株式会社イースト・プレス

2026年7月取材

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※ 記事は過去の取材時のものであり、現在とは内容が異なる場合があります。

「深い森」のように
さまざまな物語を全員で育むオフィスへ

株式会社イースト・プレスは、1989年設立の総合出版社。小説やノンフィクション、ビジネス書、実用書、コミック、児童書など、ジャンルの枠にとらわれず幅広い書籍を刊行している。同社は2026年1月、業務拡大に伴い本社移転を実施。移転を決断した背景から、「深い森」というコンセプトを空間へ落とし込むまでのプロセス、新オフィスがもたらした変化について、お話を伺った。

鈴木 直美 氏

株式会社イースト・プレス
総務部 部長
鈴木 直美 氏

川口 裕美子 氏

株式会社イースト・プレス
営業部 販売管理課
川口 裕美子 氏

小林 桃子 氏

株式会社イースト・プレス
総務部
小林 桃子 氏

木村 一裕

三幸エステート株式会社
渋谷支店
木村 一裕

Contents
  1. フロアの分断が、コミュニケーションの壁になっていた
  2. 約2年の物件探し。条件を見直してたどり着いた移転先
  3. 「深い森」を形にし、各部署の課題を解決する内装設計
  4. 居心地の良さと自然な会話を生むオフィス空間
  5. 従業員同士の理解を深め、さらに良質なコンテンツづくりを

エントランス

エントランス

フロアの分断が、コミュニケーションの壁になっていた

同社の旧オフィスは、地下鉄「神保町」駅近くのビルの78階の約111坪。7階に編集部、8階に営業部門と管理部門を配置し、30数人ほどの従業員が勤務していた。2011年から約15年間にわたり入居していたが、その間に会議室の不足や設備面の不具合など、さまざまな問題が顕在化。なかでも大きかったのが、執務スペースが2フロアに分かれていることによる、部署間のコミュニケーションの取りづらさだった。

「編集部と営業部には緊密な連携が欠かせません。しかし、フロアが異なるため、打ち合わせのたびに階段を上り下りしなければならず、双方が不便を感じていました」(川口氏)

「フロアが分かれていると、日頃から顔を合わせる機会が少なくなります。若手従業員からは、先輩従業員に聞きたいことがあっても、別フロアにいると話しかけづらいという声もありました」(鈴木氏)

また、会議室が1室しかなく、社内ミーティングや来客対応が重なると、必要な時間に場所を確保できないことも少なくなかった。

「採用面接にも会議室を使用していましたが、予約状況によっては面接日程をなかなか組めないこともありました」(小林氏)

さらに、会議室内には書庫が設けられていた。会議中にその場で資料本を確認できる一方、会議室の使用中は、ほかの従業員が必要な資料本を取り出せないという不便さも生じていた。

「過去の書籍を確認する必要があるときは、会議の合間を見計らって確認せざるを得ないこともありました」(小林氏)

こうした問題を解消するため、移転にあたっては、従業員の働きやすさを高め、コミュニケーションの活性化とチーム力の向上につながる1フロアのオフィス移転を目指した。

約2年の物件探し。条件を見直してたどり着いた移転先

移転に向けた動きが始まったのは2023年頃。移転先に求めたのは、1フロアで将来の増員にも対応できる広さと、住所表記が「神田神保町」であることだった。出版社が多く集まる神保町は、同社のアイデンティティとも深く結びつき、長年にわたり拠点を構えてきた場所でもある。従業員の通勤利便性をできるだけ変えないことも重視した。

そこで三幸エステートの木村が物件提案を担当し、検討を進めた。しかし、神保町には小規模なビルが多く、条件を満たす物件はなかなか見つからなかった。約2年間探し続けても状況は変わらず、検討を重ねた末、エリア条件を「神田神保町周辺」まで広げることにした。資料上での検討も含め、候補物件は30棟以上に及んだ。そしてようやく出会ったのが、神保町に近く、旧オフィスとほぼ同じ約110坪を1フロアで確保できる現在のオフィスだった。

「この物件は以前にもご提案していましたが、『神保町』という条件から外れていたため、当初は内覧には至りませんでした。しかし、ご条件を満たす物件だと確信しておりましたので、近隣の物件を見学するタイミングで併せて見ていただこうと考え、改めてご提案しました」(木村)

