八重洲通フィルテラス

2025年3月取材
※記載の内容については、現計画段階のものとなりますので、詳細は今後変更となる可能性があります。

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ポストコロナを見据えた大型ビルが竣工。
地域の活性化と高い利便性を提供する

日本有数のターミナル「東京」駅から直線に伸びる八重洲通り。かつて、その通り沿いに日本毛織株式会社が所有する「ニッケ東京ビル」があった。同ビルは老朽化が進んでいたこともあり、同社は、隣地を所有する住友商事株式会社との共同開発に合意した。それによって誕生したのが「八重洲通フィルテラス」だ。今回は、開発の背景や新ビルの特長について解説する。

髙木氏

日本毛織株式会社
人とみらい開発事業本部
不動産開発事業統括部
不動産開発事業部 不動産部
不動産開発課長

髙木 大地 氏

黒谷氏

住友商事株式会社
ビル事業ユニット
事業推進第一チーム チーム長代理
リーシング推進チーム

黒谷 洋文 氏

下垣内氏

住友商事株式会社
ビル事業ユニット主任
事業推進第一チーム
アクイジション戦略チーム

下垣内 一輝 氏

時代の変化に対応しながら事業の多角化を推し進めてきた。
その一つが不動産開発だった

日本毛織株式会社(略称:ニッケ)は、1896年に創業。羊毛を原料とした高品質なウール製品の総合メーカーとして、日本の繊維産業を牽引してきた。1964年には、日本で初めてウールマークのライセンスを取得している。

「ウールマークは国際的な品質保証マークであり、ウールの持つ好ましいイメージを守るために厳しい品質基準・法制基準に合格した製品にのみ使用が認められています。当時から当社の技術力と品質は国際的にも高く評価されていました」(髙木氏)

そんな同社は、毛織物製品を提供する「衣料繊維事業」にとどまらず、時代の変化に対応しながら事業の多角化を行ってきた。不動産開発事業もその一つで、全国に点在する工場跡地や遊休地を活用し、商業施設や住宅地の開発を促進している。

「『街づくり』に主眼をおいて人々の未来を豊かにしていきたい。そんな強い思いから、不動産関連の事業を『人とみらい開発事業』と名付けています。現在は、事業本部内でショッピングセンター運営や保育、介護、スポーツ関連の事業を展開し、不動産以外にもさまざまな分野へ進出しています」(髙木氏)

その他、自動車部材や不織布フィルター、ラケットのガットや釣り糸、不織布・フェルトの製造等を担う「産業機材事業」、寝具や生活家電、EC事業等を扱う「生活流通事業」を加えた4つのセグメントで事業展開をしている。今後も経営資源を活用した事業を派生させていく方針だ。

八重洲通り沿いの好立地に、環境に配慮した大型ビルを竣工させた

建替え前に同地にあった「ニッケ東京ビル」は1966年に竣工。地下2階地上9階建、基準階面積約100坪のオフィスビルで、一部を同社の東京支社が使用していた。

「今後のビルのあり方を社内で検討しはじめた2019年時点で築53年でした。築年数の経過による設備の老朽化が課題になっていました。そのタイミングで、隣地を所有していた住友商事様から共同開発のご提案をいただいたのです」(髙木氏)

「当社が所有していた隣地とあわせて共同開発することで、開発規模によるインパクト、整形地に近い区画の形成、経済効率の向上といったプラスの効果が生まれます。ご理解いただくための提案書を用意しました」(下垣内氏)

最初の提案は新型コロナウイルス感染症が流行し始めた時期だった。次第にオフィスへの出社が制限され、テレワークが急速に広がった。「オフィス不要論」の声も出始めていた。

「納得がいくまで何度も話し合いを繰り返しました。新型コロナウイルス感染症が収束するかもわからない中で、新築ビルの空室が埋まるのか。争点はそこに集中していました」(髙木氏)

