東京流通センター「物流ビルB棟」

2018年4月取材

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記事は過去の取材時のものであり、現在とは内容が異なる場合があります。

安全性を兼ね備えた新時代の物流施設「物流ビルB棟」

1960年代の高度経済成長期に交通渋滞の緩和と当時の物流の円滑化を目的に設立された東京流通センター(TRC)。2017年6月末に大規模な建替えにより安全性を備えた画期的な「物流ビルB棟」が誕生した。本物件の魅力はビル単体のスペックの高さに加えて、構内全体が一つの街として機能を有しているところにある。今回の取材ではその歴史を含めてお話を伺った。

菅井 次郎 氏

株式会社東京流通センター
常務取締役営業部管掌

菅井 次郎 氏

相島 一郎 氏

株式会社東京流通センター
営業部長

相島 一郎 氏

谷山 広和 氏

株式会社東京流通センター
営業部 営業一課長

谷山 広和 氏

都市部の流通機能の円滑を目的に東京流通センターが誕生した

東京流通センター全景

東京流通センター全景


東京流通センターの誕生には、戦後の高度経済成長によって加速した産業と人口の大都市集中、それによる交通渋滞という都市問題が背景となっている。

都心及びその周辺にある施設のうち、問屋、市場、倉庫等の流通施設は交通におよぼしている負担が極めて大きく、さらにこれらの荷物の積み降ろしのための駐停車等は、都心およびその周辺における交通麻痺の原因となっていた。そのため交通上立地条件のよりよい場所に、これらの施設を集団的な立地として整備することが必要だったという。

その考えに基づき、大田区平和島を「南部流通業務団地」として、首都圏を中心とする巨大な消費圏をまかなう流通基地の一つとする方針が確立された。そこにトラックターミナルや倉庫、卸売業者の事務所を加えるという案が加わり、1966年6月に「流通業務市街地の整備に関する法律」が成立。流通センターの実現を前進させる。

東京都内の物流拠点の建設にあたっては、東京23区の商工業者で構成される東京商工会議所が大きな役割を果たした。輸送交通、倉庫、卸売の各機能を統合した施設の必要性を訴え、提言。省庁間の調整役となった。

計画を推進するにあたり費用や収益性などの検討に入る。株式会社東京ターミナル(現・株式会社世界貿易センタービルディング)、三菱地所株式会社、東京商工会議所がそれぞれ用地取得費、建設費、卸売業の入居条件などの試算を行うこととした。特に三菱地所株式会社は、東京流通センターの設立に全面的に協力。ビルの建設を推進するなど、設立後も大きな役割を果たすことになる。

「三菱地所は立ち上げの段階から先導的に動いていました。準備室の段階から2名の社員が派遣されて設立事務の専任者となっていたようです」(菅井 次郎氏)

1967年2月、東京商工会議所は株式会社東京流通センター設立準備事務局を設置。東京都に対して埋立地16万5000㎡の払い下げを申請。総工費268億円、問屋ビル5棟、サービスビル1棟、延床面積33万㎡の建物を建設するとの説明が行われた。

他の建物には見られない数多くの特長を備えた物流ビルが誕生

1967年11月、東京商工会議所で株式会社東京流通センター創立総会が開催される。最終設計段階においてさまざまな調査分析をもとに、従来の店舗・事務所重視の考え方から倉庫・配送機能を重視した物流中心の施設に方向転換を行う。

野外では、水を多く含む軟弱な土質で地下水位が高いため、地盤の改良が課題であった。そのため、路盤の改良のために下層路盤に大島火山砂利を約4万㎡にわたって敷き詰める。また、強い潮風対策として樹木を植樹した。1972年には桜を植樹。現在、それらの桜は東京流通センターの景観を彩るシンボル的な存在となっている。

「物流ビルA棟」は1971年9月に竣工。数多くの特長を備えている。中でも最大の特長は、最上階の6階まで5トントラックが直接の乗り入れを可能とし、1階同様に荷物を積み下ろせること。当時、この点は世界でも類例がないものといわれている。その他、労働環境に留意して、換気設備や冷暖房設備、自然光が入る設計、貸室すべてに屋内消火栓と非常放送、自動火災報知機を設置、車路には炭酸ガス消火設備を配置した。その建設工程における優れた技術力と工夫が評価され、社団法人日本建築業団体連合会(現・一般社団法人日本建設業連合会)による「第14回建築業協会賞」を受賞している。

