虎ノ門・麻布台プロジェクト

2021年10月取材

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記事は過去の取材時のものであり、現在とは内容が異なる場合があります。

都心の広大なエリアで進行する
「ヒルズの未来形」となるプロジェクト

港区の虎ノ門・麻布台地区で進行している「虎ノ門・麻布台プロジェクト」。「Modern Urban Village」を開発コンセプトに、自然環境と調和した新たなにぎわいのコミュニティを創出する計画だ。約8.1haの広大な計画区域の中に、オフィス、商業、住宅、ホテル、医療施設、インターナショナルスクール、ミュージアムなどの多様な用途が形成される。今回の取材では、圧倒的なスケールとインパクトを持つプロジェクトの全容を紹介する。

高池 義方 氏

森ビル株式会社
都市開発本部 開発事業部
開発2部
課長

高池 義方 氏

大平 哲司 氏

森ビル株式会社
営業本部 オフィス事業部
営業推進部
企画グループ

大平 哲司 氏

虎ノ門・麻布台プロジェクト

プロジェクト全景イメージ ©DBOX for MORI Building Co., Ltd.

エリアが抱える都市課題解決にむけ長い年月を費やした都市再生プロジェクト

「虎ノ門・麻布台プロジェクト」は、桜田通り、外苑東通り、麻布通りに囲まれたエリアで展開する広大なプロジェクトである。開発前は、東西と南北を通る道路の接続の悪さ、行き止まりの道路など、利便性や防災上の課題が生じていた。さらに東西に長い地形は高低差が激しく、その上老朽化が進む建物が密集するなど、都市インフラの改善が求められる状況だったという。

森ビル株式会社は、これらの課題を解決するために同プロジェクトを立ち上げた。計画のスタートは30年以上も前に遡る。1989年に地権者とともに「街づくり協議会」を設立。以降、1993年に「虎ノ門・麻布台地区市街地再開発事業準備組合」設立、2014年に「虎ノ門・麻布台地区市街地再開発事業準備組合」の区域拡大、2017年には「国家戦略特別区域法に基づく区域計画」が認定・都市計画決定、2018年に「虎ノ門・麻布台地区市街地再開発組合」の設立認可となった。

「立場や事情の異なる約300人の地権者の方々と少しずつ議論を重ねて進めてきましたが、その苦労がようやく形になりました」(高池氏)

その後、権利変換認可を経て、20198月に着工。竣工は2023年の予定だ。

プロジェクト配置図

プロジェクト配置図

「Green」と「Wellness」がもたらす新たな都市の価値
街全体を一つのワークプレイスに。自由で創造的な働き方も実現

同プロジェクトのコンセプトは、「緑に包まれ、人と人をつなぐ『広場』のような街 ~ Modern Urban Village ~」。そのコンセプトを「Green」と「Wellness」の2つのキーワードが支える。これまで同社が培ってきた開発での知見を全て注ぎ込んだ「ヒルズの未来形」になると語る。

同社はこれまで「都市の本質は、そこに生きる人にある」と考えてきた。そのため同プロジェクトを進めるにあたり、人々が人間らしく生きるための環境や都市のあり方をゼロから見つめ直したという。その結果、従来とは異なる手法でランドスケープの計画を行うこととなった。

「人が動き、人が集まる場所こそ重要と考え、最初に広場の位置を確定させました。そこから3棟の超高層タワーを配置していったのです。広場以外にも高低差のある地形を有効活用し、低層部の屋上を含む敷地全体を緑化します。緑地部分の面積は約2.4ha。敷地面積の約3割を占めます。そこを舞台に自然があふれる憩いの場を創出します」(高池氏)

そんな緑豊かな空間の中で、さまざまな施設がともに連携し、暮らす、働く、集う、遊ぶといった人の営みの全てがシームレスにつながり、人と自然とが調和し、人と人がつながり、刺激しあいながら創造的に生きられる新しい都市生活を実現するという。

「例えば、『働く』ことはオフィス以外でも可能です。ミーティングをカフェで行い、大事なお客様との商談はホテルのレストランを利用する。気分転換には広場を使えばいい。『働く場=オフィス』と考えるのではなく、街全体をワークプレイスと捉え、自由で創造的な『働き方』を実現させたいのです」(大平氏)

中央広場イメージ

中央広場イメージ ©DBOX for MORI Building Co., Ltd.

