全国の店舗が自社商品の展示場となる。
そんな画期的なプラットフォームを構築した

2019年9月取材

空きスペースの活用を提案するプラットフォーム「Catalu Space(カタルスペース)」を開発・運営している株式会社Catalu JAPAN。その設立は2018年とまだ歴史は浅いながらも、現在全国の自治体や商品メーカーからの問い合わせが後を絶たないという。今回は、創業のきっかけや事業ビジョンについてお話を伺った。

吉本 正 氏

株式会社Catalu JAPAN
代表取締役 吉本 正 氏

国際基督教大学卒業後、システムエンジニアとしてキャリアをスタート。その後、IT・経営コンサルタント、新規事業開発を担当。会社創業を経て、2016年に銀行系大手シンクタンクでオープンイノベーションやスタートアップの支援業務に従事する。2018年、株式会社Catalu JAPANで2度目の創業。現在に至る。

地方都市の製造業の現実を見てムーブメントを起こしたかった

地方のモノづくりの現場に目を向ける株式会社Catalu JAPAN。その起業の原点は地元製造業の惨状を見てきたことにあると代表取締役の吉本正氏が語る。

「私が生まれ育った岐阜県は大手自動車メーカーの下請け工場の割合が非常に多いエリアでした。友人の多くは年齢的に親の工場を引き継いでいるのですが、引き継いだものの予定通りに運営できずに廃業となった例も少なくありません。やはり下請けの仕事が中心になってしまうために健全な経営にならないこと、現状から抜け出そうとアクションを起こしてみても自分の周りの流通ネットワークしか持たないために大きな広がりが期待出来ないことなどが理由に挙げられます」

官公庁調査をみると、1986年には87万件あった事業者数も2016年には45万件に激減。さらに後継者が確保できていない企業数は実に81%を超えている。かつて日本を支えていた製造業は、地盤沈下が著しい危険な状態だと感じ、これまでになかった新たなムーブメントを起こしたかったという。

同社は2018年6月に設立。設立後の約半年はひたすら実証実験を繰り返す日々だった。その後、2019年4月に本サービスを開始。現在は運営スタッフも5名となっている。

「ちなみに『CATALU』とは英語のカタリスト(Catalyst:触媒)がベースとなっています。そこには二つの意味を持たせています。一つは、お互いが触媒となることでベストな化学反応を促進したいという願い、もう一つは『語る』。お気に入りの商品を人から人へ伝えていくという思いです」

全国の名もない商品と遊休スペースを結びつけた新たなビジネスモデル

「モノづくりを行っている会社(職人)は、誰もが商品に込められたストーリーをもっと多くの人に知ってもらいたいと思っているはずです。しかし簡単に店舗を構えることは難しく、たとえ店舗を持てたとしても成功するためには衝撃的な内装デザインを構築して存在感を出す必要があります。それは現実的な方法ではありません」

「すでに店舗を運営している方も、レイアウトの関係で生じてしまったデッドスペースを何かに利用できないかと考えているケースが多いと聞きます。その遊休スペースを月単位でお貸しして副収入を得ること、商品をきっかけに新たな客層を獲得できることが店舗側のメリットになります。商品の展示に関して在庫を抱える必要がないことも魅力の一つといえるでしょう」

サービスの利用開始までは通常以下の流れとなる。

「商品提供側が自社商品と親和性のある店舗に展示したいというアプローチから始まります。店舗側の審査が通れば展示開始です。ただ商品を多くの方に知ってもらうというだけではなく、商品に付けたQRコードによってイベントやECサイトへの流入もサポートします。販売にあたって自分たちのオペレーションが必要ない点も大きなメリットといえるでしょう」

まさに「商品を展示したい」と「空きスペースを有効に使いたい」のニーズを結びつけたプラットフォームとなる。

今まで知らなかった良質な商品に出会う。そんな新たなビジネスモデルを構築した

こうして軌道に乗り始めた新たなマッチングビジネスであるが、同社が目指しているのは「単なる場の提供」ではない。そこから広がる世界観。ベストな顧客接点の提供である。

「今まで販売の中心は『卸・小売り』でした。つまり利益を追求するあまり『マーケットの中心=売りやすい商品』だったのです。確かに当社のシステムでは爆発的な売り上げはないかもしれませんが、ロングテールで良質な商品が置かれるようになります。店舗の雰囲気はよくなり、今まで知らなかった商品が町中に溢れていく。本来の目的でお店を訪れた一般のお客様も新たな発見ができる。考えただけでワクワクしますね」

営業促進に関しては、もともと前職で培った全国の自治体とのネットワークでモノづくりの現場に声をかけていったという。

「自治体自身も全国に展開するための販路開拓に迷っていたこともあり、賛同までが早かったですね。店舗に関しては、もちろんエリアによって温度差があるのですが、比較的に大きな企業からの問い合わせが増えてきています。宿泊施設や公共スペース、鉄道関係、商業施設など。モノづくりを支援したいという社会的貢献(CSR)の視点からの参加も多く、僕らにとっては追い風がきていると思っています」

そんな自治体からの相談も最近は内容が変化してきたという。

「観光名所を持たない自治体は何をアピールするべきなのか。その部分を相談されることが増えてきました。地方創生に繋がるテーマですよね。今後はその部分も僕らが取り組むべき課題だと思っています」

現在、このビジネスモデルは特許出願に向けて準備中とのこと。しかしそれは独占的にビジネスを行うということではない。

「頭の中は、この新たなマーケットの拡大しかありません。そのためには多様な業界とのアライアンスを検討しています。近日中には数社のメーカーや金融機関との連携が決定する予定です」

オフィスとショールームを一体化して誰もが出会える場を演出したい

「オフィスが大事だなと思うのが、それによって社員のモチベーションが大きく変わってしまうことですね。気持ちよく仕事ができる環境にすることで業務効率が上がるのならば、単純に給与を上げるよりもそちらに投資したいです。採用にも影響があるでしょうし」

現在は東京・神田に立地する個室付きのシェアオフィスに入居している。

「以前はマンションタイプのオフィスでしたが、人数が増えることで不便さを感じることも多くなって。当面はシェアオフィスの利用で問題はありませんが、事業が順調に進むことでスタッフも増えてくるでしょう。そうなると当然、オフィスのあり方も考えていかなければいけないでしょうね。セキュリティも重要になってくるでしょうし、社員同士の一体感も意識する必要がでてくるでしょうから」

将来的には、ショールーム機能を付加させて全国を対象にした良質の商品をオフィスでも紹介していきたいと語る。

「オフィスを単なる働く場所として捉えるのではなく、ふらっと立ち寄れる場所にしたいのです。性別も年齢も国籍も関係なく、カジュアルな出会いを演出したいですね」

※ 記事は過去の取材時のものであり、現在とは内容が異なる場合があります。