため、道路や隣地からの壁面後退距離を定める。
  • 最高高さの制限
    拠点敷地では、聖徳記念絵画館の眺望に配慮し120m以下とする。
  • 賑わい・文化・交流機能を持つ施設の導入
  • 都市型住居の導入

「地区計画には広場等の整備や東新宿駅方面(敷地西北側)から新宿文化センター方面(敷地南東側)に歩行者ネットワークを確保するなどの数多くの与件が盛り込まれており、これをクリアしながら事業性も確保したオフィスビルを計画するのは簡単ではありませんでした。例えば、最終的には1棟型で落ち着きましたが、敷地を縦断する歩行者ネットワークの確保という観点から企画の段階では道路を挟んでビルを分棟する案もあったようです。しかし、せっかくこれだけの大規模な土地なので、特徴のある都内最大級のフロアプレートを造りたい、さらに2棟に分けることで全体有効率も下がってしまう、ということで1棟型で行政への提案を行い、結果として地下1階部分の天井を高くすることで歩行者ネットワークの確保を認めてもらい、今の形に落ち着いたというような経緯がございます」

快適なアクセスを実現し複数のエリアからの吸引を可能にする交通ネットワーク

「新宿イーストサイドスクエア」は、新宿駅周辺地域の東側、明治通りと職安通りが結節する地区に位置する場所で、都営地下鉄大江戸線・東京メトロ副都心線「東新宿」駅に直結している。2つの路線の利用者は年々増加。大江戸線の乗降人数は20,631人/日平均(東京都交通局2010年調査)、副都心線の乗降人数は20,188人/日平均(東京メトロ2011年調査)が利用している。

大江戸線は、東京都練馬区の光が丘駅と東京・新宿駅を結ぶ放射部と、新宿駅から反時計回りに都庁前駅に至る環状部とで構成される鉄道路線で2000年に全面開通。副都心線は、埼玉県和光市の和光市駅から東京・渋谷駅を結ぶ東京メトロの鉄道路線で2008年に全線開業をした。

「東新宿エリアは、これまでオフィス・商業ともに集積があった場所ではありませんが、都営大江戸線・東新宿駅開通・東京メトロ副都心線の乗り入れにより、徐々に賑わいを見せるようになってきています。さらに副都心線は渋谷駅で東急東横線との相互直通運転が開始される予定で、それによって城南・横浜方面からのアクセスが抜群に向上します。今まで新宿が移転の検討エリアになっていなかった京浜・城南方面の企業の方も、従業員の方の交通アクセスを維持しながら移転を考えることができるようになるなど、、その効果には期待しています」


新宿イーストサイド全体計画図

設計:三菱地所設計・日本設計 新宿イーストサイド全体計画図

さらに地下鉄「東新宿」駅直結のため、雨の日でも濡れずに敷地北側のサンクンガーデンを抜けてオフィスエントランスへ入ることができる。サンクンガーデンの通路には、飲食店を中心とした店舗が並び、地域の賑わい創出とテナント企業のワーカーの方々のためのサポート機能を充実させる予定だ。

1 万人以上が就業可能な大規模オフィスビルと
レジデンスで構成される新たなランドマーク

「新宿イーストサイド」は、1万人以上が就業可能な都内最大クラスを誇るスケールのオフィスビル「新宿イーストサイドスクエア」の北街区、地上32階建ての総戸数761戸の賃貸住宅「パークハビオ新宿イーストサイドタワー」の南街区で構成される。そして、豊富な緑を有する回遊空間は魅力の一つとなっている。

「これだけの規模を生かした環境創造も本プロジェクトの大きな特徴です。空地を約1.7haもとり、さらに緑化率約40%というのは、都心ではなかなか見られない規模の環境創造空間だと思います」

回遊性に関しては、最大で5m程度の高低差がある元々の敷地形状を活かして、1階には平面に回遊性の高い散策路、地下1階には吹き抜けを随所に設けることによって自然光を採り入れる空間としたサンクンガーデンを設け、この2つを大きな階段やなだらかな傾斜によりつなぐことによって、平面的だけでなく、立面的にも回遊性の高いランドスケープを実現している。オフィスビルがスクエアな形に対して、回遊空間は曲線を基調とした意匠を採用しており、就業者や周辺住民の方が日常の休息に必要な「憩い」「潤い」が実感できるのが楽しい。

ワンフロア約1800 坪のオフィススペースと
様々なオフィスニーズに対応可能なスペック

基準階平面図

「このビルの魅力は何と言ってもワンフロア約1800坪のオフィススペースです。このエリアは、高さ制限が120mに定められていますが、120mの高さでは都内の他物件との差別化にはなりませんので、この広大な敷地の希少性を活かしてフロアプレートの広さを重視した企画としました。また、通常のオフィスはロの字型やコの字型のフロア形状が多いのですが、この物件はコア部分が外側にあるのも特徴です。これは、地区計画に定められた北側広場の確保や建物分節化による近隣住民への配慮など、色々な観点から検討した結果ですが、一般的なオフィス形状よりフロア内の見通しが良く、レイアウトによってはまるまる整形部分のプレートを使用できるという意味で、一つの特徴になったのではないかと思っています」