オフィスロビーイメージ

オフィスロビーイメージ ©DBOX for MORI Building Co., Ltd.

東側エントランス

東側エントランス ©DBOX for MORI Building Co., Ltd.

また、A街区の5階から6階には慶應義塾大学病院予防医療センターを開設する。高度な検査・診断技術に基づく従来の人間ドッグに加え、個々の受診者ニーズに応じた予防医療を展開する。またこの予防医療センターを核として、エリア内のさまざまな施設のほか、広場、菜園なども1つのメンバーシッププログラムで結び、外部施設や医療機関とも連携しながら、この街で住み、働くことの全てが「ウェルネス」に繋がる仕組みを導入する予定だ。生活のさまざまなシーンで心と体の健康をサポートし、あらゆる世代の人々が生き生きと暮らし続けられる街を形成する。

その他、環境面の取り組みとして、街全体で「RE100Renewable Energy 100%」に対応する再生可能エネルギー電力を100%供給し、街の利用者の脱炭素に向けた取り組みも支援する。

これらの取り組みが評価され、エリア開発を対象にした環境性能制度である『LEED ND』と、人の健康やウェルネスに焦点を合わせた建物の性能評価システム『WELL』の予備認証を取得した。『LEED ND』では都内初の事例となる最高位のプラチナランクを取得、またWELLも予備認証取得済の物件として世界第一位の登録面積であり、竣工後には最高ランクのプラチナ認証を取得する見込みだ。

都市機能を高度に集積させた「ヒルズの未来形」
新たな街を創出させる

「計画区域約8.1ha、敷地面積約63,900㎡は六本木ヒルズより小さな面積になりますが、開発後の延床面積約26万坪と、我々がこれまで手掛けてきた都市開発事業の中でも最大級の規模となります。まさに社運を賭けたプロジェクトといえます」(高池氏)

敷地内は、オフィスを主要用途とする「A街区」を中心に、オフィスと住宅の「B-1街区」、ホテルと住宅の「B-2街区」、オフィスと住宅の低層棟「C街区」で構成される。A街区の7階から52階がオフィスフロアとなる。

「オフィス部分の貸室面積は約6.5万坪、基準階面積は1フロア約1,400坪で80×80mの整形空間と、同エリアではかつてなかったスケールになります。オフィススペックも、現時点で最高クラスのものを採用し、入居テナントにとって働きやすいワークプレイスを提供します。」(大平氏)

A街区 基準階平面図(4,600㎡)

A街区 基準階平面図(4,600㎡)

森ビルの都市づくりの特長の1つとして、開発案件が竣工した後も、タウンマネジメントからビルのメンテナンスまで、原則自社が主体となり管理・運営を行っていく点が挙げられる。

「社内に管理部門を配しているため、ダイレクトにお客様の反響を聞くことができます。今後、新規供給が増えることになった場合、競合ビルとの比較は不可避となるでしょう。もちろんスペックの高さは重要ですが、運営面やアフターサービスといった部分においてもベネフィットを感じて頂きたいと思っています」(高池氏)

「テナントリーシング活動においては、単にオフィスの床を営業するだけではなく、『Green & Wellness』という街づくりのコンセプトをきちんとご理解頂けるよう、街全体の魅力を訴求していきたいと思っています」(大平氏)

同プロジェクトの「街としての魅力」を語るのに欠かせないのが巨大なフードマーケットを始めとする商業施設となる。

「フードマーケットは中央広場の地下に誕生します。厳選された食材や東京を代表する食文化を通じて、近隣だけではなく遠方からもその為に訪れて楽しんでもらえるような企画をしていきます」(高池氏)

フードマーケットイメージ

フードマーケットイメージ ©DBOX for MORI Building Co., Ltd.

