Vol.3 チームを立体的に理解できることにオフィスの存在価値がある

チームを立体的に理解できることにオフィスの存在価値がある

2022年1月取材
※ 記事は過去の取材時のものであり、現在とは内容が異なる場合があります。

在宅勤務やリモート会議の急速な普及でオフィスのあり方が見直されている。各社の対応も、スペース効率を重視する企業、コミュニケーションの向上を講じる企業とさまざまだ。今後、オフィスはどうあるべきか?今回は「組織行動学」を専門領域にしている早稲田大学 村瀬俊朗准教授にお話をお聞きした。

村瀬 俊朗 氏

早稲田大学 産業経営研究所副所長
商学学術院准教授 村瀬 俊朗 氏

1997年、高校を卒業後、渡米。2011年、中央フロリダ大学で博士号取得(産業組織心理学)。ノースウエスタン大学およびジョージア工科大学で博士研究員を務めた後、ルーズベルト大学で教鞭をとる。その後、日本に帰国し、2017年9月から現職。専門は組織行動学。

渡米したことで、チームやリーダーシップのあり方に強い興味を持つようになった

私は高校を卒業後に渡米し、単身アメリカでの生活を始めました。そこで国家とは多様な人種や民族で形成されていることを再認識したのです。そして多様性の中で生きることで、物事の視点は一つではないということを学びました。その考えは今でも私の基盤となっています。

アメリカのイメージを問われると、「自由」や「個人主義」といった言葉を思い浮かべる方も多いのではないでしょうか。アメリカでのリームリーダーの役割は、異なる価値観や主義主張を組織として一つにまとめることです。全てリーダーの手腕次第。得てして良いチームほど良いチームリーダーが存在するものなのです。

時には失敗を繰り返すことも必要です。色々な失敗をメンバー全員で共有していく。そうして「心理的安全性」を確保することが、チーム力の向上に繋がるのです。

渡米のおかげでチームやリーダーシップのあり方を学ぶことができました。それから約20年にわたって「行動心理学」の研究を続けて2017年に帰国。現在は早稲田大学で「組織行動学」という組織内の人の行動に関する講義を行っています。

最初はコミュニケーションを生み出す仕掛けをつくってみる

「組織行動学」では、空間が重要なファクターとなります。近年、企業の働き方は新型コロナウイルスの発生から大きく変わってきました。テレワークの便利さを知ってしまった今、たとえコロナが収束したとしてもコロナ前の働き方に完全に戻るとは考えられません。どちらかに偏るのではなく、リアルとデジタルの融合。つまり今後はハイブリッドの働き方が主流になると思われます。

ハイブリッドの働き方では、どれだけ他のワーカーと「理解の共有」ができるかがポイントになります。そのためには全社一律ではなく、多様性を踏まえたルールづくりを検討するといいでしょう。

人は無意識のうちに「知っている人」と「知らない人」のカテゴリーに分類してしまう傾向があります。「見たことがある」程度でもコミュニケーションは生まれやすくなります。ですからせっかく出社したならば、お互いが身近に感じられるような合同ランチや懇親会などのイベントを半強制的に行うことも必要だと思っています。何しろ一日の中で偶発的な出会いなんて、それほど頻繁にはありませんから。最初は会社が中心となって仕掛けづくりを行い、軌道に乗ったら自然なコミュニケーションの発生に任せてみる。もちろん会話の頻度と重要性は比例しているわけではありません。やみくもに会話の回数だけを増やすのではなく、その会話の質にも注視する必要があります。

極端なテレワークの働き方では居心地がいい組織をつくるのは難しい

現在、新型コロナウイルスの感染対策は、企業の施策を均一化させてしまっています。しかし、いずれコロナが落ち着いてくるとオリジナリティや対応のスピードが企業の業績を左右することになるでしょう。そのために斬新なアイデアが生まれやすい環境や、容易にミーティングができる仕掛けの有無が重要になってきます。

個人の方が自らの利益を追求するだけでしたら、自身が扱っている業務だけに専念すればいいでしょう。しかし組織として考えたときに、部下のスキルアップや指導は、上司にとって非常に大切な役割の一つになります。そのため部下の悩みや頑張っている姿を無意識に見られる環境をつくることはとても重要なことなのです。

仮に、内向的な方がフリースペースで誰とも会話をせずに仕事をしていた場合でも、他のメンバー同士の会話が聞こえているだけでそれは立派なコミュニケーションだといえます。同じ空間を「共有」することで、組織を「何となく」理解することになるのですから。

オンライン上では自らがしっかりと発信しないと何が起こっているかに気が付いてもらえません。ですから極端にテレワークだけの働き方を追求してしまうと、本当に信頼できる組織をつくるのは難しいことだと感じています。

立体的に分かり合うための空間が必要。そこにオフィスの存在価値がある

メンバーが行っている業務に興味を持つことで、活発なコミュニケーションの創出につながります。それが個々のメンバーの行動を予測させ、時間の使い方を効率的にさせます。活発なコミュニケーションは組織の生産性にまで大きな影響を与えます。そのようにゴールまでのベクトルがメンバー全員で共有できているチームは高いパフォーマンスを発揮します。それが「共有認知」という概念です。

もちろんチームの構成メンバーはさまざまです。だからこそメンバー、一人ひとりを点と点で結ぶのではなく、立体的に分かり合うための「空間」が必要なのです。そこにオフィスの存在価値があると思っています。