東京ガーデンテラス(グランドプリンスホテル赤坂跡地開発計画)

2014年10月取材

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記事は過去の取材時のものであり、現在とは内容が異なる場合があります。

緑と歴史に抱かれた立地に誕生する国際色豊かな複合再開発

約30,000㎡の広大な緑が共存する敷地にオフィス、ホテル、商業施設、住宅を創出する大規模再開発。それが「東京ガーデンテラス」だ。竣工予定は2016年5月。完成後は歴史を継承した複合市街地が誕生する。今回は、その開発の全容についてお話を伺った。

齊藤 朝秀氏

株式会社西武プロパティーズ
取締役
賃貸事業統括部長

齊藤 朝秀氏

大塚 武史氏

株式会社西武プロパティーズ
賃貸事業統括部
シニアマネジャー

大塚 武史氏

外観完成イメージ

外観完成イメージ(c 2015 Kohn Pedersen Fox Associates PC. All rights reserved.)

歴史ある街「紀尾井町」で進行している大規模複合再開発

東京都千代田区の西側に位置する紀尾井町。その名称はかつてこの地に所在していた大名屋敷(紀州徳川家、尾張徳川家、彦根井伊家)のそれぞれ一字ずつとって名付けられた。明治以降の紀尾井町は北白川宮邸(後に李王家東京邸:旧グランドプリンスホテル赤坂旧館)、伏見宮邸(現ホテルニューオータニ)、尾張徳川邸(現上智大学)などが立ち並ぶ宮家の閑静な邸宅地であった。

そんな歴史と品格のある街で大規模な複合再開発が進められている。

旧館は、「当時の皇族から引き継いだ邸宅でグランドプリンスホテル赤坂の原点となっています。1955年に宿泊施設として開業し、現在、東京都の指定有形文化財になっています。それから1960年に竣工した5階建の別館、1983年に新館が営業を開始しました」(齊藤朝秀氏)

今回の再開発は、約30,000㎡の敷地にオフィス・ホテル・商業施設からなる「オフィス・ホテル棟」と「住宅棟」で形成される。オフィス・ホテル棟は地上36階・地下2階。ホテル部分はプリンスホテルが運営し250室を予定している。下層フロアは商業施設。面積比は施設全体の5%程度となり、飲食を中心とした店舗計画となる模様だ。住宅棟は全135戸を予定。全て賃貸住宅で構成される。


立面概念図
立面概念図

2006年にプロジェクトがスタート。公益的な魅力的な再開発を目指す

東京ガーデンテラスの開始は2006年のことになる。

「私どもにとって初めてに近い大規模複合再開発ということもあり、試行錯誤を続けながらじっくりと内容を詰めていきました。そうして緑の保全や公共的立場から見て魅力的な開発を心がけたのです。着工が2013年1月ですから開始から7年かかりました」(齊藤氏)

着工までの間にはリーマンショックや東日本大震災を経験することに。それらを要因に多くの設計の見直しが行われたという。

「結果的には取り壊すことになってしまったのですが、グランドプリンスホテル赤坂新館の保存についても検討を行いました。日本を代表する建築家・丹下健三氏が設計したということもあり歴史的価値がある建物でした」(齊藤氏)


開発地空撮(2014年10月31日)
開発地空撮(2014年10月31日)

「昭和50年代の建物としては各室の面積もかなり広く、デザイン的にも全室角部屋のようになっている設計。当時、大きな話題となりました。実際、 "赤プリ" というとバブル期の若者にとってはとても思い入れのあるホテルでしたね」(大塚武史氏)

しかし、冷静にホテルの機能面だけを見たときに天井の低さや設備の老朽化など、劣っている部分も多い。仮にこのまま壊さずにリノベーションを行ったとしても、最近都心部で建てられている新築ホテルには対抗できないだろうという会社の判断があったという。

「西武グループにとって、不動産事業は都市交通・沿線事業、ホテル・レジャー事業と並ぶコア事業だと位置づけています。今後、新しい西武グループをつくりあげていく中で、このプロジェクトは非常に重要な案件の一つでした。それだけに思い入れだけではいけないと冷静に検討したのです」(齊藤氏)

外観全景パース
外観全景パース(c 2015 Kohn Pedersen Fox Associates PC. All rights reserved.)

商業施設完成イメージ
商業施設完成イメージ(c 2015 Kohn Pedersen Fox Associates PC. All rights reserved.)

