Vol.4 ストレスを感じさせないオフィスがオフィスワーカーの生産性を向上させる

ストレスを感じさせないオフィスが
オフィスワーカーの生産性を向上させる

2022年4月取材
※ 記事は過去の取材時のものであり、現在とは内容が異なる場合があります。

近年、新型コロナウイルスの感染防止といった外的要因もあり、急激にテレワークが普及している。そうした働き方の変化はオフィスワーカーの生産性にどのような影響を与えているのだろうか。今回、30年以上にわたって「オフィス環境とオフィスワーカーの生産性」を研究テーマとしている関西学院大学総合政策学部の古川靖洋教授にお話を伺った。

古川靖洋 氏

関西学院大学
総合政策学部教授 古川 靖洋 氏

1962年神戸市生まれ。慶應義塾大学商学部卒業。慶應義塾大学大学院商学研究科後期博士課程修了。博士(商学)。2003年から関西学院大学総合政策学部教授。2007年から2008年、ワシントン大学客員研究員。主な研究分野は、計量経営学、経営戦略論、オフィスの生産性。著書に「テレワーク導入による生産性向上戦略」(千倉書房)など。

オフィス環境とオフィスワーカーの生産性の因果関係に
興味を持ったことから研究が始まった

私は約30年以上前、大学でモノを生み出す工場を対象にした生産性のマネジメントを中心に研究をしていました。しかし時代は変革期を迎えます。日本の高度成長を支えていた工場生産以上に知的生産活動に目が向けられるようになりました。それを背景に、通産省(現、経済産業省)主導で「ニューオフィス化運動」が提言されます。従来のグレーの机と椅子を規則的に並べたオフィスではなく、家具什器やオフィス機器を高機能なものにし、それらを有機的に配置することでオフィスワーカーの生産性を向上させることが狙いでした。

しかし経営学の理論では、「労働環境を変えただけでは生産性は向上しない」というのが定説です。そこで実際にオフィス環境とオフィスワーカーの生産性にはどのような因果関係が存在するのかを考察することにしました。過去、研究されていなかった領域だったこともあり、本格的に調査をする必要があると感じたのです。それ以降、オフィスワーカーの現実的な生産性を測定する難しさはあるものの、これからの時代に必要な分野と考えて研究を続けています。

オフィス環境はオフィスワーカーの生産性を上げるための
必要条件ではあるが十分条件ではない

従来、オフィスワーカーが生み出すアイデアやシステムといった成果物を測定するための決まった指標はなく、財務指標ベースでの可視化はできませんでした。最善の方法は何か。研究を進める中で、多様な業種で共通項を残しながら生産性を測定するためにはアンケート調査を基に分析をする以外に方法はないという結論になりました。

オフィスワーカーの生産性を測る指標には彼らの「創造性」「コミュニケーション」「モチベーション」の3つを定めました。これらの指標の中でも、モチベーションが最も重要だと考えています。モチベーションの向上に一番寄与すると思われるのが「オフィスワーカー相互間の信頼関係」。信頼関係の構築には、良好な人間関係の形成、情報共有、活発なコミュニケーション、それらに結びつく機会の創出などが重要な要因となります。その際、まずはチーム内での垂直方向のフォーマルコミュニケーションを確立することがポイントです。それから部署を横断した水平方向のフォーマルおよびインフォーマルコミュニケーションを考えていく。このように一歩ずつステップを進んでいくことを推奨します。そして、研究を重ねる中で、「オフィス環境はオフィスワーカーの生産性を上げるための必要条件ではあるが十分条件ではない」ということを導き出しました。

ただ、現在のようにテレワークを中心に業務を進めている企業は注意が必要です。なぜなら信頼関係の構築に重要な要因が軽視されることになると懸念されるからです。コロナ禍でのテレワーク導入企業を分析すると、導入前にしっかりと準備をした企業と、唐突に実施した企業では結果が大きく異なっています。特に労務管理上の失敗やコミュニケーション不足でチーム内での信頼関係が崩れてしまったケースも少なくないようです。

自社の働き方を明確にしなければ
オフィスワーカーの生産性向上を導くオフィスは構築できない

オフィスワーカーの生産性向上にはストレスを感じさせない働く環境が求められます。ワーカーが出社したくなるオフィス。そのコンセプトは各社ごとに異なると思いますが、ぜひ仕事をすること以外にオフィスに行くことの意義を探してみてください。

これからオフィスを構築する際に気を付けること。そのヒントは、多くの企業で採用され始めているABWActivity Based Working)にあります。ABWとは仕事内容に合わせて自由に選べる働き方のことです。今後の多様な働き方に合わせてバラエティーに富んだオフィス環境を揃えることがストレスの少ないオフィス環境につながるといわれています。

逆に、コンセプトを決めないまま外見だけのオフィスをつくることは絶対にしてはいけません。どんなに先進的なオフィスを構築しても使うのはオフィスワーカーです。自分たちの働き方とマッチしていなければ意味のないものになってしまいます。ですからオフィスを見直す際には、必ずどのような働き方をしたいのかを事前に明確化しておく必要があるのです。

オフィスのあり方は統一できない。今後もカタチを変えながら進化していく

今後、何年後であっても仕事をする場所は必ず欠かせません。自宅が働く場として最適と考えるワーカーもいるでしょうし、オフィスへ出社する方が効率的と考えるワーカーもいるでしょう。今まで何の疑問もなく行っていた会議も、今後は対面とリモートの上手な使い分けが必要になります。

オフィスのあり方は一つではありません。最初からオフィスのゴールを決めてしまわないこと。そして常に進化させていくことが重要なのです。