東京流通センターの景観を彩る桜

東京流通センターの景観を彩る桜

交通アクセスの大幅な改善と物流ビルB棟の建設

東京流通センター開業後も、交通アクセスを改善すべく、関係機関の努力は続けられた。

「1964年に東京モノレールが開通しました。1969年に『新平和島』駅が開業。その後、1971年に現在の『流通センター』駅に名称が変更され同年11月からすべての列車が停車するようになりました。それから通勤時間帯の増便も決定し、新ダイヤ編成によって朝夕の混雑が解消されたのです」(相島 一郎氏)

その他、路線バスの路線延長、周辺道路である環状7号線の延伸などが行われている。

「物流ビルA棟」は、1972年からの景気上昇と営業促進活動により、1973年5月には内定を含めて稼働率が100%に到達した。このような状況の中で「物流ビルB棟」の建設が始まる。前年が日本経済の不況年であったことから時期尚早との声もあったが、資金を調達し着工。1973年10月に竣工を迎えた。第1次オイルショックを乗り越えて、1974年度期末時点で「A棟・B棟」を併せた物流ビルの稼働率は92%と順調に伸びた。

人×街×物流の実現に向けてB棟が生まれ変わる

2012年、「物流ビルB棟」の建て替え計画が正式に発表された。約8年の歳月をかけて検討、検証が費やされたという。全入居テナントに3年後の2015年7月末に営業終了となることを告知。主要スペックの見直しを行う。

「旧B棟はお客様のニーズに合わせた区割り面積の提供を行っていました。そして最上階まで5トン車の乗り入れが可能というのがセールスポイントでした。しかし車と歩行者の動線が同じために、安全性を指摘する声もありました。いくら構内は徐行しているとはいえ、お客様に危険を感じさせるわけにはいきません。そこでB棟の建て替えでは安全面の向上も追求したのです」(谷山 広和氏)

全ての区画で歩車分離構造を採用した。その構造は物流施設では画期的な設計である。

「歩車分離構造により、就業者や来訪される方々の安全や安心を提供します。歩行者は倉庫区画を一度も通ることなく事務所への出入りが可能となりました。安全性を格段に高めたこの設計はお客様からも好評です」(相島氏)

「物件施設でこれだけ駅前に立地している物件は他に類を見ません。それに加えて各種サービス施設を備えている。複合的な要素を活かしてポテンシャルを高めており、まるで一つの街を形成しているようです」(菅井氏)

歩車分離

歩車分離


B棟基準階

B棟基準階


その他、新B棟の特長について簡単にまとめてみた。

1. 柔軟な貸室面積
都内屈指の大型マルチテナント型物流施設でありながら、1区画最小160坪から1フロア6,720坪までの利用が可能(6フロア全ての場合は39,500坪)。また各区画の前面まで大型車両の乗り入れが可能。

2. 汎用的な大空間
10m×11mの柱スパンと梁下5.5mの大空間。広い有効スペースを実現し、自由度の高いレイアウトが可能となる。

3. 安全性
歩車分離構造による安全・安心を提供する。歩行者はマンションをイメージした外廊下を使用することによって、高い歩行者動線を実現した。また、建物は免震構造を採用。万が一、災害発生時でも建物被害を最小化し、サプライチェーンを継続できる。

4. 快適な就業環境
駅前という交通アクセスのよい立地に加えて、各種サービス施設(カフェ、飲食店、コンビニ、休憩室、クリニック、歯科、理容院、郵便局、ATM、貸会議室、ビジネスコンビニなど)を保有。構内全体が一つの街としての機能を備えている。

5. 最高の立地
東京都大田区平和島に位置。都内や神奈川、千葉への配送に優れている。また羽田空港や大井ふ頭にも近接しているため、緊急配送や国際物流にも迅速な対応が可能となっている。

「当施設のようなマルチテナント型物流施設の場合、大半の施設が倉庫と事務所エリアが分かれているケースが多く、倉庫内に事務所を設置する際は、ある程度の配置が決まってしまいます。当施設の場合、フレキシビリティな空間設計が可能なため、利用者のニーズに応じたレイアウトが実現できます。また、大型機械や冷凍庫のような大きな電気容量の要望にも対応しております」(谷山氏)

