ベリングポイント株式会社 大阪オフィス(梅田ダイビル)
2008年5月取材
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※ 記事は過去の取材時のものであり、現在とは内容が異なる場合があります。
多彩なコミュニケーションという価値を提供すれば
「帰ってきたくなる」快適オフィスに進化していく
米国BearingPoint,Inc.の日本法人であるビジネスコンサルティング会社「ベリングポイント株式会社」は、2007年12月、大阪オフィスを移転した。
大阪駅桜橋口近くの梅田ダイビル11階にオープンした新オフィスは、執務、会議、リフレッシュなど全てのシーンにおいて多彩なコミュニケーションを可能にすることで、従業員に「オフィスに集まる価値」を提供していこうとしている。コンサルティングファームでありながら「個室」を全廃したオフィスは、ステータスオリエンテッドからワークオリエンテッドへという今のワークプレイスの変化を実現しており、これからのオフィスづくりに大きな影響を及ぼしていきそうだ。
プロジェクト担当
ベリングポイント
株式会社
杉山 優子氏
オフィスサポート
サービス
スーパーバイザー
株式会社ミダス
小澤 清彦氏
執行役員
設計部担当
一級建築士
認定ファシリティ
マネジャー
- オフィスの第一条件は交通の便
社外を飛び回るスタッフが多いコンサルティング会社がオフィスに求める最大の条件の交通の便。ターミナルから至近であることが何よりも優先される。
- 「思い」が伝わるまでデザイナーと話を
「こんなオフィスにしたい」というユーザーとしての要望はストレートにぶつけるべき。時間をかけて話し合っていけば、その真意を汲み取り、デザインだけでなくオフィス戦略の方向性にまでつながる成果が得られる。
- フリーアドレスだから個性的な空間に
単なる省スペースのフリーアドレスはオフィスの魅力を失わせる。グループワークから自由なコミュニケーションまで、さまざまな働き方ができる多様なスペースを用意。
- メールボックスやマガジンラックでマグネット効果を
人の出会いを期待するスペースには、メールボックス、マガジンラック、ワードローブなど「必ず立ち寄る」コーナーを配置。またリフレッシュコーナーはリゾート風など思い切ったデザインで人を集める。
- 「個室」を無くすとかえって便利になる
個室は使っている本人も「コミュニケーションがとりにくい」と不便に感じているケースがある。ステータスよりも働きやすさをベースにオフィスのデザインをした。
- コミュニケーションを演出する工夫を
リラックスできるジャグジー風ソファ、出会いと個人作業を両立できるカウンター、なじみのあるファミレス風テーブルなど、ちょっとしたデザイン上の工夫でオフィスは楽しく、居心地がよくなる。
「オフィスへの思い」を確実に形にするには
デザイナーとの自由な議論が欠かせない。
ベリングポイント株式会社が大阪オフィスの移転を考え始めたのは、2年ほど前のことだ。
「それまでは地下鉄御堂筋線の本町駅近くにオフィスを借りていました。しかし、立地的には不満もあり、人員計画の見直しがあったのを機会に、移転計画が具体的になってきたのです」(杉山優子氏)
スタッフの移動が多いコンサルティングファームでは、交通の便の良し悪しが仕事の効率を大きく左右する。このため、ベリングポイントでは東京オフィスを東京駅八重洲南口のパシフィックセンチュリープレイス丸の内に、名古屋オフィスを名古屋駅前の大名古屋ビルヂングに置いているほどだ。
「職場ごとの条件をできるだけ揃えるのが私たちの方針であるため、大阪駅の近くで物件を探したのですが、なかなか希望通りの物件が見つかりません。この段階で、1年以上、足踏みをしてしまいました」(杉山氏)
それでも昨年の半ば、大阪駅から徒歩5分の梅田ダイビルに約180坪のスペースを確保することに成功する。
「期間や予算に関していろいろと制約はあったものの、東京オフィスでの大胆なワークスタイル変革は効果があった。大阪ではさらにコンサルタントが仕事をする上での機能面を強化することを主眼に置いた」(杉山氏)
オフィスユーザーとしての要望を確実に設計に活かしてもらうにはどうしたらいいか?その方法として杉山氏たちが選んだのは、デザイナーとの徹底的な意見の交換だった。
「社長(代表取締役社長・内田士郎氏)を交えて何度もフリーディスカッションを行いました。そして、私たちの熱いトークに最も誠実に応えてくれた会社をパートナーに選んだのです」(杉山氏)
それが株式会社ミダスだった。設計のチーフを務めた小澤清彦氏が言う。
「ベリングポイントは社長自らが職場環境に強い関心を持ち、『オフィス・ルネッサンスを実現する』と大胆な改革を希望されていました。このため私たちは、大阪のオフィスだけを考えるのではなく、ベリングポイントのオフィス戦略のモデルになるような先進的なデザインを提案したのです。オフィス設計は専門家だけでできるものではありません。最初に相互で自由な意見交換ができたことが、今回のプロジェクトを成功に導いた最大の理由ではないでしょうか」
2タイプのフリーアドレス席でコミュニケーションの多様化を。
それでは、ベリングポイント大阪オフィスの概要を紹介していこう。