再開発の企画コンセプトは、みどりと歴史に抱かれた国際色豊かな複合市街地

「都市計画手続きの中で開発の企画提案書を行政の方と相談しながら練り上げていったのですが、そこで固まった企画コンセプトが『みどりと歴史に抱かれた国際色豊かな複合市街地』でした」(齊藤氏)

「さらには歴史ですね。江戸城の外堀や史跡が多く残っている。開発中の敷地内にも赤坂御門があった場所がある。戦前に建てられた歴史的建造物も現存している。近代日本を物語る非常に重要な場所での開発だということを意識しなければならないと思いました」(大塚氏)

昔は紀尾井町通りもアパレルのトップブランドが多数集積していた。そんなポジションを持っているエリアだったが、いつしか表参道や銀座の集積力に押されはじめる。行政側もそんな集積力の低下に危機意識を持ち始めており、開発が始まる前からすでに議論が始まっていたという。

以下、「紀尾井町まちづくりガイドライン」として意見を取りまとめたものがHP上にアップされていたので抜粋して紹介する(下表)。
キーワードは当時も今と同じ「緑」と「歴史」だということがわかる。

土地利用の方針

清水谷公園、外堀等の自然環境の維持保全を図りつつ、教育、宿泊、業務、商業、住宅、文化・交流機能による複合市街地の形成を図り、地区の特色に合わせた街並み整備を進める。紀尾井町通りにおいては、通りの両側にゆとりある歩行空間を確保し歩行者の快適性を高めつつ、多様な商業系施設の集積を誘導することにより、賑わいを創出する。

地区施設の整備の方針

四ッ谷駅、麹町駅、永田町駅、赤坂見附駅の四ヵ所の駅が近接する地区であることから、歩行者が安全・快適に利用できるように、紀尾井町通り、清水谷坂、紀尾井町坂においてはゆとりある歩行者空間を創出する。地区内においては歩行者の回遊性、利便性を確保するため、歩行者通路等の整備、拡充を進めるとともに、都市景観や自然を楽しめるような広場整備を行い、歩行者ネットワークの形成を図る。

建築物等の整備の方針

地区内の史跡等及び公園等については、来街者や居住者がまちの成り立ちを知る良き地区固有の歴史的資源として継承する。沿道では、清水谷公園や外堀等の都市計画公園と "つながる緑" を形成し、敷地内の緑地とあわせて緑のネットワークを創出する。

歴史との調和を考えた意匠と高いBCP能力を有する高性能複合ビル

企画コンセプトである、緑・歴史といったキーワードはビル全体の意匠にも活かされることになる。

「この開発地は、緑と歴史を感じさせる史跡が足元にある。その上の建物の設計は、あえて外国の設計事務所を中心にお声掛けをしました。新しい感覚で歴史を引き継ぐ。しかしオーソドックスにはまとまってほしくない。そんな思いからです」(齊藤氏)

最終的に外装はKohn Pedersen Fox Associates P.C(. KPF)に決まった。選んだ理由は設計に対する考え方。決してデザイン面の良し悪しだけではなかったという。

「新館で特長的だったラインをモチーフにして残そうと。単純に未来志向に変えるだけではなく、うまくこの地の歴史を組み入れていただきました」(齊藤氏)

そのほかの部分ではBCP対応がポイントになる。ちょうど設計を詰めている段階で東日本大震災が発生。ある程度の設計スペックは決まっていたが、いくつかの部分で再度見直すことになったという。

「非常用発電は72時間。災害発生後3日間はビルの機能を保持します。このエリア一帯は上総層群という地盤沈下や液状化の発生確率が極めて少ない地盤となっています。そんな強固な地盤を持つエリアだからこそ、どこにも負けないBCP性能を採用しました」(齊藤氏)

「高い制振構造は、国土交通省による『官公庁の総合耐震計画基準』に当てはめても最高のグレード相当を確保しています」(大塚氏)

「そのほか、このエリア最大の特長として井戸水の提供があります。ホテルの利用がメインとなりますが、一日300トンの供給を可能にしています。ポンプや濾過器を整備することで災害発生時でも水に関しては全く困ることはないでしょうね。もちろん緊急時には周辺住民や帰宅困難者の一時避難施設としての機能も有しています」(齊藤氏)