多層階をワンフロアに統合して、コミュニケーションを高めたいというテナントニーズは年々増えていると聞く。まさに最近のトレンドにあったビルといえる。
当然ビルスペックもハイクラスだ。以下特徴的な部分を紹介していこう。
環境面では、方角に合わせた最適な環境システム「ダブルスキン(直接の日射がある南・東・西面。二重にした窓面の中間空気層に外気を通気し除熱を行う)」や「エアバリアファン(北面。ガラスとブラインドの間に空気を流すことで外部熱を遮断する)」を導入した。その他、室内の空調負荷を軽減する「電動ブラインド」や熱負荷を低減する高性能複層ガラス「Low-eペアガラス」の採用により、CO2の排出
量を大幅に削減可能だという。空調は、個別パッケージ方式を採用。室外機置場を各フロアのコア部分に設けているので、空調設備配管の移動距離を短縮。空調の動力負荷の軽減を実現している。これらは、東京都の定める建築物環境計画書制度におけるPAL(建物外装の熱負荷の低減)ランク3、ERR(設備システムのエネルギー利用の低減率)ランク3を予定している。
防災面では、鉄骨断面の中にコンクリートを充填した「CFT柱」を採用し、コアフレーム内に「粘性壁」、「アンボンドブレース」を配置した制振構造としている。さらに、72時間運転可能な非常用発電機を設置するなど、建物の高い安全性を確保している。

新たなランドマークにふさわしい近未来的なデザインは実は機能的

シンボリックな外観デザインは大きな特徴となっている。そしてこのデザインは、実は近隣住民の方への配慮の表れでもあるという。

「オフィス集積エリアと違って、近隣には多くの住民がいらっしゃいます。日影制限や高さ制限のような法規制上でクリアできる問題だけでなく、周辺住民の方のプライバシーの確保、ビル壁面のガラスへの映りこみ防止、直射日光の反射軽減のような課題については企画段階より注意を払いました」

「ガラスを基調にしたビルの場合、一般的には一面にガラスをフラットに貼るのですが、そうしてしまうと直射日光の反射方向が単一的になってしまい、近隣住民の方にかなり圧迫感を与えかねません。それで反射角度が一定にならないように、ガラスにあえて凹凸を持たせています。ガラス面が色々な方向を向いていることで、ガラス面への映り込みの問題もある程度クリアすることができました」

コア部分のデザインにも意味があるという。

「もともとこのエリアは、江戸時代に石工などの多くの職人さんが住んでいた場所だったそうです。設計者がその歴史的背景を表現したい思いで、石を積み上げたイメージのデザインにしました。また、コア部分を分節化したことで、ガラスの長大壁面のみの構成よりも全体で見たときに圧迫感の抑制ができたのではないかと思います」

都心で近隣住民や周辺環境にここまで配慮した大規模ビルはあまり見当たらない。この開発によって、東新宿のイメージや認知度が抜群に向上するのは間違いところで、竣工後は新宿を代表するランドマークの一つになっていることだろう。

北側広場色

北側広場色

サンクンガーデン

サンクンガーデン

色々な方向を向いているガラス面

色々な方向を向いているガラス面

地下1階貫通通路

地下1階貫通通路

建物概要

名称

新宿イーストサイドスクエア

所在地

東京都新宿区新宿6-315-10(地番)

交通

東京メトロ副都心線・都営大江戸線
「東新宿」駅直結
東京メトロ丸ノ内線・副都心線・
都営新宿線「新宿三丁目」駅徒歩6分

建築主

新宿六丁目特定目的会社

設計・監理

(株)三菱地所設計、(株)日本設計

施工

鹿島建設(株)

竣工

2012年4月27日(グランドオープンは9月)

敷地面積

25,809.68㎡(約7,807坪)

延床面積

170,220.33㎡(約51,491坪)

構造

地下 鉄骨鉄筋コンクリート造、
地上 鉄骨造

規模

地下2階・地上20階、塔屋2階

駐車場

334台(駐輪場:223台)

事務所貸室面積

112,178.43㎡(約33,933坪)

基準階床面積

約5,915㎡(約1,789坪)

基準階天井高

2,850mm+OAフロア130mm

床荷重

500kg/㎡
(ヘビーデューティゾーン800kg/㎡)

コンセント容量

60VA/㎡

平均照度

700lux

空調設備

12ゾーン/1フロア

受電方式

66kVループ式

非常用発電機

テナント用設置スペース500kVA×6台
オイルタンク60,000L×2基

エレベーター

事務所乗用10基×3バンク
(高層階は12基)
非常用3基/人荷用1基


外観

外観

基準階フロア

基準階フロア

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