広さは約180坪で、ビル11階フロアの半分を占めている。ここに現在、約100名の従業員が勤務する。
「最初のディスカッションで強く言われたのは、『スタッフたちが帰ってきたくなるオフィス』でした。社外で仕事をすることの多いコンサルタントだけに、強い吸引力を持ち、スタッフ間のコミュニケーションを活発にできるスペースであることが第一条件だったのです」(小澤氏)
その「思い」の源流にあるのは、人材こそ最大の資産だというベリングポイントの理念である。
「スペースの有効活用という点からフリーアドレスになるのは仕方がないのですが、ただ効率を追究するだけのオフィスでは、わざわざ立ち寄ろうとは思ってもらえません。人材が最大の資産なのですから、彼らが喜ぶ価値を提供できるオフィスでなければ意味がないのです」(杉山氏)
検討を重ねた結果、ミダスが提案したのは、次のようなオフィスだった。
「まず執務スペースについては、FREEADDRESS-1とFREEADDRESS-2の2つに分けました。共通しているのは自由なコミュニケーションができるようにした点ですが、それぞれデザインを大きく変えることでワークスタイルを多様化し、『オフィスに戻ればいろんな出会いがある』と思ってもらえるようにしたのです」(若月良氏)
FREEADDRESS-1はチームデスクを並べたスペースで、コーナーごとに梁で囲むことにより、境界を明確にしながらもオープンな雰囲気を実現した。
「グループによる作業に使ってもらうつもりですが、まわりからも何をしているか分かるようにすることで、グループ外のメンバーとのコミュニケーションを誘発するようにもなっています。こういう空間は、ぜひつくってほしいとお願いしました」(杉山氏)
一方、FREEADDRESS-2は完全なフリースペースだ。
「2対3で座れるラウンドテーブルで構成しました。このテーブルは組み合わせることで、いろいろな人数に対応できます」(若月氏)
さらにブランドカラーの真っ赤なメールボックスをローパーテーション代わりに(ハイカウンターの下に、メールボックスを収めている)使い、ブランディング効果を図った。
「メールボックスはオフィスに戻ってきた従業員が必ず立ち寄るところだけに、その向こうで誰かが仕事をしていれば気軽に話しかけることができます。また小さなホワイトボードを付けてみんなへの伝言に利用してもらったり、写真を入れてアピールしたりと、ちょっとしたコミュニケーションツールになるようにも工夫しました」(若月氏)

ステータスのための「個室」よりもワークの内容に合わせたオープン席へ。
大阪オフィスで最も大胆な改革となったのは、チーフコンサルタントである「マネージングディレクター」の個室をなくした点だ。
「かつては、一般的にコンサルティング会社では幹部になったら個室を与えられるのが常識でしたから、この提案には反対の声もありました。しかし実行してみると、マネージングディレクター本人からの評価が高かった」(杉山氏)
新しいマネージングディレクター席はほかのスタッフのものとは分けているものの、固定席でもなくフリーアドレスだ。そして個人用の書類キャビネットだけが与えられる。これまでの個室と比べれば環境は激変したが、杉山氏は「むしろ彼らはこのようなオープンな席を望んでいたのではないか」と話す。
「個室だとスタッフと打ち合わせをするだけでも、相手を探して呼ぶ、または自ら足を運ぶ、などで数分のロスが生じます。しかしスタッフ席と隣り合わせたオープンスペースなら、いつでもみんなに声をかけられる。この便利さは、一度、味わってしまったら、元に戻れないはずです」
小澤氏は、「この変化にこそオフィスの次の方向性が示されている」と言う。
「マネージングディレクターに個室を与えるやり方は、『課長になると椅子に肘掛けが付く』というのと同じステータスオリエンテッドの発想です。しかしこれは、モノでしか地位を表せなかった時代の方法論に過ぎません。社内の情報共有が進んできた今は、個人やチームの業績を簡単に知ることができます。従って、働き方を優先した、より便利なワークオリエンテッドのオフィスにするべきなのです」
入口からオフィスの奥にまで配置された人と人が出会い、交流するコーナー。
FREE ADDRESS-1、FREE ADDRESS-2、新しいマネージングディレクター席と、コンセプトになったのはコミュニケーションの促進だ。特に偶発的な「人との出会い」こそがオフィスの提供できる重要な価値と考えているだけに、ほかにもさまざまな仕掛けを施している。
「全てのスタッフが通る従業員用の入口に設けたのがCRADLE(クレードル)というコーナーです。マガジンラックやワードローブを置くことでそこに滞留し、自然な会話が生まれるように工夫しました」(若月氏)
そしてそこからオフィス全体を見渡すと、中央のFREE ADDRESSの向こうに見えるのが、特徴あるウッドデッキとカウンター席である。
「多くの企業の場合、リラックスできるコーナーは見えない部分につくるケースが多いのですが、あえて中心部につくったのがポイントです。このコーナーは海岸のリゾート地をイメージしました。ウッドデッキにはリラックスして会話ができるようにジャグジーを模したソファ、横にはカウンター席を設けてあります」(若月氏)
