(仮称)東京三田再開発プロジェクト

2020年10月取材

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記事は過去の取材時のものであり、現在とは内容が異なる場合があります。

東京のサウスゲート・田町で進行するエリア最大級の大規模再開発計画

東京のサウスゲートで進行する大規模な再開発計画「(仮称)東京三田再開発プロジェクト」。このエリアを象徴するランドマークタワー「住友不動産三田ツインビル西館」の敷地と一体となる大規模な面開発だ。全体の敷地面積は約13,600坪。敷地内には高さ約215mの大規模複合オフィスタワーが竣工する。今回の取材では、開発の背景やオフィスビルに採り入れた多様な機能についてお話を伺った。

山下 竜弥氏

住友不動産株式会社
ビル事業本部
ビル営業一部長

山下 竜弥氏

白井 麻加氏

住友不動産株式会社
ビル事業本部
ビル営業一部主任

白井 麻加氏

外観全景

外観全景

東京三田エリアを変貌させる大規模再開発プロジェクト

「(仮称)東京三田再開発プロジェクト」は、JR「田町」駅(三田口)西側の国道15号線と三田通りが交わった「札の辻交差点」周辺に位置する。都営地下鉄「三田」駅、JR線「田町」駅からの至近な距離、東京国際空港(羽田空港)や新幹線品川駅への移動の容易さなど、良好な交通アクセスも魅力の一つとなっている。

事業主は三田三・四丁目地区第一種市街地再開発組合。住友不動産株式会社は地権者ならびに参加組合員として参画。同事業を推進している。
隣地には2006年に竣工した「住友不動産三田ツインビル西館」が立地する。

「その土地を取得した当時から、将来的には本プロジェクトの土地を含めた一体開発を思い描いていました。当時には数少ない大規模な敷地を開発するというもので、構想通りならば街のバリューアップや地域貢献につながることは間違いありません。約20年前に考えられた非常に画期的な計画でした」(山下氏)

着々と準備を進めていく中、2010年度に「三田三・四丁目地区市街地再開発準備組合」を設立した。2017年度に都市計画決定が告示され、2018年度に「三田三・四丁目地区市街地再開発組合」設立の認可を受ける。
この地はもともと台地になっており、その高台からの眺望が称賛されて「月の岬」と名付けられていたという。今回の開発でもその高低差をうまく活用したランドスケープが計画されている。

「現在、隣地の三田ツインビル西館の斜面には芝桜を植樹していますが、再開発地でも芝桜等を植えて隣地からの連続性を保持させる予定です。ランドスケープには、特に力を注いでおり、完成時には都内でも類を見ない緑地と花々が一帯となった景観が誕生することになるでしょう」(山下氏)

ちなみに本事業は、日本政府の「地域振興」と「国際競争向上」を目的とする国家戦略特別区域の都市再生プロジェクトに位置付けられている。

歩行者ネットワークをつくりエリア全体の利便性向上に寄与する

本プロジェクトの完成後は、住宅棟、オフィスタワー、教育施設が配置され、いたるところに広場や公園を点在させる。もちろんそれらのオープンスペースはオフィスタワーの入居テナントだけの利用に限定するわけではない。周辺で働くワーカーや地域住民にも開放。癒しやにぎわいの空間として提供する。

「コンセプトは『エリアを一変させる大規模面開発』です。当社は長年にわたって三田地区の開発に力を入れてきました。三田と芝浦といった特色の異なるエリア同士を繋ぎたいという思いも込められています」(山下氏)

「芝浦側では当社が運営している『住友不動産三田ツインビル東館』や高層型ホテルの『ホテルヴィラフォンテーヌ田町』など、多様な施設を組み合わせながら都市開発を行ってきました。今後もエリア全体のバランスを見ながらバリューアップを意識した開発を行っていきます」(山下氏)

同プロジェクトでも地域全体の利便性向上に寄与していく。その一つが歩行者ネットワークの改善計画だ。

「バリアフリーを採り入れた歩行者デッキを新設します。現在は横断歩道や歩道橋でつながっていますが、利便性は決して高いといえません。そこで開発を機に田町駅側から快適にオフィスタワーにアクセスできる歩行者デッキをつくります」(白井氏)

さらに傾斜地を理由に行き来が不便だった芝浦方面との動線を改善するデッキも整備する。

歩行者デッキ完成予想図

歩行者デッキ完成予想図


「まだ計画の段階ではありますが、敷地全体に桜やツツジを植える予定です。そこでは季節を感じながら、散歩、休憩、ランチ、軽い運動など、さまざまな利用者が多様な使い方をする場にしたいと思っています」(白井氏)

歩道拡幅完成予想図

歩道拡幅完成予想図

斜面緑地完成予想図

斜面緑地完成予想図

エリア随一の高さと1フロア面積。安全安心も兼ね備えたオフィスタワー

「オフィスタワーは周辺の建物ではナンバーワンの高さになります。地下4階・地上42階建て。1フロア面積は約1,200坪。延床面積も当社が開発したオフィスビルでは最大の約60,400坪です。この規模感、ビルグレードの高さからも企業の本社移転を誘致することを目標としています」(山下氏)

