都市の記憶

~歴史を継承する建物~

和光本館(旧服部時計店本社ビル) 前編

オフィスマーケットⅢ 2008年6月号掲載

※ 記事は過去の取材時のものであり、現在とは内容が異なる場合があります。

時計塔として初めてお目見えしたのは1894年。その後1932年に大規模な改築を行い現在も銀座四丁目に「和光本館」として佇んでいる。2008年には再び修復工事を実施。先端の改修・修復技術で古き良き建物を次の時代へつないでいく、その思いと工程について伺った。


初代時計塔(明治40年撮影)

初代時計塔(明治40年撮影)。服部時計店(明治14年創業)は、明治28年1月に新店舗として、この建物で営業を開始した。

女神の再誕――変貌する街並を見つめる眼差し

服部時計店(現・セイコーホールディングス株式会社)の創業者・服部金太郎が、銀座四丁目交差点に面する朝野新聞社の建物を買い取り、初代の“時計塔”として増改築したのは明治27年(1894)のことだった。大正期に入って時計塔の建て替えが計画され、解体・基礎工事が順調に進められていったが、その直後に関東大震災が起こる。当時から帝都・東京の商業中心地であった銀座は真っ先に復興の対象とされ、時計塔は綿密な設計見直しを経て昭和7年(1932)に落成の運びとなった。これが現在まで残る和光本館である。
地上7階・地下2階。構造は鉄骨鉄筋コンクリート、外壁は設計段階で予定されていたテラコッタからより強靭な天然の御影石へと変更され、当時最高の技術がこの建物に注ぎ込まれた。時計の文字盤下部や窓の周囲には、ブロンズ製のアラベスク模様などがあしらわれ、内部の壁面にはイタリアから輸入した大理石が使用された。
設計に当たった渡辺仁のチームは、時期を同じくして二代目の東京帝室博物館(現・東京国立博物館本館、1937)や旧第一生命館(1938)なども設計している。日本の建築にモダニズムの波が押し寄せた昭和初期に、この建物が重厚華麗なネオ・ルネッサンス様式の姿を身に纏った理由は、当時の服部時計店図案部長・八木豊次郎らの強いこだわりに由来するという。しかしながら、ここで渡辺らは、伝統的な様式を踏襲しながらも、新時代の感覚を反映させた様々な試みをディティールに配した。 

服部時計店の当時の商号である“H”を刻んだレリーフなどはその典型といえるだろう。また、それ故にこそ、いわゆる“モボ”、“モガ”が闊歩する昭和の銀座と石造りのクラシカルな建物が見事に共存する景観が立ち現われたのである。建物の象徴である時計塔のデザインを担当した設計者の一人・渡辺光雄は「時計塔という優れたモダンな要素を、外観の様式と調和させるため非常に苦心した」と後に回想している。ともあれ、交差点に面した大胆な曲面と愛らしくもある時計塔は、いささかの違和感もなく美しい建築作品として成立している。
さて、第二次世界大戦の戦火は銀座の地にも及び、時計塔の金属等は軍に供出され、昭和20年(1945)1月、3月、5月の大空襲で周辺一帯は焼け野原と化した。時計塔も文字盤のガラスが破損するなどしたが、街の強靭なるシンボルは毅然として自らの“場”に聳え立っていた。戦後は進駐軍に接収されP.X.=兵士対象の日用品・飲食物等の売店となったが、役割を果たすには狭小とされ、いわゆる“東京PX”は松屋デパートに移転した。内部が大きく改変されずに済んだことを思えば、これもこの建物の幸運だったといえる。昭和27年12月、服部時計店の小売部が独立した「和光」の店舗・社屋として再スタートし現在に至るが、再生された外観はもちろん建物の主要部がほぼ創建当時のまま残る稀有な事例であり、昭和63年(1988)には日本建築士連合会が選定する各都道府県のランドマークとなる栄誉に輝いた。
以前、このシリーズでこの建物を紹介したときに、私たちはその存在を“美神”に喩えたが、永続的に銀座の象徴であり続けてきた美神は、今、しばしの休息をとっている。平成20年(2008)1月より修復工事のため一時閉館しているのだ。だが、11月には工事が完了し、新たな歴史を刻み始める予定だ。“美神の再誕”。西洋絵画のモティーフにもなりそうなイメージは、正にこの建物にこそふさわしい。世界各国のブランド・ショップが軒を連ねる銀座の地で、なお“象徴”となる建築に、私たちは限りない敬意を表したいと思う。

2007年撮影の修復工事直前の和光本館外観

2007年撮影の修復工事直前の和光本館外観。

和光本館地図

 
 
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