あえてリゾート風にしたのは気分を変えて欲しいからだが、このソファとカウンターにも用途の明確な差別化を行った。
「ソファにはあえてLANを配線せず、まさにジャグジー気分で自由に話し、発想を広げてもらおうと思っています。カウンター席のほうは、ある程度、作業もできるように、電源とLANを配線しました」(若月氏)
ちなみに、カウンター席を設置するにあたって、若月氏が「ぜひ、使いたい」と提案したのが、草のように見えるプラスチック製のアイテムだ。
「デザイン的に海岸をイメージさせるだけでなく、これがあることで幅の短いカウンター席でもペンが落ちるのを防げるし、さらに書類を挟んで立てかけることもできます。意外と実用的なので、今回、思い切って薦めました」
最初、その話を聞いたときには驚いた杉山氏だったが、今はすっかり気に入っている。
「カウンター席には必須のアイテムかもしれません。こういうのを見つけてくるのはデザイナーにしかできない仕事なので、彼らの発想を大事にするのも、良いオフィスをつくるのに必要なことなのです」
そんな発想がもう一つ活かされているのが、カウンター横の「ファミレス席」である。カフェのイメージだが、使い方はあえて限定していない。「雑談に使ってもらうだけでなく、テーブルが広いことから、多くの書類を広げることができる多目的スペースです。今回のリニューアルでは、イスとテーブルのサイズを細かく検証した結果、今のサイズがちょうど良かったのか、快適だと評判も良く、8名位まで座れるのでちょっとした社内ミーティングに最適です」(杉山氏)
「多彩な働き方」を可能にしたことで人数に対してもフレキシブルな空間に。
ベリングポイントの大阪オフィスでは、そのほかにも来訪者用と社内用に分けた会議室、集中作業用にブースで囲ったFOCUS AREAなど、多様なスペースを用意することで、さまざまな働き方に対応できるようにしている。
「共通しているのは、全てのコーナーにおいて多彩なコミュニケーションが可能なことです。結局、ワーカーがオフィスに求めるのは、情報の収集や発想を転換するためのコミュニケーションであり、そのための有効な場を提供することで、『会社に帰ってきたいオフィス』になるのだと思います」(小澤氏)
「コミュニケーションにこだわったという意味では、集中作業用のFOCUS AREAも同様です。パーテーションの幅をセンチ単位で検討し、座っている人の背中がぎりぎり見えるように調整しました。これにより、誰がそこにいるか、ひと目で分かるようにしたのです」(若月氏)
移転してから約半年、今のところ、それぞれのコーナーは適切な人数で利用されており、スペース配分などの問題はないという。
「多様な働き方ができることで、人は自然に最適な居場所を見つけていきますから、スペースの利用効率は高まります。新しいオフィスで学んだのは、従来のように、そこで働く人数によって面積が自動的に決まるとは限らないこと。もちろん10倍の人数になったら狭すぎますが、こういうスタイルのオフィスであれば、多少、スタッフの数が増えても対応できます。それは、運営する立場にとっても『いいオフィス』なのです」(杉山氏)
「オフィスの居心地」をよくする2つの椅子
「ホームグランド(会社に帰ってきたくなるオフィス)」を理想とするベリングポイントでは、東京オフィスにおいては専門のマッサージ師を常駐させ、勤務時間帯であっても、スタッフが自由にマッサージを受けることができるようになっている。
「常時2名のスタッフがいて、オイルマッサージまで受けられる本格的なものです。人気は高く、出社する予定はないのに、わざわざそのためだけに立ち寄る人も少なくありません」(杉山氏)
勤務地による職場環境の格差をできるだけ小さくするという理念から、大阪オフィスでも同様のサービスを実施したかったそうだが、スタッフ数を考えると難しく、代わりに導入したのが、多くの機能を持つマッサージチェアだった。
「当社ではマッサージを休憩とは考えていません。むしろ心と体の充電という考え方を持っていますので、これは会社として必須のアイテムなのです。オフィスの備品としてはかなり高額のものですが、それでスタッフか帰社し、他部署間とのコミュニケーションが増えれば、決して無駄な投資ではないと思っています」(杉山氏)
また、仕事のときに座る椅子も、できるだけ体への負担が少なくなるようなものを選ぶことで、「居心地」をより良くしようとしている。ポイントは、アジャストフリーだ。
「最近は使う人の体の大きさや好みに合わせてさまざまな部分が調整できる椅子が増えていますが、アジャストするたびにいくつものレバーやボタンをいじらなければいけないようでは、固定席のオフィスにしか向きません。フリーアドレスで、コミュニケーションのスタイルにより場所を変えながら働くには、今の椅子の多くは手間がかかりすぎるのです」(杉山氏)
そんな要望に応えてミダスが提案したのが、アジャストフリーの椅子だった。
「例えば、背もたれの反発力が体重に応じて自動的に変わるなど、いちいち調整しなくても多くの人にとって快適さを感じられる椅子が開発されてきました。そういうものを選ぶだけでも、スタッフは『自分は大切にされている』と喜ぶのではないでしょうか」(小澤氏)