WeWork Japan

2018年9月取材

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記事は過去の取材時のものであり、現在とは内容が異なる場合があります。

シェアハウスからコミュニティハウスへ。WeWorkが行うオフィス革命

2010年、米国ニューヨークで誕生したWeWork。設立後わずか8年で、世界23ヵ国287ヵ所での事業展開、延メンバー数は26万人強(2018年8月現在)。企業評価額は200億ドル(約2兆2400億円)に上るとされ、いわゆる米国を代表するユニコーン企業として世界中から注目を集めている。2018年2月、港区六本木に日本での第一号オフィスを開設。2018年内に日本国内だけで10-12拠点の開設を目指しているという。今回、急成長を続けるWeWork日本事業のゼネラル・マネージャー髙橋正巳氏に、企業ポリシーやそのプラン、日本での展開についてお聞きした。
(取材日:2018年9月3日 電話取材にて)

髙橋 正巳 氏

WeWork Japan
ゼネラル・マネージャー

髙橋 正巳 氏

米国らしいダイナミズムなコミュニティを目指して設立された

WeWork新橋の共用エリア

WeWork新橋の共用エリア。窓際の日差しが入る場所に設けられている。クリエイティブなデザインが特長的で招かれた友人宅で会話をするような感覚で利用できる。この他にも利用目的に合わせた共用エリアを用意。入居者同士の自由なコミュニケーションを創出させている。ちなみにこのエリアの左側にはコミュニティバーと呼ばれ、受付の役割を担うデスクが置かれておりメンバー同士のコラボレーションを促進する目的でコミュニティマネジャーが常駐している。


WeWorkは2010年2月に創業。最初のオフィスは2010年ニューヨークのソーホーエリアに開設された。英語には「Thank God It's Friday」という表現がある。「やっと金曜日が来た!」というフレーズだ。しかし同社が考えるのは「Thank God It's Monday」。つまり仕事始まりである月曜日を憂鬱な日ではなく、ワクワクできる1週間の最初の日にすること。そのために「Create a world where people work to make a life, not just a living」をミッションに、自分の仕事を心から楽しめるような、心が弾むようなワークスペースの提供を心掛けているという。

創業当初のメンバー企業(契約企業)の多くはベンチャーやフリーランサー。小規模事業者に最適なソリューションを提供し、最小限のコスト負担で事業のスタートアップをサポートしてきた。しかし最近では大企業の利用も顕著になっている。それは、大企業側が今まで接していなかった領域の分野や世代との交流から生まれる想定外の効果に期待していることの表れだという。そうして8年が経過。急速な事業拡大を成し遂げた。

その要因の一つが、世界的に広まった「コミュニティの活性化」の動きをいち早く掴み取ったからだと分析する。実際、WeWorkのメンバーの中には、人と人とのネットワークに魅力を感じているという人が多く存在するという。

フレキシブルな契約は事業の柔軟性をサポートする

ここでの施設の使い方はまさに十人十色。同社としては、さまざまな使い方ができるように各所に配慮した環境を用意していると語る。必要と思われる機能はすべてワークスペース内に配置している。それでは主要プランと料金について紹介しよう。

■主要プランと料金

 プラン名 サービス内容  主な利用者  月額最低料金 
カスタム
ビルドアウト
メンバーの要望に合わせたオーダーメイド。理想的な空間づくりから運営までをWeWork側が担当する。 50~500名規模。充実した設備、フレキシブルな入居希望の方向け。 (要相談)
プライベート
オフィス
チームの人数に合わせて独立した部屋を提供。デスク、椅子、ファイルキャビネットなどを装備。急な入居にも対応可能。 1~100名規模。コミュニティ内で独立性を保ちたい入居者向け。 (要相談)
専用デスク 自分専用のデスクをシェアスペース内に用意。いつでも同じデスクでの業務が可能。 コラボレーションを目的に毎日利用する入居者向け。 101,000円/月

(アークヒルズサウス例

ホットデスク 共用エリア内にワークスペースを確保。ノートPC持参で空席を選び業務を行う。 1ヵ月に1週間以上利用する利用者向け。 72,000円/月

(アークヒルズサウス例)