執務室内の特長は、何といっても1,000坪超のワンフロア面積を実現したこと。18m×20mの大スパンは開放的なオフィス空間を演出する。


基準階平面図
基準階平面図

フロア完成イメージ(断面図)

フロア完成イメージ(断面図)

賑わいを取り戻す早道。それは紀尾井町の面白さを感じてもらうこと

「所在地である千代田区紀尾井町は歴史と品格ある街のイメージがあります。それに加えて竣工後は永田町駅に直結となりますので、さらに交通アクセスは良くなります。そういったエリアの持つポテンシャルには自信を持っていました」(大塚氏)

「赤プリ跡地と言えば、誰もが場所のイメージが沸きます。そういった点でも、立地の説明は非常にしやすく、大きなアドバンテージになったと思います」(齊藤氏)

「よく考えてみると、赤坂・紀尾井町エリアと六本木・青山エリアとは親和性がある。紀尾井町というエリアは、六本木や青山でオフィスをお探しのお客様にとっては問題なく選択肢の一つに入ってくるだろうと思っていました」(大塚氏)

プロジェクトの竣工約2年前の2014年6月。東京ガーデンテラスにおいてオフィス部分のメインテナントとして日本を代表するIT企業であるヤフー株式会社の入居が発表された。ヤフー側の "分散オフィスを一ヵ所に集約したい" というニーズと合致。オフィスとして使用される全24フロア中20フロアでの使用を予定している。

「物件自体、丘の上に立地しており、お城の本丸のようなイメージです。対外的なアピールにもつながるだろうと。そんな建物のイメージがヤフーさんにとって魅力を感じていただいたようですね」(齊藤氏)

かつて紀尾井町の持っていたイメージを変革できる企業としてヤフーの存在は期待が高い。

「ヤフーさんの本社移転を機に、紀尾井町は渋谷に次ぐ第2のIT企業の集積地となるかもしれません。今まで少なかった若い年齢層のビジネスマンが大量に増えることで街のイメージも一変するでしょう。そこに面白さを感じてもらえればと思います」(大塚氏)

「昭和を語る一つの証言者であった赤プリが生まれ変わります。そして同じ場所に以前の赤プリには負けない新しい施設が誕生する。この開発の竣工が、以前の賑わいを取り戻す大きなきっかけになればいいですね」(齊藤氏)

ロケーションを生かしたタウンマネジメントを行っていく

「我々にとってやるべきことは新しい街をつくること。このロケーションを活かしたタウンマネジメントを行い、エリア全体の価値を高めていこうと思っています」(齊藤氏)

「お堀があって、緑や花があって。休日にイベントを行うなどして集客を図っていきたいですね。メインテナントとなるヤフーさんとコラボレーションをしながら情報を発信していければと思っています」(大塚氏)

バーチャル企業の代表格であるヤフーと長年リアルな業務に携わってきた西武。業務形態が全く異なる企業同士の協業、どのようにここから情報を発信できるかがとても楽しみだという。

「タウンマネジメントというくらいですから自分たちの敷地の話だけではないわけです。周辺で働く方やこの街に訪れた方たちにとっていい環境を考えていかなければならない。今後開催する予定の各種イベントについても最終的には近隣の企業やホテルにもお声掛けして拡大していきたいと思っています」(齊藤氏)

いずれその広がりは紀尾井町だけではなく、外堀の外側である赤坂見附などの企業とも協力し合える関係を築きたいと考える。
このエリアの新陳代謝。そのためのスタートラインが東京ガーデンテラスとなる。

OUTLINE

本事業の概要
(今後変更となる場合があります)

所在地 東京都千代田区紀尾井町1-2

敷地面積 約30,400㎡

延床面積 約227,200㎡

主用途内訳
オフィス/約110,000㎡
ホテル/約28,700㎡
住宅/約22,700㎡
商業/約10, 800㎡、他

設計・監理 株式会社日建設計

外装デザイン
Kohn Pedersen Fox Associates P.C.

総事業費 約980億円

竣工予定 2016年5月

オフィス・ホテル棟の概要

主要用途
オフィス・ホテル
※ホテルは株式会社プリンスホテルが運営予定
地上36階・地下2階

階数
ホテル/30階~36階
オフィス/5階~28階
商業施設/1階~4階

高さ 約180m(紀尾井町通りより)

構造 鉄骨造など(制振構造)

施工会社 鹿島・鉄建・熊谷 建設共同企業体

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