構内マップ

構内マップ

交通アクセスのよい立地にオフィス環境を構築

一大物流センター内のオフィスビル「センタービル」についても少し触れておこう。東京モノレール「流通センター」駅前に位置し、1区画26坪から最大1フロア940坪までの面積をお客様のニーズに合わせて提供している。「センタービル」は1971年10月に竣工。竣工当時は、地下1階・地上11階建ての高層部(オフィス棟)と地下2階・地上2階建ての低層部(展示場・地下部パワープラント)であった。その後、リニューアル工事が行われ、現在は、地下2階・地上11階建てのセンタービルと地下1階・地上9階建てのアネックスで構成されている。

「都心であるにも関わらず、割安感のある賃料でオフィスを提供しています。駐車場を多数備えていますので、メーカーや営業車を多く活用される企業の皆様にはメリットのある物件といえるでしょう。羽田空港や東海道新幹線「品川駅」とも近いので、地方都市との連携を図っている企業にもお勧めといえます」(相島氏)

「また、敷地内には未使用の土地が多くありますので、テナント企業の皆様からの非常用発電機設置といったニーズにも対応できます。システム関連などの分室として検討される企業からの問い合わせも増えていますね」(菅井氏)

「東京モノレールというと遠いイメージがありますが、JR山手線『浜松町』駅からわずか3駅10分。5分に1本は運行していますし、流通センター駅からは下車1分。就業者の通いやすさも物件の評価につながっています。また、各種サービス施設による街機能の充実と合わせて、エリア全体で魅力を後押ししています」(谷山氏)

さらに新たな取り組みとしてセンタービル1階に託児施設の開設を予定しているという。

「色々な働き方に合わせたサポート体制を整えていきたいと思っています。構内で働いている方に少しでも役に立てればいいですね。どのくらいの需要があるかはわかりませんが、テナント企業の方からは期待されているのを感じます」(相島氏)

将来的には、B棟以外の建物に関しても順次再開発を進めていきたいと語る。その際には、さらに安全・安心を追求した快適なビジネス環境をサポートしていく。

入居テナントの声


働く環境を整備した東日本を支える物流基地

大久保 尚彦 氏

株式会社きくや美粧堂
サプライチェーン部部長

大久保 尚彦 氏

きくや美粧堂は美容室向けに化粧品および美容機器等の販売を全国展開している専門商社だ。「物流ビルB棟」内に物流基地ともいうべき「イースト・ロジスティック」を入居させて、東日本全体の販売網をカバーしている。倉庫内には自動で段ボール内の商品の高さを検知して封函するマシンや、搬送仕分けコンベア、自律型の搬送ロボットなど、最新設備を備えて、高い生産性を生み出している。

2017年6月末、「物流ビルB棟」の竣工時に移転を実施した。

「同じ敷地内の『物流ビルA棟』に入居していましたので、立地の良さは十分に理解しています。今回、物量が大幅に増えたこと、新規サービスの充実・開拓を目的に移転を決意しました」

同社の客層の多くは都心で営業している美容室となる。このオフィスの魅力は何といっても立地にあると大久保氏は語る。

「最寄り駅から近いこともあって、関連会社の方に来てもらえるのがいいですね。実際に商品を使う美容師さんに当社の商品群を見せることができ、いわばショールームのような役割になっています。やはり実際に手に取っていただくと良さがわかってもらえるのか、販促につながりますね。従業員にとっても、お客様が来社されることが適度な刺激になってプラスの効果が生まれていると思います」

同社の従業員の約7割が女性。そのため女性が働きやすい職場環境を意識しているという。

「どちらかというと無機質な倉庫内で一日を過ごすわけですからできるだけくつろいでいただこうと思っています。そのため物流施設には珍しいのですが、TVやWi-Fiを設置したリフレッシュルームを完備させました。その他、近くの公園や施設内の食堂を借りてバーベキューやパーティを定期的に開催し、社員同士の交流を深めています。あくまでも会社の主役は従業員です。せっかく駅から近い立地にオフィスを構えたのですから、もっとソフトの面で社員を支えていければいいと思っています」

仕分けコンベア

仕分けコンベア


リフレッシュルーム

リフレッシュルーム

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