さらにメンバーのスムーズな業務運営のために用意した設備にも触れておく。これらはほんの一部を抜粋したものになる。もちろん毎月の費用内に含まれているサービスである。

・高速インターネット  ・業務用プリンター  ・事務用品  ・電話ブース
・郵便&荷物サービス(ホットデスクプランを除く)
・グローバルなコミュニティネットワーク    ・ソーシャルや勉強会など多目的なイベント
・24時間入館可能   ・受付デスクサービス  ・毎日の清掃サービス
・マイクロ焙煎珈琲や紅茶、お茶        ・クラフト生ビール 

これらに加えて、WeWorkには他社にはない2つの優位性を備える。それはデジタルとリアルの両面で支えられている。

同社は創業以来、数多くの地域や拠点で、メンバーのスペース利用状況についてメタデータを集積してきた。例えば、会議室の時間帯による利用率データ、各消耗品の使用データ、エリア別滞在データなどだ。これらは自社開発の専用ソフトウェアを介して集積され、そこから見出されるオフィスニーズを分析した上で今後のより良いオフィス環境づくりに生かされていく。

そのほか、長年のオフィス運営の中でメンバーの交流を促進するのに最適な「廊下や通路の幅」「妥当なパントリーの位置」「適したデスクの大きさ・種類」などの情報もデータで蓄積されており、それらはWeWorkのオフィスデザインにすべて反映されている。このように、データに基づくオフィスデザインがWeWorkの強みの一つとなっている。

オフィス内の通路(WeWork新橋)

オフィス内の通路(WeWork新橋)


一方、実際に顔の見える距離で事業主同士のコラボレーションを働きかけることがリアルでのユーザー支援だ。これがWeWork最大の特長で、その役割は各拠点に常駐するコミュニティチームが担う。コラボレーションが促進するようにプログラムに変化を持たせたイベントや説明会を頻繁に開催。大掛かりなイベント以外にも、普段からカフェカウンターやシェアスペースでのメンバーの交流が進むように配慮を行き届かせている。メンバーの事業内容や特性、課題などを常に把握するコミュニティマネジャーの育成は創業以来、最優先事項として取り組んできた。

パントリーのカウンター(WeWork丸の内北口)

パントリーのカウンター(WeWork丸の内北口)


より多くの企業にワークスペースの最適化をサポートする

事業者がオフィスを構えるということは、本業以外に雑務を行う場面も少なくない。スタートアップやスペース拡張時には、ITシステムの構築や机のレイアウト、家具・什器の手配は欠かせないし、清掃に至っては毎日の業務となる。できるだけ本業に専念できる環境を整えることは、効率的に良質なアウトプットを生み出すキーポイントである。

本業以外の労力負担は、万が一の退去や移動においても同様だ。企業の好景気時にはよりよい環境でのスペースを提供し、不景気時は効率性や合理化を提案できる。同社は多くの企業にワークスペースの最適化をサポートしていく。

日本進出は、日本経済のポテンシャルに大きな期待があったと語る。そして今後の拠点展開としては「ネットワーク」をキーワードに拠点を検討していくという。検討する際の要素は「ターミナル駅」「便利な交通路線」「駅からの近距離」「活気ある街」など。そして日本では「よりフレキシブルに働く環境の提供」を目指し、母親の雇用を応援できるオフィス立地も視野に入れて考えていくと語る。

WeWorkのオフィスは、国ごとの文化を生かしたデザインを採用してきた。無機質になりがちなオフィスにあえて働く場とかけ離れたアートを飾ることもあった。インスピレーションが湧くデザイン、会議が活気づく色合いなども考慮してきた。日本の各拠点もローカル色を打ち出し、ギンザシックスの拠点では堀ごたつを採用しているという。そして国の文化や自然環境、立地を生かしたオフィスづくりをする姿勢はこれからも変わらない。

共有エリア(WeWorkギンザシックス)

共有エリア(WeWorkギンザシックス)