敷地全体に広がる商業施設は約7,000坪。多彩な約150の店舗によって新たな体験や感動が生まれるような空間をつくっていく。

その他、同プロジェクトの特長的な部分を見ていこう。

A街区の54階から64階の高層部分には都市型レジデンス「アマンレジデンス東京」を設ける。居住者専用のラウンジやスパ、エレベーターホールを備え、「理想の住宅」を演出する。アマンとはラグジュアリーリゾートやホテルを擁する世界有数のブランドで、B-2街区には姉妹ブランドとなるラグジュアリーホテル「ジャヌ東京」が開業する。

A街区に隣接した地上7階の別棟には、都心最大級の生徒数を誇るインターナショナルスクール「ブリティッシュ・スクール・イン・東京」を誘致。50ヵ国以上の国籍の生徒が在籍する国際色豊かな学校が、外国人ビジネスワーカーやその家族の生活をサポートする。

また敷地内には、ミュージアムやギャラリーも新たにつくられるほか、「街全体をミュージアムにする」をコンセプトに、広大な街のあらゆる場所に芸術や文化といったピースが加わる予定だ。

建物立面図

建物立面図

災害時でも安心・安全を確保。高い耐震性能で事業を継続させる

災害時には周辺からも「逃げ込める街」を目指してさまざまな耐震性能を採用している。3棟の超高層タワーには、オイルの流体抵抗が揺れのエネルギーを吸収する「オイルダンパー」、高粘度の粘性せん断抵抗力を利用して建物の揺れによる振動エネルギーを吸収する「粘性体制震壁」、延び能力のある鋼材を使用したブレースで大地震時のエネルギーを効果的に吸収する「座屈拘束ブレース」など、高い耐震機能を装備。東日本大震災レベルの地震が起きた場合でも、事業継続を可能にする。

そして災害時でも街全体で必要な電力供給を行う。

「メインタワーの地下にはコージェネレーションシステムと地域冷暖房施設を導入。各街区にも非常用発電機を設置し、災害に強い中圧ガスを使用します。それにより非常時も街全体で必要な電力の100%供給を可能にします」(高池氏)

災害時で帰宅困難者の受け入れでは、約3,600人が一時滞在できるスペースを確保する。備蓄倉庫にはその人数が3日間対応できる水と食料を用意するという。また、敷地内の数ヵ所に防災井戸を整備し、災害時のトイレ洗浄水や雑用水として活用できるように備えている。

「当社ではずいぶん昔から震災時に迅速に行動できるように独自の取り組みを行ってきました。防災要員社宅の設置や定期的な特別訓練の実施など、当社独自のガイドラインに沿った防災組織体系を整備しています。それにより周辺地域の防災拠点としても貢献できるものと考えています」(大平氏)

「これらは特にアピールしていませんが、私どもからすれば当然のように行ってきたことにすぎません」(高池氏)

「人」が主役の街づくりで豊かな都市生活を提供していく

「我々の使命は、『都市づくりを通じて社会貢献をしていく』こと。どれだけ豊かな都市生活を提供し続けていけるかが重要だと思っています。つまり、今回のプロジェクト完成で我々の役目が終わるわけではありません。ここで働く人や住む人とは、ずっと関係が続いていくわけです。それを考えると都市づくりは『人』です。これからも多くの人のために豊かな都市生活を提供していきたいと思っています」(高池氏)

「通常のオフィスはただ床を借りるものです。しかし、我々は当プロジェクトを始め港区内に集積するヒルズが持つ多様な機能を複合させて、ワークとライフが一体となった創造的で豊かな働き方を提供していくことを目指しています。このような世界でも前例のない試みを進めることで、東京の都市としての磁力を高めることに寄与したいと考えています」(大平)

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