「建替え後は、基準階面積178坪、地下1階地上12階と収容面積が格段にアップします。竣工後の入居テナントへの誘致活動については、これまでの当社開発案件でのリーシング実績、周辺マーケット等をご説明し、ニッケさんと当社が協力してテナント誘致に注力していくことを話し合いました」(黒谷氏)

「当社は、神田エリアを中心に多くの開発物件を手がけておりますが、本計画の最寄り駅でもある『京橋』駅周辺でもオフィスビルを数棟所有しており、現在も新たなオフィスビルの開発が進行中です。本計画の共同事業のご提案にあたってはそうした当社のこれまでの経験や実績についてもご説明しました」(下垣内氏)

最終的に共同開発の合意がなされたのは20206月のこと。最初の提案からおよそ1年が経過していた。

「都内有数のビジネスエリアという特性を活かしながら、より価値の高いビルを建築できると判断したのです」(髙木氏)

以降は20224月に既存建物の解体、20231月から工事開始。そして20251月に新ビルが竣工した。建物概要は以下となる。

建物名称 八重洲通フィルテラス
敷地面積 883.55㎡
延床面積 8,047.71㎡
規模 地下1階 地上12階
用途 地下1階:駐車場
地上1階:店舗
地上2~12階:オフィス
基準階面積 589.23㎡(約178.24坪)
交通 JR・東京メトロ「東京」駅 徒歩10分
東京メトロ「京橋」駅 徒歩8分
東京メトロ・都営線「日本橋」駅 徒歩8分
都営線「宝町」駅 徒歩7分
東京メトロ「茅場町」駅 徒歩6分
JR・東京メトロ「八丁堀」駅 徒歩5分

外観

外観

ちなみに建物名称の決定にも、多くの時間を要したという。

「竣工後は、東京駅や京橋駅からの利用者が多くなると推測し、『八重洲通』の名称を使用することにしました。その『八重洲通』に、フランス語で糸や紡ぐ意味を表す『フィル』、1階部分の公共空間や屋上テラスを設けていることから、開放感をイメージさせる『テラス』を組み合わせたものです。繊維メーカーであるニッケさんを象徴する毛や毛織のように、人と人とがつながり、コミュニケーション活性化に寄与する「地域・社会とつながる憩いの場」となることを目指し、八重洲通フィルテラスと名付けました」(黒谷氏)

新ビルの開発コンセプトは「八重洲通り沿いのシンボリックなオフィスビル」

同開発は、オフィスビルやマンションなどの幅広い開発事業を展開している住友商事と自社所有不動産の開発を中心としている日本毛織の協業による「新たな価値の創出」を目的としている。その中でも、「シンボル性」と「環境性能」は大きな開発テーマとなっている。

「八重洲通り沿いの緑や公園、周辺の街並みとの調和を考えたシンボリックなデザインで地域のランドマークとなることを目指しています」(髙木氏)

「あえて整形地に整理するのではなく、三角形の突起部分の土地をそのまま建物設計に取り入れました。東京駅八重洲口から向かってくると、周辺のビルにはない特長的なデザインが見えてきます」(黒谷氏)

今後のポストコロナも見据え、さらに省エネや環境面にも考慮した。

シンボリックなデザイン

シンボリックなデザイン

「これから着工するという段階で、エレベーターの非接触ボタンへの変更を決定しました。結果的にタッチレスを導入したことは、新築ビルとして大きなアピールポイントにつながっていると思います」(黒谷氏)

省エネルギーの取り組みとして、CASBEE建築SランクとZEB Ready認証を取得した。

「当社が開発方針として掲げる『環境負荷の小さいビルの開発』を実践した結果です。CASBEE建築Sランクは、空間の快適性や緑化率なども求められます。ビルグレードを上げるために、色々な角度からの考察を大事にしました」(下垣内氏)