それでは最後にWeWorkに拠点を設けた企業に話を聞いてみる。ここを選んだ理由、感じた魅力、予定している使い方などを伺ったので、今後のオフィス選びの参考にしていただければ幸いである。

入居テナントの声


「スペースの有効活用」に魅力を感じてWeWorkへのオフィス移転を行った

小松原 真一郎 氏

リーチローカル ジャパン
オペレーション本部 本部長

小松原 真一郎 氏

リーチローカルは地域密着企業に強みを持つデジタルマーケティングの専門会社だ。同社のサービスは他の同業社にはないユニークな特長を持つ。

1. 同社が開発したプロキシサーバーを経由することで、エンドユーザーが問い合わせるきっかけとなった検索ワードを分析できる

2. サイト上に表示させる電話番号を変更することで、電話をかけるきっかけとなった検索ワードの分析も可能とする。また通話を録音することで、オペレーターの応対品質や、顧客の潜在的なニーズを確認できる

3. 上記の分析結果をベースに、集客効果の高い検索ワードに多くの予算を自動的に配分できる独自のシステムを使って広告運用を行う

これらの特長は、広告予算の少ない地域密着企業からの支持を集めた。そしてグローバルでのサービスを展開するために7年前に日本法人が誕生した。

同社の旧オフィスは六本木駅近くに立地する大規模ビルの1フロア。約5年の間、入居していた。

「200坪ほどの面積に70名超で使用していました。とても居心地はよかったのですが、『更新期間が迫っていたこと』『200坪という面積を有効に活用しきれていなかったこと』を理由にオフィス移転を検討したのです。同時に多様化した働き方に応えられるオフィス環境の構築も念頭に入れていました」

移転先探しに本格的に動き出したのは2018年5月。契約更新日を考えるとギリギリのタイミングだった。

「当社はセールススタッフによる直接営業を行うため、交通アクセスを重視していました。また全てのスタッフを1フロアに収容することを望んでいました。それらの点を踏まえて三幸エステートさんから定期的に移転先資料をご提案いただいていたのです。しかしさまざまな事情で、移転プロジェクトを短期間で完了させる必要に迫られていました。そんな中、まったく想定していなかった提案。それが昨年日本に進出し、多くのメディアで紹介されていたWeWorkだったのです。それまでは、まさか自分たちが入居できるとは思っていませんでした」

早速、六本木と新橋のWeWorkを見学する。ここならば従業員たちに高い満足を提供できると思ったという。最終的に決めたのはWeWork新橋。思い通りの面積と入居タイミングの一致がその理由だ。

「三幸エステートさんに間に入っていただき、スピーディな内覧と条件確認ができました」

条件の一つであった交通アクセスも申し分はない。8階フロアを丸ごとプライベートオフィスとして借りた。そうして5月末に契約を締結。その後、2ヵ月後の8月に入居。一般のオフィスビルを選んでいたら不可能に近いスピード感だ。

執務スペース

執務スペース


オフィス内のデザインを考えることもつくることも一切不要だった。あらかじめインターネットの専用線が引かれているので大掛かりなネットワーク工事も発生しない。コストだけでなく、それに要する時間の削減。こうして短期間で移転プロジェクトが完了できるのも、WeWorkの魅力の一つだと語る。旧オフィスで使用していた約200坪の面積は、新オフィスでは110坪にまで削減。WeWork内の共有の会議室やラウンジ、シェアスペースの活用でそれを可能にした。

「会議室には使用料がかかりますが、会議そのものにコストが発生していることをワーカーに認識させることはプラスに作用すると思っています。自ずと会議に臨む姿勢も変わってきました」

リラックスできるスペースがないという悩みも解消できた。テレビ会議用の会議室や静かに仕事や電話ができる電話ブースも配備されおり、業務効率も大幅にアップしている。

ハード面だけを述べてきたがコミュニケーションの向上にも移転効果が出ているという。

「会社という一つの枠を超えて、WeWorkに入居しているワーカー同士で交流が生まれています。別の角度からの発想が創出されることもあり、この部分はコスト換算できない大きな魅力だと思っています」

電話ブース

電話ブース

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