大きな決め手の一つとなったのが、室内の明るさだった。

「こちらは窓が3面あるのでとても日当たりが良く、『気』が良い感じがしました。ここなら代表も気に入っていただけるのではないかと思い、初めてご案内しました」(鈴木氏)

同じビルにオーナー会社が経営するカフェや貸会議室があることもプラスだったという。

「移転先を選ぶ際は、建物の管理体制も重視しました。こちらのビルはオーナー様も事務所として利用されており、建物を大切にされていることが伝わってきました。内覧をした代表もひと目で気に入られたご様子でした」(鈴木氏)

こうして約2年にわたる物件探しを経て、新オフィスの移転先が決定した。

「深い森」を形にし、各部署の課題を解決する内装設計

移転先決定後、各部署からメンバーを募り7名のプロジェクトチームを結成。最初に取り組んだのが、新オフィスのコンセプト策定だった。着想のもととなったのは、同社がコミックを中心に作品を発信していたWebメディア「MATOGROSSO(マトグロッソ)」。20265月末に更新を休止した同メディアの名称が意味する「深い森」を起点に、「様々なジャンルの木を植え、育てていくことで、好奇心を刺激する1冊と出会える深い森を創造していく」というコンセプトが生まれた。アイデアが芽吹き、企画が花開き、多様なコンテンツが社会に根を張っていく。そんな創造の循環を育むオフィスを目指した。

コンセプト決定後は、それを実際の空間に落とし込むため、木村が紹介した内装会社とともに具体的なレイアウトの検討を進めた。木村も移転までのスケジュールを整理した資料を用意し、プロジェクトの進行をサポートした。

「まず、各部署から参加したプロジェクトメンバーが、自部署の課題や要望を聞き取り、会議に持ち寄ることから始めました。何をどのように収納したいのか、どのような環境であれば業務を進めやすいのかを具体的に整理し、一つずつレイアウトに反映していきました」(川口氏)

編集部からは、校正刷り(ゲラ)を折らずに保管できる収納や、発送作業に対応する広い作業スペース、営業部からは、店頭用POPなどの販促物を収められる収納が求められた。また、他部署との連携が多い部署をオフィスの中央に配置するなど、各部署の業務特性に応じた要望も挙がった。

デスクは新調して間もなかったため、新オフィスでも継続して使用することになった。ただし、編集部は幅140cmの両袖机、その他の部署は幅120cmの片袖机と、サイズも形状も異なっていた。限られたスペースに既存のデスクを配置しながら、各部署の要望や課題をどう反映するか、議論と調整を重ねた。レイアウト案の作成は、微修正も含め最終的に11回に及んだ。

内装デザインでは、コンセプトを表現する木目調のキャビネットで製作する計画だった。一方、コストを抑えるため、比較的安価な無地のキャビネットに変更する案も検討された。しかし、議論の末コンセプトの実現を優先し、当初の木目調のキャビネットを採用した。

「キャビネットは視界に占める面積が大きく、オフィス全体の印象を左右すると考えました。無地のものに変えると雰囲気が大きく変わり、コンセプトまで揺らいでしまうのではないかと思ったのです」(小林氏)

キャビネットだけでなく、床材や壁紙も何度も比較検討することで「深い森」の世界観を形にする素材を選び抜いた。

居心地の良さと自然な会話を生むオフィス空間

検討を重ねて完成した新オフィスには、木の温もりに包まれた「深い森」を思わせる空間が広がる。エントランスから木目をふんだんに取り入れ、明るく開放的な印象に仕上げた。受付台のガラス棚には新刊書籍が並び、書店のような雰囲気も醸し出している。さらに、ガラス越しに奥のライブラリーが見える設計とすることで、エントランスから書籍の並ぶ「森」へと自然につながる広がりを持たせた。

エントランスに続く来客用エリアには会議室2室配置。どちらも木目を基調としつつ、ポップな差し色を加えた遊び心ある空間だ。その先の執務エリアには、ライブラリー梱包作業スペースカウンター席を配置。