オフィス設備もこれからの働き方の変化に応えられるよう機能的な環境を提供する。天井高は3,000mm、床下にはゆとりあるOAフロア100mmを完備する。併せて効果的なレイアウトを具体化するグリッドシステム天井、完全個別空調によるきめ細やかなゾーニングの実現。そしてエコ環境も充実させる。

平面図

平面図

「新型コロナの感染予防対策ということではなく、当社のオフィスビルでは以前から容易に自然換気を行う『換気ホッパー』を採り入れています。それにより春・秋などの中間期の省エネにも寄与します。それ以外にも太陽光発電、明るさセンサー付LED照明、Low-e複層ガラス、電動ブラインドなどを採用しており、冷暖房効率を高めた快適なオフィス空間を提供しています」(山下氏)

外観デザインにも強いこだわりを見せ、同社が今まで培ってきたDNAを継承した。

「三田ツインビル西館や東館は、ビルそのものが広告塔となるようにインパクトのある赤煉瓦調のデザインとなっています。駅からの視認性も良いため、まさにこのエリアにおけるシンボリックな建物となっています」(白井氏)

「当時は、都心でも中々見かけないような色合いにしようと。ただ赤色といってもさまざまな種類がありますので何種類もの煉瓦を並べて検討しました。そして印象的であるけれど決して派手ではない。そんな洗練された美しさを求めて選びました。オフィスタワーも品格を継承した外観デザインにする予定です」(山下氏)

「有難いことに三田ツインビル西館や東館は、この地を象徴する建物として認知されております。ただ、当時とは流行も趣向も違うため、同じデザインにするのではなく、外観に縦横の赤いラインをあしらうことで、その品位を受け継いでいきます」(白井氏)

ビルの顔となる1階エントランスホールのデザインにも強いこだわりを見せた。

「エントランスに足を踏み入れると正面に芝桜等の庭園が見えるような設計にしています。緑地と一体化となったコンセプトを強調するために、エントランスだけで約450坪を使用しています。このスペースは圧倒的な開放感を演出するでしょう」(山下氏)

公園・広場等完成予想図

公園・広場等完成予想図

安心・安全の確保のために中間免震装置を採用

「当社は常に『安心・安全』を視野に入れた開発を行ってきました。今回のオフィスタワーでも『制振+免震構造』を採り入れて地震エネルギーを伝えにくくします」(白井氏)

屋上に風揺れ制御用制振装置を設置。振動エネルギーを吸収する。そして制振壁を採用して風や地震による揺れの軽減を行う。それに免震設備が加わる。

「当社は、免震構造に強いこだわりを持っています。一般の免震ビルでは地下に装置を設置して揺れを吸収する構造が少なくないのですが、当ビルでは27階のスカイロビー下のフロアに免震装置を設けて中間免震としています。それによって高層階でも免震構造の効果を十分に得られ、人命だけでなく、オフィス内の事務機器などの転倒リスクを軽減させることが出来ます」(白井氏)

その他、停電時対応として2回線ループ受電方式を採用。常時2回線で受電しているため片側の回線が断線しても継続した送電を可能にする。受電は特別高圧受電を採用。これは病院や大規模工場と同等のスペックだという。さらに停電時には都市ガス(中圧ガス)を利用して発電機を運転。最低でも10日間は共用部の照明などを可能にする。都市ガスの供給が停止した場合でも、備蓄した重油により発電機を運転し72時間の給電を行う。さらなるBCPに応えるためにテナント用発電機スペースとオイルタンクも用意する。

オフィスワーカーや地域住民、帰宅困難者の安全確保のための対策も万全だ。

「万が一の浸水に備えた防潮板、断水時用の防災井戸、仮設トイレとなるマンホールトイレ、72時間分の雑用水備蓄などの災害時対策を実施します。また、1階のエントランスホールは帰宅困難者の一時避難場所として使用できるように設計しています」(白井氏)

構造概念図

構造概念図

お客様の声に迅速に対応するために自社で直接エリアマネジメントを行う

同社のエリアマネジメントの一番の特長は自社グループ内で管理体制をとっている点だ。

「常にお客様と近い距離を保っていたいという理由からです。せっかくお客様から生の声をお聞きしても正確に伝わってこなければ意味がありません。正しく理解することで、きめ細やかに、そして迅速なレスポンスを心がけていきたいと思っています」(白井氏)

過去に同社が開発してきたオフィスビルでの改善点や要望は、今後の開発計画にも活かしていくという。

「特に『三田ツインビル西館』に入居されているお客様の声はとても参考になります。三田という立地をよく知っておられる方の貴重なご意見として、今後のエリアマネジメントにも随所に役立てていきます」(山下氏)

同社は今後も、防災性や利便性を向上させ、新しいにぎわいを創出するなど、周辺地域の方々に、喜びや感動を与える魅力的な街づくりを目指していく。

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