新世代ビルとしてのあり方を考え、今までにない空間づくりを行った

それでは「八重洲通フィルテラス」を具体的に説明していこう。

「中央区には、『花と緑のまちづくり推進要綱(緑化計画書)』という基準が定められています。地区計画に基づいて公共的屋外空間や屋上庭園などを設け、豊かな緑を提供することで、容積率の緩和を可能にします。このビルの設計当時はその制度ができたばかりでしたので、試行錯誤を繰り返しながら進めていきました」(黒谷氏)

「公共的屋外空間の面積は約34坪です。ここにベンチやシンボルツリーを配置して、誰もが利用できる賑わい空間を形成します。周辺エリアと一体となった街全体の活性化につなげたいと思っています」(髙木氏)

公共的屋外空間

公共的屋外空間

ビルの1階は飲食店舗の誘致を予定している。

「ガラス張りで視認性が高いため、飲食店舗に入居してもらいたいですね。そうした店舗は地域の方々にも利便性が生まれると思っているからです」(髙木氏)

1階 飲食店舗部分

1階 飲食店舗部分

1階エントランスは約7mの吹き抜けで開放感を演出、かつ高級感を感じさせる空間となっている。

1階 エントランス吹抜け

1階 エントランス吹抜け

「木のルーバーで構成しているのですが、当社のイメージである織物を上手く表現してもらっています。当社の経営理念が『人と地球に やさしく、あったかい』なのですが、ウールの暖かさを感じさせるデザインになっています」(髙木氏)

「使用した木材は、数多くのサンプルの中から世界三大銘木の一つである『マホガニー』を選びました。大理石は、ドイツ産の『ジュライエロー』を使用しています。大理石は素材だけですと冷たいイメージになりがちですが、この空間を一体で見ると暖かみのある素敵な場所として成立しているのがわかります」(下河内氏)

地上2~12階がオフィスフロアとなる。

基準階平面図

基準階平面図 

「各フロアの壁面も、ブラウン系の色調にして暖かみを演出しています。ビル南西側の窓面は眺望を活かすためにガラスカーテンウォールを採用しました。ガラスの色調も外から見えるイメージと太陽光の反射を計算しながら設計しています」(下垣内氏)

23階は自社での使用を考えています。それは関西を本拠地とする当グループの関東エリアにおけるビジネス拠点としての位置づけになるでしょう。出張者用のワークスペースを設けるなど、今まで以上に有効な活用を考えています」(髙木氏)

「各フロアには、省エネに貢献する自然換気装置を備えました。また、執務空間を無柱とすることでレイアウト効率を最大限に高めます」(黒谷氏)

屋上テラスは、多様なアクティビティを実現させる空間になる。

「屋上テラスの面積は約47坪です。夜景を見ながらの懇親会も可能です」(髙木氏)

「設計当時、感染対策として3密の回避が唱えられていました。屋上テラスはそうした対策も意識した設えとしています。休憩、喫煙、飲食と多岐にわたる用途に対応できる空間です。電源コンセント、USBおよびタイプCの充電ポートも用意していますので、気分転換をしながらパソコンを使った業務も可能です」(下垣内氏)

屋上テラス 使用予想図

屋上テラス 使用予想図

協業による新たな価値の創出を目指し周辺エリアの活性化に寄与していく

たくさんのこだわりを組み入れながらも、予定通りのスケジュールで竣工を迎えることができた。

「竣工後も、両社が連携を取り、それぞれの役割を分担しながら、地域の活性化に努めていきたいと思います」(下垣内氏)

「もちろんこれで終わりではありません。『公共的屋外空間のさらなる活用』『災害時の対応』『近隣の方々の憩いの場としてのあり方』など、これからも一つひとつの課題に向き合っていきます」(黒谷氏)

「ビル内の管理は当社が責任を持って運営していきます。当社の経営理念である『やさしく』『あったかい』をアドバンテージにして、テナント企業の皆様から信頼される存在になりたいですね」(髙木氏)

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