来客用会議室①

来客用会議室①

来客用会議室②

来客用会議室②

ライブラリーエリア

ライブラリーエリア

梱包作業スペース

梱包作業スペース

窓際のカウンター席

窓際のカウンター席

ライブラリーの壁面にも木目調の本棚とキャビネットが立ち並び、さまざまなジャンルの書籍に囲まれた落ち着きのある設えとなっている。中央にはテーブルと椅子を置き、従業員同士が本を手に取りながら気軽に言葉を交わせる場とした。何気ない雑談から、新たなアイデアが生まれることが狙いだ。そして、隣接する梱包作業スペースには、作業しやすい高さの作業台を新たに設けた。

「旧オフィスでは各自が個人デスクで梱包作業を行うことがありましたが、デスクの高さが梱包作業に適さず腰を痛める人もいました。そこで、快適に作業できる環境を整えました」(川口氏)

カウンター席は窓際に設けられることで、業務の合間にひと息つけるカフェコーナーのような空間となった。

「新オフィスでは業務の合間にひと息つける場所を作りたいと考えていました。内装会社さんと相談しながら、ハイチェアはこちらで手配しました。気分転換に窓の外を眺めたり、雑談したり、コンセントも設けましたので仕事もできるようになっています」(川口氏)

全従業員の席も集約。高い壁や仕切りを設けず、フロア全体を見渡せる開放感を意識した。懸案だった収納はローキャビネットを中心に構成。編集部用のキャビネットは奥行きを確保し、ゲラを入れた封筒もそのまま縦置きで収納できる仕様とした。ほかのキャビネットも、各部署の収納物や要望に合わせて選定されている。

開放感のある執務エリア

開放感のある執務エリア

執務エリア内には来客用の応接室も設け、その隣に社長室を配置。社長室と応接室を直接行き来できる動線を用意したことで、来客対応を円滑に行えるだけでなく、社内会議も効率的に実施できるレイアウトとした。

執務エリア内 来客用応接室

執務エリア内 来客用応接室

従業員同士の理解を深め、さらに良質なコンテンツづくりを

移転後はさまざまな面で良い変化が表れている。なかでも顕著だったのが、採用活動への好影響だ。

「面接に来ていただいた方から『きれいなオフィスだからここで働きたい』という声を多くいただき、採用活動が想定以上に順調に進んでいます。席が足りなくなるのではないかと心配になるほどです」(小林氏)

また、1フロア化によって部署間のコミュニケーションが活発になっただけでなく、スペースの効率化も実現した。

「物理的な距離が近くなったことで顔を合わせる機会が増え、会話が生まれやすくなりました。以前は2フロアそれぞれに事務用品や作業台を用意していましたが、新オフィスでは1カ所に集約できました。そのため、旧オフィスとほぼ同じ面積にもかかわらず、無駄なスペースが減ったことで社内が広く感じます」(鈴木氏)

同じビル内に貸会議室があることで、イベント開催の可能性も広がった。

「今後は著者の方をお招きし、出版関係のイベントを開催できたらいいなと考えています」(川口氏)

今回の移転を通じて改めて実感したのが、対面で働く場としてのオフィスの価値だった。

「何気ない会話や雑談から生まれるアイデアがあるのではないかと思っています。ライブラリーやカウンター席など気軽に話せる場所ができ、自然な対話が生まれやすくなったことが、新オフィスに来て一番良かったことだと実感しています」(川口氏)

「今まで関わりが少なかった従業員同士が挨拶を交わし合い、お互いの人となりを知って、理解が深まることで、それぞれの業務を進めやすくなりました。日々の何気ない交流の大切さを、改めて感じています」(小林氏)

「オフィスを移転したことでコミュニケーションがとりやすくなったことは良かった点のひとつですが、移転という目に見える変化があったことで、従業員一人ひとりの貢献意識が前向きに変わったのではないかと感じます。組織力の向上にもつながるのではないかと期待をしています」(鈴木氏)

株式会社イースト・プレス

株式会社イースト・プレスは、1989年に設立された総合出版社。ビジネス書や実用書、小説、児童書、コミックなど、多彩なジャンルの書籍を出版している。デジタル分野にも展開し、2010年にはWebメディア「MATOGROSSO(マトグロッソ)」、2024年にはWebコミックサイト「COMICポルタ」を開設。2026年5月には、連載作品の一部を引き継ぐ形でMATOGROSSOをCOMICポルタへ統合した。書籍とWebの両面から、作品と読者の新たな出会いを生み出している。


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